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ブラック・ブレットー白き少女

作者:虚無龍
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絶望からの始まり


「はあっ! はあっ! はあっ!」

 アリスは亡命キャンプの人々が目指す、東京エリアの反対側に向かって走っていた。

 その方角は、先ほどから、ガストレアの咆哮、悲鳴鳴き声などが響いていた。

 そんな、どう考えても近づくべきではない場所に向かって走りながらも、アリスの心は揺れ動いていた。

(なんで私はあいつを助けにいってるんだ?)

 アリスは、もはや何故自分がその方向に行っているのか、自分ても分かっていなかった。

(確かに気に入ったやつではあったけど、命を賭けてまで助けに行く必要はない! なのに何故?)

 アリスはこの数週間で、少なくない数のガストレアを食べて来た。

 無論、それに比例して戦闘能力も上昇していた。

 だが、ステージⅣのガストレアや、ガストレア1000匹の群れになど勝てる訳がない。

 このままでは
・・・・・・


(…………あんまりなれてないけど、やるしかないか)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「くそっ! 殺っても殺っても切りがねぇ!」

 森を抜けたひらけた場所、そこで浩一は戦っていた。

 既に周りは仕留めたガストレアの死体だらけだ。

(もう駄目だな。だが、出来る限り時間を稼がねぇとな)

「グガァァァ!!!」

「なっ!」

 爪でこちらを攻撃してきたガストレアに武器である、バスターソードを弾かれてしまった。

 手放しこそしなかったものの、バスターソードの大きさと重さのせいでそれは致命的な隙となった。


 ガッ!!!


「ぐふっ!」

 先程、攻撃してきたガストレアとは別の個体が、浩一を体当りで吹き飛ばした。


 ドスン、ドスン、ドスン


 これ以上ないほどに明確に迫ってくる『死』。

 浩一は覚悟を決めて目をつぶった。

(ははは、なんでこんな時にあいつ
アリス
が目に浮かぶのかねぇ)

 そして…………

 ガブッ! ブシャァァ! ギャァァァ!

 響いた悲鳴はガストレアのものだった。

 いきなり聞こえてきた、自分を捕食しようとしてきた圧倒的存在の悲鳴に浩一は思わず目を開けた。

 そこにいたのは…………










 純白の体、鱗に包まれた全身、頑丈な翼、そして9本
・・
の尻尾を持った体長5mほどのドラゴンと、そのガストレアに食べられたガストレアだった。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ーー間に合った。

 私が到着したとき、浩一は殺られる寸前だった。

 浩一は目を見開いて、目の前の状況を飲み込もうとしていた。

 瞬間。ガストレアからの敵意が私に集中した。

 私のこの龍の姿、変異するのに数分~数十分かかるという欠点はあるものの圧倒的な戦闘能力を手に入れることができる。

 その上、食べたガストレアの分だけ力が手に入る。

 翼は鳥のガストレアを食べた時に。

 鱗はトカゲの様なガストレアを食べた時に。

 鋭い爪は最初に食べたモデル・タイガーのものだ。

 私は龍になったことで強化された、視覚、聴覚、そして第六感の様なものを全力で駆使し、アルデバランの居場所を探る。

 そして…………

(見つけた)

「ガァァァ!!!」

 無論、この姿の時は喋ることは出来ない。

 浩一の方を見ると彼は立ち上がっていた、しかし得物を構えてはいなかった。

「お前が敵じゃないのは何となく分かった。お前はアルデバランを、殺る気なんだろ? なら俺のことは放っておいてさっさといけ!」

(…………やっぱり浩一は凄いね)

 アリスはアルデバランの方へ飛び始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そこからのアリスは正に無双だった。

 ステージⅠやⅡでは瞬殺され話にならず、ステージⅢは多少の時間はかかるものの撃破することができている。

 さすがに、ステージⅣを相手にしている時間はないのでスルーしていた。

「「「グガァァァ!!!」」」

 襲って来たステージⅠのガストレアを飛翔による加速をつけたまま、縦に回り、そのまま尻尾で叩き潰す。

 『龍尾
りゅうび
』という新しい尻尾だった。

 『龍尾』は鱗に包まれており、速さこそ他の尻尾後れをとるが、攻撃力と防御力は桁違いだった。

 ステージⅠ、Ⅱのガストレアを木っ端か何かのように吹き飛ばし、ステージⅢにもスピードさえ乗っていれば、一撃て致命傷を与えることができる。

 そして、とうとうアルデバランのを視界に完全に捉えた。

 一気に加速し、アルデバランの頭を食いちぎった。

 直ぐには能力は手に入らないが、これでアルデバランの能力も、多少劣化してはいるが獲得できたはずだ。

 急いで浩一の元に戻って周りのガストレアを全て吹き飛ばした。


 そして、次の瞬間なにが起こったのか私は直ぐに理解出来なかった。

 浩一がアリスにバスターソードを振りかぶって向かってきて、

 バスターソードの刀身の腹の部分でアリスを吹き飛ばし、

 アルデバランの背中の触腕に腹部を貫かれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ーーえ?

 なんで? なんで? なんで? なんで?

 アルデバランはさっき、確かに頭部を食いちぎったはず!

 なんで、生きてるの?

 なんで、浩一はガストレアである私を助けたの?

 なんでっ? なんでっ!?

 まさか…………アルデバランは不死?

 …………いや、関係ない。

 絶対に殺してやる!

「…………ろ」

 えっ?

 今、浩一の声が、

「やめろ、逃げろ」

 私はその言葉で少し冷静になった。

 私は周りのガストレアをもう一度吹き飛ばし、浩一をくわえて飛んでいった。


ーーーーーーーーー浩一視点ーーーーーーーーー


「…………ち、…………いち」

 なんだ? 俺を呼ぶ声がする。

「……ういち、起きろよ浩一!」

「…………アリス…………か?」

 俺が目を開けると、そこには泣きじゃくったアリスの顔があった。

「なんつう顔してんだ…………!!!」

 しかし、俺は最後まで喋ることが出来なかった。

 自分の腹部を見ると大量の血と、風穴が開いていた。

「…………ごめんなさい」

「? 何…………謝ってんだ?」

「私が…………油断しなければ…………浩一は…………」

「ってことはあの龍のガストレアはやっぱりお前だったのか…………」

「…………そうだよ」

「…………まあ、そんなことはどうでもいい」

「えっ?」

 アリスは心の底から意味が分からないと言った顔をしていた。

「私はガストレアなんだよ? なんでそんなに変わらずに接してくるのさ」

 ははは、そんなの決まってる。

「お前の正体がなんであれ、お前は俺の立派な仲間だよ」

「っ!!!」

 アリスは心底驚いていた。

「いいか? 化け物かどうかは見た目じゃねぇ、中身で決まるんだ。お前は化け物なんかじゃねぇ、普通の人間だよ」

「浩一ぃ…………」

 ああ、視界が霞んできた、こりゃ長くは持たないな。

「アリス…………最後の頼みだ」

「…………何……」

 そんなに泣きはらした顔さやがって、これじゃあ往生できねぇっつの。

「最後のくらい…………笑った顔見せてくれよ」

「浩一…………」

 アリスは少し戸惑った顔をしてから、泣きながらだが、笑顔を見せてくれた。

「ああ、時間稼ぎももう充分だろ…………、俺はやり遂げたんだな…………」

「うん…………浩一、よくできました」

 ははは、最後まで…………お前らしいな…………

「アリス…………俺の武器はあるか?」

「えっ? あるけど」

「じゃあ、それはお前にくれてやるよ」

「いいの?」

「ああ、そいつもその方がいいはずだ…………」

 最後にそう言って俺の意識は闇へと落ちていった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私はしばらく動かなくなった浩一を眺めていたけど、やがて立ち上がって、浩一を土に埋めた。

 私はみんな逃げ切れた…………そう確信して疑わなかった。

 だが、私は知らなかった。

 アルデバランに高度な知能があることを。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 森を抜けて、東京エリアの方へ走ったアリス。

 アリスは龍の状態にならなくても、時速80キロ程度なら余裕で出せる様になっていた。

 そして、そこで見たのは…………折り重なる様にあった、大量の死体。

 まさか、アルデバランが回り込ませた?

 私が皆について行ってたら防げたかもしれなかったのに…………!

 私の自己満足のせいで…………

「あ……あ、あ」











「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ…………!!!」












ーーーーーーーーーー??ーーーーーーーーーー


「聖天子様」

「なんですか? 菊之丞さん」

「東京エリア付近の森の向こうにアルデバランの姿が確認されました」

「なんですって!」

「落ち着いて下さい、アルデバランは既に去りました」

「…………何故、アルデバランは去ったのですか?」

「大阪エリアからの亡命キャンプと接触し、大規模な被害を受けたからです」

「…………その亡命キャンプの方々は?」

「…………我々が発見した時には既に全滅しておりました」

「…………そうですか。菊之丞さん」

「はい、何でしょう」

「この事は一切マスコミなどにばれない様に隠蔽してください。無用なパニックを引き起こしかねません」

「御意に」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後、アリスは強さを追い求めた。

 ありとあらゆるものを守れる、そして倒すことの出来る強さを。

 これはほんの少しの人しか知らない、無かったことにされた小さな戦争だった。 
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