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ブラック・ブレットー白き少女

作者:虚無龍
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一人の勇気と一人の願い


アルデバラン
 ステージⅣのガストレアで、アルマジロとカメを掛け合わせたような姿をしている。
 ステージⅤのガストレア、ゾディアック・金牛宮
タウロス
の右腕的存在として猛威を振るう。
 ゾディアック・金牛宮
タウロス
はガストレアでは珍しく、集団を率いて行動し、現在序列1位のイニシエーターに撃破されるまで破壊の限りを尽くした。
 アルデバランは、バラニウム侵食液を使うことができ、バラニウムによる再生阻害が効かないと予測されているーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ、アルデバランだって!?」

「金牛宮
タウロス
の野郎と一緒に殺られたんじゃなかったのかよ!」

「ここまで来たっていうのに…………」

「嫌だ嫌だ嫌だ! 死にたくない死にたくない死にたくない!」

 亡命キャンプの中にいる人達はほぼ全ての人達が混乱していた。目の焦点が合っていないままその場に座り込んでいるものもいた。

 しかしーー


「落ち着け! 斥候部隊の言う通りならアルデバランはガストレアの群れを率いている。だが、そのせいで移動速度自体は決して速いとは言えない! 今すぐ全ての荷物を捨て、最低限の水と保存食を持って東京エリアの方へ逃げろ!」


 そう皆に向かって一喝したのは浩一だった。

 絶望に満ちていた皆の顔にほんの少しだけ希望がさした。

「だ、だが、いくら遅いとは言ってもガストレアと我々人間の足では必ず追い付かれるぞ!」

 そう、その通りだ。

 このまま闇雲に東京エリア目指して走っても、必ずたどり着く前に全員ガストレアに殺られてしまう。

 最悪の場合、アリスはガストレアの中に紛れ込めば何とかなるかも知れないが、他の人間は全て死んだも同然の状況だった。

「ああ、確かにその通りだ」

「じゃ、じゃあどうやって…………」

 疑問を問いかけた彼は…………いや、この場に居る全ての者が浩一の次の言葉に驚愕した。

「だから…………俺がここに残って殿
しんがり
をやり、敵の群れを食い止める」

「「「「「なっ!?」」」」」

 そしてアリス自身もかなり驚いていた。

 それも当然だろう。何故ならそんなことをすれば、確実
・・
に浩一は死ぬからだ。

「な、なにいってんだあんたは!」

「そうじゃ! こんな所で死ぬつもりか!」

「浩一お兄ちゃんいっちゃやだよー!」

 周りの人間は口々に反対し始めた。

(浩一って本当に人望あるんだねぇ)

 亡命キャンプを襲って来たガストレアを倒していたのは、実は半分近くが浩一なのだ。

 浩一は昔、民警をやっていたという噂が立つくらいだ。

「大丈夫だ、俺はこんな所で死ぬつもりなんてないよ。ある程度時間を稼いだら直ぐに追いかける」

 嘘だ。

 アリスは斥候部隊の生き残りからこっそり話を聞いたのだが、ガストレアの群れの数は優に1000を越えるらしい。

 そんな所に行って、戻って来られる訳がない。

「さあ! 早く準備しろ! 死にてぇのか!」

 亡命キャンプの人々は浩一のそんな言葉に納得こそしていないものの、それ以上の案が出ないので従うしかなかったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「浩一」

 皆の準備がもう少しで終わりそうになった頃、私は浩一の所に来ていた。

「なんだ、アリスか。どうかしたのか?」

 気丈に振る舞う浩一から目を背けたくなるが必死にこらえて会話を続ける。

「手」

「? 何言ってるんだ?」

「震えてるよ」

「っ!!!」

 浩一は戦闘の準備をしている間もずっと手が震えていたのだった。

「…………やっぱり、私も残「やめろ!」っ!!」

 いきなり大声で怒鳴った浩一に少し驚いた。

「お前の気持ちは嬉しい、だがお前は相当に強い。俺がいなくなった後に皆を守ってやって欲しい」

「でも…………でもっ!」

 別に安っぽい正義感とか、ちんけな恋愛感情に任せてこんな事を言ったのではない。

 ただ、私はこの男の事を気に入っていたのだった。

 『呪われた子供達』にも忌避などをせず、1人の人として見る事ができるこの男の事を。

「アリス、頼んだぞ」

 そう言うと浩一は誰にも何も言わずに1人で行ってしまったのだった。





ーーーーーーーーー浩一視点ーーーーーーーーー


「はあ、はあ」

 緊張で呼吸が乱れる、手が震える、膝が笑っている。

 本当は逃げ出したかった。

 何もかも見捨てて行きたかった。

 羞恥心もプライドも捨てて逃げ出したかった。

 だが、俺が逃げたら確実に皆死ぬ。

「浩一」

 アリスが話掛けてきた。

「なんだ、アリスか。どうかしたのか?」

 俺はあくまで冷静に返答する。

「手」

「? 何を言ってるんだ?」

「震えてるよ」

「っ!!!」

 …………やっぱり、アリスの目は誤魔化せないか。

 こいつはひとの感情に対して凄く敏感に反応するからな。

「…………やっぱり私も残「やめろ!」っ!!」

 駄目だ、それは絶対に駄目だ。

 …………こいつはいつも優し過ぎる。

 そしてその優しさはいつかこいつ自身を滅ぼす。

「お前の気持ちは嬉しい、だがお前は相当に強い。俺がいなくなった後に皆を守ってやって欲しい」

 …………本音を言えばついて来て欲しかった。

 一緒にいて欲しかった。

 …………俺はいつからか、アリスをガストレア大戦で失った娘と重ねて見ていた。

 だからこそ、アリスには絶対に生きていて欲しかった。

「アリス、頼んだぞ」

 俺がそう言って歩き出すと、泣きそうな顔をしながら、俺を見送ってくれた。

 皆に話掛けるとまた、止められちまうからな。

 …………また止められたら、俺は行けなくなっちまう。

 こういう時、アニメやら、ドラマやら、ゲームでは、「この世に未練などない」とか言うんだろうけど、俺は無理だ。

 未練たらたらだし、今でも行きたくないと思ってる。

 もう一度アリスを見るとまだ、泣きそうな顔をしていた。

「…………最後くらい、笑った顔で見送って欲しかったな」

 誰にも聞こえないような…………それこそアリスにも聞こえない様な小さな声で俺は呟いた。

 今度は振り向かずにいけた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よし、出発するぞ!」

 程無くして、準備が終わった亡命キャンプの人々は出発し始めた。

 だが、そこにアリスの姿はなかったのだった。
 
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