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とあるβテスター、奮闘する

作者:らん
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つぐない
  とあるβテスター、二人を見守る

押しに弱いタイプだろうな、というのが、僕が彼女に抱いた第一印象だった。

「ユノさんっ!この子が前にお話しした、親友のサチです!」
「ちょ、ちょっとルシェ、声が大きいよ……」
ばばーん!という擬音がどこからか聞こえてきそうな程の勢いで、隣に座る少女を僕に紹介するルシェ。
この前別れた際に言っていた親友を、早く紹介したくてたまらなかったらしい。
念願叶った今、彼女の表情はとても生き生きとしており、見事なまでのドヤ顔だった。

そんなルシェを小声で窘めているのは、たった今紹介されたばかりの彼女の親友───サチ。
肩まで垂らした黒髪と、右目の下の泣きぼくろが特徴的な女の子だった。
ルシェから年齢までは聞いていないけれど、やや短めに切り揃えられた前髪や、幼さの残る顔立ちから見て、恐らく僕たちと同じくらいの年頃だろう。
周囲の注目を集めることが恥ずかしいのだろう、その白い頬にはうっすらと朱が差していた。

もっとも、この隠れた名店(と、僕は思っている)を訪れるプレイヤーの数はたかが知れている。
こうしている今も、僕たちの周りにいるのはNPCの店員ばかりで、彼女が気にするほど周りから注目されるということはなかったりするのだけれど。

「ユノさん」
両頬に少し羞恥の色を残しつつも、サチは改めて僕へと向き直る。

「ルシェからいつも聞いてます。危ないところを助けてもらったって。 ……ルシェを助けてくれて、ありがとう」
「あ、えっと……」
彼女はそう言うと、向かいの席に座る僕にぺこりと頭を下げた。
そんなに改まって言われると、どうにも気恥ずかしくなってしまう。

ルシェからどういう聞かされ方をしていたのかはわからないけれど、サチは親友を助けてくれた相手として、僕に恩義を感じているようだった。
僕としては初対面の、それも同い年くらいの相手にこうして改まった態度をされるというのは、どうにもむず痒いものがある。
そもそも僕がルシェを助けたのは偶然だったのだから、ここまでされると逆に気を遣ってしまうというか、なんというか。
感謝されて悪い気はしないけれど、彼女たちとは歳も近いことだし、対等な関係でいたいところだった。

「とりあえず、敬語はなしにしようよ。多分、歳も近いと思うし。名前も呼び捨てでいいよ」
「……あ、うん。じゃあ、ユノ。ルシェを助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
もう一度だけお礼を言って、サチは、はにかんだ笑みを浮かべた。
元気を絵に描いたような性格をしているルシェと、どちらかというと大人しめのサチ。
正反対なタイプの二人だけれど、相手のことでわざわざこうしてお礼を言うくらいなのだから、よっぽど仲がいいのだろう。
まあ、ルシェはこれでいて臆病なところがあるし、彼女曰く、サチも相当な怖がりだというから、そういったところで気が合うのかもしれない。

「ユノさん、あたしは? あたし、ずっと敬語で話してるんですけど!」
「ん?」
そんな僕とサチの遣り取りに、彼女の隣で聞いていたルシェが割り込む。何故か切羽詰まったような顔をしていた。

「今日初めて会ったサチが呼び捨てでいいなら、あたしもいいですよね!?あたしのほうが一応、付き合い長いですし!」
「いや、別に、ルシェがいいなら僕は構わないけど」
「えっ? えっ、えっと……」
僕は敬語を強要した覚えはない……というか、もともと人から敬語を使われるのは苦手だったりする。
最初に出会った時の彼女は、死にそうになった恐怖から泣きじゃくっていて、そんな話をする雰囲気でもなかったし……。
かといって、今更言うのもなんだろうと思って、特に何も言わずにいたのだけれど。

「じゃあ、ユ、ユ………うう、やっぱ無理! あたしは今まで通りでいいです!」
「?」
別に呼び捨てでも構わないと言うと、ルシェは僕の顔を見ながら名前を呼び───かけて、途中でやめた。
今までずっと敬語で話していたのだし、今から変えようとしても違和感があるのかもしれない。
まあ、彼女が呼び捨ては無理だと思うなら、それはそれでいいだろう。
ルシェはずっとああいう話し方だったので、敬語を使われているとはいっても、僕も気を遣わずに済んでいるわけだし。

「わかりやすいなぁ……」
「サチ、うるさい!あたしはこれでいいの!」
「えー。だってルシェ、私と話してる時はいつも───」
「あああああ!変なこと言わないでよ!ユノさんの前でその話は禁止!」
「そういうところがわかりやすいんだよ……」
親友というだけあって、向かいの席に座る二人の会話は、傍で聞いていても楽しそうに思える。
サチという気の置けない相手が一緒だからか、顔を赤くしながらきゃーきゃーと騒いでいるルシェは、いつも以上に溌剌として見えた。


────────────


僕は迷宮区の攻略。サチはギルドメンバーとの狩り。
お互いに空き時間が合わないことも多く、直接会った回数こそ少なかったものの。
その後もサチとは、それなりに友好的な関係を築くことが出来ていた。
もちろん、紹介者であるルシェも含めて、だ。


「だからさぁ、そんなの向こうの勝手な言い分でしょ!なんでそんな危ない役目をサチに押し付けるわけ!?サチも断ればいいのに!」
「でも……」
「でもじゃない!サチみたいな女の子に前衛やらせて、自分達は横から安全に戦おうなんて、そんなの───」
そんな日々が続いた、ある日。
サチが思いつめた表情で相談事を持ち掛けてきたことがあった。

パーティに前衛が不足しているため、ギルドのメンバーから盾持ちの片手剣士に転向するように言われていること。
敵の前に出るのはとても怖いのに、パーティ内では自分のスキル熟練度が一番低いため、拒否権がなかったこと。
ギルドメンバーのことは好きだけど、本当は狩りに行くのは嫌だということ───

今にも泣き出しそうな顔をしている親友の姿を見て、ルシェは何事かと問い詰めた。
そうして、サチの口から理由を聞かされ───激昂した。

「ルシェ、落ち着いて」
「ユノさん……」
ルシェにしてみれば、親友を危険な目に遭わせようとしているギルドメンバーが許せなかったのだろう。
放っておけば直談判に行きそうな勢いだったので、今にも席から立ち上がろうとしていた彼女を何とか宥めた。

「気持ちはわかるけど、サチを責めたって仕方ないよ」
「でも、ユノさん!前衛なんて危ないこと、サチには───」
再び怒気を孕んだ声で抗議しようとするルシェを、僕は手で制した。

「それに、彼らの言うことも一理ある」
「……え?」
そう言うと、ルシェの顔に失望の色が浮かんだ。
サチの転向には僕も反対するものだと思っていたようで、僕がギルドメンバーの肩を持つ発言をしたことで、裏切られたように感じたのだろう。
短絡的と言えなくもないけれど、それを責めるつもりは僕にはなかった。
ここまで真剣に怒るということは、それだけサチのことを大切に想っているということだ。

「前衛と聞くと危ないイメージがあるかもしれないけど、実は盾持ちで壁役《タンク》として戦うプレイヤーのほうが、戦闘でやられる可能性が少なくて済むんだよ」
「……どうしてですか?」
色素の薄いライトブラウンの瞳が、訝しげに僕を見つめる。
彼女の疑いを解消するべく、僕は自身の経験からくる持論を話し始めた。

「えっと……、例えば動きの速い敵と戦ってるとして、敏捷値寄りのステータスでも避けきれなかった場合、敵の攻撃を受けることになるよね」
「……はい」
「こっちのHPが100で、相手が一撃で60とか70くらい持ってくような敵だったとしたら、攻撃を2回受けた時点でアウト。クリティカルをもらった時は、下手したら一撃でやられることだってあるかもしれない」
「………」
サチが───もしくは自分が、敵にやられるところを想像したのか。
ルシェが形のいい眉を顰めたことに、あえて気付かない振りをして、僕は続ける。

「避けにくい攻撃をリスクを冒して回避するより、最初から盾の陰に隠れていたほうがいい場合が多いんだ。いくら相手の攻撃力が高くても、盾で受け切ることができれば無傷で済むんだからね」
「そうなの……?」
「うん。実際のボス戦でも、僕みたいに離れて戦うタイプのほうが、広範囲攻撃に巻き込まれて危なかったりするしね。そういう時に、最初から防御してた壁役《タンク》は無傷だったり」
半信半疑といった様子のサチに、僕は頷いた。
正確には「ほぼ無傷」といったところだけれど、それでも大盾《タワーシールド》を携えた壁役の防御力は目を見張るものがある。

装備やステータスに大きな差がなかった第1層の頃とは違い、壁役やDD《ダメージディーラー》といったパーティ内での役割が確立している現在では、プレイスタイルによって生存率が著しく変わってくる。
事実、最前線での戦いはリリアやシェイリのようなDD《ダメージディーラー》よりも、防御に特化した壁役のほうが生存率が高い。
敵の前に出るということで危険なイメージを持たれがちだけれど、実際は重装備を着込んだ壁役のほうが、遥かに安全に戦えるというわけだ。

ただ、問題は───

「じゃあ、サチも片手剣士に転向したほうがいいってことですか?」
「……いや、それはやめておいたほうがいいかな」
「え……」
問題は。
いくら壁役の生存率が高いといっても、最終的な生存率はプレイヤー自身の、プレイスタイルへの適正や性格に左右されるということだ。

どんなに強い武器を持とうと、使い手の力量が見合っていなければ全く無意味なのと同じで。
壁役の生存率が高くても、片手武器の扱いに慣れなかったり、そもそも性格的に前衛に向いていないプレイヤーだっているだろう。

そして僕が見たところでは、サチは後者だ。
盾に隠れれば安全だとわかってはいても、敵に近寄ること自体が怖くてたまらないといったタイプだろう。
壁役は安全に戦えるといっても、敵を前にして身体が竦んでしまえば本末転倒だ。
どんなに堅い盾を持とうと、使い手が防御できなければ意味がないからだ。

ちなみに。そのあたりを自覚しているリリアは、重装備こそしているものの、立ち回りは防御よりも回避に重点を置いている。
盾を持たないことを疑問に思った僕が聞いてみると、「馬鹿ぬかせ。んなモン盾ごと割られたら終わりだろうが!」という、実にヘタレな彼らしいコメントを頂いたのだった。
その分、回避だけは異様に上手いので、彼にとってはこれが理想のプレイスタイルだったのだろう。

閑話休題。

とにもかくにも、そういった理由で、使い慣れていない武器やプレイスタイルへの転向は、個人的には賛同しかねるところだった。
戦闘中に行動を躊躇してしまうようでは、むしろ敵との距離が縮まった分、ちょっとした判断ミスから事故を引き起こす可能性だってある。

前衛の不足しているパーティは、確かにバランスが悪い。
だからといって、性格的に向いていないサチに前衛を無理強いするべきではないだろう。
サチの意思を尊重した上で、自分に一番合ったプレイスタイルを選ばせるべきだ───というのが、この件について僕が出した結論だ。

……更に言うなら、彼女のようなタイプは戦いには向いていない。

リリアのような例外(彼は恐怖心を他者への攻撃性に転化するタイプだ)もあるとはいえ、戦いというものは基本的に、自身の恐怖心を抑えなくてはならない。
もちろん油断や慢心は論外ではあるけれど、最低限の恐怖を克服できなければ、あっという間に敵に付け込まれることとなる。
初心者を考慮した作りの最下層フィールドとは違って、10層以降に出現する敵は、そのほとんどが攻撃的《アクティブ》モンスターとなっている。
そんな相手と戦う時に怯えていたのでは、飢えた肉食獣の前に小動物が出て行くようなものだ。

「とりあえず……、慣れない武器でフィールドに出るのは、僕は反対かな。半年以上も今の武器でやってきたのに、いきなり上手く戦えるとは思えないよ。 ……どうしても転向しなくちゃいけないっていうなら、もっと時間をかけるべきだと思う」
本音を言うなら、前衛の出来るギルドメンバーを募集するなり、戦い慣れている男性陣が転向するなりして、彼女には戦わせるべきではない───そう言いたいところだけれど。
流石にこれ以上は、部外者の僕が口を挟める問題ではないだろう。最終的にどうするのかは、サチ本人とギルドメンバーたちで決めることだ。

「……サチ。嫌なら嫌って、ちゃんと言うんだからね? どうしてもギルドが嫌になったら、抜けちゃえばいいんだし。そしたら前みたいに、サチもこの街に住もうよ。あたしもそのほうが嬉しいしさ」
僕の説明でいくらか納得してくれたようで、彼女を労わるルシェからは、先程までの怒気は霧散していた。
今はそのかわりに、親友への労わりと慈しみで満ちている。

「うん……、ありがとう。でも、私は大丈夫だよ。片手剣士に転向するのも、たぶん、慣れれば大丈夫だと思うから」
「………」
だけど。
そんな親友の言葉に頷いたサチの表情は、御世辞にも大丈夫には見えなかった。
触れれば壊れてしまいそうな、危うい雰囲気。
傍から見ても、彼女が無理をしているのは一目瞭然だった。


今になって思えば。
僕はこの時、サチを止めるべきだったのかもしれない。
多少無理を言ってでも、戦いから遠ざけるべきだったのかもしれない。

あるいは。
ルシェが直談判しようとするのをやめさせなければ、少しは違った結末が待っていただろうか。

戦いから離れたサチと、彼女の親友であるルシェ。
二人が笑い合っている光景を、もう一度見ることができていたのだろうか。

僕には───わからない。


────────────


【西暦2023年 6月5日】


「最近、明るくなったと思いませんか?」
「へ?」
ルシェの問いに対する僕の答えは、なんとも間抜けなものとなってしまった。
彼女の話を聞きながらも、頭の中では別の───数日前に遭遇した、風変わりな人形遣い《パペットマスター》───のことが気掛かりになっていて、会話に集中できていなかったのは確かだ。
結果、突然話題を振られたことで、不意を打たれる形となってしまう。

「……ユノさん、まさか聞いてなかったんですか?」
「い、いや、そんなことは。 ……まあ、日は延びてきたよね、うん。もう6月だし」
「違いますよ!やっぱり聞いてなかったんじゃないですか!」
「う、ごめんなさい……」
何とか誤魔化そうとしたものの、あっけなくバレてしまったため、素直に謝罪する。
「明るくなった」という彼女の言葉から、最近は日の落ちるのが遅くなったという話かと思ったのだけれど、まったくの的外れだったらしい。

「いやその、なんというか、ごめん。僕が悪かったよ」
「別に、いいですけど~」
拗ねたように頬を膨らませるルシェを見て、少し反省。
今度から人と話している時は、考え事をするのはやめておこう。

「えーっと……、それで、何の話だったの?」
「もう。サチのことですよ、サチの。あの子、最近明るくなったというか、ちょっと元気になったと思いませんか?」
「ん、そうなの?」
「そうですよ!親友のあたしが言うんだから間違いないです!」
ドヤ!といった具合で胸を張るルシェ。
どうやらサチの親友というポジションは、彼女にとって何よりの自慢であるらしい。

「……やっぱり、あれかな。あの人が入ったお陰なのかな」
「あの人?」
あの人、とは。一体誰のことを指しているのか、僕には見当がつかなかった。
ルシェの言い方からして、サチと同じギルドのメンバーだということは、なんとなく察しが付いたけれど。

「えっとですね……、ユノさんは知ってましたっけ、サチのギルドに入った男の人の話」
「そういえば、言ってたね。すごく強い人が入ったって」
少し前に聞いた話によれば、サチの所属するギルド《月夜の黒猫団》に、新たなメンバーが加わったらしい。
相手は待望の片手剣使いで、それも黒猫団のメンバーと同じくらいのレベル帯であるにも関わらず、前衛としての実力はかなりのものであるという。
彼らとレベルがそう変わらないということは、単純にプレイヤースキルが高いのかもしれない。
何にせよ、前衛が不足していた黒猫団にとって、彼の加入はまさに渡りに船といったところだろう。

「……サチ、結局今でも前衛やらされてるみたいで。あたし、結構心配してたんです。あの子、あたしと同じくらい怖がりだから」
サチの所属するギルド《月夜の黒猫団》は、いずれは攻略組の仲間入りすることを目標としているらしい。
今はまだ中小ギルドの域を出ないものの、例の剣士の加入を切っ掛けに、以前より本格的な狩りに乗り出すようになったのだそうだ。

「無理して明るく振る舞ってるけど、本当はすごく落ち込んでるの、あたしはわかってて。なんとかしてあげたいなって思ってたんですけど……。でも最近、ちょっとずつ元気になってきて。あたしが何かあったのかって聞いたら、あの子、どうしたと思います? 顔を赤くして黙り込んじゃったんですよ!」
……えっと。
顔を赤くして黙り込んじゃったってことは、それって、つまり。

「何があったのか聞いても全然教えてくれないし!最近じゃその人の話になっただけで、顔が真っ赤になるんですよ!どう思いますか、ユノさん!」
「え、えーっと……」
どう思いますかと聞かれても……どう答えればいいんだろうか。
僕、その手の話には疎いというか、自分に縁がないからなぁ。

「……サチは、その人のことが好きなのかな。だから、元気になったのかな」
「う、うーん……、どうだろう……?」
「その人がギルドに入ってからは、サチ、本当に明るくなったんですよ。 前はギルドで狩りに行くの、あんなに怖がってたのに。……ちょっと、悔しいです」
「………」
「サチがギルドのことで落ち込んでた時、あたしはただ怒ることしかできなくて。でも、それじゃダメだったんですね。あたしはサチのこと、元気づけてあげられなかった。 ……親友、失格ですね」
しゅんとした声でそう言って、ルシェはテーブルに置かれた紅茶のカップへと視線を落とした。

本当に、この子ときたら……どこまでも、親友思いだ。
そんなだから───僕は、何とかしてあげたくなるんだ。

「そんなことないよ。ルシェがああやって怒ってくれたこと、サチはきっと感謝してる」
「そう、でしょうか……」
「少なくとも、僕はダメだったとは思わない。誰かが自分のために怒ってくれるって、すごく……嬉しいことだよ」
「ユノさん……」

───僕が、そうだったから。

リリアやシェイリが、僕のために怒ってくれた時。
自分が情けなくて、みんなに申し訳なくて。自己嫌悪や罪悪感が、胸の内でごちゃ混ぜになって。
それでも、二人がそんな風に言ってくれたことが、自分のために怒ってくれる人がいるということが。
僕は、とても嬉しかった。
泣いてしまうほど───嬉しかったんだ。

「大丈夫。君はサチの一番の親友だよ」
「う、ぐすっ、ユノさぁぁん……!」

とうとう泣きだしてしまったルシェに、苦笑いしながら。
僕は、この二人が、これから先も───いつかこのゲームがクリアされて、現実世界に戻れたとしても、それからも。

あんな風に、他愛もないことで笑い合えるような。
こんな風に、相手のことで真剣に悩むことができるような。

そんな、親友同士であって欲しいと。
ずっと変わらずに、親友同士であって欲しいと。
そう───願っていた。






月夜の黒猫団が迷宮区で壊滅し、サチが死んだと聞かされたのは、それから一週間後のことだった。 
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