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眼病から

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第三章

「誰が何処にいるのか声でな」
「わかるのか」
「そうなんだな」
「そうなんだよ」
 実際にだ、そうだというのだ。
「聞こえるからな」
「またそれはな」
「凄いな」
「見えていないけれどか」
「耳がか」
「耳が聞こえるんだな」
「自分でも驚いているよ」
 前にも増して聞こえるそのことがというのだ。
「何か最近な」
「入院してからか」
「それからか」
「聞こえる様になったんだよ」
 つまりだ、目が見えなくなってからだというのだ。
「あと触ったりな、匂いとか味もな」
「前よりもか」
「わかる様になったんだな」
「そうなんだよ」
 他の感覚もというのだ。
「どうやら勘もな」
「何かな」
「今はずっと見えないよな」
「そうだよな」
「目が見えないからか?」
「それでか?」
「そうかもな」
 自分でもこう言うのだった。
「この通りだからな、俺の目は」
「治療中だからな」
「暫くは」
「そのせいかもな」
 口元だけで笑っての言葉だった。
「それでだよ」
「かえってか」
「見えなくてか」
「それで余計にか」
「感じられるんだな」
「そんな感じなんだよ」 
 そうだとだ、倉見は言うのだった。そしてそのうえで仲間達に話すのだった。
「不思議だよ」
「余計に耳が聞こえて匂いが感じられてか」
「そうなってきて」
「ああ、目が見えなくなってな」
 治療の間だけでもというのだ。
「それでもな」
「他の感覚がか」
「鋭くなってきてか」
「そのこと自体がか」
「不思議なんだな」
「全くだよ、不思議だし面白いよ」
 ここでも笑って言うのだった。
「これはな」
「そうか、何かな」
「このままだとな」
「普通にな」
「目が治った時な」
「退院して柔道再開した時にな」 
 仲間達も彼のその言葉を聞いて言うのだった。
「面白いことになりそうだな」
「若しかするな」
「そうだな、他の感覚が鋭くなってるからな」
 だからだとだ、倉見自身も言った。
「柔道でそれを生かせればいいな」
「若しそうならな」
「なれな」
 仲間達もこう言って励ます、そしてだった。 
 彼は自分の他の感覚が優れてきているのを自覚してきていた。目が見えなくなってその間にだ。
 それで退院してからだ、柔道を再開してだった。
 彼は練習の組手の時にだ、何と。
 相手の動きがだ、これまで以上にわかった。音がだ。
 組んでいる相手の足の動きの音からだ、技を呼んだ。
 一本背負い、それが来るとわかって。
 すぐに体勢を整えた、それでだった。
「なっ!?」
 相手に一本背負いをさせなかった、これには相手も驚いた。
 そして驚いたその相手にだ、彼は。
 逆に技、驚いて体勢を崩した相手にだった。
 内股をかけた、これでだった。
 投げてみせた、その倉見を見て周りは驚いて言った。 
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