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プロメテウス

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第一章

                  プロメテウス
 ゼウスはオリンポスにおいて肉を食べていた、見ればその肉は焼けていた。その焼けた肉を見てだった。
 濃く長い黒髭の神が彼にこう言った。
「ゼウスよ、その肉ですが」
「この肉がどうしたのだ」
「焼いていますな」
 言うのはこのことだった。
「それもかなり強く」
「見ての通りな」 
 ゼウスはプロメテウスに微笑んで答えた。
「お陰でかなり美味い」
「はい、肉は生よりもです」
「こうして焼いた方がずっと美味い」
「その通りです、煮てもいいですが」
「これは肉だけではないがな」
「口にするあらゆるものが」
 ここでプロメテウスはこうも言った。
「熱を通せば」
「火をな」
「それだけで全く違います」
「火があればだ」
 まさにこれがあると、とだ。ゼウスも言うのだった。
「あらゆることが出来る」
「ヘパイスト神のそのお力で」
「ヘパイストスもものを造ることが出来る」
「あの方の造り出す様々なものもですね」
「火があってこそだ」
「水を湯にも出来」
「温かい風呂にも入ることが出来火自体で焚き火も出来る」
 ゼウスは火の温もりについても語った。
「火は実に素晴らしいものだ」
「まことに。ただ」
「ただ?」
「この素晴らしい力を我々だけが手にしていいのでしょうか」 
 ここでだ、プロメテウスはゼウスにこう言うのだった。
「果たして」
「それはどういう意味だ」
「人間にも与えませんか」 
 その火をというのだ。
「そうしませんか」
「そして火を通した食物の美味を教えてか」
「ものを造ること、そして温もりを」
「火の恩恵を人に与えるのか」
「そうしてはどうでしょうか」
 こうゼウスに提案するのだった。
「如何でしょうか」
「いや、それはだ」
 ゼウスはプロメテウスの提案にだ、難しい顔で答えた。
「私も考えたがだ」
「それでもですか」
「どうかと思って控えているのだ」
「それはどうしてでしょうか」
「確かに火は多くの恩恵がある」
 このことはだ、ゼウスが最もよく知っていることだ。オリンポスの主神として。
「しかしだ」
「それでもですか」
「それと共に多くの災厄を持っている」
「何もかもを燃やすからこそ」
「それで命を殺めることもある」
「不用意にですね」
「そのことを思うとだ」
 ゼウスはプロメテウスに難しい顔で答えるのだった。
「どうしてもな」
「人間に渡すことはですか」
「どうしてもだ」
「躊躇されるのですね」
「そうだ、人は火で様々な悪を働くのではないか」
 これがゼウスの懸念だった。
「そう思うとだ」
「では」
「火程使い方次第で危ういものになるものはない」
 また言うゼウスだった。 
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