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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第4章 戦争と平和
  第36話 八神は駒王にて最強…覚えておけ

 
前書き
・アザゼルさんが悪役に。ファンの方は申し訳ありません。
サーゼクスやミカエルにあからさまに警戒されているくらいなので、昔はやんちゃしていたのではないかな、と。 

 
 夏の訪れを感じる日曜の午後、公園のベンチに座る主とともにザフィーラはいた。
 子連れの家族が大勢おり、なんともにぎやかだった。主の方をみやると、微笑みながら、そしてどこか恋い焦がれるような、そんな複雑な表情をしていた。
 狼状態になっているので、対外的には「犬の散歩」と称している。
 主にわんこモードといわれている狼形態を、ザフィーらはむしろ気に入っていた。
 こうして2人で散歩しながらのどかな日常を眺めるひと時が好きだからだ。
 もちろん自宅警備員としての職務も忘れてはいない。
 声を出すわけにはいかないので、念話でとりとめのない話をしていると――――


「――――よう、八神はやてだな?」


 胡散臭い笑みを浮かべた見知らぬ男性が、眼前に立ち、じっとこちらを観察していた。
 黒髪のワルな風貌の男性である。年齢は、二十代程だろうか。
 外人で浴衣を着ている所為か、酷く浮いている。チャラそうなイケメンだったが、内包する力は人間のものでは到底ない。明らかに魔王クラス。
 敵の可能性を考えザフィーラは、密かに警戒する。
 馴れ馴れしく話しかけてくる男性に不信感を抱きつつ、主は、肯定の返事をした。


「やっぱりか。いやあ、面影があるからな、母親そっくりだぜ」


 思いがけない言葉に瞠目する。ちらりと主を見やると、彼女も、驚きに目を開いていた。まあ、最初からコイツの正体は想像がついていたが。あまりにも場違いな登場に面喰っているだけである。


「自己紹介がまだだったな。俺は、アザゼル。堕天使の総督をやっている。お前の両親とも知り合いだった」


 その瞬間、殺気が辺り一面を覆いつくす。主の勘気を悟ったザフィーラも、臨戦態勢をとった。


「おっと、そんなに殺気立たないでくれ」


 と、たしなめた後。


「すまなかった」


 頭を下げてきた。急な展開にまたしても瞠目する。はやての方も、何をいっていいかわからないようだ。


「いきなり、謝罪されても、わからないよな。いまから、理由を説明するよ」


 そういって、『理由』とやらを説明してくる。
 曰く、天使陣営を追われたはやての両親をかくまっていた。
 曰く、自分の力不足で、堕天使陣営から出奔させてしまった。
 曰く、彼らが亡くなり、残念だ。
などなど。


「―――というわけなんだ、本当にすまなかった」


 真剣な表情で、ひとしきり説明し終わると、改めて頭を下げた。
 アザゼルの言う『理由』とやらは、はやてから聞いた話と、大筋は同じだ。
 彼は、両親を亡くした少女に心底同情しているようだった。
 黙って聞く体勢をとったはやてを見て、彼はなおも続ける。


 嘘をつくときには、事実の中に少しばかりの嘘を混ぜればいいとよく言う。
アザゼルの説明は、まさにその通りだった。
彼の話すはやての両親の姿は、彼女から伝え聞く話と合致していた。
 はやての両親が、市井に混じることを希望していた話もあったが、強硬派を抑えるために許可することができず、すまないと謝ってきた。


 何も知らなければ、その言葉を鵜呑みにしていたかもしれない。
 それほどまでに、迫真の演技だった。
 両親の日記、コカビエルからの話を知らなければ、本当に信じていたかもしれない。
 真相を話したことを、コカビエルはアザゼルに伝えていなかったのだろう。
 だからこそ、『不幸にもはぐれ悪魔に両親を殺害された少女』に対して、アザゼルは、同情を装っているのだ。


「……そう。両親の話を聞けてよかったよ―――。ああ、夕飯の支度があるので、ここらで失礼させてもらうよ」


 のどから絞り出すように声を出すと、ザフィーラを連れてはやては、公園を後にした。
 無表情の主を見やり、ザフィーラは心配の声をかける。


(主、大丈夫ですか)

(……ザフィーラ、ああ、すまない。自分を抑えるのに必死でね)


 はぐれ悪魔をけしかけたのは、アザゼルで間違いない。
 コカビエルの証言を基に、サーチャーと転移魔法を駆使して堕天使領に忍び込み、裏付けをとっていた。
 それにもかかわらず、悪びれもせず、さも同情しています、という態度をとられたのだ。
 主の心境は推して知るべし。決して穏やかではあるまい。

 
 ――――あやうく、殺すところだった


 帰り際に念話で放った一言が、その心中を物語っていた。





 図書館でぱらぱらと参考書を紐解く。期末試験に向けて勉強中だった。
 さすがに大学受験にまでなると前世知識も通用しなくなってくる。
 とはいえ、マルチタスクを駆使すれば容易いことである。
汚いさすが魔導師きたない。
 隣を見ると金髪美少女がいる。
ついでに、アーシア・アルジェントの日本語の勉強もみているのだった。
 小さな声でひそひそ話をしながらまったりとした時間を過ごしていると、大きな悲鳴が響き渡った。


「ぎ、ギャスパーさん!? 追っているのは、ゼノヴィアさんですか」


 そちらに目をやると、デュランダルを片手に美少女を追い回すゼノヴィアがいた。
 アーシア・アルジェントが呆然とつぶやく。
 ゼノヴィアに追われて涙目になっている美少女こそギャスパー・ウラディ――だが男だ。
 金髪をショートカットにした赤眼が特徴のどこからどうみても美少女である。
 グレモリー眷属最後の一人であり、吸血鬼の『僧侶(ビショップ)』である。
 彼は由緒正しい吸血鬼の一族だが、人間とのハーフである。
 人間の要素を持つゆえに、『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』と呼ばれる神器を宿している。魔法の扱いにもたけている新進気鋭の悪魔である。


 神器は「時間を止める」とんでもない性能をもつ。才能だけなら、若手悪魔ではトップクラスといってよいだろう。
 しかし、まだ力の制御が不十分で、暴走することもある。
 本来未熟なリアス・グレモリーがア使いこなせる人物ではない。ゆえに、彼女の『僧侶(ビショップ)』でありながら、使用を禁止されてきたのだ。
 コカビエル戦で木場祐斗が禁手化(バランスブレイク)し、赤龍帝やデュランダル使いを陣営に加えたリアス・グレモリーは、資格十分として、ギャスパー・ウラディの使用が解禁されたのである。
 もっとも、自らの力の暴走を恐れて引きこもりになったままだったので、こうやってゼノヴィアが無理やり外に出しているわけだが。


「段ボールの中が落ち着く、とか言っていたらしいな。誰にも見せることのない引きこもりのくせに、女装趣味とかおかしくね? コスプレって基本見せるためにするもんだろうに」

「彼女……いや、彼か、は似合っているからいいんじゃないか。どこかの魔法少女と違って」


 何やら匙元士郎と兵藤一誠が話している。魔法少女について、兵藤一誠が意味深な目線をこちらに向けてきている。
 ボクなんかの魔法少女力ではだめということなのだろう。やはり、ミルたんレベルでなくてはいけない。道先は長いな。


「あ、あの、私ゼノヴィアさんを止めてきます――きゃっ」


 心優しいアーシア・アルジェントは、席から立ち上がりゼノヴィアを止めにいこうとして、誰かにぶつかった。


「も、申し訳ありません」

「いや、気にしてねえよ。こっちこそ急にあらわれて悪かったお嬢さん」


 どこかでみたワイルドなおっさん。浴衣姿で軽いノリのこいつは――。


「アザゼル、なぜここにいる?」


 ボクがつぶやくと、アザゼルはニタリと笑いを浮かべた。周囲を見渡すと、兵藤一誠たちが驚愕の表情を浮かべている。
 いつの間にか近くにきていたゼノヴィアとギャスパー・ウラディも身体を停止していた。


「え、八神さん。いまアザゼルっていってなかった? 冗談……だよね」

「いやいや、冗談じゃねえよ。俺が堕天使総督のアザゼルだ。ほらよっ」


 軽薄そうな笑みを浮かべながら、堕天使の黒い羽根をだし、威圧する。


「よう、グレモリー眷属は初めましてだな。はやては久しぶりだ」

「貴様に名前を呼ぶ許可を出した覚えはない」

「おっかねえな、八神。そちらさんも八神くらい落ち着いたらどうだ?」


 辺りを見ると、臨戦態勢をとったグレモリー眷属がいた。
 ゼノヴィアはデュランダルを現出し、アーシアを背後に庇っている。ギャスパー・ウラディは、木の陰に隠れ、兵藤一誠と匙元士郎は神器をそれぞれ起動させた。
 兵藤一誠の手は、赤い籠手『赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)』に包まれ、匙元士郎は、手の甲にトカゲのようなものが現れた。『黒い龍脈(アブソープション・ライン)』と呼ばれる神器である。
 レアな神器であり、彼の主ソーナ・シトリーは、眷属にするために『兵士(ポーン)』4体を消費したほどである。


「はやてさん、そこにいては危険です。逃げてください!」


 アザゼルを中心に、ぐるりと悪魔陣営が囲む中、ボクはアザゼルの側で平然としている。
 八神家は中立とはいえ、悪魔陣営の協力者。敵対する堕天使のトップの側にいるのは、確かに危険だろう。――いままでならば。


「心配することはないよ、アーシア。この場でコイツが騒動を起せば、すぐに戦争一直線。何のために堕天使総督がわざわざ悪魔領の駒王町に来たのか考えればいい」

「八神の言う通りだ。ここで騒ぎを起こすなんて野暮な真似はしねえよ。」


 ボクたちの言葉で若干弛緩した空気が漂うなか、アザゼルの神器オタっぷりがさく裂した。コイツは堕天使の総督をやるよりも、研究者の方があっているのかもな。
 ギャスパー・ウラディの神器のコントロール方法と、匙元士郎の神器のパワーアップ方法について助言し、彼らの成長に大いに貢献するのだった。
 原作通り先生になっても、案外向いているのかもしれない。


 ――それを許す気はさらさらないが。





「八神は駒王にて最強…覚えておけ」


 くそっ、ここまで手も足もでないとは。眼前の少女――はやてをみて歯噛みする。
 きっかけは、はやてからの提案だった。
 曰く、英雄派と模擬戦をしたい。敗者は、勝利した方の言うことを聞く。
 俺とてはやてと戦いたとは常々思っていたし、英雄派の幹部たちも同様だった。
 というよりも、俺がはやてに入れ込み過ぎていて、八神家に対する風当たりが強くなっているのが問題だった。


 ここで八神家のメンバーの力を見せつければ、よいガス抜きになるだろう。
 ついでに勝利すれば、あわよくばはやてと、あんなことやこんなことをしようと妄想していた。
 その結果がこれだ。制限付きだとはいえ、俺ははやてに完封された。
 クリーンヒットすら一つもない。完敗だ。これでは英雄派のトップとして面目が立たないな。
 いや、八神家を英雄派に認めさせるという点では大成功だろう。


「純粋な剣技でここまで圧倒されるとは、シグナム師匠、数々の非礼をお許しください」


 腰に何本も帯剣した優男ジークフリートが、シグナムに師事を乞おうとしている。誠実さをひしひしと感じる言動に驚いた。


「やるな、おっさん。ミサイルでも防御がぶち抜けないなんて信じらんねえ堅さだぜ。殴り合いも最高だ」


 地面に大の字になりながら、ザフィーラに賛嘆の声を上げる偉丈夫のヘラクレス。傲岸不遜な態度は相変わらずだが、どこか吹っ切れたような感がある。


「上には上がいるものね。私の慢心に気づかせてくれてありがとう」


 ヴィータに感謝を述べるのは、金髪たなびかせたきつめの美少女ジャンヌ。言葉の節々にあったキツさとプライドが抜け落ちて、やわらかくなっていた。


「未知の魔術があったとは。是非教えを乞うてもいいだろうか」


 無二の親友ゲオルグは得意の魔術戦で圧倒したシャマルに感嘆していた。こいつが子供のように嬉しがっているのがよくわかる。魔術バカだからな。


「どうだ、曹操。力は示した。ボクの頼みを聞いてくれるだろう?」


 俺を含めた英雄派にとって得難い体験だった。完全なる敗北。ここから得られる教訓は大きいだろう。頼みを聞くのもやぶさかではない。だが、本当にこんな願いでいいのか? わかった。旧魔王派との調整は任せてくれ。駒王協定の日を心待ちにしているよ。
 面倒な交渉事も、嬉しそうなはやてをみればチャラだった。
 次こそは、勝ってデートに誘って見せる!
 
 

 
後書き
・きたないさすが魔導師汚い
ブロントさん語録。忍者に対する糾弾。FF。

・八神は駒王にて最強…覚えておけ
「日向は木ノ葉にて最強…覚えておけ」日向ヒアシのセリフ。怪獣大決戦の中で言われても……。コラ画像のほうが本物だと本気で信じていた。ナルト。
 
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