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未亡人のミサ

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3部分:第三章


第三章

「それで」
「はい、それでしたら」
「では私も」
 ここでもう一人出て来た。助司祭であった。やはり彼女の知らない顔であった。
「付き添わせて頂きます」
「はあ。でしたら」
 二人の好意を受けることにした。こうして彼女は二人の顔こそ知らないが善良な二人の司祭の好意を受け家まで送られた。家はすぐ隣だったので問題なく着いた。そのうえで家に戻るとまだ夜だった。それにおかしいと思いつつもとりあえずは喪服を脱いで寝巻きに着替えて寝た。そのまま朝になると彼女を呼ぶ声がした。
「マシューさん、マシューさん」
「起きてる?」
「?その声は」
 彼女のよく知っている声だった。村人達の声である。
「もう時間ですよ」
「起きて起きて」
「!?おかしいわね」
 首を傾げつつベッドから起き上がるのだった。
「ミサならもう」
「ミサがはじまるよ」
「寝てるんなら起きてよ」
 牧師の声も聞こえてきた。やはり間違いはなかった。
「起きないとさ。ミサに出ないと」
「出るんでしょう?」
「ええ、起きてますよ」
 ベッドから起き上がって答えるマシューだった。
「ちょっと待って下さいね」
 ベッドから起き上がりつつ答える。答えるがその横にいるトトは今度は静かなものだった。静かどころかすやすやと眠ってさえいる。
 それを見て首を傾げつつまた喪服とヴェールを身に着けてそのうえで家を出る。するともう彼女と同じく喪服を着た人々と牧師が待っているのであった。
「ささ、今からですよ」
「行きましょう」
「今からですか」
 ここでマシューは家から出て少し素っ頓狂な声をあげたのであった。
「今からミサですか」
「決まってるじゃないですか」
「今日って聞いていますよね」
「はい」
 今の言葉には頷くのだった。
「それはそうですけれど」
「ですから今から」
「行きましょう」
「ただ。ちょっと」
 しかしここで彼女は皆に述べるのであった。考え、怪訝な顔で。
「ミサでしたらもう行ったのではないのですか?」
「えっ!?」
「もうですか!?」
「はい、そうです」
 またこう述べるマシューであった。
「真夜中に。もう」
「!?そんなことはないですが」
 彼女の今の言葉に牧師がいぶかしむ顔で答える。
「真夜中にですよね」
「はい」
「そんな時間にミサは行いませんよ」
 このことを彼女に正直に述べるのであった。
「ミサを夜に行うのは」
「ありませんか」
「それはマシューさんも御存知の筈ですが」
「そのつもりですけれど」
 首を傾げながらもマシューはさらに述べる。
「ですが。それでも」
「とにかく。昨日の夜私は寝ていました」
 牧師はこうも述べたのだった。
「教会に誰かが入るということはともかくミサなどとは」
「有り得ませんか」
「この村でミサを執り行うことができるのは私だけですし」
「では司祭様や助司祭様は」
「その方々でしたら町ですよ」
「町、ですか」
「ですからここには」
 首を横に振ってマシューに述べるのだった。
「おられません。決して」
「ですが司祭様方が本当におられて」
 それでもマシューは主張するのであった。自分の記憶に嘘をつける彼女ではなかった。
「夜に。確かにミサを」
「ですから夜には決して」
「どうしてもと仰るのなら」
 彼女もついついムキになってしまい少し強い口調で言ってきた。
「証拠をお見せしましょう」
「証拠といいますと」
「お布施のお盆にあります」
 昨日のことを思い出しつつ牧師と村人達に言うのであった。
 
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