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映画

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4部分:第四章


第四章

「即身仏みたいな人だっていうし」
「即身仏!?」
 夕菜はそれが何か知らなかった。この辺りが彼女が天然系タレントとして売れている理由であった。あまり物事を知らないのである。
「何ですか、それって」
「まあ。食べることも飲むことも経ってそれで自分から死んで仏様になる人のことよ」
「死ぬんですか」
「そういう人もいるのよ」
 とりあえずこう説明するマネージャーだった。
「それでね。そういう人は欲とか感情がなくなっていくから」
「そういうことはしないんですか」
「怒鳴ったとかという話も聞かないわね」
 これは映画監督にしては異例である。
「ただ。気付いたら映画ができてるらしいけれど」
「気付いたらですか」
「だから。安心して」
 あらためて夕菜に対して告げた。
「そんなに悪いようにはならないから」
「じゃあ」
「受けるべきよ」
 この考えは変わらないマネージャーだった。
「夕菜ちゃんの為にもね。演技が下手でもいいじゃない」
「いいんですか?」
「誰だってはじめてはそうだから」
 これは確かにその通りではある。
「それにね」
「それに?」
「演技は確かに上手い下手はあるけれど」
「それだけじゃないんですか」
「要は存在感」
 これであるというのだ。
「それを出せるかどうかよ。いいわね」
「はあ」
 あまりわかってはいなかった。
「それじゃあ。やっぱり」
「受けるのね」
「とりあえずは」
 この年頃の女の子らしいあまり深くはない返答だったがそれも無理もないことではあった。何しろ何もわかってはいないのだから。
「そうさせてもらいます」
「その間のスケジュールはいつも通りよ」
「いつも通りでいけるんですか?」
「とにかく撮影時間が短いのよ」
 このことも夕菜に話す。
「あの監督。二時間の映画でも一月で終わるし」
「普通そんなに短くて済むんですか?」
「まさか」
 このことはすぐに否定した。
「そんな訳ないじゃない。二時間よ」
「はい」
「それだけの映画ってやっぱり大作だから」
 どうしても上演時間が関係するものである。
「まして今回は三時間らしいし」
「三時間・・・・・・」
「それも一月で終わらせるそうよ」
 今度ばかりはマネージャーも首を傾げていた。
「どうやらね」
「三時間の映画を一月で」
「あの監督時間をロスしたこともないし」
 このことも世界的に定評になっているのだ。早く安く信じられないような名作を作り上げる。そのことから魔術師とも言われている。
「だからその間もね」
「他のお仕事もですか」
「レギュラーはそのまま」
 バラエティ番組である。
「あとグラビアもね」
「漫画雑誌のですね」
「そうよ、二つ」
 そちらも順調だったりする。
「もう水着も用意してあるから。頼むわよ」
「撮影は何処ですか?」
「撮影は東京よ」
 グラビアの撮影といってもいつも南に行くとは限らない。
 
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