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邪剣

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7部分:第七章


第七章

「あの悪霊は一体?」
「何なのだ?」
「ううむ」
 ホークムーンは逆に彼等に問われて自分自身が首を捻った。そうして少し考えてからその後で彼等に対して答えたのであった。
「若しやと思うが」
「若しや?」
「心当たりはあるのか」
「何度も言うがあれはモートの剣だ」
 話をそこに戻してきた。
「死を司る神のな」
「死をか」
「それだけに多くの命を奪ってきた」
 だからこそ邪神として恐れられてきたのである。邪悪な神を恐れない者はいない。
「あの剣でな」
「ではあの悪霊達は」
「最早」
「そもそもあの剣は多くの悪霊達の魂を集めて作られたのだ」
 今度は剣がどのようにしてできたのかも二人に対して言うのであった。
「そうしてな」
「そうか。それならば」
「あの悪霊達は」
「剣のもとになった悪霊達、モートに殺され怨念を抱いている者達」
 複数あるのだった。
「そして剣の魔力に引き寄せられてここに来ている者達もいるな」
「だからか。あの数は」
「そうであろうな」
 クリスの言葉に対してこたえるたホークムーンだった。
「まだまだいるであろうな。その数は」
「そうか。ならオズワルドは」
「助かりはせぬ」
 アーノルドに対してはっきりと答えた。
「最早な」
「そうか。やはりな」
「今わかったがやはりあの剣は人には扱えぬ」
 ホークムーンは思慮する目で述べた。
「決してな」
「使えることができるのはモートのみか」
「そう。神であるモートのみだ」
 また二人に述べるのだった。
「結局のところはな」
「わかった。では俺達には何もできないわけだな」
「当然わしにもだ」
 また二人に対して言うのだった。
「持つことすらな」
「ではそれを持ったあいつは」
「あのまま悪霊達と戦い続ける」
 アーノルドに説明した。
「死ぬまでな」
「死ぬまでか」
「左様。死ねばそれで終わりだ」
 冷酷なまでに突き放した調子になっていた。
「それでな」
「そうか。もっともそれは自業自得だけれどな」
「そうだな」
 ホークムーンの話をここまで聞いたアーノルドとクリスもまた彼と同じく冷酷なまでに突き放した調子でオズワルドを見つつ述べた。
「今まで散々悪事を働いてきた」
「そしてあの剣も己の浅ましい欲望の為に手に入れようとしているのは間違いないからな」
「では。このまま放っておくのだな」
「手間が省けた」
 クリスの今の言葉はとりわけ冷徹なものであった。
「あの男を倒す手間がな」
「そうだな。若し一戦交えていればだ」
「あんたでも危なかったか」
「神のものだ」
 邪剣のことである。
「それを相手にするとなればな。やはりわしにしろそなた達にしろ」
「さっきの話と同じということだな」
「左様。それがなくて幸いだった」
 それを幸いとまで言うのだった。やはりオズワルドが悪霊達と決死の顔で戦いつつ悶え苦しんでいるのは冷酷な眼差しで見たままである。
「全く以ってな」
「そうだな。それではだ」
「もうすぐに終わるな」
 オズワルドの動きが鈍くなってきた。そしてそれと共にまた攻撃を受けていく。左右からも上からも後ろからも引き裂かれその血を垂れ流していく。そうして。
 片膝をついたところで一斉に襲われた。断末魔の悲鳴と血飛沫、後は何かが引き裂かれ潰され噛み砕かれていく音がした。だがそれは一瞬のことで後に残ったのは鮮血の池とその中央に突き刺さっている黒光りする禍々しい形の巨大な剣だけであった。それだけが残っていた。
「終わったな」
「うむ」
 ホークムーンはアーノルドの言葉に頷いた。
「終わりは呆気ないものだったな」
「そうだな。オズワルドは死んだ」
「そして剣は元の場所に戻った」
 クリスも言ってきた。
「たったそれだけだ」
「だが。やはり邪剣は邪剣だな」
 ホークムーンは達観した声で呟いた。
「見るのだ。あれを」
「むっ!?」
「剣が血を吸っている」
 ホークムーンの言う通りであった。それまで剣を濡らしその周りを染め上げていた鮮血は瞬く間に消えていく。剣がその鮮血を吸い込んでいたのだ。
 そうしてその血を吸うと共に剣は何か得体の知れぬ音を立てていた。まるで獣が生贄の生き血を啜り歓喜の声をあげるようにだ。
「あの男の血をな」
「剣が血を吸うのか」
「おそらく血だけではない」
 ホークムーンは言葉を付け加えてきた。
「その魂もな」
「そうか。魂もか」
「これでまた一つ悪霊があの剣に封じられた」
 ホークムーンはここでもまた醒めた言葉になっていた。
「またしてもな」
「そうか。またか」
「そう、まただ。これでまた一つだ」
「そして元の場所に突き刺さっている」
「これまでと同じく」
「あの剣は人に扱えるものではない」
 ホークムーンノ言葉は確かに冷たいものになっていたがそれ以上に龍らしい深い叡智に満ちたものであった。
 
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