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田園

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7部分:第七章


第七章

「それだと俺達とは」
「敵になるからか」
「そういうことになる」
「そうか。敵か」
 日本が敵と聞いてだった。彼はここで思うのだった。
「日本とは敵か」
「そうさ。とはいっても直接戦争はしないがな」
「遠い国なんだな」
 こうも思ったゴーだった。
「あの国は」
「俺達の頃はやけに怖い人間ばかりだったがな」
「今はどうなんだろうな」
「相当金持ちになってるらしいな」
 同僚は言った。日本が未曾有の繁栄を謳歌していることは彼等も聞いていた。
「軍隊も小さくなってるらしいな」
「そうか。あの人も生きているかな」
「あの人?」
「ああ、こっちの話だ」
 いぶかしむ言葉を出してきた同僚に対する言葉だった。
「こっちのな」
「そうか。ならいい」
 同僚もそれ以上聞こうとしなかった。それで終わりであった。
「それでな」
「悪いな。あの人はどうしているかな」
 彼の言葉を受けてまた考えだしたのであった。
「利樹さん。生きているのかな」
 空を見上げるとベトナム空軍の戦闘機が飛んでいる。この日の空も青く澄んでいた。しかしその中で彼は戦っていた。利樹が生きているかどうかもわからなかった。
 その長い戦いが終わったのは世の中が変わったからだった。気付けば冷戦は終わり世の中が落ち着いてきた。ベトナムも銃を収めそのうえで繁栄を選んだのだ。
 ゴーも家に戻った。長い戦いの日から田に戻った。やがて村に日本の農業技術者達がやって来たのであった。
「日本人!?」
「っていうと昔に来た連中か?」
「だよな。あの連中だよな」
 村人達はその見るからに生真面目で温厚そうな彼等を見て口々に言った。
「昔はあんなにおっかなかったのにな」
「変わったな」
「全くだよ」
 日本軍を知っている年配の者達は口々に言うのだった。田を見回ってあれこれと穏やかに通訳を通して話し掛けて来る彼等を見て。
「もう兵隊さんの国じゃないっていうのは本当だったんだな」
「そうだな」
 そしてこのこともわかったのだった。
「今じゃあれか。お金持ちの国か」
「俺達もそうなっていくんだろうな」
 ベトナムの中でも変わろうとしていた。それまで戦乱に覆われていた彼等も平和を手に入れ繁栄の道を歩もうとしていた。日本との国交樹立もその一環だったのだ。
 技術者達は色々と細かく丁寧に彼等に農業を教えていた。戦争が終わったことにより軍を退いて家族と共に久し振りに村に戻ったゴーも彼等に会ったのだ。
「日本人がこの村にも来たのか」
「おお、ゴーさん」
「戻って来たんだな」
 懐かしい顔触れが彼を出迎えて言うのだった。
「あんたがいない間にな」
「色々あったよ」
「まあそうだろうな」
 ゴーはこの話をあるがまま受け止めた。
「俺だってそうだったしな」
「そうだろ。それで今度は日本人が来たんだよ」
「兵隊さんじゃない日本人がな」
「どうだい?それで」
 ゴーはその懐かしい彼等に対して問うた。
「その日本人は」
「いや、これが殴らないんだよ」
「しかも厳しくないんだよ」
 まずは日本軍が最も恐れられたこのことが話された。
 
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