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戦国御伽草子

作者:50まい
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参ノ巻
死んでたまるかぁ!
  7

 あっ。しまった、見つかった…。



 がさごそ言う音と共に、ぺかりと薄暗闇に光が射して、あたしは惟伎高(いきたか)の嗅覚の鋭さを呪った。



「おい、なんでこんなところにいるんだァよ」



 竹で編まれた葛籠(つづら)の蓋を持ち上げた惟伎高は呆れたように言った。



 あたしは(うつぶ)せで四肢を抱え、ぴったりと葛籠に嵌まったまま、微動だにせず、口をきゅうっと引き結ぶ。



 あたしは岩、岩、岩…。岩なのよ。喋らないし動かないただの岩・・・。



「ピィ?」



 惟伎高の声にも無視を決め込む。



「おーい、ピィ?」



 惟伎高は訝しげにあれやこれやとあたしに声をかけていたが、いきなりすんと黙り込んだ。



「・・・?」



 それがあんまりにも音がしないので、あたしはもしや惟伎高がその場から立ち去ったんじゃないかとぱちりと薄目を開ける。



 すると、それと同時に、変わらずそこにいたらしい惟伎高が、やたら楽しそうなお声で言った。



「知っているかピィ?その昔、天岩戸(あまのいわと)に立て籠もる天照大御神(アマテラスオオミカミ)をどうやって誘い出したか」



「ギャーン!知っております」



 あたしは思わず葛籠から飛び出した!



 飛び出た勢いで畳に這いつくばり、あたしが悔しさで唇を噛みしめながら惟伎高を見上げれば、奴は足下に落としていた袈裟を拾い上げるところだった。



 そのままあたしを見て、不適ににやりと笑う。



「やあやあ天照の姉君様。その美しい(かんばせ)を再び見ること叶い、この不肖の素戔嗚尊(スサノヲ)大変嬉しく思っております。私の美麗な舞いをお目にかけること適わずそれは大変残念ですが・・・」



「いらん!あああ、あんた、なんで袈裟脱いでたのよ、まさか、あたしが出てこなかったら、本当に・・・」



「ふン、古典もあながち馬鹿にしたもンじゃねェってことだなァ」



「神話を実際に試そうなんて考えるアホはあんたくらいよ、この生臭坊主!」



 あたしは悔し紛れにぺいっと被ってた尼頭巾を投げつけた。それは惟伎高に掠りもせず、はらりと足下に落ちる。



 むかぁしむかしのお話。天照大御神というエラい神様が、弟の悪戯に辟易(へきえき)して、岩の中に立て籠もってしまったことがある。



 太陽の神様がそうして隠れてしまったから、世界は闇に包まれた。沢山の悪いことが起こって、八百万(やおよろず)の神はどうにかして天照大御神を引っ張り出そうとあの手この手の策を考える。固く閉じられた岩戸の前で、天宇受売命(アマノウズメノミコト)が服を脱ぎ踊ると周りの神様が大爆笑。外から聞こえるその笑い声が気になって天照大御神がちらりと岩戸を開けた途端に引っ張り出されて、世界には光が戻りました、めでたしめでたし・・・って話なんだけど。



 このアホは、つまり、あたしがこのまま立て籠もるようなら、横で裸踊りするぞ、いいんだな?…って言って脅したのよ!



 あたしはまだ、花も恥じらう乙女なんですからね!?別に見たところで、見たところでどーってこともないけど!ないけどさ!惟伎高の裸なんて、そんなバッチイもの、見なくて済むに越したことはない!



「今失礼なこと考えてるだァろ」



「失礼なのはあんたよ、バカッ!僧形が易々脱ごうとすんじゃない!」



 あたしは惟伎高の足をげしっと蹴った。



「こら。お行儀が悪ィぞ」



 特に堪えた様子もなく惟伎高が言う。



「あんたに言われたくないっ!」



 あたしは吠えた。それからはっとして口を噤む。遅まきながら、同じ屋根の下に高彬(たかあきら)がいたことを思い出したのだった。



 そんなあたしを惟伎高がじっと見る。やましいことは何もしていないはずなのに、なぜかあたしの首筋に汗が滲む。



「ところで、ピィ」



「な、なにかしら?」



「客人に見初められたぞ、おまえ」



「みそッ!?」



 あたしは、ぶぶふぉと噴き出した!遠慮無く吹いて、更に勢い余ってげほがほと咳き込む。



「おゥい、大丈夫かァ」



 惟伎高がノンキに背中をさすってくれるが、あたしはその手をぱしりと払いのけた。



「あ、あんた、あんたが、変なこと言うからでしょ!?」



「ヘンなこと、かァ?武家が尼を見初めるなんて、なくもない話だと思うがァな。しかもおまえは本当の尼じゃねェから還俗(げんぞく)とかの面倒な手続きもナシだ。良かったじゃねェか、引き取り手が見つかって」



 こっ、こいつは何を・・・あたしが盗み聞きしてた話だと、高彬が尼姿のあたしに一目で恋してしまって、どうしても連れて帰りたい・・・なんて展開じゃあ全然、これっぽっちも、なかったと思いますけど!?



「佐々家が不満か?それとも高彬か?佐々家は主家の覚えも良いし、高彬はそれに増して立派な人間だ。ゆくゆくは佐々の全てを任される男だぞ。こんな機会、二度と無いと思うが」



「そっ、そういう問題じゃないでしょ!家柄が良いとか悪いとか、そんなのあたしは全然興味ないわよ!それが誰だって、自分の連れ添う相手ぐらい、自分自身で決める!あんたにも、高彬にも、他のどんな人間にだって、指図される謂われはないわ!」



「おまえ・・・」



 惟伎高はふいに真剣な顔つきになってあたしを見た。膝をつき、あたしの目の高さに屈んで、じっとあたしの瞳の奥を見る。



「・・・いいのか、帰らなくて」



 そしてあたしに聞こえるか聞こえないかの小さな声で、ぼそりと言った。



 あたしはその言葉に激しく胸を穿(うが)たれた気がした。



 やっぱり、惟伎高は、なんでもお見通しなのだ・・・。



 あたしは動揺に震えそうな体を奥歯を噛みしめて押さえつけると、その強い視線から逃げるようについと顔を逸らせた。



「・・・いい」



 蚊の泣くような声。でもきっと惟伎高には聞こえただろう。惟伎高だけには。



「帰さないで・・・」



 そう、言ってあたしは顔を戻した。強く惟伎高の瞳を見返す。帰らない。帰れないのだ、あたしは。それが、皆の為なのだ・・・。まるで、そう伝えようとでもするように。



 惟伎高は驚いた顔をしていた。しかも結構本気で驚いている顔だ。あたしが帰らないことがそんなに驚くこと?いや、違う、あたし今・・・なんて言った?



 我に返る前に、今度は惟伎高が顔を逸らした。



「・・・だあッ!」



「イタっ!なにすんのよ!」



 そして何故かあたしの頭頂部に手刀を叩き込んだ。あたしは叩かれたところを押さえて、半分涙目で惟伎高を見上げる。



「ピィ!そこに(なお)れ!」



「え?もう座ってるけど・・・」



「正座しろ!正座だ、ほら!」



「ええ~・・・?なんなのぉ?したわよ?」



「よーし、いいか!おまえにはいくつか言っておきたいことがある!」



 目の前の惟伎高も正座して腕を組み、なんだかいきなりお説教されるような雰囲気だ・・・。



 あたしは疑問符を飛ばしながらも、とりあえず言われたとおりにしてあげた。



「まず確認だが、おまえは俺に惚れてないな?」



「は?嫌な冗談よしてよ。全然、マッタク、これっぽちも、惚れてないわよ」



「・・・ああ、まぁそうだろうとも。だがそこが問題だ、この悪女!」



「は、はあぁ?」



「そもそも、だ。惚れてもいない男と手を繋いだり、体に触れたり、押し倒したり、ましてや肌に唇を押しつけるなんて狼藉(ろうぜき)言語道断だ!本当に、俺じゃなかったらどうなってると思う!俺の言ってること、わかるか!」



「はぁ!?なにそれ、別にあたしだってしたくてしてるわけじゃ・・・それにあんただってあたしの服脱がせたり、抱きついたりベタベタしてんじゃないのよ!それはどうなのよ、それは!」



「俺はわかってやってるからいいんだ。だがピィ、おまえはわかってない。なんっにもわかってない!」



「はぁ!?わけわかんない!あたしが、何をわかってないって言うのよ!」



「俺が男だって事だ」



 いきなり、惟伎高の声が低くなった。あたしはその急激な変化に息を呑み、思わずじり・・・と正座させたままの足を半歩下げた。それを追うように惟伎高の体が前に出る。



「そして、おまえは女だ」



「は・・・」



 きっちり正座して向かい合っていたはずの二人の膝は崩れ、惟伎高の大きな腕であたしの体はあっという間に囲われる。あたしの両横に着かれた手。当然、そのぶん互いの体も近づく。



 な、な、な・・・。



 逃げようと腰を引き、俯くあたしの髪がさらりと深く降りる。それはまるで今のあたしの気持ちのように、惟伎高とあたしを強く隔てようとする。けれど惟伎高は、逃げるあたしを決して許しはしなかった。薄絹のようなそれを強引に割り入って、惟伎高の顔が近づく。いやもう、近づくなんてものじゃない。あたしはいつの間にか必死で目を瞑っているけれど、惟伎高の息が肌に触れているのがわかる。わかりたくなくても、わかる。それほどの距離。



「帰さないで、なんて言うな・・・」



 あまく、優しくくちびるがあたしの睫を揺らす。あたしは息さえ出来ず震えた。



 そのまま腰が浚われ、肩を押され、気がつけばあたしは押し倒されて惟伎高を見上げていた。惟伎高の顔は、怖いくらいの無表情だった。ただ瞳だけが燃えるように揺らいでいる。



 ち、ちょ、ちょ、ちょっと待って・・・。え、う、うそ、うそ、嘘でしょ・・・?



 あたしは状況についていけず、みっともないぐらい動揺していた。



瑠螺蔚(るらい)・・・」



 惟伎高の顔が降りてくる。あたしは髪も腕も畳に押さえつけられて逃げられない。もう、だめー・・・と思った時だった。がちん!と惟伎高のおでことあたしのおでこがぶつかった!それは、本当に目から火花が散るぐらいの痛さだった。



「いっ・・・!」



「わかったァか、こォの、アホ娘!」



 惟伎高はおでこを合わせたまま、ぐりぐりと容赦なくぶつけた場所を攻撃してくる。



「いた、いた、いたいー!」



「おまえはどうも、どうもだ、男を甘く見てるフシがァある。どンだけ温室育ちなのかは知らねェが、男を甘く見るなよ。本気になったら、力じゃ絶対に敵わねぇんだからな、いざそうなってからじゃ遅いんだァぞ」



 あたしは嫌がって体をよじったけど、惟伎高が離れてくれる様子は全く無い。



「痛いってばぁ!」



「現に今、おまえは俺の下から逃げられもしない」



 痛み故に話の内容は全くと言って良いほど頭に入ってこなかったが、言外に女がバカにされているということは理解できた。



 それはあたしの負けず嫌いの心を燃え上がらせる。



 なめるな!



「どきなさい、よッ!」



「ぐ!?」



 あたしは突如バネのように足を思いっきり振り上げた!完全に手中内だと思っていたあたしがいきなり予想外の抵抗をしたものだからか、それは見事なまでに的中(クリーンヒット)した。



 あらぬところを蹴ってしまったようで、さしもの惟伎高も一瞬動きが止まる。あたしがそのスキを逃すわけも無く、重ねて惟伎高の胸を強く足蹴にする。裾は乱れたが、やっと惟伎高の下になった状態からは抜け出せた。



「なにすんのよ、アホッ!」



「・・・」



 しかし返る言葉は無かった。



 あたしは裾を整えながら起き上がる。惟伎高はあたしに蹴り飛ばされたままの、尻餅をついたような格好で深く俯き、全く微動だにしない。



「あーあー髪も服もぐちゃぐちゃよ!どうしてくれんのよ・・・惟伎高?」



 ふと反応がないのが気になって、あたしは一瞬躊躇ってから、おそるおそる惟伎高の傍ににじり寄った。あたしそんなに強く蹴ったかしら?いや加減なんて頭に無かったから、結構な力で蹴ったかも知れないけどさ。まさか死・・・んだりはしないでしょうけど、人体の急所と言われるところのひとつだし、この豪傑な惟伎高が声を失うぐらい痛いのかも知れない。



 でもなんか、痛がっている感じとは違うような・・・。



 静かに沈黙するだけの惟伎高に、底知れない不気味さが漂う。これならまだ、痛がってのたうち回ってくれた方がわかりやすくて良い。



 まさか、この姿のまま失神してるんじゃ・・・。



「惟伎高?」



 そこまで痛いのなら、流石に悪い事したな・・・と思いながら、あたしは俯く惟伎高にゆっくり手を伸ばした。その手を、素早く捕らわれる。



「えっ!?」



 あたしは驚き、思わずその腕を見た。惟伎高の手が、あたしの手首を掴んでいる。すぐさまそこに、握りつぶそうとしてるんじゃないかと疑うほどの、激しい力が篭もる。



「いっ・・・!」



 あたしは思わず呼吸を詰めた。苛烈な痛みに顔を顰めたあたしの目の前で、惟伎高がほんの少しだけ顔を上げた。前髪の間から瞳が覗く。静かな瞳。その内で猛り狂う炎がうねり燃えているのが見えた。



 それはまるで、沸き立つ血を押さえられない、肉食獣のような目。そこに冗談なんてものは一欠片すらも入っていない。



 あたしは蛇に睨まれた蛙のように、一瞬で全身が総毛立った。雷のような寒気が背筋を走る!それは、腕の痛みを忘れるほど。どうしよう、と言う言葉がぐるぐると頭を回る。こんな惟伎高、見たことない・・・。



 喰われる-・・・。



 惟伎高の瞳に、驚きを隠せないあたしが映る。獲物を狙うような、惟伎高の瞳が細められる。その中のあたしの顔に、はっきりと怯えの色が滲んで、見えなくなる。



 惟伎高は眉根を寄せながら、何かを堪えるように目を閉じていた。そうして、ゆっくりと、あたしの手首を掴む惟伎高の腕から、力が抜けてゆく・・・。



「・・・わかったァか」



 惟伎高が言った。力の籠もらない声だった。目を開けた惟伎高は、もういつもの惟伎高の顔に戻っていた。



「・・・わかった」



 あたしは先程の動悸が収まらないまま、言葉少なにそう言った。



 普段のらりくらりとしている惟伎高も武人(いくさびと)だということを、厭というほど理解した。



「すまねェな。やりすぎた」



 惟伎高はあたしと目が合うと、ふっと自分を嘲るように笑う。そして、あたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。



「もっと警戒しろと、そう言いたかっただけの筈なんだァが・・・」



「・・・痛かった?ケリ・・・」



「おお、痛かったァぞ?でも下手に抵抗するのは逆効果だと言うのもわかっとけ。特に・・・ピィ、相手が手加減しておまえと接してる場合は、な」



 惟伎高はほんの一瞬戯けてからあたしの腕を掴んで持ち上げた。そこにはくっきりと、赤く手形が残っていた。これは時を置かず、青紫に変色して数日は治らないだろうと誰の目から見てもわかるものだ。惟伎高はそれを見て、苦虫を噛み潰したような顔をした。やり過ぎたというのは、嘘ではないのだろう。



 でもそれを言えば、あたしもやり過ぎた・・・の、かな。思わず、惟伎高の堰を壊すほどに。



「・・・肝に銘じる」



 いつになく従順なあたしに、惟伎高は頷く。



「・・・痛ェ、よな、すまねェ・・・」



 それからすっくと立ち上がった。



「何か冷やせるものを持ってくる」



「うん。お願い」



 あたしは素直にそう言った。惟伎高が立ち去って高揚した気分が戻れば、残るのは腕の痛みのみ、だ。



「っ痛ぅー・・・あいつどんな馬鹿力してんのよ」



 ジンジンと痛みを訴える腕を押さえて余程自分で冷やしに行った方が早いと思ったけれど、あたしはもう気軽にこの寺を歩き回ることができない。高彬がいるうちは。



 ・・・高彬。



 ふと、あたしは高彬がいるであろう客室の方に顔を向けた。



 高彬だって、いつまでも石山寺に逗留しているわけもない。明日明後日にはきっと発つ。そしてあたしも、いくら居心地が良いとは言え、惟伎高と高彬が交流があるとわかってしまった以上、長くここにはいられない。



 そうすれば、もう、二度と会うこともないのだろう。



 あたしは事あるごとに、高彬を兄上と比べては散々貶してたけど、高彬はいい男だ。婿に欲しがる家なんて沢山在るし、もしかして、もう婚姻の話もひとつやふたつ進んでいるかも知れない。



 あたしみたいに、こんなに乱暴じゃ無くて、もっと美人で、心根の優しい人が・・・。



 そこまで考えたあたしは、ふと異音がするのに気がついた。乱れた足音が、客間の方角からこっちに、一直線に向かって、くる!?



 惟伎高じゃない!



 あたしは咄嗟に思った。惟伎高じゃないとしたら、誰!?こんなに慌てて、部屋ばかりで他は何も無いようなこっちに迷わず向かって来る人は!



 まさか・・・高彬!?



 足音はどんどん迫ってくる。



 逃げる間もなくスパァンと大きな音を立てて障子が開いた。あたしは腰を浮かせたままの姿勢で固まった。冷や汗が滝のように滲む。



「尼君様っ!」



 しかし飛び込んできたのはなんと抹だった!



「えっ抹!?」



「ああ尼君様っ!今そこで庵儒様にお会いしまして尼君様はここにいると・・・ご存じでしたら教えて頂きたいのですが、あッ!庵儒様にお伺いすれば良かったんですねでも急いでいるご様子でしたしこんなことで長くお引き留めするのも気が咎めてしまいまして尼君様にお伺いしようかと思いまして、先程ご存じのご様子でしたし・・・あでもご存じで無ければそれはそれでまた庵儒様にお伺いするので大丈夫なのですがあっ尼君様!?そのお手はどうなされました!?」



「落ち着けー!」



 怒涛の勢いで捲し立てる抹に向かってあたしは叫んだ。



 なんだかよくわかんないけど抹の気分(テンション)が見たこともないくらい高い!



「とりあえず落ち着きなさい!手は大丈夫!今庵儒が冷えた井戸水汲みに行ってくれてるから。そんで、なんだって?あたしに聞きたいことがあるの?それでそんな急いできたの?」



「は、はい。あの・・・」



 抹は口籠もって赤くなる。なんだ。抹がここまで急いであたしに聞きたいこととはなんなんだ。腕は痛いし高彬は同じ屋根の下にいるしこっちはこっちでいっぱいいっぱいなんだけど、抹の質問に答える余裕ぐらいある。あたしは優しく言う。



「なぁに?分かる範囲でなら、答えるわよ」



「あの、あの、今いらしている庵儒様の弟君様・・・御名は何と仰るのでしょう・・・」



「はィ!?」



 あたしは言葉を失って、思わずまじまじと抹を見る。益々赤くなる抹。



 名、名前が知りたいって・・・。まさか、抹・・・。



 呆然と抹を見るあたしの頭に、ふと、さっきまで考えていたことが過ぎる。



 高彬には、あたしよりも、もっと、美人で、おしとやかで、優しい人が似合う・・・。



 そう、まるで、抹のような人が。 
 

 
後書き
お待たせしました!

戦国御伽草子参ノ巻死んでたまるかぁ!(それにしてもすごい題です)7です。
今回もいつも通り姫といき兄がいちゃっとしてますね。毎回言ってるようですが、こんなはずじゃ、なかったんですけれど…。
しかし次回からは話が移り、抹ちゃんのお話になる予定です。いき兄の出番も減ってくれるはず…!
抹が高彬に恋!?の巻きです。
ほんとうはこの「死んでたまるかぁ!」で参ノ巻は終わりの予定だったのですが、いき兄が出張ってくれたおかけでお話が延びに延びまして…書く話はまだまだ残っていますし、このまま書くと十を越える数になりそうなので、次から分けるかもです。多分「抹の恋?」という章にすると思います。

参ノ巻が終わるとなればそう幕間です。一体全体どうしますかね。
白雪姫を戦伽の登場人物でやったらというものを一度書いたことがあるのですが(しかも絵で)、それか、あとは誰かさんとお話ししている俺姫と言うものですかね…。
白雪姫は完全なるアミダで登場人物を決めたので、白雪姫は鷹男(!?)で、姫は木こりです。高彬はアミダから外れました。あわれ…。
俺姫と言うのは某所で話しているもし姫が男だったらかっこよすぎるというもしもの話。
俺姫は壁ドンじゃなくてもはや足ドンでもいいむしろ抜き身で刀ドンしてそう!だがそれがいい。
わたしはそれを絵に起こす画力がないので、絵がかける方に猛烈ラブコールを送っております。許可が出れば幕間でご披露したいです(チラッ) 
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