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遊戯王GX 〜プロデュエリストの歩き方〜

作者:ざびー
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エピソード29 〜万丈目去る〜

side万丈目

「今にみてろよ……。」

月一試験と昇格試験で負かしてくれた遊城 十代と三沢 大地。そして、あの女……じゃなくて、入学式の時にワンキルをかましてくれた叢雲 紫苑。

俺に苦汁を飲ませてくれた奴らの顔が走馬灯のように記憶が巡る。

「絶対にリベンジしてやるからな……。」

自分に言い聞かせるように呟き、いざ船に乗って出発しようとすると背後から声をかけられる。

「や〜、いたいた。なんとか間に合ったみたいだね。」

振り返るとブルー女子の制服を身に纏った女性が立っていた。
まさか、明日香さんが……!と思ったがどうやら違うらしい。
その女性は透き通るような銀糸を腰まで伸ばし、やんわりと微笑み立っていた。

……どこかで見た気が

「っ!?まさか、叢雲 紫苑!?」

「いや、その間違えはひどいと思うよ!?」

俺の発言に即座にツッコミが入れられる。どうやら不正解らしい。

なんだ違うのか……。だが、あいつによくに似ているな。髪の毛とか、目の色とか……。しかし、まぁ、違うか。身長とか、性別とか。あいつは男のコ……。

「初めてましてかな?私は紫苑の姉、叢雲 翠。君が万丈目 準君であってるよね?」

「?そうですが、何のようですか。用があるのなら、手短にお願いします。」

ちらりと停泊させているボートに目配せしつつ、早く出発させろアピールをする。

「まぁ、特にこれと言った用はないけど……。なんてゆうか、遊城くんや天上院さん達やうちの弟が君を探しに行ったから私も便乗しようかな〜って思ってんだけど。」

「っ!?明日香さんが!けど、なんで……。」

明日香さんが俺の事を探していると聞いて少し色めきつくがすぐに煩悩を振りはらう。

だが、なぜ俺を探すんだ?明日香さんはともかく、十代たちにはひどい仕打ちをしたと思っている。

「さぁねぇ。どうやら、君が崖から身投げでもしないか心配だったのかもね。なかなか慕われてるんだね。」

翠さんは『慕われている』と言ったがそれは違う。俺についていた取り巻きだって、俺が学年でトップだったから、強いから従っていただけだ。その証拠に俺が落ちこぼれのレッドの遊城 十代に負けたら、見事に手のひらを返し、嘲笑いやがった。そして、俺は地位も名誉も全て失った!

「だから俺は強くなって俺をバカにした奴らを見返してやる!絶対に!」

「……そうなんだ。」

感情を抑えられず、途中から声に出してしまっていたらしい。だが、この人は憐れむような視線を送るでもなく、同情するわけでもなくただ静かに俺の口から出た感情を聞いていた。その表情をあえていうなら、弟を見守る姉と言ったところか……。

思い出したかのように湧き上がる怒りの感情を抑えようとし、俯き、両の拳を強く握っていると頭に腕が回され、抱きしめられる。それと同時にふんわりとした甘く心地よい香りが漂う。

「っ!?な、何を……」

反射的に逃れそうとするが抱きしめる力が強くなる。そして、翠さんはどこか遠くを見ながら呟く。

「……失うって辛いよね。私たちもそうだったから……。」

私たち……って?この人に何があったんだ。などと思っていると腕から解放され、今度は肩を掴まれ、目線を合わせられる。翠さんを至近距離で見てしまい、思わずドキッとする。明日香さんとはまた違う……これが大人の色気と言うやつかなどと不謹慎にも思ってしまう。

「一度、どん底を味わった人が再び這い上がった時、その時人は何倍にも成長できる。けど、その道は険しい。もし、君が再び這い上がろうという気持ちが確かなら私は応援するよ?」

「っ!当たり前だ!俺は……絶対に今よりも強くなってあいつらを見返してやるんだ!」

決意表明とも取れるその言葉を聞くと翠さんはデッキからカードを一枚抜き取り、こちらに投げ渡す。

「『下剋上の首飾り』?なぜ?」

「応援するって言っても今は何もしてあげられないからね。それは君の旅路のお守り代わりかな?それに下剋上、どん底から這い上がり、力をつけ、リベンジする。今の君にぴったりだと思うよ。」

本来の意味は下の者が上の者に打ち勝ち、地位を手にする事。
落ちこぼれのレッドに負けた俺はソレ以下ということか。面白い、下剋上でも革命でもやってやる。

「それに……私の弟は強いよ。」

意気込む俺を見た翠さんは一言だけ言う。

「えぇ。だが、這い上がった暁には、あいつもぶっ倒す。」

そう言うと翠さんはやってみろと小さく笑う。

「さて、俺はもう行きます。そして、絶対に強くなってみせる!」

「頑張ってね。」

ただ一言応援の言葉を受け、船へと乗り込み島を出る。

今にみてろよ、お前ら。俺は今の何倍も強くなって戻ってきてやる!そして、俺様につけてくれた黒星を返上してやる!



◆◇◆
side翠

「行っちゃったか……。」

遥か遠くで船首で水平線に向かって高笑いする万丈目を見ながら、ポツリと呟く。少し寂しさ半分、ちょうどデッキが面白い半分で作ったバニラ天使でよかったと思っていた。じゃなきゃ、『下剋上の首飾り』なんて使わないし……。

『翠〜。あんたが紫苑以外にあそこまで入れ込むなんて珍しいね〜。』

「そうかな?まぁ、けど、あの子が昔の紫苑に重なったからかな〜。」

私よりも一年遅くプロデュエリストとなり、ガムシャラに頑張っていた頃の弟の姿が思い出される。

『まぁ、けど、なかなか見込みのありそうな子だね。それに精霊と交信する素質があるね。』

「へー、そうなんだ。」

アテナからの初な情報に思わず声を漏らす。てか、素質とかわかるものなのか。

『まぁ、オーラとか波動の強さとかみればだいたいね。なんかのキッカケさえ、あれば、万丈目だっけ?あの子も私とか紫苑についてるエアトスその他精霊とかみれるようになるかもねー。』

なるほど。キッカケ……ねぇ。そーいえば、私がアテナの事をみれるようになったのはいつ頃からなんだろうか。まぁ、アテナの言うキッカケがどういうものかはわからないが、一つだけ思い当たる節が。

『そーいえば、翠。授業どうするの?』

「ん?サボる……つもり。げっ、先生だ」

ふとアカデミアの方をみれば、こちらに向かって走ってくるシャツにネクタイ姿の男性が。どう見ても、教師だ。まさか、堂々とサボッたせいで連れ戻しに来た!?

「にゃ〜、一足遅かったにゃ。万丈目君は行ってしまったか。」

男性は埠頭までダッシュで駆けてき、体力が尽きたのか膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。
独特な語尾、そして、物腰の柔らかそうな態度からオシリス・レッドの寮長である大徳寺先生だと思われる。

「おや、あなたは三年生の叢雲 翠さんでしたにゃ?あなたも万丈目くんが心配に?」

「ま、まぁ、そんなところです。」

こちらを視認すると額の汗を拭いながら、問いかけてくる。どうやら、サボった事を咎めるつもりはないらしい。ここは先生の気が変わる前にお暇させて頂こうか。

「おっと、翠さん?今年で卒業だからってサボりはイケナイんだにゃ〜。」

「うぐっ……。そ、そんなわけ……ないじゃないですか〜。」

あはは〜と笑ってみるがいささか無茶があるか。

『まぁ〜、自業自得よ。』

くっ、他人事だからって……アテネェ

「ところで、翠さん。あなたは万丈目くんの事をどう思いますか?」

「えっ?どう思うって?」

てっきり怒られるものだと思っていたので間の抜けた返事をしてしまう。

「そうですね。例えば、彼が戻ってくるかどうかとか、戻ってきた時の彼の変化……とかですかにゃ?」

「私にはよくわからないですけど……。彼は絶対に戻ってくると固い決意を示してくれました。それにどん底を経験し、そこから這い上がろうとする者は必ず強くなります。
きっと、彼が戻って来た時はもしかして亮くんを倒すほど強くなってるんじゃないですかね?」

冗談交じりにこの学園最強と言われているカイザー亮の名前を出してみたら、それはそれで面白いかもにゃと笑って返された。

「翠さん、なかなかいい話が聞けたのにゃ。じゃあ私は万丈目君の事を今も探してる十代くんたちに伝えてきますにゃ。」

「あ、そうだった。私も行きます!」

すっかり失念していたが本来は私がさっさと見つけて終了のつもりだったのだ。紫苑たちに伝えなきゃ、ミッションクリアじゃない……はず。

「ていうことで、ついて行きますよ?」

「はぁ〜、教師的には素直に授業に戻って欲しいんですが……。まぁ、弟の紫苑君もいるようですしね、仕方ないにゃ。」

「はーい!」

ため息混じりの大徳寺先生の言葉に元気よく返すと紫苑たちが向かった森の方へと駆けていく。


◆◇◆


万丈目を探していたはずなのだが……。な、ぜ、か、森ではサルもといSALと十代のデュエルが行われている。
途中経過はこうなっている。

十代
LP4000
手札一枚
魔法・罠伏せ一枚

『E・HERO フレイムウィングマン』
『フレンドッグ』

SAL
LP300
手札五枚
魔法・罠
『エンペラー・オーダー』
『補給部隊』

『森の狩人 イエローバブーン』

SALのライフは十代の攻撃によって1000以下まで減らされているが、手札がデュエルの開始時と変わらない5枚。そして、手札に『カゲトカゲ』と『ナチュル・コスモビート』が、場に『エンペラー・オーダー』が存在することから、モンスターを召喚するたびにドローすることができる。それによってSALのハンドアドは十代よりさらに大きく上回る事になる。この勝負まだどちらが勝つかわからない。

「ワタシのターン、ドロー!手札から『怒れる類人猿』を通常召喚!さらに手札の『カゲトカゲ』の効果を発動!『カゲトカゲ』の効果にチェーンして、『エンペラー・オーダー』の効果発動!」

「うわっ、またあのドローコンボっす!?」

翔の驚きの声も気にせずにSALがさらにチェーンを重ねる。

「手札から速攻魔法『サモンチェーン』を発動する!このカードはチェーン3以降に発動でき、このターンの三回までモンスターを召喚できる。チェーン処理に入る。『サモンチェーン』の効果で三回まで召喚権が増え、そして『エンペラー・オーダー』の効果で『カゲトカゲ』の効果は無効となり、一枚ドローする!」

「や、やばくないかコレ!?」

さすがの十代も焦りを感じ、汗を浮かべている。

『強欲なゴリラ改め、ゴリラの宝札ですか……。』

なんだそれ……。

けど、上手いな。カゲトカゲとのコンボで召喚するたびにドローできるから、手札にモンスターさえこれば最低でも三枚ドローできる。

「二度目の召喚権を行使し、『ファイターズ・エイプ』を召喚!さらに『カゲトカゲ』の効果発動し、チェーンして『エンペラー・オーダー』の効果発動!『カゲトカゲ』の効果を無効にし、ドロー!さらに手札から『スクラップ・コング』を召喚し、自壊効果が発動。チェーンして、『エンペラー・オーダー』!さらに『カゲトカゲ』の効果発動!さらに『エンペラー・オーダー』の効果を発動!『カゲトカゲ』と『スクラップ・コング』の効果を無効にし、二枚ドロー!」

『ファイターズ・エイプ』
☆4 ATK1900
『スクラップ・コング』
☆4 ATK2000

瞬く間のうちにモンスターが計四体並び、手札が6枚になる。翔たちは「何が起こったんすか!?」と驚愕している。

「フィールド魔法『森』発動!このフィールドでは獣・昆虫・植物・戦士族モンスターの攻撃力と守備力をそれぞれ200ポイントアップさせる!」

周りを巨大な木々に囲まれ、自分たちのホームグラウンドになったゴリラたちは威勢良くドラミングを行う。

また古風なカードを……。『森』より『クローザー・フォレスト』とかの方がいいような。

『森の狩人 イエローバブーン』
ATK2600→2800
『怒れる類人猿』
ATK2000→2200
『スクラップ・コング』
ATK2000→2200
『ファイターズ・エイプ』
ATK1900→2100

「バトル!『森の狩人 イエローバブーン』でフレイムウィングマンを攻撃!」

「やべっ!

イエローバブーンは大弓を引き絞り、弓を発射。フレイムウィングマンを射貫く。

十代:LP4000→3300

「『ファイターズ・エイプ』で『フレンドック』を攻撃!ウッキィー!」

ゴリラと見間違うほどのゴッツイ猿に飛びかかられ、バラされる。

「『ファイターズ・エイプ』はモンスターを戦闘破壊した時、攻撃力を300ポイントアップさせる。」
「くっ、だけど破壊された『フレンドック』の効果発動!墓地の『融合』とスパークマンを手札に加えるぜ。さらにリバースカードオープン『ヒーロー・シグナル』!デッキから『E・HERO クレイマン』を守備表示で特殊召喚だ!」

粘土でできたHEROが十代の前へと現れ、腕を硬く交差させ、守りを固める。

「まだ攻撃は残ってるっキー!『スクラップ・コング』でクレイマンを、『怒れる類人猿』でダイレクトアタックする!」

「っ!?うわぁぁぁぁ!」

十代:LP3300→1100

スクラップ・コングはいとも簡単にクレイマンの体を砕き、怒れる類人猿のラリアットが十代に炸裂し、後方に大きく吹き飛ばす。

「だ、大丈夫!十代!?」

「イテテ、ヘーキヘーキ。やっぱ強ぇな、SAL!」

手をひらひらと振って無事なのをアピールすると反動をつけて立ち上がる。

「ふん、強いのは当たり前じゃ。何せワシが直に手をつけてやったのだからな。」

『な〜にが、「ワシが直に手をつけた」だ!元のデータは他人のでしょうが!ちょ〜と、あのじじいシバいてやりましょうかね?えぇ?』

隣でお怒りのエアトスが何か起こさないかと不安に思いつつ、人間と猿のデュエルに目を向ける。SALのライフは風前の灯火と言っても過言ではないが、その代わりにドローコンボによって尽きる事のない手札がある。
一方の十代はライフはSALよりも上回っているがモンスターは一掃され、残されたのは1ターン目から伏せられている伏せカード。攻撃時にも反応しない事から、聖なるバリアーミラーフォースといった類のカードではない事がわかる。

「ワタシはカードを二枚伏せてターンエンド!」

フィールド『森』

SAL
手札4枚
LP300
魔法・罠伏せ二枚
『補給部隊』
『エンペラー・オーダー』

『森の狩人 イエローバブーン』
『スクラップ・コング』
『ファイターズ・エイプ』
『怒れる類人猿』


SALは筋肉隆々の獣族モンスターを大量に召喚し、圧倒的なボードアドバンテージを十代に見せつけるとドヤ顔を決める。

「や、やばくないすか!兄貴!?」
「だ、大丈夫よ……きっと十代なら逆転してくれるはずだわ!」

心配そうに十代を見守る翔達。それを見て意外だとエアトスが呟いいる。

『へー、なんか意外ですねあの十代っていう子。てっきり阿保の子かと思っていたら案外信頼されてるんですねぇ?』

デュエル以外はからっきしダメだぞ。あいつ……。それに毎回会う度に面倒事を持って来てくれるしな……。

『ただ単に紫苑さんが巻き込まれ体質なだけじゃないですかね……?』

あははと苦笑いをして返される。巻き込まれ体質ってなんだよ!平穏に過ごさせろよ。
そんな事を思っていると十代がデッキからカードをドローする。

「いくぜ、俺のターンだ、ドロー!魔法カード発動、『大嵐』!これでドローコンボも粉砕だ!さらにリバースカードオープン、『融合準備』発動!俺はエクストラデッキの『E・HERO ワイルドジャギーマン』を見せて、デッキから『E・HERO エッジマン』を手札に加えるぜ。」

十代はSALのドローコンボの中枢となる『エンペラー・オーダー』を破壊しようとする。だが、負けじと伏せていたカードを発動させる。

「リバースカードオープン、『非常食』!!ワタシはセットカードと『補給部隊』、『エンペラー・オーダー』、そして、『森』を墓地へと送り、ライフを4000ポイント回復する。」

SAL:300→4300

SALもただでは転ばず、ドローコンボを封じられる損失をライフを回復することによって取り戻す。『エンペラー・オーダー』を破壊される時のリカバリーもちゃんとできており、博士の言うプロレベルというのも頷ける。

「げっ、このターンで決めれると思ったのによ〜。」

ライフを振り出し状態に戻され、十代はげんなりとする。翔たちもあとちょっとだったのに……。とため息を漏らしている。
まぁ、あとちょっとのところまで追い詰めたのに振り出しとか誰でもそうなるわな。

「ま、けどその分デュエルを楽しむ時間が増えるからいいけどな!俺は魔法カード『融合』発動!手札の『E・HERO ワイルドマン』と『E・HERO エッジマン』で融合!来い、『E・HERO ワイルドジャギーマン』!!」

『E・HERO ワイルドジャギーマン』
☆8 ATK2600

鎧のように膨らんだ筋肉の上に黄金色の胸当てをつけた戦士が十代の場に呼び出される。

「ワイルドジャギーマンは全てのモンスターに一度ずつ攻撃する事ができるっす!これで、あのゴリラたちを一掃だ!やっちまえ、兄貴〜!」

翔の声援にサムズアップで応えると、ワイルドジャギーマンへ命令を下す。

「いけ、ワイルドジャギーマン!モンスターに攻撃だ!インフィニティ・エッジ・スライサー!!」

「ウキッ!?」

SAL:4300→2700

その手にもつ刃で次々とゴリラたちを斬り伏せて行き、SALの場に残ったのはイエローバブーン一体のみとなる

「俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ。」

カードを伏せた事によって十代の手札はフレンドックの効果で手札に加わったスパークマンのみとなってしまう。

伏せたカードも気になるけど、SALが手札に召喚できるモンスターが来たら危ないな……。

十代
手札一枚
LP1100
魔法・罠伏せ一枚

『E・HERO ワイルドジャギーマン』


「ワタシのターン、ドロー!手札から装備魔法『凶暴化の仮面』をイエローバブーンに装備する!」

『森の狩人 イエローバブーン』
ATK2600→3600

顔全体を覆う厳つい仮面を被るとイエローバブーンは大弓を投げ捨て雄叫びを上げ激しくドラミングをし始める。

「ひ、ひへぇ〜!?こ、攻撃力3600ってあのブルーアイズよりも攻撃力が高いじゃないですか!」

「けど、凶暴化の仮面は攻撃力の上昇幅が大きい分、デメリットが大きいわ。十代くんがこのターンを耐えれば……。」

明日香の言う通り、攻撃力が1000ポイント上昇する代わりに守備力が同値下がり、さらに自分のスタンバイフェイズにライフを1000ポイント払わなければ破壊されるデメリットがある。ちなみに上位互換としてデメリットも何もない『デーモンの斧』というカードがあるが、こちらはその汎用性の高さ故に中々手に入り辛い。

「バトル!!イエローバブーンでワイルドジャギーマンを攻撃!狂獣の一撃(バーサーカ・クラッシュ)!」

「うわぁぁぁぁ!?」

理性を失くし、完全に獣と化したイエローバブーンの一撃はワイルドジャギーマンを容易く粉砕し、その余波が十代にも及ぶ。

十七:LP1100→100

SALから強烈な一撃を見舞われた十代のライフは風前の灯火。『火の粉』で、決着がついてしまうほどだ。もっともSALのデッキは純粋にパワーを上げて殴り続けるビートダウンデッキ……もといゴリラデッキはそのようなバーンカードが入っていなさそうなのが幸い。

「……よっと。へへ、今のは効いたぜ。」

反動をつけて起き上がる十代は残りライフ100という圧倒的ピンチな状況にも拘らずむしろ楽しそうにしている。

『なかなか肝っ玉の座った子ですね……。普通、残りライフ100とか諦めか絶望の表情をするでしょうに。』

まぁ、十代はどんな状況でもデュエルを楽しもうとする奴だからな……。もっとそんな奴が増えれば、プロリーグも楽しいのにな〜。

どこか遠い目をしつつ、過去を懐かしむ。

たかだが苦労して召喚したモンスターを奈落に落とされたり、手札に戻されただけでいちゃもんをつけてこないで欲しい。それが嫌なら、対策しろよ。

愚痴を零していると、エアトスに慈愛のこもった眼差しで見つめられる。少し居心地の悪い思いをしていると十代が伏せていたカードが発動される。

「リバースカードオープン!『ヒーロー逆襲』!」

「ウキッ!?」

E・HEROが戦闘によって破壊された時、手札をランダムで選び、それがE・HEROなら相手モンスターを破壊し、そのモンスターを特殊召喚する、ギャンブルカード。もっとも十代の手札は一枚のみ。賭けも何もあったものではない。

「あ!兄貴の手札って……。」

翔が気が付いたのか、声をあげる。

「俺の手札はスパークマン、一枚だけだ!よって効果が成立だ!来い、スパークマン、イエローバブーンを破壊だ!」

『E・HERO スパークマン』
☆4 DEF1400

スパークマンがイエローバブーンへとライダーキックを決め、破壊する。
パワーアップしたイエローバブーンをいとも簡単に破壊し、翔たちから歓声が上がる。

「ウキッーー!!ワタシの獣族モンスターが効果によって破壊された時に1000ポイントライフ払う事で手札から『森の番人 グリーンバブーン』を特殊召喚する!」

SAL:2700→1700

イエローバブーンの色違い、グリーンバブーンが青筋を額に浮かばせ、肩に棍棒を担ぎ姿を見せる。どうやら、同族をやられて怒り心頭らしい。

「ま、また出てきたぁ!?なんなんすか、あのSAL!」

次から次へと出てくる高攻撃力モンスターのラッシュに翔が悲痛な声をあげる。

「バトルフェイズ中の特殊召喚により、攻撃権は残っている!グリーンバブーンでスパークマンを攻撃!ハンマー・クラブ・デス!」

「スパークマン!?」

大木からそのまま切り取ったような無骨な棍棒を振り回し、スパークマンを叩き潰す。
もし、十代がスパークマンを守備表示で召喚していなかったら、この時点で決着がついていた。本当に運のいい奴。

SALはすることがないのか、そのままターンを終える。


SAL
手札3枚
LP1700
魔法・罠無し

『森の番人 グリーンバブーン』

十代の手札・場共に無し。さらには、ライフも100と誰が見ても絶対絶命の状況。とどのつまり、十代のこのドローにかかっている。

「いくぜ、SAL!ラストターンだ!ドロー!!」

十代は引いたカードを確認するとほくそ笑む。おそらくだが、逆転の一枚を引いたのだろう。それを掴み取ったのは、十代の持つ幸運なのか、あいつの周りを浮遊している羽クリボーの恩恵なのか。おそらくどちらもだろうが。

「手札から魔法カード『ミラクル・フュージョン』、発動!
俺は墓地のフレイムウィングマンとスパークマンを融合!」

「何!?墓地融合だと!?」

「『ミラクル・フュージョン』はE・HERO専用の融合カード。墓地とフィールド上から融合素材を除外することでE・HEROを融合召喚できるだよ。ま、墓地のアドバンテージを失うけどな……。」

端的に説明してやると博士はあまり納得いかないような表情をし、押し黙る。

「来い、俺の新たなるE・HERO!!究極の光を解き放て!『E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン』!!」

『E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン』
☆8 ATK2500

純白の翼を広げ、曇りなき白光を放つ英雄が十代の目の前へと降り立つ。その圧倒的な存在感と神々しさから、翔たちはただ一言、凄いと漏らす。

「シャイニング・フレア・ウィングマンは墓地のE・HERO一体につき、攻撃力が300ポイントアップする。俺の墓地には、8体のHEROが存在する。よって、攻撃力は2400ポイント上がって、4900だ!」

HEROたちの支援を受け、シャイニング・フレア・ウィングマンの力が増し、放つ光がさらに強まる。

「す、すごいっす兄貴!」

「さぁ、バトルだ!いけ、シャイニング・フレア・ウィングマンでグリーンバブーンに攻撃!シャイニング・シュート!!」

「ウキっ!?ウキャァァーー!!?」

上空で翼を大きく広げると閃光が迸り、グリーンバブーン諸共SALのライフを削り去る。

SALの断末魔のような叫びと共にデュエル終了を知らせるブザーが森へと響く。


◆◇◆

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ。さ、約束だ。ジュンコを返してもらうぜ。」

十代は決め台詞を言うと敗北のショックからか項垂れているSALへと歩み寄り、人質を解放するようにと言う。
SALは「ウキッ」と小さく返事をし、傾くと木にしがみ付くようにしているジュンコを抱え上げ、安全な場所へと下ろす。

「ジュンコさん!」
「ジュンコ!」
「明日香さぁぁん!」

足が竦んで立てないのか動こうとしないジュンコに明日香たちが駆け寄ると目に涙を浮かべ、名前を呼ぶ。
とりあえず、人質も無事に解放され一件落着……と思われていた所に

「あのサル、また研究所に連れ戻されちゃうのね……。」

ポツリと明日香が漏らす。

十代がデュエルに勝利したのはいいが、その代わりにサルの自由を代償にしてしまった……などと思っているのだろう。

「後は我々に任せたまえ。」

博士が黒服二人に命ずると麻酔銃を構えたまま、猿へと近づいて行く。だが、不意に背後から声をかけられ、足が止まる。

「なぁ……誰がサルが負けたら、研究所に連れ戻すって言った?確か十代は勝ったら、ジュンコを解放しろ。と言ったが研究所に連れ戻すとは言ってない……よな?」

語調を強め、言葉を発すると黒服たちは気圧され、数歩退く。
先に言われた!?と声が聞こえたのは気のせいだろう。

「ふん、いち学生如きがなにを……。構わんから、さっさとSALを捕獲しろ!」

博士は再び命令を下すと黒服は麻酔銃を構え、照準をサルへと向ける。だが、十代がサルを庇うように両腕を広げ、立ちふさがる。

「くっ、どけ!撃たれたいのか!」

黒服は銃口を向け、威嚇するが十代は気丈にも男たちを睨み返す。

……エアトス

『?はい、なんですか紫苑さん?』

隣で状況を見守っていたエアトスがこちらへと視線を向ける。

強行手段に出ようとしたら、…………潰せ。

『……はい。わかりました。』

予想していたのか、表情を一切変えず腰に吊るしている剣の柄へと
手をかける。エアトスの準備が整ったのを確認するとこちらもポケットからある物を取り出す。

「コレ、な〜んだ?」

博士がこちらに注目すると同時にスイッチを押す。すると、手に持った機械から博士の声が聞こえてくる。

「ボイスレコーダー……!?いつの間に、そんなものを!」

「あんたと会った時からの全ての会話が録音されている。もちろん、あんたがあのサルに何をしたかもバッチリな。」

要するに公表されたくなければ、手を引けと言う事なのだがいささか物証としは心もとない。このまま押し通せるか?

少し不安に思っていると森の方からやっほー、と場違いな声が聞こえてくる。

「し、お、ん〜♪会いたかったよ〜!」
「うわっ!?姉ちゃん!?」

ダッシュし、速度を緩めずそのまま抱き、頬擦りしてくる我が姉。恥ずかしいから、やめて欲しい。

「〜〜♪会いたかったよ〜。」
「今朝会ってるから!いいから、離して!?」

いまだ体をすり寄せ、抱きしめてくる姉。純粋に恥ずかしいのと、今はそんなことしてる状況じゃないから!

「仲睦まじい事はいいことですにゃ〜。だけど、今は少し控えて欲しいのですのにゃ。」

「わーー!?大徳寺先生も居た!?姉ちゃん、いい加減に離せって!」

「むぅ〜、しょうがないな。」

渋々といった感じで姉が離れると安堵の息を吐く。

『慌てる紫苑さんも可愛かったですよ?』

……うるさい

褒めてるのか貶してるのか微妙な発言をするエアトスをじと目で睨みつける。

さっきの姉とのやりとりで殺伐とした雰囲気はどこかへ行き、気まずい空気感になっている。大徳寺先生が注目を集めるため、ゴホンッとわざとらしく咳払いをすると話しを切り出す。

「さて、話しは聞いていたんですにゃ。とりあえず、事が公になれば困るのはあなたたちの方じゃない出ないかにゃ?動物虐待で訴えられちゃいますよ〜?」

「くっ……。行くぞ、お前たち!」

博士は悔しそうな表情をしながら、黒服二人を引き連れ去っていく。ただ捕まりたくないのか、それとももっとヤバい事を研究しているのか。などと考えているといつの間にかSALだったサルは機械を全て外し、仲間の元へと戻って行き、十代たちがもう捕まるなよ〜と声をかけている所だった。

『まぁ、とりあえず一件落着って事でいいんですかね〜?』

エアトスが間延びした声でそういうと、自分もいいんじゃない?とあくびをしながら答える。

ちなみにホント、何しにきたんだっけ?などと思ったのは万丈目の安否が大徳寺先生によって報せされ、皆安心してからだった。
 
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