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緋弾のアリア-諧調の担い手-

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始まりから二番目の物語
  第二話




亮side
《平賀家・文の部屋》
PM:2時47分


現在、僕達は時夜くんのお見舞いへと行く為に一番倉橋家に近い平賀家へと集まっていた。
今現在、通された文ちゃんの部屋にいるのは部屋の主である文を含めて、亮とライカの三人のみ。


「…遅いね、芽衣夏お姉ちゃん」

「まぁ、まだ時間まであるからもう少し待とうよ、ね?ライカちゃん」


両親に車で送迎して貰った亮とライカだが、少女は早く着きすぎた為に暇を持て余していた。
流石に幼稚園児が昼間とは言え、遠くまで出歩くのは危ない。不審者がいたりと、危険が多い。

それを考慮して、二人一緒に此処まで送って貰った。
だが故に、若干の手持ちぶたさ感も拭えない。僕も文ちゃんも心はライカちゃんと一緒なのだ。

―――本当は今すぐにでも、時夜くんの姿をこの目に留めたい。

その一念に今日は一日中、ずっとずっと駆られていた。
今のこの待ち時間さえもが、何処かもどかしく感じられる。心なしか、落ち着かない。

まだ話には出た芽衣夏は姿を見せていない。
今日のお見舞いに連れて来たい人がいると言っていたので、その件で遅れているのだろう。

時夜くんの自宅へは事前にちゃんと訪問する趣旨を伝えている為に、特に問題はない。

時計を見れば、まだ待ち合わせの三時までは時間がある。
時間を刻む時の秒針の進む速度が本当にゆっくりで遅いと、そう感じ取る。


「―――お待たせ、三人共。待った?」

「…お、お邪魔します」


そう思考に陥っていると部屋の扉が開き、二人の少女が姿を現した。

一人は良く知った、時夜くんを通して知り合った一つ年上の少女。
そしてもう一人も時夜くんの知り合いなのだろう。自分達よりも二周りは年上であろう少女。

第一印象で目に映ったのは、その淡い黄金色の艶やかな髪だ。
それが二つに左右結われ、何処と無く犬の様な印象を感じ取る。

「まだ約束の時間まではあるから、大丈夫だよ。それで後ろの女の子は?」


話の流れ的に、この少女が連れて来たいと言った少女で間違いないだろう。


「はい、亜麻川千鶴って言います。よろしくお願いします」


そう、亜麻川さんは告げてペコリ…と、小動物の様に頭を下げる。
そうして一応の所、皆と軽く自己紹介を済ませる。


「……さて、そろそろ時間だし行こうか」


部屋に立て掛けられた時計を見やる、家を出るには良い頃合いの時間であった。

そうして僕達は平賀家を出て、倉橋の家へと向かった。







1







閑散とした住宅街を、四人で歩く。
女三人寄れば姦しいとは言うけれど、正にその通りだろう。

三人ではなく、正確には四人だがそれでも姦しさは変わらない。寧ろ増している事だろう。
すっかり意気投合したのか、ガールズトークに花を咲かせる彼女達を数歩離れた後ろから見守る。

そんな四人の中に入って行くのは憚られる、そもそも女の子の輪に割って入る行く勇気がない。
何処と無く居心地が悪い為に、こうして離れて歩いているのだ。

だがそんな皆を見据え、それが何処か微笑ましく思えてくる。

そんな事を思想していると、不意に話を振られた。
若干聞き逃していた為に、話を聞き返す。内容は、お見舞いの品についての話だ。

僕とライカちゃんは定番所の果物の詰め合わせ。
文ちゃんは、部屋に飾る色鮮やかな生花。

芽衣夏ちゃんと亜麻川さんは芽衣夏ちゃんの実家の洋菓子屋“綾月洋菓子店”のケーキの詰め合わせだ。

それを皮切りに、会話へと混じっていると次第に立派な外門が目に入ってくる。
閑散とした住宅街に立ち並ぶ一際大きな純和風の外門、そしてこれまた立派な和風のお屋敷。

まるでこの家だけが旧暦から産物と思える様に、周囲の現代風の住宅街から浮いている。
最初に時夜くんの家に来た時、その時は時代劇なんかで見る様な建造物に思えた程だ。

外門に立て掛けられた表札にも達筆な字で倉橋と書かれている為に、此処で間違いはない。


「…本当に、何度見ても大きな屋敷だよね」

「そうなのだ、一体どれだけの坪を使っているのかな?」


既に見慣れた屋敷とは言え、僕と文ちゃんはそう感嘆とした声を洩らした。
それとは別に、驚きの声を上げる少女もいた。


「…ここが時夜くんのお家ですか!?」


そう、亜麻川さんが最初の頃の僕や文ちゃんの様な驚き方をしている。
確かに、この純和風の威風堂々とした屋敷を見たら誰でも驚きの声を洩らす事だろう。

屋敷を見据えながら、亜麻川さんは何処か興奮気味に言葉を紡ぐ。


「なんだか、武家屋敷みたいで良いですね!」

「…あ~、千鶴はそういうの好きだからねぇ」


そんな亜麻川さんを何処と無く呆れ気味に見据え、溜息を吐く芽衣夏ちゃん。
それを傍目に、僕は門に設置されているインターホンを鳴らした。

…一秒でも早く、時夜くんの顔を見たくて。
インターホンから返ってくる返答の待ち時間が、とても長く感じられた。






2







「…あら、もう時間かしら」


台所で家事をしていると、不意に来客を知らせるチャイムが家の中に鳴り響く。
ナルカナは掛けていたエプロンを外し、外を見る為にインターフォン用のモニターへと向かう。

今現在、この家で動ける人間は私しかいない。
未だに時深も眠りに就いている。…精神的に大きく疲労が溜まっていたのだろう。

来客には心当たりがある。部屋の時計を見やれば時間は三時時とちょっと過ぎ。
事前に電話が来ていたから、時夜の幼稚園のクラスメートであろう。

モニターから覗く外界には、幼き小さき子らの姿があった。
その姿を見据えて、私は小さく微笑む。


「……あの子も、良い友達を持ったわね」


小さかった笑みは大輪の花を咲かせる。思わず、自分の事の様に笑みが零れてしまう。
最初に出雲を出る際、ちゃんと外の世界でやっていけるのかと当の本人以上に心配であった。

その友人達の姿を見て、確りやれている様で何よりだと思う。

自分でも自負しているが、私はブラコンなのだ。
不謹慎ではあるが、こうして下界に訪れて時夜の成長を見れる事に喜びを感じている。

そうして、私は玄関のドアを開けて来客を迎え入れる為に外に出た。






3







インターフォンを鳴らして、少しした後。家の中より、美少女と言って良い程の女性が現れた。
思わずその絶世の、浮世離れした風貌に見惚れる。そうして言葉を失ってしまう。

それは後ろにいる文ちゃん達も同じ事だった。

悠然たる足取り。動く度にふわりと揺れる、艶のある濡れ羽色の長髪。
顔やスタイルは一流のモデルも裸足逃げ出す程に整っている。

極めつけには、その纏っている空気とでも言えばいいのか。
それが世界から逸している様に、神秘的に感じる。

この人は、まるで“人間”ではないような。まるで一つの“完成”された芸術品の様に思えてくる。


「…初めまして、貴方達が時夜と同じ組のお友達かしら?」



「…は、はい。時夜くんのお友達の不知火亮といいます」


その雰囲気。カリスマとでも言うのだろうか。
それに気押されながらも、亮は自らの名を告げた。


「うん、よろしくね。亮くんとは電話でさっき話した事があったわね?」

「はい、そうですね…えっと」


相手の名前が分からずに、思わず口どもる。
そんな様子を察したのか、彼女は笑みを浮かべながら自身の名を告げる。


「…私の名前はナルカナ。時夜にとってのお姉ちゃんみたいな存在よ。皆、よろしくね?」


全員を見回す様にそう言うナルカナと名乗った少女。
それに習って、他の皆も各々挨拶を交わす。


「…亮くんに、文ちゃん、ライカちゃんに、芽衣夏ちゃん、そして千鶴ちゃんね」


挨拶を交わし、反芻する様に僕達の名前を口にする。


「それじゃあ、せっかく来てくれたんだし、皆家に入ってちょうだい。」


そう口にして、身を翻す彼女の後に皆で続く。
艶やかな黒髪がふわりと風に靡き、菫の様な淡い良い香りがする。


「…あの、時夜くんは具合の方は大丈夫なんですか?」


後に続きながら、僕達が一番気掛かりになっていた事を文ちゃんは、ナルカナさんの背に問い掛けた。
その問いに、彼女はそっと瞳を閉じて、否定の意を示すかの様に首を横に振った。


「…いえ、未だに眠りに続けているわ。医師が言うには異状はないのだけれどね」


それはナルカナ自身も確認をしている事だった。異状は確かになかったのだ。

けれど、何処か違和感を感じるのだ。
それが何かは解らないが、根本的な原因はそこにあると、そう感じ取っていた。

「…後で、時夜の父親の知り合いの医師が診に来てくれるから、心配なら結果を見て行くといいわね」


そうして、家の中に通された僕達は時夜くんの部屋の前まで案内された。


「それじゃあ、何かあったら居間の方にいるから呼んでね」


そう言い、去っていくナルカナさんを傍目に、僕達は部屋の中に入った。
そこにはまるで、死んだ様に昏睡し続ける時夜くんの姿があった。


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