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問題児たちと1人の剣士が来るそうですよ?

作者:疾風怒濤
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白夜叉=変態

俺らがガルドに喧嘩を売ったことを黒うさぎに話すと当然説教の嵐だった。

「な、なんであの短時間にフォレス=ガロのリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?しかもゲームの日取りは明日!?それも敵のテリトリー内で戦うなんて!一体どういうつもりがあってのことです!聞いているのですか三人とも!!」

「「「腹が立ったから後先考えず喧嘩を売った。反省はしていない」」」

「このおバカ様!!」

黒ウサギは俺、飛鳥、春日部の三人にハリセンで思いっきり叩いた。それをニヤニヤと笑っていた十六夜が止め、

「別にいいじゃねぇか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この『契約書類(ギアスロール)』を見てください」

『契約書類』とは『主催者権限(ホストマスター)』を持たない者達が主催者となってゲームを開催するための必要なギフトである。いわば、ゲームの契約書という感じだ。そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており主催者のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。

今回は俺達が勝利するとガルドの罪は暴かれ、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散するというもの。対して俺達が敗北すれば罪を黙認しこれ以降ガルドの罪は永久に裁かれなくなるといったものだった。確かに黒うさぎの言った通りに自己満足しかない。

「時間さえかければ彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その……」

「そうだな。人質はもうこの世にいない。でも、俺は今、あいつを逃がすのは駄目だと思う。殺人を繰り返す奴って次々に人を殺していくから……」

「……荒谷、大丈夫?手、震えてるよ?」

俺はいつの間にか手が震えていたらしい。あの時の記憶が蘇り、ずっとなかったことにしていたことを。

「……もしかしてさっきのガルドの言葉のこと?」

どうやら春日部には気づかれてしまったが俺は大丈夫だと言って春日部もこれ以上聞かないことにした。

「それにね、黒ウサギ。あの外道が野放しにされてるのは許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

「ぼ、僕もガルドを逃がしたくないと思ってる」

飛鳥もジンも決意の姿勢を表し、黒ウサギは諦めたように頷いた。

「はぁ〜……。仕方ありませんね。フォレス=ガロ相手なら十六夜さん一人で……」

「何言ってんだよ。俺は参加しねぇぞ」

「は?」

「そうね。貴方は参加させないわ」

飛鳥と十六夜の言葉に驚き、二人に食ってかかる。

「な、何言ってるんですか!?コミュニティの仲間同士、ちゃんと協力しないと!」

「そういうことじゃねぇよ黒うさぎ」

「この喧嘩は、コイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

「あら、分かってるじゃない」

「まぁ、そういうことだ。黒うさぎ」

俺は黒うさぎの肩にポンッと手を置いた。

「……。あぁもう、好きにしてください……」

丸一日振り回されたおかげで問題児達の行動を止めるのしんどくなったので言い返さないようにした。




「気を取り直して、そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎するつもりでしたが……」

「いいわよ、別に。私達のコミュニティって崖っぷちなんでしょ?」

黒ウサギは驚き、ジンの方をみると事情を知られたのと悟った。

「も、申し訳ありません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが……黒ウサギ達も必死だったので」

「いいって言ってるだろ?それにそんな状況じゃ必死になって当然だ」

「私も怒ってない。あ、けど」

思い出したように春日部は言った。

「毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思ったんだけど」

確かに女性にとってはお風呂は大事だ。肌の手入れとか大変だろうし。その質問に黒うさぎは嬉々とした顔で水樹を持ち上げ、

「それなら大丈夫です!十六夜さんがこんな大きな苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなり、水路を復活させることもできます♪」

水を買うってそんな酷かったのかよ。よく今まで続けてたな。

「よかった。じゃあこれからコミュニティに帰る?」

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日ならギフト鑑定をお願いしないと」

「ギフト鑑定?」

「はい、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。
それを『サウザンドアイズ』に鑑定してもらうというのです。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

俺達四人は別にどっちでもいいという表情だった。俺は起源より力の方が気になるけど。

「『サウザンドアイズ』ってなんだ?」

「それは特殊な『瞳』のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

「いわば、ワープ場所的なとこってことか」

「YES!例えが少々あれですが、まぁそういうことでいいです」

こうして俺達四人はジンと別れ、『サウザンドアイズ』へ向かった。




辺りも暗くなってきて、街灯ランプに照らさている並木道を俺達は歩いている。ふと、飛鳥が不思議そうに呟いた。

「桜の木?……ではないわよね。真夏になって咲き続けるのはおかしもの」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ」

「………?今は秋だったと思うけど」

「俺のとこは春……。どういうことだ?」

四人が顔を見合わせて首を傾げる。そこで黒ウサギはクスクスと笑って説明した。

「皆さんは違う世界から召喚されているのですよ。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずてすよ」

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

「正しくは立体交差並行世界論なのですが……。これは説明するのに一、二日かかるのでまたの機会にでも」

「だから、吸血鬼とかいろんな種族がこの箱庭にいるってことか」

「YES!その通りです♪」

そうしているとどうやら店に着いたらしい。日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、

「まっ」

「待ったなしですお客様。うちは時間営業はやっていません」

かけなかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「おいおい、こんなんで出禁とはな」

「そうです!お客様舐めすぎでございますよ!!」

「では、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

「う……」

言葉が詰まった。俺達には今、名も旗印も無い状態だからだ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく、

「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょうか。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「その……あの……私達に旗は……」

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!!」

突如店内から暴走してきた真っ白い少女が黒ウサギに抱きつき、共にクルクルと浅い水路まで吹き飛んだ。

「なんだあれ?」

俺達は何が起きたかわからず目を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「じゃあ有料なら」

やりません!とキッパリ断られた。で、黒ウサギはというと、



少女が黒ウサギの胸をなすりつけていた。





「フフ!やっぱり黒ウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここかここが良いか!」

「し、白夜叉様!?どうして貴方がここに!?」

スリスリスリスリスリスリ

「ていうか!早く離れて下さい!!」

白夜叉と呼ばれる少女を無理やり引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。回転した少女は十六夜が足で頭上に上げた。

「てい」

すごく高く上がっていった。

「て、何してるんだよお前は!」

すかさず俺は十六夜にツッコミを入れ、そのまま落ちてきた白夜叉をジャンプして受け止めた。

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃよ。あれぐらいでわしは痛くもかゆくもないわ」

え、何この人!?もしかしてめちゃくちゃ強いんじゃねぇのか?十六夜の攻撃も相当な力があったぞ!

「そ、そうか……」

俺は驚きながら少女を離した。

「それと、おんし!飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

「十六夜様だぜ。以後よろしくな和装ロリ」

ヤハハと自己紹介をする十六夜。

「うう……まさか私まで濡れるなんて」

「罰当たりだな」

「因果応報……かな」

『お嬢の言う通りや』

悲しげに服を絞る黒ウサギ。それに対して白夜叉は濡れても気にせず十六夜達を見回して、

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は……遂に黒ウサギが私のペットに」

「なりません!どういう起承転結があってそんなことなるんですか!」

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。よほど白夜叉に気に入られてるだろうな。いろんな意味で。

「まぁいい。話があるなら店内で聞こう」

女性店員は通したくなさそうだった白夜叉のおかげで通してくれるようになった。女性店員に睨まれながらも暖簾をくぐり店に入っていった。
 
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