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フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~

作者:零水
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ゼロの使い魔編
第一章 土くれのフーケ
  魔剣 デルフリンガー

 
前書き
友人Y「今回は随分時間がかかったな。」
零水「忙しかった上に、パソコンの誤操作でコツコツ書いていた下書きが吹っ飛んだ・・・。」
友人Y「マジか・・・」

約一か月ぶりの投稿です。 

 
「カケル、行くから仕度して!」
「・・・ルイズ、いろいろ端折り過ぎてよく分かんないんだけど。」

 あれから数日たった虚無の日のこと。
ルイズも今では元気を取り戻し、良かった良かったと思っていたが、このように横柄な態度までが復活してしまった。

「だってカケルったら、セイバーのクセして剣も持ってないじゃない。それでどうやって私を守るっていうのよ。」
「む・・・。」
「だから、城下町まで行って剣を買ってあげるって言ってるの。感謝しなさいよね。」

 ふむ、と架は考えた。確かに正論だ。いや、自分は別に素手でもある程度は戦えるが剣の方が得意だ。何よりルイズの言う通り、セイバーのクラスにいながら剣は持ってませんだと、他の英霊に申しわけがたたない。
 珍しくルイズにしてはまともな意見だ。  だが・・・

「ルイズ、その前にどうしても言っておかなければならないことがある。」
「な、何よ・・・。」

 目の前に詰め寄られ、思わず顔を赤らめてしまうルイズに架は至って真剣な表情で言った。




「俺は休みの日は家から一歩も出ない主義なんだ!!」
「知るかっ!ていうかそれ真面目な顔して言うこと!?」

 学院に来て以来の渾身のツッコミが部屋に響き渡ったという。





「さあ~て、今日はどうやってカケルを口説こうかしら。」

 同じく学院の女子寮の一室でキュルケが鼻歌混じりに化粧をしていた。
 元々普段から身だしなみに気を使っている彼女だが、今日はいつもより気合いを入れている。理由は勿論、架をデートに誘うためである。
 ギーシュとの決闘を見て以来、彼への見方が大きく変わった。強かったから、それだけが理由ではない。今まで自分と付き合った人たちには腕っぷしが強いものもいたし、知力、権力、財力とさまざまな力を持っていた。
 しかし、カケルは他の男共とは違う何かを持っていた。それは単純に言葉では言い表せない。それが知りたい、触れてみたい。そんな思いがキュルケの心に蠢いていた。
 要するに、キュルケは「影沢架」という人間そのものに興味を持ったのだ。こんな気持ちになるのは、「男たらし」とも言われた彼女にとって初めてだった。

「『微熱』の私をこんな気持ちにさせたんですもの。責任取ってもらうわよ、ダーリン!」

 化粧を終え、決意とともに立ち上がったキュルケ。すると、外から馬の嘶きが聞こえた。
 ふと窓から外を見てみると、誰かが馬に乗って出かけようとしていた。
 って、よく見るとあれは!?

「なあルイズ、やっぱり考え直そう。もういい時間だし俺はもう寝たいんだ。」
「まだ午前中なのになに夜中みたいな言い方してんのよ!それよりアンタ馬は乗れるんでしょうね!」
「まあ多分大丈夫だと思うぞ。(ホントは乗ったことないケド・・・)」
「ん?何か言った?」
「いや何でも。」

 というやり取りをしているのはキュルケの愛しのダーリンことカケルとその主人の憎きルイズであった。二人は何か言い合っていたみたいだが、やがてそれぞれ馬を操り学院の外へ出ていった。
 それを見ていたキュルケはうぎぎと歯ぎしりしていた。

「あのルイズ!私を差し置いて、ダーリンとデートですってぇ!?ゆ、許すまじ!」

 本当は少し勘違いをしているのだが、誰も突っ込む人がいないため仕方がない。
 キュルケはそのまま部屋を飛び出し、一人の親友の元へ向かった。




「やれやれ、今日はいい天気、そして虚無の日だのう・・・」
 
学院長室でオスマンが茶を飲みながら、しみじみと呟いた。聞くからにジジくさい台詞でったが、実際オスマンの実年齢は誰も知らず、「実は300歳を超えているのでは」と噂されるほどである。
オスマンは続いて水キセルを取り出し吸おうとしたのだが、それは失敗に終わった。誰かが魔法でオスマンから水キセルを取り上げたのだ。

「オールド・オスマン。もう歳なのですから水キセルはほどほどにして下さい。」

取り上げた張本人―――オスマンの秘書、ロングビルはため息交じりに注意した。しかし、オスマンは悪びれる様子もなく、

「全く、老い先短い年寄りの楽しみを奪うとは何事じゃ。仕方がない、ならばもう一つの楽しみに興ずるとするかのう。」

 と、床に手を伸ばすと、白いネズミがオスマンの腕を上ってきた。彼の使い魔のモートソグニルである。

「おお、モートソグニルや。して今日のミス・ロングビルの色は・・・む、そうか白か!しかしやはりミス・ロングビルには黒が似合うと思うのだが・・・」
「オ、オールド・オスマン・・・、今度やったら本当に王宮に訴えますからね・・・」

 と、スケベな学院長に眉毛をピクピクさせるロングビル。するとオスマンは謝るどころか「バカモン!」と言ってガタリと椅子から立ち上がった。

「王宮が怖くて学院長などやっていられるか!!」
「言ってることはご立派ですが、していることを考えると素直に褒められません!」
「ふん、下着を見られたくらいで何じゃ!そんなに硬いから婚期を逃すんじゃよ!!」
「なあんですってぇ!!!」

 数分前の静けさは何処へやら、ギャアギャアと言い合いを始める二人。そこへ、
 コンコンッ

「失礼します。オールド・オスマン!」
「おや、どうしたのじゃミスター・コルベール。」

来訪者、コルベールが部屋に入ると何事もなかったかのような態度でオスマンは迎えた。ロングビルに至っては椅子に座り直し黙々と書類整理を行っていた。

「・・・。」
「どうしたのじゃ、不思議そうな顔をして。」
「ああ、いえ、何か騒ぎ声が聞こえたような気がしまして・・・」
「んん?なんのことか分からんの。のうミス・ロングビル。」
「ええ、そうですね。」

 しれっとした様子で答える二人。実際見たわけではないので、コルベールも「そうですか・・・。」と言わざるを得ない。

「いいから、早く要件を言いなさい。」
「は、はい。オールド・オスマン、こちらを。」

 急かされたコルベールはオスマンの机に持ってきた資料を広げた。それを見たオスマンは、ムッと声を出すと

「ミス・ロングビル、悪いがしばらく席を外してくれんかのう。」

 ロングビルに退室を命じた。オスマンの様子に何か感じ取ったのだろう。ロングビルは、二つ返事で立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。
 それを見届けたオスマンは再び資料に目を落とした。

「伝説の使い魔、『ガンダールヴ』か。」
「ええ、カケル君の左手に浮かび上がったルーン。あれについて調べていましたら、このガンダールヴのルーンにとてもよく似ていたのです。」

 と、自分が書いたスケッチを差し出す。確かにこのスケッチと資料の文字はそっくりだった。

「よもやあのヴァリエール家の三女が・・・まさか・・・」

 しばらく考えていたオスマンだったがやがて厳しい顔でコルベールに言った。

「ともかく、このことは一切の他言無用じゃぞ。よいな。」
「しょ、承知いたしました。」






数時間後
 
「ここが城下町か。かなりの賑わいだな。」
「ふふん、そうでしょう。」

ルイズと架は城下町を歩いていた。虚無の日だからだろうか、架の言う通り町は騒がしく活気が満ちていた。
架が感嘆しているとルイズは自分のものでもないのに得意げになっていた。

「それにしても意外だったわ。」
「何が?」
「アンタがあんなに上手く馬に乗れるなんて。とてもそうは見えないのに。」
「ははは、まあな。」

 笑いながら答える架。しかし、理由は分かっている。恐らく、セイバーのクラスに与えられる『騎乗』スキルのおかげであろう。
 騎乗スキルは、「乗り物」という概念に当てはまるものを生物、非生物を問わずに操ることができる。加えて乗ったことのないものでも己の直感である程度なんとかできるのだから便利なものだ。
 そういえば、まだルイズにはそこら辺についてはまだ詳しく話していなかったな。マスターとしてしっかりと学んでもらわないと。
 いろいろ考えながら歩いていると、ふと壁に貼ってある一枚のチラシが目に入った。そういえば他の店でも同じようなものを貼っていた。近づいて見てみると、フードを被った人の顔が描いてありその下に文字があったが、架には読めなかった。「何だこれは。」と呟いていると、「旦那、知らねえのかい?」と店の店主らしき親父が話しかけてきた。

「最近、この辺りで噂になってるんだよ、『土くれのフーケ』が出るって。」
「『土くれのフーケ』?」

 ルイズも寄ってきて聞き返した。

「ああ。トリステインの貴族ばかりを狙う盗賊さ。トライアングルクラスのメイジらしくてな、どんなに強固な壁も錬金魔法で土くれに変えちまうってんでそう呼ばれてるんだよ。」
「ふ~ん。」

 あまり興味がなさそうなルイズ。

ちなみにトライアングルというのはメイジの能力を表すクラスの一つであり、火、水、風、土と四つある系統を幾つ足せるかで決まる。一つの系統しか使えないものは「ドット」、二つの系統を足せるものが「ライン」、三つが「トライアングル」、四つが「スクウェア」と呼ばれる。
さらに補足だが、ギーシュのクラスは土の「ドット」、コルベールとキュルケは炎の「トライアングル」である。ルイズは・・・ゲフンゲフン!

と、ここで親父さんは「ここだけの話なんだがよ・・・」と小声で続けた。

「フーケは今、魔法学院を狙ってるって噂もあるぜ。」
「えっ!?」

 流石に聞き逃せなかったのか、ルイズが驚いた反応を示した。

「何でも、魔法学院にある宝物庫にスゲーもんがあるらしくてな、そいつをフーケの奴がめを付けたらしいぜ。」

 あんたらも貴族みたいだけど気をつけなよと言って親父さんは仕事に戻っていった。
 




それからしばらくして、二人はようやくやや古そうな武器屋に到着した。

「へい、いらっしゃい。・・・おや、貴族の方がこんなところに来るとは珍しい。」

 中に入ると、薄暗い室内に剣や槍、さらには甲冑などの防具が所せましと並んでいた。
 店の奥にはパイプをくわえ、眼鏡をかけた初老の男がおり、来客が貴族だと気付くと目を丸くしていた。

「どう、カケル。気に入ったものはある?」
「う~ん、そうだなあ~・・・」

 と、ぐるりと店内を見渡しながら困った表情で架は答えた。
 確かに架は剣を扱うが、正直彼は剣についてそれ程詳しくはない。見ただけでそれがいい剣かどうかなんて判断が付かなかった。

「お客さん、剣をお探しで?それならこれなんてどうですかい。」

 悩んでいると店主の初老の男が一振りの剣を差し出してきた。
 その剣はまさに黄金の剣だった。刀身は金色に輝いており、鍔の部分には大きな宝石が埋め込まれていた。見た目だけならこれ以上立派なものはあるまい。

「この店一番の業物でさあ。かの高名なゲルマニア一の錬金術師、シュペー卿が鍛えたまさに至高の一品ですぜ。」
「確かにすごそうね。おいくらなの?」
「新金貨なら3,000ってとこですかね。」
「た、高っ!?立派な屋敷が庭付きで買えるじゃない!」
「それが剣の相場ってヤツでさあ。」

 ムムム、と唸っているルイズに架が口を開こうとしたとき、突然店の扉がバンッと開かれた。

「話は聞かせてもらったわよ!」
「キュ、キュルケ!?」

 そこに立っていたのはキュルケとルイズよりも小柄な青色の髪をした女性――――タバサであった。

「な、なんでアンタがココにいるのよ!」
「タバサのシルフィードに乗せてもらったのよ。」
「そうじゃなくて、なんでここに来たのかってことよ!」
「ふ、決まっているじゃない・・・」

 と、ビシッとルイズを指さしてキュルケは言った。

「この私を差し置いて、ダーリンとデートをするなんて許されるわけないでしょう!!」
「な、なあ!!?べ、別に私は・・・」

 当初の目的はただ剣を買いに来ただけなので、全くのキュルケの勘違いなのだがついつい顔が真っ赤になってしまうルイズ。否定しようとするのだが、動揺のあまりうまく話すこともできない。

「でも見た所、ダーリンにプレゼントも買ってあげられないみたいね。かわいそうに、私なら剣の一つくらいすぐ買って・・・」
「いやあ、悪いんだけどキュルケ、やっぱりこの剣は要らないな。」
「「「えええ!!?」」」

 驚いたのはルイズ、キュルケ、そして店主だった。タバサは一連のやり取りを一切無視して本を読み続けている。

「どうしてよカケル!?こんなに立派な剣なのに!」
「そうよ、お金なら私が出してあげるわよ!」
「そ、そうですぜ!なんだったら少しくらいまけてもいいですし・・・」

 三人の思い思いの言葉を聞いても架は首を横に振った。

「今持ってみて分かったんだが、この剣は見てくれを重視しすぎてる。重心がバラバラで耐久力が大分落ちてる。多分、岩でも叩き切ろうと思ったら一発で折れちゃうんじゃないか?」
「そ、そんな・・・」

 店主が絶句する中、「それに、」と付け足す。

「例え本物の業物だったとしても、俺には似合わなさすぎるよ。俺にはいっそ・・・」

 と、隅に方に乱雑に置かれたものの中から錆びついた一本の剣を取り出した。

「これくらいが丁度いい。」
「ええ~、ダーリンだったらきっと似合うわよ~!」
「そうよ、せめてそんな錆だらけのボロ剣よりもっといいのが・・・」



「おうおう言ってくれるなあ!娘っ子共!!」



 不意にあげられた声にその場がシーンとなった。男の声だが、発したのは架でも店主でもない。全員の視線は架の持つ剣に注がれた。

「人(?)が寝ている横でギャーギャー喚きやがって!うるさくってしょうがねぇ!」
「け、剣がしゃべった!?」
「・・・インテリジェンスソード。」

 タバサも本から顔を上げ、ポツリと呟いた。
インテリジェンスソードとは簡単に言うと意思を持った剣のことである。誰がどういう意図で作り上げたのか分からないなど、謎の多い代物だ。
と言っても、実はハルケギニアにおいて口を利く武器というのは別段珍しいわけではない。現に心底驚いているのは架だけで、後の皆は声の正体が剣だと分かると「なんだ」という感じになっていた。

「おでれーた!誰かと思ったらお前さん、『使い手』か!」
「は?『使い手』?」
「まあ、いいや。とりあえずお前さん、俺を買え。」
「あ、ああ。ルイズ、これを買おう。」
「ええ、でも・・・」
「その剣だったら金貨100でいいですぜ。」
「さあ架、それを買うわよ!」

 値段を聞いた瞬間、今までの不満が嘘みたいになくなっていた。イカン、うちのマスターが一瞬『赤い悪魔』に見えてしまった・・・。
 若干げんなりとした架に「俺っちの名は『デルフリンガー』様だ!よろしくな兄弟!」と剣が挨拶してきた。

 こうして架は、これから少し長い付き合いになる相棒、デルフリンガーと出会ったのであった。





 その日の夜
 「なんでさ・・・。」とここ数日使わなかったはずの親友の口癖がでた。(もう俺の口癖でいいか・・・)
 ため息をつく架の背中にはデルフリンガー、横には本を読むタバサ、そして、

「こうなったら決闘よ!!」
「望むところよ!!」

 目の前には激しく火花を散らしながら睨み合うルイズとキュルケ。どうしてこうなった・・・。

 事の始まりは、武器屋を出てからだった。突然キュルケが「折角だから少し見て回りましょうよ!」と言いだした。

「カケルは城下町初めてなんでしょ?だったら私がいろいろ案内してあげるわ!」
「ちょっと!カケルは私の使い魔なのよ!?手を出さないでよね!」
「何よ、あなた用はもう終わったんでしょ。ならいいじゃない。」

 後から聞いた話だが、どうやらルイズのヴァリエール家とキュルケのツェルプストー家には因縁があるらしい。まあその理由がツェルプストー家が代々ヴァリエール家の恋人を奪ってきたという馬鹿らしいものだったが。
 故にルイズもキュルケにだけは犬一匹取られるのも屈辱らしい。・・・って俺は犬か!?

 結局ルイズも付いていくと言い、さらにタバサまで同行を申し出た。理由は「二人だけじゃ心配」だそうだ。ありがとうございます。
 途中で服や食べ物を見て回ったりしてそれなりに有意義な時間を過ごせたのだが、ルイスの方はキュルケが歩いているときに俺に腕をからませてきたり、「この服どうかしら?」「次はあそこに行きましょう!」と話すたびにルイズのイライラメーターが上昇していった。そして、休憩がてらに立ち寄った喫茶店のような場所でキュルケが自分のパフェを俺に「はい、あ~ん!」とした瞬間にそのメーターが爆発した。

結果、二人の壮絶な口論が始まり、それは学院に帰ってきてから今までずっと続いていた。
 以上、回想終わり。

 そんなこんなで、二人はとうとう決闘まで言い始めてしまった。ちなみに架もただ見ていたわけではなく、何とか仲裁をしようと試みたのだが、その努力は報われることはなかった。タバサはその結果を予想していたのか、二人が行き過ぎたことをしない限りは黙って本を読んでいた。

「ふん、『ゼロのルイズ』がこの私に魔法で勝とうだなんて。」
「やって見なければ分からないわ!」
「そういうのは魔法を一つでも成功させてから言いなさい!」

 そして互いに杖を抜き、相手に先を向けたところで架も本気で止めに入った。

「待て待て待て待て!!」
「カケル、邪魔しないで!」
「そうよダーリン!これは女の意地をかけた戦いなの!」
「女の意地は結構だがそれでこの部屋を吹っ飛ばされたら敵わんわ!!やるなら外でやってくれ!!」

 果たして架の必死な叫びはルイズとキュルケに届いたようで、ヤンキーの「表へ出ろや!」と言わんばかりの勢いで部屋を出ていった。というかルイズ、ここはお前の部屋なんだから一番先に気付くべきだろうが・・・。
 もはや頭が痛くなってきた架もこのまま放っとくわけにもいかず、重い足取りで二人を追いかけた。その後ろをタバサは本から目を離すこともなく付いていった。





生徒や職員が寝静まった夜の学院。月明かりが照らす影に紛れて動く気配があった。
長い髪をもちフードを被ったその女性は、最近世間を騒がせているという土くれのフーケその人であった。
フーケが立ち止まったのは学院の本塔。ここの五階にはトリステイン有数の宝物庫が置かれている。 フーケの狙いはその中の一つ、『破壊の杖』と呼ばれるものであった。
どのような代物であるか詳しい情報は分からないが、相当な価値はある。しかし・・・。

「ちっ、流石魔法学院の宝物庫ってわけかい。外壁にまでこんな『固定化』魔法をかけているなんてね・・・。」

 宝物庫には入り口にはトライアングルクラスの自分でも歯が立たないほど頑丈な作りになっていた。ならば外からと思っていたのだが、自慢のゴーレムによる物理攻撃でもこの厚さの壁を壊すのは難しそうであった。
 さてどうしたものかと考えていると、向こうから人が複数やってくる気配を感じ、慌てて近くの植え込みに身を潜めた。やってきたのは生徒三人と最近噂になっている使い魔だった。




「この辺ならいいわね。それじゃあ始めましょうか。」
「ふん、望むところよ!」
「待てって!ルールは俺が決める!」

 着いて早々、魔法の打ち合いを始めそうな二人を架は慌てて止めた。これで二人に怪我でもされたら後味が悪すぎる。
「カケルが?でもどうやって?」と訝しむ二人からある程度距離を取り、背中にあるデルフリンガーを抜いた。そして、地面に突き刺し、

「『模倣(フェイク)開始(オン)』」

 と呟く。すると架の両サイドに架と同じくらいの背丈の泥人形が出来上がった。

「おお、スゲェな相棒!こんなの初めて見たぜ!」
「それってギーシュの・・・でもアンタ」
「この錬成魔法はまあ便利そうだったからな。昨日改めてギーシュに見せてもらったんだよ。」

 架の「模倣」の魔術は日が経つと共にその力は弱まるが、同じものをもう一度見ればその弱体化はリセットされ、また何度も見れば弱体化のスピードも遅くなる。人間の記憶とほぼ同じである。
 余談だが、見せてもらったはいいものの、「あんな美しくないものが僕のワルキューレの真似だなんて認めない!」と怒られてしまった。まあ無理もないか・・・。

「いいか、ここに泥人形が二体いる。それぞれが一体ずつ魔法で狙ってどちらが先に倒せるかってことでいいだろう。因みに、見た目は唯の泥だけど、俺の魔力で多少強化している。生半可な攻撃じゃ倒せないぞ。」

「いいわよ、それで!」
「うふ、私にかかれば一発で終わらせてあげるわ!」

 そして勝負は始まった。
 魔法を繰り出したのはルイズが先であった。が、まあ予想はこの場の全員がしていたのだが、結果はドゴンッと爆発。しかも当たったのは泥人形ではなく、何故か背後の本塔の外壁、しかもかなり高いところだった。心なしか泥人形も「?」という顔をしているような気がした。




植え込みに身を潜めていたフーケは緊張の真っ只中であった。何せ彼女が隠れていたのは架と名乗るあの使い魔がつくり出したゴーレムのすぐ近くであったからだ。あの二人が魔法を繰り出せばその余波で自分にも危害がでるかもしれない。かといって、今から場所を移動しようにも確実にあいつらの視界に入ってしまう。ともかく直ぐに終わってしまうことを願うばかりであった。
開始一発目に繰り出した魔法は外れ、近くの外壁が爆発した。危なかった~、と密かに安堵の息を漏らすフーケであったが、爆発した外壁にヒビが入っているのに気付いた。

「な、何て威力だい!?あの壁に一発でヒビを入れるなんて・・・!?」

 だが願ったり叶ったりである。このチャンスを逃すわけにはいかない。フーケは呪文を呟き、地面に手を置いた。





「な、何だこりゃ!!?」

 目の前の光景に架は驚愕の声を上げた。現れたのは30メイルは超える巨大なゴーレムであった。ゴーレムはゆっくりと本塔へ向き直るとその巨大な拳を振りかぶった。
 外壁を壊す気か!?とにかく皆の安全確保を!とルイズたちの方へ向くと、

「あはははは!ルイズ、どこを狙って打ってるのよ!?思いっきり外してるじゃない!」
「う、うるさいわね!あなただって一発で終わらせるって言ったくせに泥人形は少し焦げただけじゃない!?」
「む・・・す、少し火の加減をし過ぎただけよ!次で決めてやるんだから!」
「お前らーーーー!!!何やってんだ!!!少し周りを見ろーーーー!!!」

 状況を理解してない、というか状況を無視しているといっても良かった。二人はまだ言い争いを続けており、それを見た架の方でも何かが爆発したように大声を上げた。

「何よカケル!少し黙って・・・」
「ちょっとダーリン!うるさいって・・・」

 こちらに抗議をしようとしたところでようやく事態に気付いたようであった。二人とも目の前のゴーレムに唖然としている。そんな二人に架は駆け寄り「ちょっと失礼!」と言った。

「きゃっ!?」「えっ!?」

 小柄なルイズを右腕で抱え込み、自分よりやや背の高いキュルケの手を左手で握り、その場から離れるべく一気に駆け出した。二人が何か言っているようだけど聞いている場合ではない。あのゴーレムの狙いが壁を壊すことならここは危険すぎる。一刻も早く離れる必要があった。

「乗って。」  「っ!タバサか!」

 上空から声が聞こえたと思ったら架たちの前に青い竜が舞い降りた。タバサの使い魔である風韻竜、シルフィードだ。
 タバサに手伝ってもらいまずは二人をシルフィードに乗せた。二人とも妙に顔が赤いが、それも気にしてられない。
 最後に架が飛び乗り、シルフィードが飛び立つのとゴーレムの拳が壁を打ち砕くのはほぼ同時だった。
幸い間に合ったようで、壁の破片が辺りに飛び散る前に一向は上空に避難することに成功した。

「一体、何が・・・?」「土くれのフーケ。」

 ルイズの呟きにタバサがポツリと答えた。その時、ゴーレムが開けた壁の穴から誰かが出てくるのが見えた。フードを被ったその姿は、架とルイズが昼間見たチラシの人物に間違いなかった。
 フーケは四角い箱を抱えておりそのままゴーレムに飛び乗った。一瞬チラリとこちらを見るが、すぐにゴーレムに指示を出す。
 ゴーレムがゆっくりと学院の外へ撤退していくのを架たちはただ見ていることしか出来なかった。
 
 

 
後書き
 タバサとシルフィード、そしてデルフリンガーが登場しました。これで初期の架の身の周りの人物は大方出てきたと思います。

 次回、久々の戦闘シーンです。(ゴクリ)
 
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