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【短編】遊戯王ARC-V -舞網市、激闘につき-

作者:蓮夜
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決闘の食堂

 
前書き
※未OCGカード多め、注意 

 
 舞網チャンピオンシップ、一回戦――ユース行きを賭けた戦いは、止まることなくまだまだ続く。また別の会場では、さらなる戦いが行われようとしていた。

『さーぁて、この第三スタジアムでも、まだまだデュエルは続いていくぞぉ!』

 司会者のニコ・スマイリーの声も相変わらずに響き渡る。しかし、その声がうるさいと感じることもないほどに、スタジアムも満員御礼だった。特に女性客、親子連れの多いそのスタジアムに、二人のデュエリストが入場する。

『まずは主婦から大人気! 霧隠料理塾の茂古田未知夫選手の入場だー!』

 スタジアムにいる女性客の黄色い喚声と煙とともに、自他ともに認める天才料理人、茂古田未知夫――ことミッチーが現れる。その白い歯をキラリと光らせながら、スタジアムの『お客様』に慣れた様子で手を振っていく。

『対するデュエリストは、LDSアメリカ校からの総合コース留学生、バーグ選手!』

 逆のスタジアムから現れたのは、LDSが誇る世界中の支部の一つである、アメリカ校からの留学生だった。黒色の巨漢、という言葉が相応しい外見を惜しげもなく見せびらかしながら、ズンズンとスタジアムの中に入っていく。観客に小さく手を振るミッチーとは対照的に、彼は未知夫のみをギラギラとした目つきで睨みつけていた。

 今回のジュニアユース大会には、世界中のLDS支部から留学生が参加している。シンクロコース、エクシーズコース、融合コース、総合コース。四つのコースの成績優秀者が、LDS本校のそれそれのコースのトッププレイヤーとともに、このジュニアユース大会に出場しているのだ。

 そして、LDS本校の総合コース出場者、沢渡シンゴと並び総合コースの代表として出場しているのが、このアメリカ校代表の巨漢――バーグという男だった。

「茂古田未知夫……クッキングデュエルの使い手だったな」

「はい。お茶の間の料理人こと、あなたの茂古田未知夫です」

 LDSの生徒として警戒しながらも、笑顔を見せて未知夫はバーグへと握手を申し込む。しかし、バーグはその手を一瞥したのみで背を向けると、握手の代わりに一言だけ言い残す。

「お前のクッキングデュエルは俺のものには及ばない。覚えておけ」

「へぇ……楽しみにしておくよ」

 その糸目をさらに細めながら、未知夫も不敵にニヤリと笑う。二人とも握手せずに所定の位置につくと、司会のニコ・スマイリーがデュエルを進行する。

『さあて、両者の準備が整ったところで、アクションフィールドのセットとなります!』

 試合をする二人や観客といった、スタジアムにいる全ての人物がどんなアクションフィールドがくるか待ちわびる。ニコ・スマイリーはその状況を作りだすため、一瞬自らの台詞を溜めた後にアクションフィールドをセットする。

『ここだ! アクションフィールド《決闘の食堂》!』

 ニコ・スマイリーの一声により、スタジアムが徐々にアクションフィールドへと変化していく。観客が大量にいたデュエルスタジアムから、どこかの学校の食堂のような場所へと。もちろんただの食堂ではなく、そこにある物体の大きさは規格外であり、さしずめ二人のデュエリストは小人のようだった。

『アクションフィールド《決闘の食堂》は、ドロー効果を持つアクションマジックが多いフィールド。ただし、それぞれ特徴的な効果を持つので、ただ考えなしに取ってしまっては、自らの首を絞めるのみ、だぁ~!』

 ニコ・スマイリーの観客向けのアクションフィールドの説明を聞き流しながら、未知夫は内心ほくそ笑んでいた。彼も伊達にクッキングデュエリストと呼ばれている訳ではなく、このフィールドのことはもちろんよく知っていた。

『戦いの殿堂に集いしデュエリストたちがぁ~!』


 この戦い、相手がLDSだろうと勝機はある――とまで考えたところで、未知夫は気づいた。

『モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い!』

 対戦相手のバーグも、このアクションフィールドを眺めるどころか、今の自分と同じようにニヤリと笑っているということを。クッキングデュエリストを名乗る自分相手に、このアクションフィールドで、だ。

「フィールド内を駆け巡る!」

 もしや対戦相手のバーグも、このアクションフィールドのことを知っているのか。いや、知っているだけではなく。

『見よ、これぞ、デュエルの最強進化形、アクション――』

「デュエル!」

バーグLP4000
未知夫LP4000

 そして、デュエルの開始が宣言されたのと同時に、その場からすぐに走りだした……双方ともに。

『おおっと! 両者ともに、いきなりアクションカードを手に入れるために走りだした!?』

 その迷いなきバーグの行動を見て、未知夫はやはりと確信する。敵もまた、このアクションフィールドのことに詳しいということを。それはつまり、バーグは――

「俺は《プリベントマト》を召喚!」

 ――未知夫と同じく、クッキングデュエリストだということだ。

『先攻はバーグ選手! 召喚したモンスターは……トマト?』

 バーグが召喚したモンスターは、アメフトに使うようなヘルメットを被ったトマトであり、バーグはそれを踏み台にして机からキッチンへと跳んでいく。遅れて未知夫もキッチンへと辿り着くが、その時には既にバーグの手には一枚のアクションカードが握られていた。

『バーグ選手、早くもアクションカードをゲット!』

「ふん……アクションマジック、《決闘握り飯》を発動! このターンのバトルフェイズを封じることで、デッキから魔法カードを加えることが出来る。俺は《ミックス・スパイス-ガラムマサラ》をサーチ」

 バトルフェイズをスキップするというデメリットはあるが、先攻1ターン目ならばどの道関係はない。そして未知夫だけではなく観客も、バーグが使用した《プリベントマト》、《ミックス・スパイス-ガラムマサラ》というカードから、このデュエルがクッキングデュエリスト同士の対決だということに気づく。

「今サーチした《ミックス・スパイス-ガラムマサラ》を発動! デッキからマジック・スパイスを三枚、手札に加えることが出来る」

 黄色いスパイスが宙を舞うと、新たなスパイスがバーグの手札に加えられる。その数は驚異の三枚であり、さらにバーグの展開は続く。

「さらに、サーチした《マジック・スパイス-キャラウェイ》を発動! 自分のライフを200回復し、相手のライフに200ダメージを与える。……それを三枚!」

 黄色いスパイスに続いて、緑色のスパイスが宙に舞う。バーグと未知夫のどちらにも平等に降り注いだものの、未知夫に降り注いだスパイスは、爆発するかのような勢いで未知夫を吹き飛ばした。

「うっ……!」

バーグLP4000→4600
未知夫LP4000→3400

「スパイスの取り扱いは気をつけないとなぁ。カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「僕のターン……」

 《マジック・スパイス-キャラウェイ》で吹き飛ばされた態勢を整えながら、未知夫はドローすべくデッキの上に手を置いた。それと同時に、先程のバーグの――お前のクッキングデュエルは俺のものには及ばない――という言葉を思い返す。

 自分のデッキにはクッキングデュエルなど、という意味かと未知夫は考えていたが、クッキングデュエリストとして自分が上だ、という意味だったらしい。

『さあ、海外の同門に対し、未知夫選手はどう立ち向かうのかー!』

「フフッ……決まってるさ。ドロー!」

 思いがけないクッキングデュエリスト同士の対戦に、嬉しく顔を綻ばせる。しかし、誰が相手だろうと未知夫がやることは変わらない。

「では、おもてなしの前には下ごしらえだね。通常魔法《食券乱用》を発動! デッキからRCMを二枚、手札に加える」

 バーグの《ミックス・スパイス-ガラムマサラ》と同じく、一枚の魔法カードで破格のサーチ。未知夫の切り札であるRCMモンスターが手札に加えられるが、《食券乱用》の効果で手札に加えられたモンスターは、フィールドに出すことが出来ないというデメリットを持つ。

「そして次は、料理の神を呼び込む。《神の居城-ヴァルハラ》を発動!」

 未知夫の背後に巨大な門が出現すると、その門が開き料理の神――ならぬ、未知夫のモンスターが特殊召喚される。

「《神の居城-ヴァルハラ》の効果を発動。フィールドにモンスターがいない時、天使族モンスターを特殊召喚出来る。《CM ライオニオン》!」

 未知夫のデッキの主力モンスター群、CMの一種であるライオニオンがヴァルハラから現れる。かの百獣の王をモチーフにしたモンスターであるが、その外見からは何の威厳も感じられず、守備表示での登場だった。

「ふん、料理の世界に神頼みなどあるものか」

「祈るだけなら料理と違ってタダさ。その証拠に!」

 未知夫はそのかけ声とともに、ヴァルハラからキッチン器具入れに飛び降りると、しゃもじの裏側に貼ってあったアクションカードを入手する。

「こんな風に偶然助けられることもある。アクションカード、いただきます」

 《神の居城-ヴァルハラ》という高所からのみ見れる、巨大なしゃもじの裏側という場所にあったアクションカードを入手する。一瞬だけアクションカードの効果を確認すると、すぐさまその効果を発動する。

「アクションマジック《シンクロ弁当》を発動! 自分フィールドのカードを一枚墓地に送ることで、このターン発動した魔法カードの数だけ、カードをドローする。《神の居城-ヴァルハラ》を破壊し、二枚ドロー!」

 しかして次のターンには、《神の居城-ヴァルハラ》はアクションマジックのコストに消える。そしてキッチンの上にて、未知夫とバーグが正面から相対することとなった。

「僕はさらに《CM タマゴング》を召喚し、カードを二枚伏せて下ごしらえを終わるよ」

「俺のターン、ドロー!」

 卵にオニオンと、トマトがキッチンの上で対峙する。それだけ聞くと何とも間抜けな字面だが、戦うクッキングデュエリストの二人には、どちらも闘志が見て取れた。

「俺は《ミックス・スパイス-ガラムマサラ》を発動! 再び、デッキから三枚のスパイスを手札に加える」

 バーグはひとまず、再び《ミックス・スパイス-ガラムマサラ》で三枚のスパイスを手札に加えるが、それからの手に少し行き詰まる。未知夫のフィールドにいる攻撃力0のモンスター、《CM タマゴング》を狙いたいところだが、守備表示で特殊召喚された《CM ライオニオン》は攻撃対象をライオニオンに限定する効果がある。その守備力は下級アタッカークラスの1800と、大した数値ではないものの、攻撃力が低いクッキングモンスターでは対処は困難だ。

 さらに未知夫の場にある二枚の伏せカード。攻撃力0のモンスターを攻撃表示と、罠だと言わんばかりであるが……それでも、バーグは攻めることを宣言する。

「俺は《マジック・スパイス-シナモン》を発動! 自分のモンスターを守備表示にすることで、相手のモンスターを攻撃表示にする!」

 黄色、緑色に続いて白色のスパイスがフィールドに舞い、バーグの《プリベントマト》が守備表示になると、未知夫の《CM ライオニオン》が攻撃表示になる。これで攻撃抑制効果を持つ《CM ライオニオン》は突破出来るが、スパイスコンボはまだまだ続く。

「さらに《マジック・スパイス-レッドペッパー》を二枚発動! 相手のモンスターの攻撃力を300ポイント下げ、俺のモンスターの攻撃力を300上げる!」

 その赤色のスパイスが二枚――よって、未知夫のモンスターの攻撃力は600ポイントダウンし、バーグの《プリベントマト》の攻撃力は600ポイントアップする。これで未知夫のフィールドにいるモンスターは、攻撃表示にもかかわらず、その攻撃力は0。

「《プリベントマト》を攻撃表示にし、続いて《トマトルーパー》を召喚!」

 《プリベントマト》はまだ表示形式を変更していないため、このターンの表示形式の変更は可能だ。さらに二体のCMに追撃を食らわせるべく、トマトの兵隊《トマトルーパー》が召喚される。

「品物の準備が終わったら、次は水洗いだね」

「何?」

 そんなフィールドを冷静に眺めながら、未知夫はふとそんなことを呟いた。品物を準備し終われば、次は入念な水洗い――下ごしらえはそれで終わる。

「水洗い入りまーす! 《激流葬》!」

 未知夫のその罠カードの発動とともに、キッチンの蛇口から勢いよく水が発射される。それは水鉄砲のように二人の前を横切ると、フィールドにいた食材をまとめて流していった。

「ついでに君の分も洗っておくよ」

「そいつはありがたいな……! 破壊された《トマトルーパー》の効果を発動!」

 墓地に送られた《トマトルーパー》が光りだし、バーグはデッキからさらに《トマトルーパー》を手にかざす。

「《トマトルーパー》は破壊された時、デッキからさらなる《トマトルーパー》を特殊召喚する!」

「ならばこちらも、破壊された《CM タマゴング》の効果を発動! 手札か墓地から同名モンスターを特殊召喚出来る!」

 トマトの兵隊たちが攻撃表示で特殊召喚されると同時に、中に何かが入った卵が守備表示で特殊召喚される。ダイレクトアタックで先制を取れるか、と思っていたバーグは、《CM タマゴング》の登場に舌を巻くが、それは表情にださずに《トマトルーパー》に攻撃を命じた。

「《トマトルーパー》、《CM タマゴング》を攻撃しろ!」

 トマト型の槍を持った兵隊の突進に、《CM タマゴング》はなすすべもなく破壊されてしまう。しかし、墓地から同名モンスターを復活させる効果を使う様子はなく、未知夫のフィールドはがら空きのままだ。

「……ターンエンド」

 バーグは、そんな未知夫の様子にどこか嫌な予感を感じながらも、打つ手はなくそのままターンを終了し――

「せっかく海外からおもてなしを受けにきたんだから、全力でもてなさないとね」

 ――その予感は的中する。

「君のエンドフェイズ、僕はもう一枚の伏せカード《食罪庫》を発動する!」

 未知夫のクッキングデッキのキーカードの登場に、観客からは喚声があがる。その冷蔵庫のような物は、未知夫の背後にそびえ立ち墓地から三体の『CM』を回収すると、自身の中へ入れていった。

「《食罪庫》の発動時、そのターンに破壊された《CM》たちを回収し、その数だけデッキから《CM》を手札に加えることが出来る。さあ……おもてなしは、これからだ!」

 勇ましい――誰かの影響を受けているような――かけ声とともに、未知夫は自信満々にカードをドローする。その大量にある手札を吟味しながら、『おもてなし』は開始される。

「僕は永続魔法《ワンダー・レシピ》を発動! 《食罪庫》が回収したモンスターの数だけ、手札から《RCM》を特殊召喚出来る! さあて、オーダー入りまーす!」

『出たぁ! 未知夫選手のクッキングコンボ、だぁっー!』

 《ワンダー・レシピ》と《食罪庫》。二枚のカードの効果によって、未知夫のデッキの切り札である『RCM』たちが三体、キッチンに特殊召喚される。

「ご紹介に預かりましたクッキングコンボ――《RCM プリンス・カレー》、《RCM キング・ハンバーグ》、《RCM プリンセス・プリン》!」

 かくして最上級モンスターが三体、あっさりとフィールドに並ぶ。そのステータスは下級モンスターにすら及ばず、攻撃力は僅か300ポイントしかないものの、見た目通りの性能ではないことはバーグも理解していた。

「まずは永続魔法《ワンダー・レシピ》の効果を発動。この効果で特殊召喚されたモンスターの数、×300ポイントのおもてなしを与えよう!」

「くっ……墓地から《プリベントマト》を除外することで、その効果ダメージを無効にする!」

 おもてなしの手始めとして、《ワンダー・レシピ》によるバーンダメージが発生するが、それは墓地からのモンスター効果で上手く防ぐ。《プリベントマト》が八体に増殖し、《ワンダー・レシピ》から放たれたエネルギー波を弾き返したのだ。

「おや残念。ならば通常魔法《アームズ・ホール》を発動! このターンの通常召喚を封じることで、デッキから装備魔法《団結の力》を加え、《RCM プリンス・カレー》に装備!」

 永続罠《食罪庫》のデメリット――《食罪庫》に回収したモンスターの数以上のモンスターを召喚すると自壊する――と、そもそも通常召喚に向かないRCMを擁する未知夫にとって、通常召喚を封じられてもまるでダメージはない。デメリットを無視した《アームズ・ホール》によって、揚々と《団結の力》を手札に加えると、《RCM プリンス・カレー》に装備する。

「さらにRCMたちの効果を発動。自身の攻撃を封じることで、他のRCMの元々の攻撃力を倍にできる!」

 当然その効果を発動するのは、キング・ハンバーグとプリンセス・プリン。《団結の力》を装備した《RCM プリンス・カレー》に二体分の力を与え、最終的にその攻撃力は3600にまで達する。

「フィールドを舞うスパイスの力も借りた、ピリ辛ハンバーグカレーの完成です。デザートにはプリンもつけて」

「くうっ……!」

 自らが使ったスパイスすらも利用し、未知夫が完成させたピリ辛ハンバーグカレーに対し、バーグのフィールドにいる《トマトルーパー》はあまりにも非力。無意識にジリッ、と足を後方に下がらせてしまう。それを見た未知夫は糸目をさらにニヤリと笑わせると、ピリ辛ハンバーグカレーに攻撃を命じる。

「さあ、おあがりよ! 《RCM プリンス・カレー》で、《トマトルーパー》に攻撃!」

 スパイスだけではなくトマトをも飲み込まんと、プリンス・カレーがトマトルーパーに迫る。バーグは後ずさる自分の足を堪えると、冷静に自分のとれる状況を見いだした。

「リバースカード、《コーンなバカな》を発動! このカードは、攻撃力2500以上の相手モンスターが攻撃してきた時に発動出来る!」

 バーグの罠カードの発動とともに、その背後にあった冷蔵庫が勢いよく開くと、巨大なトウモロコシが飛翔してきてプリンス・カレーの前に立ちはだかった。

「デッキから《ジャイアント・タコーン》を特殊召喚し、攻撃してきた相手モンスターと強制的に戦闘する!」

 タコとトウモロコシを合成したような、巨大な食材型の怪物がバーグのフィールドに特殊召喚される。自分のフィールドの植物族モンスターの攻撃力分、自身の攻撃力をアップする効果を持つ……が、その効果が活かせない守備表示での登場となった。

「関係ないねぇ。プリンス・カレーの攻撃を続行!」

 攻撃表示にしたところで、《RCM プリンス・カレー》の圧倒的攻撃力には適わない。その守備力も2500と耐えられる数値ではなく、大げさに登場した《ジャイアント・タコーン》だったが、《RCM プリンス・カレー》の前にあっさりと破壊された。

 ――だが、それもバーグの計算内である。

「アクションマジック《スペシャル・サーモン・サモン》を発動!」

「アクションマジック!?」

『おっとバーグ選手、いつの間にかアクションマジックを手にしていたぁー!?』

 対面していた未知夫どころか、ジャッジの役割を兼ねているニコ・スマイリーの目すらも欺き、手札に隠していたアクションマジックを発動る。手に入れたタイミングは未知夫が発動した、蛇口から流れていた《激流葬》の際――どうやら蛇口の裏側に隠れていたらしく、激流に混じっていたアクションマジックを目ざとく取得していたのだ。

「モンスターが戦闘破壊された時、そのモンスターを除外することで、相手モンスターと同じ攻撃力の《サーモントークン》を特殊召喚する!」

 プリンス・カレーに破壊された《ジャイアント・タコーン》が再構成されていき、立派なサーモンになって再びフィールドに舞い戻る。その攻撃力は《RCM プリンス・カレー》と同じ3600。

「飛んで火に入るお客様、ご来店! 《RCM プリンセス・プリン》の効果を発動!」

 それでもキッチンは未知夫の手のひらの上。デメリット効果により攻撃に参加出来ないプリンセス・プリンだったが、そのフリーチェーンの効果は発動出来る。

「RCMたちは自身を手札に戻すことで、召喚された相手モンスターを破壊することが出来る!」

 『RCM』たちの共通の効果は2つ。自身の攻撃を封じる代わりに、RCMモンスターの攻撃力を倍にする効果。相手モンスターの召喚・特殊召喚時、自身を手札に戻すことで、その相手モンスターを破壊する効果。

 罠カード《コーンなバカな》による《ジャイアント・タコーン》の特殊召喚は、強制的に戦闘させるまでが効果処理のため、その効果を割り込んで発動させることは出来なかった。だが、今回は《RCM プリンセス・プリン》の第二の効果が発動し、召喚された《サーモントークン》はすぐさま破壊される。

『茂古田選手のコンボの炸裂! さらに次のターン、《ワンダー・レシピ》に繋げるための素材となります!』

 ニコ・スマイリーの言う通り、《食罪庫》と《ワンダー・レシピ》の二枚がある限り、RCMたちは手札に戻されようが何の損失もない。むしろ、《ワンダー・レシピ》によってバーン効果の素材になるのでお得なほどか。

「僕のおもてなし、喜んでくれたかい?」

 《サーモントークン》からタコとトウモロコシが爆発四散するなか、未知夫はそう言ってバーグに笑いかけるが、バーグはもうそこにはいなかった。

『おっとバーグ選手、すぐさまアクションカードを取りに行っている! サーモントークンはただの目くらましだったようです!』

 ニコ・スマイリーの言った通り、バーグは生き残った《トマトルーパー》とともに、もう既にキッチンを走り抜けていた。未知夫の方を見ることはなく、《トマトルーパー》とともに、先程《激流葬》から流れた蛇口の水場までたどり着いていた。

「僕のおもてなしを受けないとは……カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 未知夫からバーグのターンへと移行するとともに、未知夫もRCMたちに乗ってバーグがいる水道へと飛翔する。アクションカードの奪い合いになる、と覚悟していた未知夫の前に、突如として巨大なカレー鍋が出現した。

「永続魔法《カレー・ポット》を発動! お前はそこで立ち往生していろ!」

「くっ……」

 流石に立ち往生することはないものの、巨大なカレー鍋を前に未知夫は回り道を余儀なくさせる。その隙にバーグは水場へと飛び降りながら、新たなモンスターを召喚していた。

「俺は《トマトマトリョーシカ》を召喚!」

 さらに現れるのは、ロシアの民芸品ことマドリョーシカのような形をしたトマト。ステータスはやはり下級以下なものの、優秀な効果を持っている。

「…………」

 その効果を自身も知っているが故に、未知夫はRCMたちの効果の発動を見送った。もはや召喚に成功してしまった以上、《トマトマトリョーシカ》の効果を止めることは、二体のRCMたちに出来ることではない。

「《トマトマトリョーシカ》は召喚に成功した時、デッキから同名モンスターを特殊召喚出来る! 来い、《トマトマトリョーシカ》!」

 フィールドにいる《トマトルーパー》のように、この《トマトマトリョーシカ》も同名モンスターの展開効果を持つ。マドリョーシカのように小さなトマトから中から現れ、バーグのフィールドには三体のトマトが並んでいた。

 さらに、その三体のトマトがスケボーのように連なると、トマトスケボーに着地し水場を滑っていく。《激流葬》によって流れた水によって、水場はとても滑りやすくなっていた。先のアクションマジック《スペシャル・サーモン・サモン》が《激流葬》で流れてきたのならば、まだ《激流葬》によって中途半端に流れたアクションカードがあるはず――と、バーグは考えていた。

『バーグ選手、トマトに乗った高速移動を披露しております!』

「くっ……」

 バーグのその目論見は正解だった。《カレー・ポット》での回り道を乗り越えてきた未知夫が見たのは、水場から空中でくるくると回転しながら、自身の前に着地するトマトの姿だった。

「アクションカード、ゲット!」

 空中のトマトスケボーから十点間違いなしの着地を決めながら、自身が手に入れたアクションカードを見せびらかすように未知夫に見せた。早速、そのアクションカードの発動――と思いきや、手札にあった別の魔法カードをディスクにセットする。

「《ミックス・スパイス―ガラムマサラ》を発動! 三枚のマジックスパイスを手札に加え、そのまま三枚ともフィールドにセット!」

 発動したのは三枚目となる《ミックス・スパイス―ガラムマサラ》。しかし、手札にサーチしたマジックスパイスは発動せず、三枚ともセットするという行動にでた。もちろん、マジックスパイスという名前の通り、手札に加えたスパイスたちは全て魔法カードであり、伏せても特に意味はない。速攻魔法ならばともかく、通常魔法ならばなおさらである。

 ならば、今しがた手札に加えた、アクションマジックに関係することに違いない。

「アクションマジック《レッド・デーモンズ・ヌードル》を発動! 自分フィールドのカードを好きな数だけ墓地に送ることで、その数だけカードをドローすることができる!」

「それで、何枚選ぶ気だい?」

 大量のドローを可能とするものの、そのリスクも多大なアクションマジック《レッド・デーモンズ・ヌードル》。三枚のマジックスパイスを伏せたのはこのためらしく、今のバーグのフィールドにはトマトが三体、カレー鍋が一つ、スパイスが三種と七枚のカードが存在する。かと言って、ここで七枚など宣言してしまえば、未知夫の前で立て直すことは困難を極める。

「……六枚だ!」

『おーっとバーグ選手、ここで賭けにでたぁー!』

 それでもバーグが選択するのは、六枚のカード――三体のトマトと三種のスパイス――であり、合計六枚のカードを一斉にドローすることに成功する。《トマトルーパー》は破壊された時、という効果発動トリガーのため、このアクションマジックでは効果は発動しない。

 そしてその六枚のドローにより、お互いに盤面が動き始めた。墓地に送られたマジックスパイス三種は、それぞれ色とりどりのスパイスを中空に舞わせ、トマト三体はカレー鍋へと吸収されていく。

「《カレー・ポット》の効果。お互いのモンスターが墓地に送られた時、そのモンスターを除外する」

「それはもったいない。こちらもリバースカード、《食糧保存の法則》を発動!」

 未知夫が発動したのは、通常罠カード《食糧保存の法則》。その発動トリガーは相手がカードをドローすることであり、奇しくも賭けにでた《レッド・デーモンズ・ヌードル》によって、未知夫もカードを発動することとなる。

「相手がドローしたカードの枚数分、デッキから『CM』モンスターを《食罪庫》に置く」

 よって、六枚のCMモンスターが《食罪庫》へと収納される。収納されたCMモンスターは合計九枚となり、次のターンに、未知夫は五体のRCMモンスターを特殊召喚出来ることとなった。

「おひねり、慎んでいただきます」

「……だが、俺はこのカードを引かせてもらった! 儀式魔法《高等儀式術》を発動!」

 総合コースに統合されている召喚方法こと、儀式召喚。その総合コースの留学生であるバーグは、当然ながら儀式召喚をマスターしている。

「手札の儀式モンスターと同じレベルとなるように、デッキから通常モンスターを墓地に送ることで、儀式召喚を執り行うことが可能となる!」

「へぇ……」

 この舞網市でも比較的珍しい儀式召喚に、未知夫はニヤリと笑ってその召喚を見守った。デッキから二枚の通常モンスター――《ポテトマン》と《タマネギマン》という、どちらもレベル3のモンスター――を墓地に……いや、《カレー・ポット》の中へ消えていく。《カレー・ポット》の効果により、素材は墓地にいかずに除外されるが、問題なく儀式モンスターは降臨する。

「集いし食材たちよ! 今交わりて料理の王とならん! 儀式召喚、出でよ! 《ハングリーバーガー》!」

 そして降臨するジャンクフードの王様――《ハングリーバーガー》が、バーグのフィールドへと降りたった。

「《RCM キング・ハンバーグ》の効果を発動! このカードを手札に戻すことで、相手が召喚したモンスターを破壊する!」

 しかしそこで待っているのは、未知夫のRCMモンスターによる洗礼。召喚か特殊召喚した相手モンスターを、RCMモンスターの数だけ破壊する、と同義のその効果はもちろん《ハングリーバーガー》へと向かう。

「慌てるなよ、トッピングがまだだ! 速攻魔法《禁じられた聖衣》を、ハングリーバーガーを対象に発動!」

 煌びやかな黄金のマントが《ハングリーバーガー》を包み込むと、《RCM キング・ハンバーグ》の破壊効果を意にも介さず受け止めると、ハンバーグを奪い取ってダブルバーガーへと進化する。

「対象のモンスターの攻撃力を500ポイント下げることで、そのモンスターは効果では破壊されない! さらに《リチュアル・ウェポン》を装備!」

 未知夫の手札に《RCM キング・ハンバーグ》が戻るとともに、ハングリー・ダブルバーガーには新たな装飾品がセットされる。煌びやかな黄金の服装に加え、ナイフとフォークが料理を食べる側のようにセットされる。

「食べられるのはお前の方だ! ハングリー・ダブルバーガーでRCM プリンス・カレーに攻撃!」

 《リチュアル・ウェポン》の効果は、装備モンスターの攻撃力を1500ポイントアップさせる。それに《禁じられた聖衣》の下降分も加え、その攻撃力は3000。《団結の力》があるとはいえ、RCM プリンス・カレーが適う数値ではなく、未知夫は慌ててアクションカードを探す。

「……うっ!」

未知夫LP3400→1500

『茂古田選手に大ダメェェージ!』

 しかしてそれは間に合わず、《RCM プリンス・カレー》は破壊され、未知夫のライフは初期ライフの半分以下へと落ち込んだ。さらに《RCM プリンス・カレー》は破壊された後、バーグのフィールドの《カレー・ポット》に吸収されていき、墓地ではなく除外されてしまう。

「フッ……カードを一枚伏せ、ターン終了」

「僕のターン、ドロー!」

 これでバーグのフィールドには、《リチュアル・ウェポン》を装備した攻撃力3500の《ハングリーバーガー》に、墓地に送られるモンスターを吸収して除外する《カレー・ポット》。さらにリバースカードが一枚。そのライフは4600のまま削られておらず、余裕綽々と未知夫にターンを回す。

 対する劣勢に見える未知夫だが、そのフィールドには一枚のリバースカードに加え、彼の二枚のキーカード《ワンダー・レシピ》と《食罪庫》が存在する。先のターンの《食糧保存の法則》により、《食罪庫》に新たなカードが置かれたことにより、十全にRCMモンスターの特色を活かすことができる。その手札には五枚のRCMモンスターがおり、その効果を使えば《ハングリーバーガー》の戦闘破壊も容易い。

 しかし、《食券乱用》や《食罪庫》のサーチ効果で手札に加えたために、手札にRCMモンスターがあることはバーグも承知のはず。それでも《ハングリーバーガー》の後ろで悠々と構えているということは、当然あのリバースカードには何かある……!

「《ワンダー・レシピ》の効果を発動!」

 それでも未知夫に取れる手段は、今はRCMモンスターたちの特殊召喚しかない。《食罪庫》に置かれたモンスターの数まで……つまり、手札の五体のRCMモンスターを大量展開するべく、《ワンダー・レシピ》の効果を発動する。

「……何!?」

 ――だが、《ワンダー・レシピ》の発動は適わなかった。表側表示になっていたカードから、何やら植物の蔓のような物が延びてきており、最終的にカードに絡まって封じられてしまう。

「伏せていたカウンター罠、《コーンからがる》を発動した! 魔法か効果モンスターの、効果の発動を無効にし破壊する!」

 バーグが使用した魔法カードの発動ではなく、魔法カードの効果を無効にして破壊する――よって、通常ならば《マジック・ジャマー》などで無効に出来ないタイミングでも、《コーンからがる》ならばその効果を無効に出来る。

『茂古田選手、さらにキーカードが破壊されてしまったぁー!』

 ニコ・スマイリーの言った通りに、未知夫のRCMデッキは高火力と高い妨害能力を兼ね備えているものの、その運用は《ワンダー・レシピ》に《食罪庫》という二枚のキーカードに依存している。最初のターンで披露した《神の居城-ヴァルハラ》のように、事故率軽減のカードは投入しているものの、それはあくまでも事故率の軽減でしかない。

 そんな状況だろうと、未知夫は静かに笑っていた。

「さあ、どうする気だ?」

「悪いけど……真のおもてなしの為には、何が起きても準備は万全でね。追加メニュー《ワンダー・レシピ》、入りまーす!」

 先程《コーンからがる》の効果で破壊されたものと同じ、要するに二枚目の《ワンダー・レシピ》が姿を見せた。相手が何をしようと仕込みは万全だ、と言わんばかりに、未知夫は笑みを深くする。

『ここで二枚目の《ワンダー・レシピ》! バーグ選手に対抗する手段はあるのか!』

「対抗出来るものなら、ね。《ワンダー・レシピ》の効果、手札のRCMモンスターを特殊召喚出来る!」

 有り体に言ってしまえば、バーグの手札に対抗する手段はない。ならば、とアクションカードを手に入れるべく、《ハングリーバーガー》を伴って別の場所に向かおうとするものの、その時にはもう遅かった。

 バーグの周りは全て、未知夫のRCMモンスターたちに囲まれていたのである。

『《RCM ナイト・ナポリタン》。《RCM プリンス・カレー》。《RCM プリンセス・プリン》。《RCM キング・ハンバーグ》。《RCM クイーン・オムレツ》――全てのRCMが、ここに参上だぁぁぁ!』

「さらに《ワンダー・レシピ》の効果により、特殊召喚したRCMをの数×300ポイントのダメージだ!」

「ぐぁぁっ……!」

バーグLP4600→3100

 もはや墓地に効果ダメージを防ぐ《プリベントマト》はおらず、四方八方をRCMたちに囲まれて、身動きが取れないバーグに打つ手はない。《ワンダー・レシピ》から発せられた衝撃波を受け、アクションカードを拾った水場の近くまで吹き飛ばされる。

 その隙に未知夫は、キッチンに置いてあった炊飯器へと飛び上がっていた。その炊飯器のスイッチを《RCM キング・ハンバーグ》に押させると、炊飯器の蓋の裏にはアクションカードが貼り付いていた。

「アクションカード、いただきます」

「チィッ……!」

 バーグは妨害するか奪い返すかしようとしたものの、水場の際まで追い込まれた上に、残り四体のRCMたちの包囲網を抜けることは不可能だった。あっさりと未知夫はアクションカードを手に入れると、すぐさまデュエルディスクにセットする。

「アクションマジック《バーガーワールド》を発動! 手札を一枚捨てることで、自分のデッキからレベル4以下のモンスターカードを手札に加えることが出来る。僕は《食罪庫》を墓地に送り、《CM ヒヨコムギ》を手札に加えよう」

 しかして未知夫が引いたアクションカードは、デッキ圧縮を可能とする効果を持つものの、バーグからしたら至極どうでもいいカードだった。RCMモンスターが未知夫のフィールドに揃った今、下級CMなどに構っている暇はない。

 そんなバーグの心情を知ってか知らずか、未知夫は少しだけ笑みを浮かべた後、炊飯器から降りてバーグと対峙する。

「じゃあ、僕のおもてなしを受けてもらおうか。RCMたちの効果を発動!」

 自らの攻撃を封じ込めることで、他のRCMの元々の攻撃力を倍にする共通効果。四体のRCMたちがその力を使用すると、残った一体である《RCM キング・ハンバーグ》の攻撃力は4800にまで達する。

「僕の全てを込めたフルコース……おあがりよ! 《RCM キング・ハンバーグ》で、《ハングリーバーガー》に攻撃!」

「ぐぅぅ……!」

バーグLP3100→1800

 ダブルバーガーもフルコースの前には無力に等しく、料理するためのナイフとフォークも刃こぼれしてしまい、全く歯が立たない。結果として、《ハングリーバーガー》も未知夫のフルコースとして、一品加わってしまっていた。

「これだけじゃない。速攻魔法《神秘の中華鍋》を発動! 自分フィールドのモンスターを墓地に送ることで、その攻撃力分ライフを回復する。《RCM キング・ハンバーグ》、いただきます!」

 フルコースがさらにコンパクトにまとめられると、弁当のようになって未知夫の前に出現する。墓地に送った《RCM キング・ハンバーグ》は、その元々の攻撃力を4800としていたため、未知夫のライフは一気に4800ポイントの回復を果たす。

未知夫LP1500→6300

「御馳走様。たまには、自分の料理もいいものだねぇ」

「……《カレー・ポット》の効果により、墓地に送られた《RCM キング・ハンバーグ》は除外される」

 バーグのせめてもの抵抗か、未知夫が食べた弁当こと《RCM キング・ハンバーグ》は、《カレー・ポット》に吸収され除外される。《食罪庫》にカードが補充された今、特に墓地を利用しない未知夫は、それを気にすることはなく、淡々とデュエルを進行する。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 頼みの《ハングリーバーガー》も破壊されてしまい、残る切り札を頼みにバーグは勢いよくカードをドローする。RCMたちに囲まれ、アクションカードも取りにいけず、フィールドに残るは《カレー・ポット》のみ。

 その絶対絶命の状況で、彼がドローしたカードとは――

「俺は《ニンジンマン》を召喚!」

 ――ただの通常モンスターだった。攻撃力はRCMたちよりは高いものの、それでも1000にすら満たず、何の効果もないレベル3モンスター。……それでも、バーグは強気にそのモンスターを召喚した。

「……《RCM ナイト・ナポリタン》の効果を発動! このカードを手札に戻すことで、召喚した相手モンスターを破壊する!」

 そんなバーグの様子にただならぬ気配を感じた未知夫は、相手がただの下級モンスターだろうと、容赦なくRCMの洗礼を加えた。それでも未知夫のフィールドには、まだRCMが三体残っており、何が召喚されようが、充分に対応可能ということもあるが。

 そして意気揚々と現れた《ニンジンマン》は、即座に《RCM ナイト・ナポリタン》に破壊され、墓地ではなく《カレー・ポット》に吸収されて除外される。

「ふははは! 《カレー・ポット》の効果を発動!」

 ――それこそがバーグの狙いだった。《ニンジンマン》をRCMに破壊させ、《カレー・ポット》に吸収させることこそが。今までモンスターを除外させるのみで、何のアクションも見せなかった《カレー・ポット》がコトコトと音をたてて煮えたぎっていく。

「除外ゾーンに《ポテトマン》、《タマネギマン》、《ニンジンマン》の三体が存在する時、《カレー・ポット》を墓地に送ることで、フィールドのモンスター全てを除外する!」

「なんだって!?」

『おっとバーグ選手、まだとんでもない隠し味を用意していたぁー!』

 《ポテトマン》と《タマネギマン》は、《ハングリーバーガー》を儀式召喚するためのコストとして、《高等儀式術》によって既に除外されていた。残るは《ニンジンマン》だけ……という状況で、《RCM ナイト・ナポリタン》の効果で破壊され、遂にその三種が除外ゾーンへと揃う。そして《カレー・ポット》の蓋が吹き飛ぶと、未知夫のフィールドにいたRCMたちが全て《カレー・ポット》に吸い込まれていくと、すぐさま《カレー・ポット》が爆発する。

 渦巻く爆炎の中――破壊された《カレー・ポット》から、囚われていた1人の『魔人』が目を覚ます。

「その後、デッキからこのモンスターを特殊召喚する! 現れろ我が切り札――《カレー魔人ルー》!」

 降臨するバーグのデッキの切り札、最上級モンスター《カレー魔人ルー》。しかし、その攻撃力はRCMの300どころか、僅かにもなく『0』。もちろんそれだけではなく、《カレー魔人ルー》は、中空に浮かんでいたスパイスを吸収していく。

「このカードの攻撃力は、墓地にあるスパイスの数×200ポイント。さらに、除外されている食材の数×300ポイント! 今までのデュエルは、全てこのカレー魔人ルーを召喚するための儀式同然!」

 今までバーグが扱ってきていたスパイスと、《カレー・ポット》の効果などで除外されてきたモンスターたち、それぞれから《カレー魔人ルー》の攻撃力は決定する。墓地にあるスパイスが12枚、除外されていたモンスターの数はバーグが9、未知夫が5。

 それら全てを、じっくりと煮込んだ結果として。

「攻撃力は6600!」

『文句なしに今大会での最大火力ー!』

 《神秘の中華鍋》で回復した未知夫のライフは6300――《カレー魔人ルー》の圧倒的な攻撃力の前では、その大量のライフゲインですら何の意味もなさないほどだった。

「さらにトッピング、《ワンダー・クローバー》を発動! 手札の植物族モンスター《オヤコーン》を墓地に送ることで、《カレー魔人ルー》は二回攻撃を可能とする!」

 もはやオーバーキルとなるほどの、《カレー魔人ルー》への二回攻撃の付与。ただし、これはただのパフォーマンスという意味だけではなく、未知夫の二枚のリバースカードと、未知夫が注意深く探しているアクションカードを警戒してのこと。

「……くっ!」

 だが、未知夫の周辺には探してもアクションカードはなく、その二枚のリバースカードも攻撃を防ぐカードではなかった。あと未知夫が出来ることは、アクションカードがあることに賭け、今まで探索していなかった場所に飛び込むこと。

「させるか、バトルだ! 《カレー魔人ルー》でダイレクトアタック! クロス・スパイス・ハリケーン!」

 これ以上考えている暇はないとばかりに、未知夫が飛びだそうとした瞬間、カレー魔人ルーの攻撃が射出された。音速のスピードで発射されるカレーのルーが、未知夫が行動を起こす前に彼の元へ届く。

『ルーを相手のプレイヤーにシュゥゥゥゥト!』

「……リバースカード、《奇跡の光臨》を発動! 除外ゾーンから天使族モンスター《RCM クイーン・オムレツ》を特殊召喚!」

 未知夫の二枚の伏せカードのうち一枚が発動し、音速のルーの前に除外されていたRCMモンスターが特殊召喚された。RCMといえども、その攻撃力は300ポイントであり、攻撃力6600を誇る《カレー魔人ルー》の前に壁として出したところで、未知夫のライフがジャストキルになるのみ――という訳でもない。

『除外ゾーンのモンスターが減ったことにより、《カレー魔人ルー》の攻撃力は300ポイントダウンします!』

 未知夫の除外ゾーンからモンスターが特殊召喚されたことにより、《カレー魔人ルー》の攻撃力は300ポイントダウンして6300ポイント。どちらにせよ規格外な数値には変わりはないが、《RCM クイーン・オムレツ》の壁と合わせて、未知夫のライフはギリギリ残る。

「うわぁぁぁ!」

未知夫LP6300→300

 《RCM クイーン・オムレツ》は一瞬にして溶解し、未知夫に灼熱のルーが炸裂する。そこからキッチンの上で二次爆発を起こし、アクションフィールドが爆散していく。もはやフィールドは煙で見えず、未知夫の姿はどこにもない。

『もももも茂古田選手は無事でしょうか?』

 司会のニコ・スマイリーや、未知夫のファンの観客が未知夫の無事を確認しようとするが、対戦相手のバーグのみは違った。

「煙に紛れてアクションカードを取るか、姑息な手を……」

 未知夫の無事など最初から確信している。それでも自分の前に出てこないならば、逆転のためのアクションカードを手に入れているに違いない、と考えに至る。

「《カレー魔人ルー》の第二の攻撃――!?」

 ならばアクションカードを手に入れるより早く、《カレー魔人ルー》の第二の攻撃で自らの勝利を確定させれば早い、と攻撃を命じる。……命じた――瞬間、バーグは気づいた。自分の傍らにいた筈の《カレー魔人ルー》が、フィールドのどこにもいないということを。

「悪いけど、アクションカードを取りに行く必要はもうないよ」

 その声とともに、爆炎の中から未知夫が静かに歩いてくる。服には少しばかり焦げ痕がついているものの、煤を払いながら悠然とバーグの元へ歩みよっていく。

『茂古田選手、無事なようです!』

『ミッチー!』

『ミッチィ!』

「……何をした」

 ファンからの安堵したような声援と、バーグの自らのエースをどうしたのかという疑問の声が、観客の声援へと手を振って応える未知夫の元へ届く。

「おもてなしを受けるにはドレスコードも必要だからね。伏せていた罠カード《門前払い》を発動していたのさ」

 未知夫が《カレー魔人ルー》の戦闘前に発動させていたのは、永続罠カード《門前払い》。バーグの切り札である《カレー魔人ルー》は、気づかぬうちにバーグの手札へと帰還していた。

「戦闘ダメージを与えたモンスターは、手札に戻ることになるのさ」

「……ターンエンドだ」

 もう《ニンジンマン》を通常召喚したターンのため、勝利を逃したバーグに、このターンに出来ることは何もない。潔くターンを終了し、未知夫へとターンを移行する。

『茂古田選手、なんとか首の皮一枚繋がったぁー!』

「そうだな……首の皮一枚だ。RCMがほぼ除外された今、お前に勝ち目はない!」

 確かにバーグの言う通り、頼みのRCMたちは《カレー・ポット》の効果でほとんど除外されており、残るは先のターンに効果を発動し、手札に戻っていた《RCM ナイト・ナポリタン》のみ。

「それはどうだろうねえ?」

「何だと?」

「僕のおもてなしは、もうすぐ完了するってことさ。ドロー!」

 それでも未知夫は、大胆不敵にもそう言ってのけると、ドローしたカードをチラリと見ると手札に残し、手札にあったカードをデュエルディスクにセットする。

「さあ出番だ! 《CM ヒヨコムギ》!」

 そして召喚されたのは、麦袋に身体をすっぽりとはめたヒヨコ型モンスター。先のターンにアクションカード《バーガーワールド》によって、デッキからサーチされていたモンスターであり、とてとてとキッチンの周りを走り回る。

「そんな攻撃力100のモンスターで……」

「確かに、ヒヨコムギはただの下級モンスターだ。だけど、そこに『一工夫』することで、至高のおもてなしへと進化する!」

 バーグの言う通り、鳴り物入りで召喚された《CM ヒヨコムギ》の攻撃力はたったの100。しかし、そう発言したバーグでさえ、油断する気は毛頭ない。RCMたちや《カレー魔人ルー》と、クッキングモンスターの元々の攻撃力とは不釣り合いな高火力は、誰よりも承知しているからだ。

「バトルだ! 《CM ヒヨコムギ》でダイレクトアタック!」

「くっ!」

バーグLP1800→1700

 走って勢いをつけた《CM ヒヨコムギ》の体当たりを受け、バーグはガードしたものの、完全に衝撃は緩和出来ずに後ろへ弾き飛ばされる。攻撃前に何かくるかと思っていたが、何もなかったことに内心驚きながら、バーグは次の未知夫の行動を観察する。

「戦闘ダメージを与えたことにより、永続罠《門前払い》の効果を発動。そのモンスターを手札に戻す」

 たかが100とはいえダメージはダメージ。バーグにダイレクトアタックした《CM ヒヨコムギ》は、戦闘ダメージを与えたモンスターを手札に戻す永続罠《門前払い》により手札に戻り、再び未知夫のフィールドはがら空きとなる。

 ――しかし、それこそが未知夫の狙いだ。

「そこで《CM ヒヨコムギ》の効果を発動! このモンスターが手札に戻った時、攻撃表示で再び特殊召喚する!」

『おーっと、これは!』

 《CM ヒヨコムギ》の効果。自身が手札に戻った際に、攻撃表示限定で再び特殊召喚するという、限定的なコンボ前提の効果。観客の中には、ただ同じモンスターを特殊召喚しただけ、と考えた者もいたが、そんな生易しいものではない。

「無限ループ……!」

「正解」

 バトルフェイズ中の特殊召喚に成功したことにより、《CM ヒヨコムギ》は再度バーグにダイレクトアタックが出来る。そして《CM ヒヨコムギ》と《門前払い》のどちらにも、一ターンに一度などという制限はないために、何度でも何度でもその効果を発動出来る。《CM ヒヨコムギ》がバーグにダイレクトアタックすれば、《門前払い》の効果で《CM ヒヨコムギ》は手札に戻り、自身の効果で攻撃可能となって特殊召喚される。

 つまり、《CM ヒヨコムギ》の攻撃が続くまで――バーグのライフが尽きるまで続く無限ループ。

「さらに《CM ヒヨコムギ》でダイレクトアタック!」

「うぉぉっ……!」

バーグLP1700→1600

 再び炸裂する《CM ヒヨコムギ》のダイレクトアタックに、バーグはまたもやガードして衝撃を防ぐ。しかし、バーグのすぐ背後はトマトスケボーで滑った水場であり、《CM ヒヨコムギ》に押し出される形でバーグは水場へと墜落してしまう。

「ヒヨコムギは手札に戻り、効果によって再び特殊召喚される」

「くぅっ……だが、このデュエルがアクションデュエルだということを忘れるなよ!」

 何とか水場に倒れ込むような形で着地したバーグは、すぐさま態勢を立て直そうと飛び上がる。通常のデュエルならば、無限ループを前にもうバーグに打つ手段はないものの、これは無数の可能性が残るアクションデュエル。特に汎用のアクションマジック《奇跡》を使うことが出来れば、このターンのバトルフェイズをは強制終了させることが出来る。

「もちろん忘れてはいないさ。だから、君をその水場にご招待したんだ」

 渾身の力を込めたバーグだったが、倒れ込んだままの姿から動くことは出来なかった。いや、正確には、足場が水で滑って身動きすることが出来なかった、か。少しでも動こうとすれば、その瞬間に足が水に絡み取られ、その者の動きを奪い転び倒す。

「蛇口を捻った後の水場は、大変滑りやすくなっております。お気をつけください」

「…………!」

 バーグもそのことは知っていた。故に相手の妨害を受けないよう、《カレー・ポット》で未知夫の動きを止め、トマトモンスター三体によるトマトスケボーでの移動により、アクションカードを手に入れていたのだから。

 モンスターがいないバーグには、その水場からの脱出どころか、そこから動くことすら適わない。そして、手の届くところにアクションカードがある、などということがあるはずもなく。

「まさか、前のターンからこれを狙って……!」

 未知夫は四体のRCMモンスターにより、バーグを水場の近くから動かないようにさせていた。バーグが水場のアクションカードを取りに行った瞬間に、未知夫はこの勝ち筋を想定していたのかもしれない。

 かもしれない、などと仮定じゃなく分かることは――

「それじゃあ、僕のおもてなし無限ループを……じっくり受けてもらおうか!」

 ――もはやバーグに取れる手段は存在しない、ということか。

「《CM ヒヨコムギ》でダイレクトアタック!」

「ぐあぁぁぁっ!」

バーグLP1600→0

『決ぃまったぁ! 勝者、霧隠れ料理塾の茂古田未知夫選手ー!」

「ご来店ありがとうございました。またのお越しを」

 未知夫は深々と一礼すると、アクションフィールドが解除されていく。《CM ヒヨコムギ》の攻撃を受け続けたバーグを助け起こすと、そう言いながら笑い、ニッコリと白い歯を見せる。

 ……こうして一回戦を突破した未知夫は、二回戦を不戦勝という納得いかない結果に終わりながらも、ベスト16となり本戦へと進出する。ペンデュラムカードの争奪戦――その裏に隠された、異世界との戦争の始まりへと。

 今までの自分に足りなかった、『あと一工夫』を追い求めながら。
 
 

 
後書き
何番煎じの話だよ、って感じですけども。アニメ本編にLDS総合コースの留学生が出て来た場合は知ら管 
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