| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【短編】遊戯王ARC-V -舞網市、激闘につき-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

-Six Samurai vs Ninja-

 
前書き
アクションデュエルが書きたい、と思ったことによる短編です。本編として書いている《遊戯王GX-音速の機械戦士-》とは一切の関係が無いので、気にせず読んで頂けると幸いです。 

 
 ここ、舞網市は今、最大級の盛り上がりを見せていた。LEOデュエルスクールが開催した舞網チャンピオンシップ――プロデュエリストに近づくための、最も手っ取り早い道として。雪辱を晴らすため、自らの実力を上げるため、更なる強敵と戦うため……など、その理由はデュエリストごとに様々だが。

『ではこれよりぃ、第三試合を開始させていただきます!』

 司会のニコ・スマイリーの声が会場に響き渡り、第三試合ということもあってスタジアムの観客たちの歓声も最大級だ。その歓声に何ら臆することはなく、二人のデュエリストがスタジアムの中央に入場した。プロデュエリストを目指す身として、歓声程度で萎縮していてはプロなど夢のまた夢である。

『なんとこの試合は、同じ塾のライバル同士の戦い! 戦士塾の城崎アイ選手と、同じく戦士塾の藤木ケンジ選手とのデュエルであります! さあ、この運命の悪戯を乗り越えるのはどちらか!』

 同じ塾であるからか、二人の格好は和装という点では共通していた。城崎アイと呼ばれた男は日本の古い侍のような格好をしており、腰には――模造刀だろうが――日本刀を腰に差すまでしている。対し、藤木ケンジは全身を黒い服で固め顔を面で隠し、その表情は窺えない。

 ……要するに、侍のコスプレと忍者のコスプレをしていた。アイが侍、ケンジが忍者――彼らのデッキもその格好に相応しいデッキである。

『そして、二人の戦士が雌雄を決するに相応しいのは~ここだぁ! アクションフィールド、セット――』

 同じ塾だろうと、デュエル場に立てば宿敵同士。会話もなく、どちらもが十全の結果を出せるように気合いを込める。そして、ソリッドビジョン発生器がフィールドを覆い尽くさんと起動を開始し、ニコ・スマイリーが《アクションフィールド》をセットする。

『――《荒野の決闘ダウン》!』

 舞網市のデュエル場がソリッドビジョンによってその姿を変化していき、似ても似つかぬ荒野へと姿を変えた。西部のガンマンがしのぎを削っているような――今にも一騎打ちの撃ち合いが始まるかのような――荒野に寂れた酒場が並び、乾いた風が二人のデュエリストを晒す。

 しかし、西部劇の舞台のようなフィールドに、侍と忍者は少し浮いてはいたが。

『戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!』

 アクションデュエル。ソリッドビジョンの発達に伴い、実体化したモンスターとともに戦う新たなデュエル。

『モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!』

 実体化したフィールドを駆けるための新たな戦術。有効活用せねば勝機はないアクションカード。今までのデュエルとは何もかも違う新たなデュエルとして、アクションデュエルは人々を熱狂の渦に巻き込んだ。

『見よ! これぞ、デュエルの最強進化形! アクション――』

「――デュエル!」

アイLP4000
ケンジLP4000

『先攻はアクションフィールドの効果により、先に手札を五枚引いた方だぁ!』

 急遽発せられたニコ・スマイリーの声に、急ぎ二人はガンマンの早撃ちの如くカードを引く。普段ならば、デュエルディスクが先攻や後攻を決定してくれるが、このアクションフィールドに限っては例外だ。

「……拙者のターン」

 先に五枚の手札を引き抜いたのはアイ。格好だけでなく、口調までも侍のように時代がかった喋り方で話しだした。先攻のドローは不可なので、アイは五枚の手札を眺めて行動を起こす。

「拙者はまず、永続魔法《六武の門》を発動!」

 アイの永続魔法を発動する宣言とともに、西部劇の舞台に、新たな建造物である巨大な門が後攻となったケンジの前に出現する。発動されたカードは永続魔法《六武の門》――アイのデッキである【六武衆】の強力なサポートカードであり、アクションデュエルにおいてはそれだけに留まらない。

『おーっとこれは……ケンジ選手の前に《六武の門》が発動され、ケンジ選手は身動きが取れない!』

「その通り」

 アイの狙いはニコ・スマイリーの言う通り。巨大な門がケンジを遮ることにより、彼はそちらの方面にアクションカードを取りに行く事は出来ない。移動範囲が狭まるということは、アクションデュエルにおいて致命的な負担となる。

「さらに《六武衆-イロウ》を召喚!」

 自身と同じ侍の格好をしたモンスター《六武衆-イロウ》を召喚し、イロウとともにジャンプをすることでアイは《六武の門》の上に乗る。今のアイと同じようにモンスターと協力して《六武の門》を乗り越えようとすれば、イロウの長剣で切り裂かれてしまうことだろう。

「そして《六武衆-イロウ》が召喚に成功した時、《六武の門》にカウンターが2つ乗る!」

 もちろんアクションの妨害だけではなく、本来の永続魔法としての役割を果たす。六武衆の召喚に成功したことによりカウンターが2つ乗り、その効果を最大限発揮できるようにチャージしていく。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー……!」

 アクションデュエルにおいてカードはただのカードではない、ということを1ターン目に示してみせたアイに対し、ケンジは動じることなくカードを引く。低く唸るような声がデュエル場に響き渡り、やはりこちらもその格好に相応しいモンスターを召喚する。

「私は《忍者マスターHANZO》を召喚……」

 当然ながらケンジのデッキは【忍者】。戦士塾の中でも異端と呼ばれているデッキであり、今召喚された忍者はその中でも主力モンスターの一角である。

「HANZOが通常召喚に成功した時、デッキから《忍法》と名前の付くカードを手札に加え……バトル」

 HANZOの第一の効果は、【忍者】デッキのキーカードである《忍法》カードのサーチ。デッキから飛び出したカードを手札に加えつつ、ケンジはHANZOへと攻撃の命令を下す。

「……HANZOでイロウに攻撃……!」

「チィ……」

アイLP4000→3900

 その攻撃力の差は僅か100だがされど100。HANZOが放った手裏剣をイロウは切り払いきれず、あっさりと破壊されてしまう。

「カードを二枚伏せてターンエンド……」

「いや、其方のエンドフェイズに永続罠《神速の具足》を発動!」

 アイが伏せていた永続罠を発動したことで、《六武の門》の上に新たな装備が加わる。ケンジにはエンドフェイズを巻き戻し、そのカードに対応する権利が与えられるが……ケンジの手札には何もなく、そのまま何もせずにアイのターンへと権利を移す。

「拙者のターン、ドロー! 拙者が引いたのは、《六武衆-カモン》!」

 アイはカードをドローするなり、相手や観客にも見せるようにドローしたモンスター――《六武衆-カモン》を宣言する。もちろん伊達や酔狂で宣言したわけではなく、《六武の門》から今宣言したモンスターである《六武衆-カモン》が出現する。

『なんと! 今宣言したモンスターが特殊召喚された!?』

「《神速の具足》がフィールドにある時、六武衆をドローした時特殊召喚出来る! よって《六武の門》のカウンターが2つ乗る」

 ニコ・スマイリーの疑問に答える形となったが、永続罠《《神速の具足》の効果はドローフェイズにドローした六武衆を特殊召喚する効果。さらに六武衆が特殊召喚されたことにより、《六武の門》のカウンターが乗る……ものの、《六武衆-カモン》では《忍者マスターHANZO》を倒せない。

 ならばアクションカード、といきたいところだか、そうは出来ない事情がある。第一に六武衆は人形の戦士族であるため、乗って移動したり飛んでいったりすることが出来ない。第二にそれでは敵であるケンジに背を向けて逃げることになる……観客の前でそんなことをすればブーイング間違いなしだ。第三に――これが最も重要だが――ケンジが《忍者マスターHANZO》の効果で手札に加えた、何らかの《忍法》を伏せていること。アクションカードを探している間に、ケンジが何か行動を起こしていては止められない。

「拙者は《六武の門》の効果を発動! カウンターを4つ取り除き、デッキから《六武衆-ヤイチ》をサーチ!」

 ならば、とケンジが選択したのは《忍法》の破壊。《六武の門》の第二の効果であるサーチ効果で、新たな六武衆をデッキから手札に加え、彼は行動を開始する。

「さらに永続魔法《六武衆の結束》を発動し、《六武衆-ヤイチ》を召喚!」

 《六武の門》の上に二対の六武衆が並び立つ。カモンは表側表示のカードを破壊することができ、ヤイチはセットカードを破壊することが可能。ケンジの近くに伏せられた二枚の伏せカードに向け、ヤイチは自身の得物である弓矢をつがう。

「ヤイチは他の六武衆がいる時、相手のセットカードを破壊できる! 屋島の矢!」

「……チェーンして罠カード、《忍法 超変化の術》を発動!」

 ヤイチの効果にチェーンされたことで、セットカードを破壊するやはりの効果では発動された忍法を破壊することは出来ない。しかし、それはアイも分かっていることであり、ならば改めてカモンの表側表示のカードを破壊するカードで破壊すれば良いだけ、と考えていた――が、その見通しは甘いとしか言えない。

 ……何故なら、アイのフィールドに既に《六武衆-カモン》は存在していないのだから。

「なっ! カモン、どこだ!?」

「……ここだ」

 動揺するアイに対して、冷徹なケンジの言葉が重くのしかかる。ケンジの言葉に反応して振り向いたアイが見たのは、《融合》の時に現れるエフェクト――いや、それとは少し違うか――に巻き込まれていた、カモンの姿だった。

「《忍者 超変化の術》はお主のモンスターと私のモンスターを使い、その肉体を竜へと進化させる忍法……カモンとHANZOを墓地に送り、現れよ……! 《白竜の忍者》!」

 カモンとHANZOをそれぞれの墓地に送り、HANZOは竜の力を得るように変化していく。身体に竜の力を纏ったその忍者は、竜の力を具現化させて本物の竜のようにすると、ケンジもその竜の上に乗る。

『ケンジ選手、何と相手のモンスターを除去しつつ最上級モンスターを召喚し、さらになんと……大空に飛び立ったぁー!』

 《白竜の忍者》によって具現化された竜に乗りながら、ケンジは大空へと飛翔する。こうなればもはや《六武の門》など何の障害にもならず、軽々とまるで何もなかったかのように飛び去っていく。

『これが忍法の力なのでしょうか! ケンジ選手そのままアクションカードを取りに行く!』

「ぬぅ……! ならば、拙者は新たに《六武衆の師範》を特殊召喚し、師範に《漆黒の名馬》を装備する!」

 ケンジが飛び去ったところを憎々しげに睨みながら、アイも新たな一手を即座に打ってみせる。自分の場に六武衆がいる時、特殊召喚出来る上級モンスター《六武衆の師範》を特殊召喚し、さらに装備魔法《漆黒の名馬》を装備する。

「はぃぃー!」

 《漆黒の名馬》には《六武衆の師範》だけでなく、アイ本人も乗り込んでみせると、《漆黒の名馬》の尻を叩いて空を自由に飛翔する《白竜の忍者》とケンジに追いすがる。

『空を舞うケンジ選手とそれを追うアイ選手! どちらも凄まじいアクションを見せてくれます!』

「さらに拙者は、《六武衆の結束》を墓地に捨てることで二枚ドロー! さらに《六武の門》のカウンターを2つ減らし、《六武衆の師範》の攻撃力を500ポイントアップ!」

 カモン、ヤイチ、師範。三体の六武衆によって溜まったカウンターを、アイは惜しみなく使って戦力を補充する。《六武衆の結束》は、墓地に送ることで乗ったカウンターの数だけドローする効果で、ヤイチと師範によって最大値である2つまで溜まり、二枚のドローに変換される。

 さらに《六武の門》の第一の効果により、《六武衆の師範》の攻撃力は《漆黒の名馬》の上昇値と併せて2800。ケンジの《白竜の忍者》の攻撃力である2700を越え、戦闘破壊が可能な数値まで上昇する。

 しかし、ケンジとて意味もなく大空を飛翔している訳ではない。どこに出現するか分からないアクションカード――その在処を二つ、彼は知っていた。

(……カラス……)
 アクションフィールド《荒野の決闘タウン》に現れるカラス――その身体にはアクションカードが張り付いている。空中を飛べるモンスターがいないアイには取ることは不可能だが、その情報を知るケンジはそのカラスを探し、遂に背中にアクションカードを貼り付けた二羽のカラスを発見する。

「バトル! 六武衆の師範で白竜の忍者に攻撃! 真空なます切り!」

 だが、ケンジがカラスを見つけたのは、幸か不幸かアイの攻撃準備が整った直後。師範が刀を振るとたちまち風圧が発生し、風がカマイタチとなって空中の《白竜の忍者》へと襲いかかる。

『ケンジ選手、アクションカードを攻撃が届く前に取りにいけるか!?』

 カマイタチが《白竜の忍者》に迫り来るが、ケンジはその程度では平常心を崩さない。余裕を持って《白竜の忍者》はカラスへと飛翔していくと、カマイタチが届く前に空中でケンジはアクションカードをゲットする。

「アクションカード、入手……!?」

 しかしてアクションカードをゲットしたケンジの目は見開かれ、攻撃が迫ってきているというのにそのアクションカードを発動しようともしない。その理由は、すぐに会場のディスプレイに映るカードで分かったのだが。

『おぉーとケンジ選手。何と運悪く、アクショントラップを引いてしまったようです……』

 アクショントラップ。基本的にデメリットとなってしまう効果を、拾ったプレイヤーに自動的に与えるという、いわゆるアクションカードの中に交じった『ハズレ』のカードである。アクションカードは引いたところで確実にメリットとはならない、という例の象徴である。

「ふん……アクショントラップ《悪魔の機関銃》を発動! そちらのフィールドのカード×300ポイントのダメージを与える!」

 発動のトリガーは相手プレイヤーの発動宣言。アクショントラップ《悪魔の機関銃》という名前の通り、悪魔が持っている機関銃をケンジへと乱射する。そのダメージは――《白竜の忍者》に《忍者 超変化の術》、セットカード――の三枚のため、900ポイントのダメージ。

 さらに《六武衆の師範》が放ったカマイタチが遂に命中し、《白竜の忍者》の首が切り裂かれる。そのまま《白竜の忍者》は戦闘破壊され、ケンジは空中に放り出される。

「ぐわっ!」

ケンジLP4000→3000

 空中で乗っていたモンスターが破壊されてしまう、という絶体絶命の危機に陥ってしまうものの、ケンジは落ち着いて、アクションカードを背負ったもう一体のカラスを捕まえようとする。しかし悲しいかな、大空を翼で飛翔するカラスをただ落ちているだけのケンジに捕らえることは出来ない。

「続いてヤイチでダイレクトアタック! 屋島の矢!」

ケンジLP3000→1700

 さらに追い討ちのように《六武の門》がある方向から、《六武衆-ヤイチ》の矢の一撃が届く。攻撃力としては大したことのない数値だが、ダイレクトアタックともなれば話は別だ。さらに驚くべきことに、《六武衆-ヤイチ》の放っていた矢は、ケンジだけでなくカラスすらも捉えていた。

『おーっとケンジ選手、初のダイレクトアタックを受けてしまいました! さらにさらに、アイ選手がアクションカードをゲット!』

 《六武衆-ヤイチ》の矢はダイレクトアタックだけでなくカラスをも大地に落とし、アイはその着弾地点で悠々とカラスの背のアクションカードをゲットするのみ。どうやら先と同じようなアクショントラップではなかったらしく、そのままアイの手札へと加えられる。

「これで拙者はターンエンドにてござる」

「忍法……ムササビ……」

 空から転落する羽目になりかかっていたケンジは、自分で持っていた風呂敷で風を受け止め、忍法 ムササビの術でその場を風に任せて自由飛行し、ようやく酒場の屋根の上に降り立った。観客からはムササビの術について拍手が沸いたものの、ケンジは大道芸人ではなくデュエリスト――アクションではなくデュエルで拍手を貰わねば、と彼は考えていた。

「私のターン……ドロー……!」

 ならば、先のターンのダイレクトアタックを受けた借りはすぐに返す。そう気合いを込めてカードをドローし、アイの手札にあるアクションカードへと意識を向ける。

 アクションカードは一部の例外を除き、基本的にフリーチェーンで発動することが出来る。手札に加えられるのは一枚のみのため、アイは更なるアクションカードを取りに行くことはせず、ケンジの動向を注意深く観察している。

「……魔法カード《機甲忍法アンデット・リターン》。墓地の忍者を特殊召喚する。……蘇れ、HANZO!」

 通常の《忍法》とは異なる存在である《機甲忍法》。その一種である《機甲忍法アンデット・リターン》の効果は、墓地の忍者を特殊召喚する効果がある。《忍法 超変化の術》で墓地に送られていたHANZOが蘇り、その効果を発動する。

「HANZOが特殊召喚に成功した時、デッキから《忍者》を手札に。……そして、《成金忍者》を召喚……」

 サーチされた後にそのまま召喚されたのは、とても忍者とは思えぬ格好をした《成金忍者》。豪勢な悪目立ちする金色が服にあしらわれており、その体格や効果からして忍者の上役なのだろうか。

「……《成金忍者》の効果。手札の罠カードを墓地に送り、デッキから《忍者》モンスターを特殊召喚する。私はデッキから《忍者マスター HANZO》を守備表示で特殊召喚……」

 《成金忍者》が小判を荒野に投げ込むと、ユラリと新たなHANZOが守備表示で特殊召喚される。当然ながらその効果は再び発動し、ケンジはまた新たな忍者を手札にサーチする。

「さらに《成金忍者》をリリースすることで、永続罠《忍法 分身の術》……!」

 最初のターンに伏せた二枚のリバースカードのうち、使われなかった一枚《忍法 変化の術》が姿を見せる。ステータスの劣る《成金忍者》を墓地に送り、新たな忍者――それも《白竜の忍者》と同様の飛翔する忍者――をデッキから特殊召喚する。

 デッキという干渉しにくい部分すらも自由自在。これが変幻自在の忍者の戦術。

「そこで止めさせてもらうぞ! アクションマジック《奈落への起爆》!」

 しかし、ケンジもそれを黙って見ているだけではない。《漆黒の名馬》の上からアクションマジックを発動すると、何とケンジが乗っていた酒場の屋根が突如として爆発する!

『ななな何だぁ!?』

「このアクションマジックは、其方の罠の効果を無効にし、さらに500ポイントダメージを与える!」

 ニコ・スマイリーの声と酒場に仕掛けてあった爆音をバックに、アイが高らかにアクションマジックの効果を説明する。これにより、ケンジが説明した永続罠《忍法 変化の術》の効果のみが無効になり、永続罠という事もあって意味のないカードとしてフィールド上に残り続ける。

 そして乗っていた屋根が爆発したケンジは、いち早くHANZO二体に担がれてそこから脱出していた。アルコールか何かに引火したか、盛大に酒場は爆発して爆風がケンジを襲う。

ケンジLP1700→1200

『ケンジ選手、早くもライフに後がな~い!』

(……アクションカード……!)

 アクションカードを利用したバーンに、ケンジのライフポイントは早くも1200にまで落ち込んでしまう。だが、ケンジが考えているのはライフポイントのことではなく、酒場の中にあったのだろう……爆風に紛れてどこかへ飛んでいくアクションカード。アイはまだ気づいていない。

「……バトル! HANZOでヤイチに攻撃……!」

 しかし、ケンジはそのアクションカードを追わず、先にHANZOへと攻撃を命じる。アイが《漆黒の名馬》という機動力を得ている以上、今アクションカードを取りに行っては、《漆黒の名馬》に乗るアイに横取りされるだけだ。

「ふん、この程度!」

アイLP3900→3400

 HANZOの手裏剣が《六武衆-ヤイチ》に命中するが、アイは特に気にもとめない。《漆黒の名馬》に《六武衆の師範》とともに跨がり、余裕しゃくしゃくと言った様子でケンジを睥睨する。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「拙者のターン、ドロー!」

 アイのフィールドには《漆黒の名馬》を装備した《六武衆の師範》に、永続魔法《六武の門》に永続罠《神速の具足》。ライフポイントは未だ余裕がある3400。フィールド、ライフポイントとともにこちらが有利か。

 対するケンジは、攻撃表示の《忍者マスター HANZO》と、守備表示の同じくHANZOにリバースカードが一枚。ライフポイントは、アクションカードによるバーンを受け、危険域に近い1200。劣勢としか言いようがないが、HANZOや成金忍者の効果でサーチしたり、アクションカードに目を付けていたりと、逆転の一手はすぐそこにある。

「ドローしたカードは《六武衆-ザンジ》! 《神速の具足》の効果で特殊召喚!」

 先のカモンと同様、ドローした六武衆が《神速の具足》の効果により特殊召喚される。下級モンスター最強の六武衆こと、最も高い攻撃力を持つ《六武衆-ザンジ》。

「さらに《六武の門》のカウンターを4つ取り除き、デッキから《六武衆-ニサシ》をサーチし、そのまま召喚!」

 アイは《漆黒の名馬》に乗って《六武の門》に戻ると、門が開き効果でサーチした新たな六武衆が姿を現した。二刀流を駆使する双剣士、《六武衆-ニサシ》の登場とともに再び《六武の門》は閉門する。

「バトルを行う!」

「…………」

 《六武衆の師範》、《六武衆-ザンジ》、《六武衆-ニサシ》の三体が《六武の門》の上に並び立ち、ケンジに向けてアイは攻撃命令を出す。アクションカードを取る前に《漆黒の名馬》の機動力を活かしてトドメを刺す――前に、アイは《漆黒の名馬》から落馬してしまう。

「なっ、これは……!」

 いや、落馬というのは語弊があるか。強いて言うならば、乗っていた《漆黒の名馬》ごと《六武衆の師範》がいなくなっていた、というべきだろう。

 ――先の《忍法 超変化の術》のコストにされた《六武衆-カモン》のように。

「まさか貴様、また!」

「……その通り」

 ケンジの近くには、融合素材のように扱われている《六武衆の師範》に《六武衆の師範》。そして発動された《忍法 超変化の術》……その効果により、《六武衆の師範》は忍法の生け贄となる。

「守備表示のHANZOと六武衆の師範をリリースし、デッキから《白竜の忍者》を特殊召喚する……!」

 先程と全く同じ手順で、ケンジのエースである《白竜の忍者》が降臨する。アイは2枚目の《忍法 超変化の術》がない、と高を括っていた自分自身を自省すると、ケンジが《白竜の忍者》で飛び立つ前にザンジに攻撃を命じる。

「《六武衆-ザンジ》でHANZOに攻撃! 人斬りの矛!」

「……やれ、HANZO」

 ザンジとHANZOの攻撃力は同じ1800。不可解な相打ち狙いで何か狙いがあることは明らかだったが、ケンジには何もすることは出来ない。HANZOに迎撃を任せると、自分は《白竜の忍者》で飛び立つ準備を優先する。

 HANZOは主の命令に黙って従うと、接近するザンジに向けて手裏剣を連射する。イロウ、ヤイチと葬ってきた手裏剣がザンジへと向かう――が、その手裏剣はザンジには届かず、ニサシが身代わりとなって受けていた。

「六武衆には仲間を身を挺して守る効果が備わっている!」

 武士はまず結束を尊ぶ。そう象徴するかのように、六武衆たちの効果はいずれも他の仲間たちがいないと発動出来ないないし、他の仲間たちのサポートをする効果となっている。……そして、自らを犠牲にして仲間を守る、身代わり効果すらも。

 本来ならば相打ち。だがニサシが手裏剣の一斉射を身代わりに受けて破壊されたおかげでザンジは破壊されず、ザンジの矛がHANZOを捉えて破壊する。同じ攻撃力のためにダメージはないが、アイはケンジのフィールドの忍者を減らすことを優先した。

『ケンジ選手、再び大空に飛翔するぅっー!』

「ザンジ!」

 しかし、役目を果たしたのはHANZOも同様。HANZOが手裏剣でザンジを足止めしている間に、《白竜の忍者》は飛翔の準備を終える。竜のエネルギーに乗ったケンジに対し、アイはただ一言ザンジの名前を叫ぶと、思いっきり《六武の門》からジャンプした。

 ザンジはその声に応じるかのように、アイの着地地点へと移動すると、アイが着地する瞬間に踏み台となる。そして、そのままアイをさらに高くジャンプさせると、アイは飛翔しようとする《白竜の忍者》に無理やり乗り込む。

「相乗りと洒落込ませてもらうでござる!」

「……貴様……!」

 《白竜の忍者》がアイを振り落とさんと急旋回するが、自らの主であるケンジすらも振り落としてしまっては本末転倒と、全力で振り落とすことが出来ない。仕方なくそのまま、《奈落への起爆》によるダイナマイトで爆発した酒場へと飛翔する。

「拙者はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「……私のターン、ドロー」

 風が襲いかかる《白竜の忍者》の上で、二人のデュエリストが対峙する。しかし、どちらもお互いの姿を見ておらず、見ているのは近くに落ちているはずのアクションカードだった。

((……アクションカード!))

 発見したのは二人同時。妙な場所に無造作に転がっていることから、恐らくは先程ケンジが見つけた酒場のアクションカード。しかし、このままアイが《白竜の忍者》に乗っていては、どちらがあのアクションカードを取るかは分からない……

「……振り落とせ」

 まずケンジは、《白竜の忍者》に無慈悲にそう告げる。全力でやれ、と。その命令に《白竜の忍者》は静かに従うと、アイを振り落とすべく全力で旋回した。

「ぐうっ……リバースカード発動!」

 備えていたケンジはともかくとして、アイは突如として起きた突風に対応出来ず、たまらず《白竜の忍者》から振り落とされてしまう。だが、吹き飛ばされながらも、一枚のリバースカードを発動する。

「――《六武式風雷斬》!」

 ケンジはアイが発動したリバースカードが何か警戒したが、特に何をする訳でもなくアイは風圧に飛ばされていく。アクションカードは一枚しか手札に加えることは出来ないが、運も絡むが一枚を手札に加えてすぐ発動し、さらにもう一枚手札に加えれば独占も可能。

 アクショントラップの可能性もあり、実際に引いたケンジとしては少し逡巡してしまうが……そうも言っていられない。そう考えながらアクションカードの元に向かうと、ケンジは目の前の屋根に人が立っていることが気づく。

 そう、六武衆-ザンジだ。

「…………ッ……!」

 ここでケンジは、アイが発動したリバースカード《六武式風雷斬》の効果を思いだす。――武士道カウンターを一つ取り除き、相手モンスターを一体破壊か手札に戻す、という効果。

 《六武の門》からザンジへとエネルギーが送られ、ザンジはそのエネルギーを自らの矛に集中させていく。矛は雷と風の力を纏って強化されており、避ける間もなく雷神が如くその矛が――

 ――一閃。

 一瞬にして《白竜の忍者》は破壊され、ケンジはモンスターを失って飛翔する手段を失ったことで、今度は対策することも出来ずに大地に叩きつけられる。

「ぬ…………!」

 ゴロゴロと荒野を転がって受け身を取ると、その正面に《六武衆-ザンジ》と追いついたアイが立ちはだかっていた。今の衝撃でまたどこかに行ってしまったのか、探していたアクションカードはもうどこにもなかった。

「……《機甲忍法 ゴールド・コンバーション》を発動。私のフィールドの忍法を破壊し、二枚ドローする……」

 それでも近くにあるはずのアクションカードを取りに行きたいところだが、アクションデュエルにおいて一分間ゲームを進行させなければ、その時点でそのプレイヤーは敗北してしまう。

 よってケンジはアクションカードを探しに行く事より、まずは《白竜の忍者》が破壊されたリカバリーを優先する。無意味にフィールドに残り続けていた、二種類の忍法を墓地に送り、《機甲忍法 ゴールド・コンバーション》による二枚のドローに変換する。

「さらに《機甲忍法アンデット・リターン》を発動……墓地から《忍者マスター HANZO》を特殊召喚する」

 先のターンも発動された、《忍者》を蘇生する魔法カード《機甲忍法アンデット・リターン》により、やはり同じくHANZOが蘇生される。そして、特殊召喚に成功したことによりHANZOの効果が発動し、新たな忍者がケンジの手札にサーチされる。忍者は一度破壊された程度では未だ不滅。

「……HANZOに装備魔法《風魔手裏剣》を装備。バトル……!」

 HANZOが今まで使っていた手裏剣から武器を変え、『魔』の一文字が刻まれた巨大な手裏剣となる。その効果は装備モンスターの攻撃力の700ポイントアップ――ザンジの攻撃力を超える。

「……HANZOでザンジに攻撃」

 風魔手裏剣が荒野に立つ家々を切り裂きながら、寸分違わずザンジへと狙いをすまして向かっていく。アイのフィールドにはもう一枚伏せカードはあるが、それは攻撃を止める類のカードではない――アイが甘んじてその一撃を受けようとしたその時、視界にアクションカードが映る。

 どうやら《風魔手裏剣》が切り裂いた家々の中にあったらしく、それは導かれるように《風魔手裏剣》の起こした風に乗り、アイの手元へと収まった。《風魔手裏剣》が仇となる形となったが、そのアクションカードを発動する暇はなく、すでにザンジはHANZOの《風魔手裏剣》に破壊されていた。

ケンジLP3400→2700

 しかしケンジとて、ただでアイにアクションカードを取らせた訳ではない。HANZOの《風魔手裏剣》によって破壊された建物に入り込み、即座にその建物にあったアクションカードを入手していた。……もちろん、アイの手にも渡るとは想定外だったが。

『両者ともに、アクションカードをゲットー! これがどう転ぶことになるかぁー!』

「……メイン2。私はHANZOをリリースし、モンスターをアドバンスセット」

 ケンジはまだ《機甲忍法アンデット・リターン》でHANZOを特殊召喚しただけで、モンスターの通常召喚はしていない。そしてHANZOをリリースすることによって召喚された上級モンスターだが、球体のような物が中空に浮かぶだけで、その姿をフィールドに見せることはない。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「……拙者のターン、ドロー!」

 デュエルもそろそろ終盤戦を迎える。どちらもサーチを多用しているが、手札ももう尽きてしまうだろう。お互いのアクションカードの使い方が勝敗を握っているか。

「拙者は……」

 先のドローで引いたカードは六武衆モンスターではなかったらしく、永続罠《神速の具足》の効果は発動しない。《六武の門》も《六武式風雷斬》の発動の代償に、残る武士道カウンターは一つのみと、中途半端な数となって効果の発動は出来ない。

「伏せていた《諸刃の活人剣術》を発動! 墓地から《六武衆-イロウ》と《六武衆-ヤイチ》を特殊召喚!」

 リバースカード《諸刃の活人剣術》の効果により、《六武の門》から蘇る二体の六武衆、イロウにヤイチ。《諸刃の活人剣術》の効果は、二体の六武衆を蘇生するという強力な効果だが、その分強大な――蘇生したモンスターをエンドフェイズ時に破壊し、その攻撃力の合計のダメージを受ける――デメリットがある。

 アクションカードも併せて、このターンで決めるつもりなのか。

「まずは《六武衆-ヤイチ》の効果。戦闘を放棄することで、相手のリバースカードを破壊する! 八島の矢!」

「ぬ……」

 ケンジのフィールドに伏せらていた、《忍法 変化の術》が矢で穿たれて破壊される。《忍法》はいずれも強力な効果を秘めたカードではあるが、フィールドに忍者がいなくては発動出来ない発動条件を持つ。アクションカードの懸念はあったものの、まずは問題なく破壊できたことにアイはほくそ笑む。

「バトル! 《六武衆-イロウ》よ攻撃せよ! 燕の剣!」

『アイ選手、恐れずセットモンスターに向かっていったー!』

 アドバンスセットということは、伏せられたセットモンスターは確実にステータスが高い上級モンスター。それでもアイは何の躊躇もせずに、イロウに攻撃を命じる――それもイロウの効果があってこそ。

「イロウがセットモンスターを攻撃する時、ダメージ計算前にそのモンスターを破壊する!」

 イロウの効果は、相手のセットモンスターが何であろうと問答無用で破壊する破壊効果。相手がリバース効果モンスターならリバースを封じ、リクルーターなら墓地でその効果は発動出来ない。ケンジのフィールドにいる、セットモンスターであることを象徴するかのように浮かぶ球体に、イロウはその得物である長剣を振りかざし――

「……アクションマジック《奇跡》……」

 ――その動きを止める。いくらイロウの効果がセットモンスターに対し驚異的な効果だろうと、そもそもの攻撃を無効にされては効果を発揮できない。どんなアクションフィールドにも存在する、汎用アクションマジック《奇跡》の効果は、相手モンスター一体の攻撃を無効にする。

 そしてアイのフィールドに残ったのは、攻撃を放棄したヤイチに攻撃を無効にされたイロウ。エンドフェイズ時には《諸刃の活人剣術》のデメリット効果で二体とも破壊され、攻撃力の合計3000ポイントのダメージを受けてアイは敗北する。

「速攻魔法《六武の書》を発動!」

 もちろん、アイがそのことを考えていないはずがない。手札からクイックエフェクトとして、速攻魔法《六武の書》を発動すると、二体の六武衆が巻物に包まれて消えていく。

「速攻魔法《六武の書》は、フィールドの六武衆二体をリリースして発動し――」

 《諸刃の活人剣術》のデメリット効果は、蘇生したモンスターが破壊された時にその攻撃力をバーンダメージとして受ける効果。つまり、エンドフェイズ時に破壊されなければバーンダメージを受けることはなく、二体の蘇生された六武衆は《六武の書》で墓地に送られ、もはやデメリット効果でダメージを負うことはない。

「――このデッキの切り札をデッキから特殊召喚する! 現れよ、《大将軍 紫炎》!」

 そして巻物が効果を発揮すると、開門した《六武の門》から一体のモンスターが現れると、深紅の鎧を翻しながら一足跳びにアイの元へ駆けつける。六武衆たちを束ねる切り札こと《大将軍 紫炎》そのモンスターである。

『遂に大・大・大・大・大将軍の登場だぁっー!』

「バトル! 大将軍 紫炎でセットモンスターを攻撃! 六武斬!」

 バトルフェイズ中の速攻魔法によって特殊召喚されたため、《大将軍 紫炎》はまだ攻撃が可能。一瞬にしてケンジの元まで踏み込むと、セットモンスターを軽々と一閃する。

「……ッ! だが、攻撃された《渋い忍者》のリバース効果が発動する……」

 《大将軍 紫炎》に切り裂かれながらも、セットモンスターの正体であった《渋い忍者》はその効果を発動しようとする。自身の忍法を発動せんと印を結び、墓地の《忍者》たちを可能な限り裏側守備表示で特殊召喚するという、一発逆転のリバース効果の発動を。

「アクションマジック《超精密射撃》を発動!」

『このタイミングでアイ選手もアクションマジックぅー!』

 発動されたアクションマジック《超精密射撃》に対し、ケンジは初めて驚愕を露わにする。その効果はライフポイントを500払うことにより、フィールドにいるモンスター一体の効果を無効にする効果。もちろん、アイが無効にするモンスターは決まっている…!

「《渋い忍者》の効果を無効にせよ!」

アイLP2000→1500

 現れた悪魔か死神のような形相をしたガンマンが《渋い忍者》の心臓を撃ち抜くと、《大将軍 紫炎》に切り裂かれて瀕死だった《渋い忍者》には耐えることが出来ず、効果を発動することはなく破壊されてしまう。

「ターンを終了する!」

「……私のターン……!?」

 《渋い忍者》という逆転の芽を潰されてしまい、次の手を考えながらケンジがカードをドローしようとした時、その異変は起きた。全く何の気配もなく、自身の頭に銃が突きつけられていたのだ。

「なっ……?」

「んだ!?」

 それは対戦相手のアイにも同様のことが起きていて、先程《超精密射撃》を行っていた、悪魔か死神のようなガンマンが二体現れ、アイとケンジの頭にそれぞれ銃口を向けていた。

『アクションフィールド《荒野の決闘タウン》第二ステージ、《死の銃士》!』

 司会のニコ・スマイリーの声が二人と観客に響く。アクションフィールドの効果により、両者ともにアクションマジック《死の銃士》の効果が適用される。類似する効果がある《クイズ・フロンティア》のように、アクションフィールドごとにこのような効果がある事もままある。

『アクションマジック《死の銃士》は、お互いにカードを引いてドローしたカードの種類を当てる。当たればそのカードを手札に加えて1000のライフを回復し、外せばその逆。ドローしたカードを除外し1000ポイントダメージを受ける、まさしく運命を決める銃弾、だぁー!』

 相手のドローしたカードの種類を当てるアクションマジック《死の銃士》。その種類を当てることが出来れば助かり、外せば銃士が頭にその銃弾を撃ち込む。まさに生きるか死ぬか、ロシアンルーレットのような効果を持ったアクションマジックである。

『アイ選手のライフは1500、ケンジ選手のライフは1200! どちらも外せば致命傷、当たれば相手を倒す絶好の機会! さあ、運命を決める選択です!』

「モンスターだ!」

 いざ宣言の時……には両者の声が重なった。どちらもモンスターを宣言しながら、お互いにカードを一枚選択する。特に理由はないものの、デッキは特殊な例を除いてモンスターが最も多いから、という理由から二人ともモンスターを宣言し――

 ――アクションフィールドに銃声が響く。

『銃声! どちらか外したようだ!』

 銃声とともにどこかの建物が爆発し、アクションフィールドを爆炎が覆う。観客からはデュエル場が煙で見えず、高所で実況をしているニコ・スマイリーも観客とともに、煙が晴れるのを固唾を呑んで見守っていた。

 ……そして煙が晴れていき、ニコ・スマイリーは二枚のカードを見た。戦士族の専用サルベージカード《戦士の生還》に、忍者専用の罠カード《機甲忍法フリーズ・ロック》。両者ともに使用できる《戦士の生還》はともかく、機甲忍法の一種である《機甲忍法フリーズ・ロック》がどちらのカードかは一目瞭然。

 そして、どちらのカードもモンスターカードではない、ということは。

「っつぅ!」

「ぐっ……!」

『りょ、両者被弾ー!』

 結果としては両者ともに外し、二人ともガンマンに銃弾を叩き込まれていた。アイの墓地には《戦士の生還》が、ケンジの墓地には《機甲忍法フリーズ・ロック》が墓地に送られ、どちらのライフポイントも1000ポイント削られ危険域に落ち込む。

アイLP1500→500

ケンジLP1200→200

「……私のターン、ドロー……」

 ケンジはすぐに銃弾を受けた調子を整えると、通常のドローを再開する。……それがマズかった。ケンジがデッキの方を見ている隙に、アイはどこか見当違いの方に走り出していた。

 もちろんただ走り出した訳ではなく、ケンジがドローに集中したのと同じように、アイはアクションカードを見つけることに集中していた。先の《死の銃士》の時に起きた爆発によって、再びアクションカードが散らばる――とアイは考え、その考えは正解だった。

『おーっとアイ選手……ここでアクションカードをゲット!』

 アイは素早く走り、転がっていたアクションカードをすかさずゲットする。皮肉にもそのアクションカードは、ケンジが先に見つけていた酒場にあったアクションカード。再び起きた爆発により吹き飛んでしまい、ケンジとアイの近くに転がってきていたのだ。

「…………」

 ここでアイは思索に耽る。このアクションフィールド《荒野の決闘タウン》のアクションマジックは、バーン効果が付与されているカードが多い。迂闊に動いてアクションマジックを発動されれば、ライフポイント200のケンジはそこで敗北してしまう。

 しかしそれは、ライフポイントが500のアイも同じこと。こちらもアクションマジックを使い、あちらより先に発動出来れば――

『対するケンジ選手もアクションカードを探しに走り出したー!』

「させん!」

 探しに行くとは言ってもケンジのフィールドにはモンスターはなく、その手段は自身での徒歩しかない。もちろんデュエリストとしてケンジも鍛えてはいるが、本当のモンスターである《大将軍 紫炎》に適うわけもなく、簡単に行く手を阻まれてしまう。

「ぬぅ……」

 《大将軍 紫炎》を突破出来そうになく、ケンジはそこで立ち止まると、一分の制限で敗北しないようにデュエルを続行する。

「《機甲忍者アース》を特殊召喚……」

 新たに現れた《機甲忍者アース》は、相手のフィールドにのみモンスターがいる時、自分のフィールドに特殊召喚出来る効果を持つ。その《機甲忍者アース》を使い、《大将軍 紫炎》を突破してアクションカードを探しに行こうとしたが、ケンジは止めて大将軍とアイに向き直る。

「アクションカードを取りにいかないのか?」

 挑発めいたアイの言葉を無視すると、残り一枚となった自分の手札を掲げて静かに宣言する。


「……ファイナルターン」


『ファ、ファイナルターン宣言だぁー!』

 このターンが最後のターンだ……と、ケンジは覚悟を決める。もはや彼の手札には防御札はなく、アクションカードを取りに行こうにも《大将軍 紫炎》の妨害で取りに行くことは出来ない。

 ならば、最後に自分が得た新たな力を我が好敵手に。

「……来るが良い!」

「……さらに《機甲忍者エアー》を召喚」

 そのケンジの最後の攻撃を受けきるとアイは覚悟し、観客たちも最後のターンがどのような結末を向かえるか、見逃すまいと静かに二人の動作を見守った。そして、まずケンジが行ったのは風遁の機甲忍者の召喚。

「……《機甲忍者エアー》は召喚時、忍者のレベルを1下げる。《機甲忍者アース》のレベルを4に」

「レベルを同じにしてどうする気……まさか!」

 《機甲忍者エアー》の効果は、忍者と名の付くモンスターのレベルを1下げる効果であり、《機甲忍者エアー》と《機甲忍者アース》のレベルが同じく4となる。アイは一瞬だけその効果の意味を考えたが、すぐにその意味に思い至る。二体の同レベルモンスターを使い、強力なモンスターを呼ぶ新たな召喚方法の存在を。

「レベル4の《機甲忍者アース》と、《機甲忍者エアー》でオーバーレイ!」

 《荒野の決闘タウン》に紫色の時空の穴が浮かび上がり、二体の機甲忍者がその穴に光の球になって吸い込まれていく。

 この世界――いや、この次元においては新たな召喚方法。基本的にその技術はLDSが独占しているが、一部では他者から教えを請うことでその使い手となったり、自力でその境地にたどり着くデュエリストもいる。

 ――ケンジが忍者とともにたどり着いたのは、エクシーズ召喚の境地。

「霞の忍者よ。疾く現れ出でて敵を切り裂け! ランク4……《機甲忍者ブレード・ハート》!」

 身体の一部を機械化した霞の剣を持ちし忍者。その名は、刃の下に心あり――『忍者』ということをこれ以上ないほどに証明していた。真の切り札を見せたケンジは、早くデュエルを終わらせるべく、最後の攻撃を敢行する。

「オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き……バトル。《機甲忍者ブレード・ハート》で《大将軍 紫炎》に攻撃……電磁抜刀 カスミ斬り!」

 エクシーズモンスターをサポートする役割を持つ、オーバーレイ・ユニットを1つ使用したにもかかわらず、ブレード・ハートには何の変化もない。そしてブレード・ハートの攻撃力は2200と、大将軍 紫炎よりも攻撃力が下の自爆特攻。この2つのことに、アイはどうするつもりだ――と思索を巡らせるが、彼にも出来ることはない。

「……墓地から罠カード《スキル・サクセサー》を発動……!」

『ぼぼぼ墓地からトラップ!?』

 そしてケンジが打った最後の手は、忍者らしく墓地という闇からの奇襲。墓地からその罠カードを除外することで、自分のモンスター一体の攻撃力を800ポイントアップさせる通常罠《スキル・サクセサー》。

「墓地からトラップ!? 貴様、そんなカードをいつの間に……!」

「……無論、貴殿の気づかぬうちに」

 忍者は武士が気づかぬ間に罠を仕掛け、毒を盛り、策を労ずじ、布石を打つ。その打っていた――《成金忍者》の効果の発動コストという――布石である《スキル・サクセサー》が効果を発揮し、《大将軍 紫炎》を追い詰める。

 《大将軍 紫炎》の攻撃力は2500。《スキル・サクセサー》の効果で強化された《機甲忍者ブレード・ハート》の攻撃力は3000で、攻撃を受けるアイのライフポイントは残り500。……結果は火を見るより明らかだった。

「アクションマジック《回避》を発動!」

 ――もちろん、アイに何の対策もなければの話だが。

『こ、ここで回避ぃー!』

 《奇跡》と同じく汎用アクションマジックである《回避》の効果は、自分のモンスター一体の破壊を一度だけ無効にし、その戦闘ダメージを0にする効果。《大将軍 紫炎》は《機甲忍者ブレード・ハート》の霞切りを、自らの刀で防ぐことで何とかその攻撃を回避していた。

アイLP500→250

「《スキル・サクセサー》の効果は其方のエンドフェイズ時まで。拙者の勝ちでござる!」

 ケンジの最後の一撃は《回避》によって不発に終わり、《スキル・サクセサー》による強化もこのターンのエンドフェイズ時に終わる。《大将軍 紫炎》の攻撃には《機甲忍者ブレード・ハート》は耐えることは出来ず、ケンジもまたアクションマジックを入手せねばならない。

「……それはどうかな」

「何!?」

 それもこれも、次のアイのターンへと移行したらの話だ。しかしこのデュエルは、このターンのエンドフェイズを待たずして決着する……!

「忍者は標的は必ず殺す。慈悲はない」

 ケンジのその言葉に同調するかのように、《大将軍 紫炎》と鍔迫り合いを演じていた《機甲忍者ブレード・ハート》が再び動き出す。

「オーバーレイ・ユニットを使った《機甲忍者ブレード・ハート》は、忍者一体に二回攻撃を付与する。よって、ブレード・ハートはもう一度攻撃が可能……」

「…………ッ!」

 アイはその言葉を聞いて現状を把握すると、もう一度アクションカードが無いか近くを探し回る。しかしそれよりも早く、ブレード・ハートの刀が霞と化した。

「……電磁抜刀 カスミ斬り。第二打……!」

 鍔迫り合いをしていた刀が少しの瞬間だけ消え失せ、そして再び刀となって出現する。ブレード・ハートの霞切りにより、大将軍 紫炎は両断される……!

アイLP250→0

『遂に決着っ! 決闘を制したのは、エクシーズ召喚を使いこなした《忍者》使い、ケンジ選手だぁー!』

 ニコ・スマイリーの歓声と観客たちの拍手が、デュエル場を覆い尽くしていく。どちらの選手にも惜しみない声援を送り、敗れた者はリベンジを誓い、勝った者はその挑戦を受け入れる。観客たちもそんな二人の決闘者を応援し、更なる決闘を期待する。

 デュエルとはこういう者だと、この世界――いや、この次元の人々は思っていた。

 あの日までは。
 
 

 
後書き
最後に不穏な空気になるのは個人的な趣味です。他意はありません。

よろしければ、連載している拙作《遊戯王GX-音速の機械戦士-》の方もお願いします。

では、また。
 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧