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ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫

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≪アインクラッド篇≫
第三十三層 ゼンマイを孕んだ魔女
  秋風のコガネ色 その弐

 
前書き
8700文字オーバーです。頑張ってください。 

 
 スキャンした場所から五十メートル先の崖沿いが事件の現場だった。

 豊穣な土の竜の領土は崖際まで有効なようで、ここら一体も綺麗な紅葉で覆われている。索敵持ちのアイでも四十メートル先を目視はできないようだ。すかすかな枯れ木のオブジェでも挟んでしまえば索敵の視認上昇効果は低下する。システム的障壁、とでも言えばいいのだろうか。今、俺達の目の前には立派な赤い葉を携えた木々が無造作に並んでいるのでとても向こう側は見えないのだ。

 歩いていき、あと十メートル程度、というところで俺とアイが同時に現場を視認した。ここまで距離を詰めてしまえば索敵スキルも何も関係ない。俺のジェスチャーを合図に俺達は一本の木の陰に隠れ、誰なのかをざっと眺めてみた。

 赤と黄と緑が()ざったカラフルな紅葉の大木の横で白の混じった空色をバックに立っていたのは、白いマントに鉄灰色の髪、赤い鎧の長身痩躯の男。横顔から判別するに顔は削いだように尖っている。あの顔と装備には見覚えがあった。

「確かあの紅白の騎士は……ヒースクリフ、だったな。二十五層で俺の班に入っていた」

 隣の、こっちは濃紺の騎士に対して小声で話しかける。するとアイは少し記憶を掘り返すようにこめかみを何度か叩き、何度目かでやっと思い出したようだ。

「あー、あのオフタンクの人ね。最近だと小規模のギルドを立ち上げたとかなんとか。確か名前は――≪血盟騎士団≫だったかしら」

 ヒースクリフがギルドを立ち上げたのは寡聞にして知らなかったが、そのギルド名には聞き覚えがあった。かの有名人が副団長として所属しているギルドだ。

「ああ、ってことは≪狂戦士(バーサーカー)≫のアスナの居るところか。成る程な。んで、その花形ビルドの団長さんが随伴歩兵も無しになんで此処に?」
「プライベートでしょうけど……ってそんなこと、聞きにいけばいいじゃない。別に敵対しているわけじゃないんだから」

 アイの思わぬ提案に、ふともう一度現場を見て整理をする。そういえば此処に来たのは≪モンスター三匹が消失した理由≫からだった。だとしたら別に隠れて状況判断する必要もないのかもしれない。歩いていって「ようヒースクリフ、さっきのモンスター三匹はどうしたんだ?」とでも話しかければ良い。だのに、俺達がここでこうやって垣間見をしている。見当たらないNPCも気になるが、それも聞けば済む話だ。「成る程な確かに」とアイに向かって言い、OKのジェスチャーで俺達は現場に躍り出た。

 武器を鞘に納め両手を上げ――とは言ってもこれも俺の構えの一つでもあるのだが――歩きながらヒースクリフに対して話しかける。

「久しぶり、ヒースクリフ」

 ヒースクリフが振り返りこちらを見る。特に驚いている様子は無い。索敵スキル持ちか、いやソロでこんな深くまで潜る以上それは当然か。ヒースクリフが思い出したかのように答えた。

「ああ、君たちはスバルくんにインディゴくん、だったね。こんな僻地に何の用だ?」
「此処に用というよりも、南方探検隊というのが適切かな。南にあるらしい村を探しに出ようと思っていたんだ……が、インディゴが索敵スキルで不自然なモンスターの消失を見つけたんで謎を解明しに来た。さっき此処にモンスターが三体いただろ?」

 ヒースクリフは大した反応を示さず、悠然と「ああ」と答えた。その後、崖側に目を遣り言葉を続ける。

「その三体のうち二体なら崖下に居る。少々手に余るから突き落とした」
「突き落とした……ああ。インディゴ、確か君の索敵範囲は五十メートルちょっとだよな? そんで索敵スキルの範囲は円形、だったな」

 インディゴことアイが頷く。やはり、いやどちらにしても相当なスゴ技には違いないのだが。俺はヒースクリフを見据えて言葉を続けた。

「二匹をファーストコンタクトで突き落として、最後の一匹を大技ソードスキルで屠った? 不可能とは言わないが三秒でやるとは流石というかなんというか……」
「不可能でないのならば総じて出来るものだ」
「知ってるけどさ」

 知ってるけども、そういった技術を磨くのは無茶苦茶な練習が必要だ。特にソードスキルも使わずに剣もしくは盾で敵を吹き飛ばす技術となると現世で格闘技でも嗜んでいないと無理ではなかろうか、いやそれも敵にもよるだろう。

 そう思いヒースクリフの横を通って崖下を覗き込むと、五十メートル下の風の大地には、頭部から無数の枝の生えた大きな枯れ木のモンスターがいた。あのタイプは枝の数だけ体重と防御力が上がるやつじゃないだろうか。あの数だと百キログラムぐらいかな。

「ヒースクリフ、君は前世では太極拳とかの師範代だったのかな?」
「まさか」

 肩を竦ませながらの簡素な返答にどのような意味が込められているのだろうか。『「まさか」そんな訳無いだろう』、もしくは、『「まさか」見破られるとはな』、このどちらかだろう。いやだからどうしたというわけだが。

 そんなことを考えていると、アイが周囲を見回しながら声を上げた。

「それもそうだけど、索敵に反応したNPCが見当たらないわね」

 そう言われて辺りを見回してみると、確かに居ない。あるのは紅葉(こうよう)ばかりだ。正確にはヒースクリフ、俺ことスバル、アイことインディゴと環境の赤と黄の木々が居るだけだ。そこで俺はヒースクリフに尋ねてみた。

「ヒースクリフ、此処にNPCは居たか?」
「いや、見ていない。だが索敵スキルだとあの辺りを指している」

 ヒースクリフのすらりとした指が一本の木の方角を指した。その木は大木で、紅葉の中に緑の葉が多く茂っていた。さきのことを考えると地下からの反応の可能性も否めないが、しかしどう考えてもその木は周囲の細い木々の純粋な紅葉(こうよう)から浮いている。確かに怪しい。

「ほほう、では俺が調べてみようかな」

 大木に近づいてコンコンと無意味に叩く。思ったとおりコンコンと鳴った。しばらくそれを繰り返しわざとらしげに大木を体重を乗せたタックルで揺らしてみる。

 普通の手応えのあと、普通にぐらぐらと木は揺れ、幾つかの緑の葉が落ちてきた。と、視認した瞬間。

「わわぁぁああっ!」

 頭の上からの唐突な甲高い悲鳴と、直後に訪れた肩へのハンマーで叩かれたかのような鈍痛。

「さこつがァッ!?」

 自分の喉から出た奇妙な悲鳴を聞きながら俺は落下物と共に倒れ伏したのだった。

「痛い! 痛いぞ! くそ! こんなんなら≪骨格≫なんて取るんじゃなかった!」

 俺はゴロゴロと転げまわり、体の骨にひびが入ったかのような感覚に悶絶(もんぜつ)していた。痛みが治まってきた頃に、俺同様に地面に転がっている落下物に目を遣ると、それは金色の、噂通りの身なりの少女だった。頭を地面に突っ伏していることから察するに頭を打ったのだろう。目をうずまきにしてくるくる回している。こんな状態のNPCは見たこと無いが推測するに『コミカルな気を失った状態』だろう。ややアイが心配そうに、手を差し出しながら苦笑いで俺に話しかけてくる。

「例のNPCね、魔法少女」
「魔法だけでなく体術もできるようだ。ヒップドロップに限るが」

 はて≪体術スキル≫にヒップドロップなるソードスキルはあっただろうか。まぁないだろうが俺のHPが僅かに減ってることから危険視はしといたほうが良いだろう。そんな些事(さじ)を考えているとヒースクリフが声をかけてきた。

「スバルくん、まさか君は≪軽業(アクロバティック)≫スキルで≪骨格≫のModを取っているのか?」
「ああそうだよ」

 骨格機能とは、≪謎MOD(モッド)四天王≫のひとつである。中身が均一の質量である架空体に骨格を模した芯を内蔵させる機能で、利点としては防御力と機動力が上昇するのと部位切断防止が付与されるが、これまた欠点も多い。衝撃を受けた際に骨が振動すること、そしてなによりも小さいながらも痛覚が発生するのだ。

 以前に腕を切り落としてくるタイプのモンスターと戦ったとき、腕の骨のおかげで切断こそ免れたが、痛くてその場に転げまわったことがある。一分間痛みに声を殺して我慢していたのだが、もしあの時アイが居なければ割と命の危機だっただろう。痛みこそ大したものではないのだが、普段は痛みとは無縁の生活をしているせいで免疫がないのだ。誰だってゲーム中に痛みが走ったらポーズボタンを押すものである。プロとて例外ではない。

 しかし頭痛ならいくらでも我慢できるのだが外傷による痛みは我慢できないのは何故だろう。過労死するまでゲームできるけど足が攣ったらゲームを中断する感じと言えばなんとなくしっくりくる。

 戦闘中ならシステムだから仕方ないと思い込むことによって覚悟が出来ているから多少の痛みは我慢できるのだが、今回は不意に走った痛みに覚悟が出来なかったという不甲斐ない理由から醜態を晒してしまった。鎖骨辺り未だヒリヒリする。ヒースクリフが珍しいやや引き攣った表情で言葉を投げた。

「本当に習得する人物がいるとは……。その機能は武術を修めた者に向いていると思っていたのだが、スバルくんこそ何か格闘技でも嗜んでいたのではないか?」
「いやいや、ゲームしか極めたことは無いな。というか、そんなことよりもさ」

 俺は話を区切り、転がっている金色の少女へと歩いていった。膝で屈んで少女の頬をつついた。反応が無い。どうやら完全に伸びているようだ。そこまでして、俺は初めてこのNPCの頭の上に【!】マークが点灯していることに気がついた。俺の後ろでアイとヒースクリフの声が上がった。

「ねぇ、このNPC、フラグ持ちだわ。やっぱりキャンペーンクエストかしら?」
「ふむ、そろそろ起きそうだ。そのことも直ぐに分かるだろう」

 ヒースクリフがそう言った頃、魔法少女が目を覚ました。魔法少女は横になったままパチリと大きな小麦色の瞳を瞬かせキョロキョロと周囲に目を配り、少女特有の幼さ残る声音で、あたふたした驚愕交じりの甲高い声を上げた。

「ええっ!? 何! どったのッ!? 誰! どっからッ!?」

 これまた濃そうな口調なことで……。と俺が思った直後、金色少女は長い杖――武器なのだろう――を胸に抱え込んだ。抱え込んだ武器が意味するのは十中八九で≪警戒≫に間違いないだろう。だが、相手はNPCだ。落ち着いた口調で話しかけてみる。

「落ち着いて。君はあの木から落ちたんだよ。そして二つ目の質問だけど、俺たちはたまたま通りすがっただけなんだ」

 少々違うような気もするが嘘はついていない。木から落ちたは真実だし、ヒースクリフは兎も角、俺たちことスバルとアイのペアには別に目的地があるから通りすがりという表現も間違いではない。金色少女がやや落ち着いて、感謝の言葉を述べた。

「あっそうなんですか。それはどうも、なんかすいません……というか、ありがとう?」
「お、おう、どういたしまして?」
「そうだっ! 自己紹介しますね! ボン・ジョルノー! アタシの名前はメントレ。メントレ・マジーア! 魔法使いです!」

 その切り替えの早さに少々の驚きを感じたが、魔法使いという言葉が耳に入り意識はそちらに移った。

 これで確定的に(くだん)の魔法少女だろう。それにしてもメントレとは英語ではないな。『ボン・ジョルノ』はイタリア語だった筈だから、メントレ・マジーアもイタリア語だろうか。

「マジーアってのは魔法使いって意味かい?」
「シィー、魔女じゃありませんよ! 魔法使いです!」
「そ、そうなんだ。じゃあ俺の自己紹介だな。俺の名前はスバル。軍曹をしている」

 この発言に対してアイが小声で突っ込んだ。

「ス、スバル? それはちょっとややこしくなりそうなんだけど」
「大丈夫だろきっと。こっちの濃紺色の女性がインディゴ。あっちの紅白ナイトがヒースクリフ」

 この発言に対してはヒースクリフが突っ込んだ。

「スバルくん。君は語彙力に欠けるようだね。もっと良い呼び方があっただろう。紅白と言えど白色はマントと武器だけだ」
「それを言うなら赤いのは鎧だけじゃないか……」

 変なところにこだわりを持っていたようだ。珍妙な自己紹介を終え、少しの間の沈黙のあと、アイが屈んでメントレと視線を合わせながら尋ねた。

「貴方はいったいどうして木の上に居たの?」
「ハイ! 実はあの墓塔を見ていたんです!」
「墓塔?」

 アイの疑問符にヒースクリフが横から答える。

「恐らくガルーア墓塔のことだろう。先代、風の竜の王の遺骨が収められていると伝えられている、大きな塔だ」

 ガルーア墓塔というのは俺も聞いたことがある。そしてそれが意味するのはかなり特殊だ。

「……三大鬼畜クエストのひとつの会場だな。第三十三層のラストクエストと噂されている、例のヤツ」

 三大鬼畜クエストがひとつ、≪煉瓦(れんが)双椀(そうわん)晩秋(ばんしゅう)枯風(からかぜ)≫。風の先代王の最後を(たた)えて建築された巨塔を舞台にしたクエストなのだが、クエスト背景は其処に居座る竜を退治しろ、というものでその竜は話によると風の竜王の次男、ミシャ、という竜らしい。このミシャは――第三十三層勉強会で判明したことなのだが――以前の大戦争の原因を起こした不法占領の竜なのだ。大地が浮いた日の後、ミシャはその時の因縁で現・土の竜王から暗殺を謀られたものの命からがらで逃げ切り、何を勘違いしたのか風側の仕業かと思い込んで(もともと風の兄弟の仲が悪かったらしいので順当な判断かもしれないが)不敬を承知で巨塔に立て篭もり、さらには周囲に巨塔を守る二つの護衛の塔を建てたという。

 このクエストは風と土の両国からの要請でのクエストで、現竜王たち直々の依頼なのだ。どうも土と風両陣営は今なお緊張関係を(よう)しており、その原因がこのミシャということらしい。こう言うのもなんだが、政治的に高度な存在になりすぎたというヤツだ。二国としてもその関係を解消するためにミシャ討伐にて区切りをつけたいということだろう。そのためにこのクエストの完遂には両国から大量の恩赦を受けられると保証されている。

 しかしそう簡単にことは進まない。このクエストの最大の特徴は難易度だ。ワンパーティーの六人でしか挑めないくせに発見から一週間立つの現在も最初の護衛塔すらクリアされていない。死者こそでないものの攻略情報は皆無なのだ。情報屋ですらこの攻略情報の無さには参っているらしい。なんと言っても未だ一本目の護衛塔の一階すら突破されたことが無いのだから。

 記憶が定かなら、このクエストは風土両陣営に点在する竜人の近衛兵(このえへい)にて受注できる筈だ。まさかメントレがそのクエストのフラグNPCだとは思えない。

「メントレ、君はそんな怖ろしい場所に何か用でもあるのか?」

 と尋ねた瞬間、頭の上の【!】マークがクエスト進行中の【?】マークへと変わった。そしてメントレの口から俺にとって聞きたくない言葉が出てきた。

「シィー、現在発注されているクエストようにあの墓塔に用がありまして! 最終的に巨塔の頂上まで行きたいのですが……よろしければ手伝ってくれないでしょうか?」
「ああ、わかった」

 俺の返答に呼応するように、素早く三つの電子的な鈴の音が響く。そうすると俺の手元にメニューウインドウが出てくる。そのクエストの項目を指で触れ、新たに出た小ウィンドウの中を読み解くと。

「……なんてこった。やっぱり≪煉瓦と晩秋≫かぁ」
「どういうこと? 竜人だけじゃなかったのかしら。例外にしても伏線すらないのはこの層にしては奇妙ね」
「確かに、私も初めて聞く情報だ。南の町に何か情報があるのかもしれない」

 ポツポツ漏れるプレイヤー達の呟きにメントレはやや首を傾げながらも、律儀にクエストの解説を始める。

「目的は巨塔の上にいる竜ミシャの討伐ですが、そのためには二つの護衛塔のてっぺんにある防衛装置を破壊しなければなりません。そうしないで巨塔に入ろうとすると謎の投石物で潰れます。そういえば、ふふ、実際に潰された冒険者もいましたね!」

 その冒険者というのは覚えがある。大きな石を転がして埋まったとある彼女を救出するのには骨が折れた。アイが微妙な顔をして、メントレは面白げに言葉を続ける。

「なんでも、その冒険者は下半身だけ潰れていて救助されるまで一時間ぐらい上半身で暴れて助けを求めていたそうですよ! こう言うのは不謹慎なんですが冒険者の失敗談は良い笑い話になりますよね!」
「俺もそう思うよ」
「……」

 俺の賛同の声に睨みつける眼差しが一つ。

「悪い悪い。……と、そうだな。本題はこのクエスト引き受けたわけだがどうするべきかだな」

 問題はその点だ。三大鬼畜クエストと言われるだけあって現在の≪煉瓦と晩秋≫への一般認識はクリア不可、だった筈だ。俺はそんなクエストに挑む無謀さはたくさん持っているが、勝算が微塵も無いとなると諦める利口さも持ち合わせている。メントレの手伝いを引き受ける前に、俺とアイは一度手痛い敗北を受けているので(とは言っても護衛塔に入る前にアイが離脱しただけなのだが)ここは確かな勝算が欲しい。というわけでここは一度、確かな勝算に話しかけてみよう。

「ヒースクリフ、君が受けるなら俺も行こうと思う」
「ほう。と、言うと?」
「正直このクエスト、普通の攻略組が一人でもいると実力的に無理だろうと思う。だからこそここはチームプレイよりもスタンドプレー。攻略組の中でも実力の高いメンバーを揃えて挑めば可能性があると思う」
「ふむ、そのメンバーは?」
「実力者の中でもアドリブが利いて協調性のあるプレイヤーがいい。これから揃える」

 そこまで言うとヒースクリフは一度だけ(うなず)き、力の込めた声で返した。

「いいだろう。協力させて貰おう。そこで私も一人推薦したい。私のギルドのサブリーダーで、恐らくは知っているだろうが、アスナというプレイヤーだ」
「知っているとも。申し分ない戦力だ」
「そうね、とするとあと二人かしら?」
「あっその件ですがアタシもパーティーに入ります」
「「え?」」

 出し抜けに素っ頓狂な二つの声が上がった。無論、俺とアイである。僅かに早く意味を呑み込んだ俺が尋ねる。

「メントレ、パーティーに参加するの?」
「シィー!」

 この場合、シィーとはイエスの意味だろう。となるとこれは護衛ミッションだろうか? そうなると難易度が恐ろしく跳ね上がる。訝しげな表情の俺に気づいたのか、メントレが抗議の声を上げた。

「アタシも闘えますよ?」
「え~、どれくらい?」
「レベル52」
「うおッ! スゲェ!」

 今の俺とアイのレベルは46だ。この層ではこれ以上のレベル上げは困難なので、そこから更に6レベル上となると俺達では一年かかってもこの層では決して到達できないだろう。これは推測というよりも経験測。より堅固な確信だった。

「更に言えばこの杖はプラス50ですッ!」
「ひええぇぇ!」

 俺の武器のプラス値は21。これでも現段階では高い方の筈なのだが、メントレの武器はその倍以上の性能を誇るというのか。

「しかもこのプラス値はすべて魔法振りですッ!」
「おおッ……おぉ?」

 武器強化の強化パラメーターの種類は、≪鋭さ≫≪速さ≫≪正確さ≫≪重さ≫≪丈夫さ≫の五つだった筈だ。魔法なんて項目は確かに存在しない。更に言えば、極振りという点も怪しい。色々試したのだが、強化パラメーターは二~三個に絞るのが一番オーソドックスで強力なのだ。(ちな)みに俺の愛しきジャマダハルの場合は、速さに5、正確さに8、丈夫さに8を振っている。

 それでも武器パラメーター一点極振りというビルド嗜好は確かに存在するが、一点を除いてオーソドックス型に劣る。ついでに言うならその一点はロマンだ。はて、メントレはロマンチストなのだろうか。

「魔法ってどんなのが使えるのかしら?」

 同じようなことを思ったのか、アイがメントレに向かって()く。

「あー、もしかして魔法の力を疑ってますか? 疑ってるんですか? いいでしょう! ここは信頼と安心の為、一発だけお披露目しましょうか!」

 そう言うと、メントレは崖際まで歩み寄って下を覗きこんだ。そしてブツブツと何かの文言(もんごん)を唱え始める。

「偉大なる火焔、それ文明の証、それ進化の兆し、そして(ただ)れの病ッ! 焼き燃やし灰を生め! 咲け! 『灰焔花(はいえんか)』ッ!!」

 金色の杖から赤色の炎の花が飛び出し、崖下にゆったりと自転しながら降りて行った。ふわふわしたような軌道でその火の花は、下でぼーと呆けていた枯れ木のモンスターに直撃した。と認識した瞬間、ぶわぁぁと炎が燃え上がり、かなりの速度で周囲へと燃え広がった。

「あ、やばっ」

 メントレの言葉に一瞬ゾッとしたが、メントレが杖で地面を突くと、ぼおぼお燃えていた炎は消えたように鎮火し、居た筈のモンスターも跡形もなく消えていた。その光景に驚きと感心を馳せながら、ひとつ浮き出た疑問を投げてみた。

「メントレ、発動には詠唱時間が掛かっても、無効化するのは一瞬なんだな」
「ああ、詠唱も名前以外は破棄できますよ。性能も対して変わりません」
「……」
「でもほら。魔法っぽいでしょ?」
「そうだね……」

 結論、メントレ・マジーアはロマンチストだった。つまりは俺と同族だということだ。『類は友を呼ぶ』か『同族嫌悪』か。それは今後に発覚するなのことだろう。様々な期待を込めて、俺はこのクエストを引き受けようと思う。 
 

 
後書き
流れがZ級映画みたいになりました。冗長ですねぇ。減らすべきでしょうか。受験中に思いついたこと全部突っ込んでしまいました。
隔週更新に戻ってみたいのですが、引っ越しとか心配なので、確約は出来ません。

骨格スキルの痛みですが、実は大したことありません。スバルくんが痛みに耐性がないだけです。本当に不便なのは(一般的に敬遠される理由としては)体に響く振動のほうです。こちらは次第によっては疑似スタンに成り得ます。

ではまたー。 
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