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ボスとジョルノの幻想訪問記

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アリス・マーガトロイドの秘密 その④

ボスとジョルノの幻想訪問記15

 あらすじ

 アリス・マーガトロイドの家に隠されていたのは彼女によって人形へと変貌した霧雨魔理沙だった。
 魔理沙を「殺さざるを得ない状況」に追い込まれたディアボロは『スタンド』によって大きな怪我を負いながらも何とか魔理沙、アリスともに始末し家から出ていった。
 ディアボロは再び一人、夜の魔法の森へとさまよい歩いていく・・・・・・。

*   *   *

 ボスとジョルノの幻想訪問記 第15話

 アリス・マーガトロイドの秘密④

 魔法の森を何のあてもなく歩き続けるディアボロ。正確には歩いているのは彼のスタンド『キングクリムゾン』であり、ディアボロはそれにおぶらされて移動していた。

 彼の右足の膝下。そこは先ほどのアリスとの闘いの中で負った傷がある。気休め程度の包帯からは血が滲みだし、血の臭いをあたりに漂わせている。

 もちろん、夜の魔法の森は妖怪、妖精、その他諸々の住処でもある。そういった異形の者たちは彼の引く香ばしい血の香りに誘われて――。

「ちッ・・・・・・!」

 彼を捕食しようとわらわらと集まるのである。

「この俺を食らうというのか・・・・・・? 雑魚どもが・・・・・・」

「グルル・・・・・・」

 狼の様な風貌をした妖獣が数匹、群を成して彼の周囲に集い、一斉に飛びかかる!

「『キングクリムゾン』ッ!!」

 彼は時を消しとばし――――。

「貴様等には触れることすらも汚らわしい。自分たちの肉の味でも楽しんでおけ・・・・・・」

 時は再び刻み始める。

「アァぎゃあああああッ!?」「グルラルルアララッ!?」

 飛びかかったと思ったら、いつの間にか自分たちの肉を噛みつきあっていたのだ! 妖獣の顎の力は凄まじいため、お互いの頭や喉をいつの間にか食い破っていた狼たちは全員とも倒れになった。

「・・・・・・ふん、襲ってくのがこんな雑魚ばかりであればいいんだが・・・・・・」

 彼は自分の膝の怪我をみて呟いた。血は止まる気配は無くドクドクと流れ落ちている。

「・・・・・・ッ!?」

 ぐらり、と彼を唐突な目眩が襲った。血を流しすぎているのか、いや違う。

 魔法の森を覆う霧は徐々に彼の体に悪影響を及ぼし始めていた。

(ま、不味いぞ・・・・・・こんなところで気を失ったら・・・・・・)

 いくら復活するとは言え、進んで死にたくはない。それは彼にとって『死』は恐怖でしかない。幾度と無く味あわされた絶望には出来るだけ陥りたくはない。

「せ、せめて魔法の森は抜けなくては・・・・・・ッ!!」

 だが、そんな彼の意志とは裏腹に――――。

「っ!?」

 ふとした瞬間、彼の体は地面に崩れていた。精神状態がかなり不安定なせいで、スタンドが維持できずにいたのだ。

「・・・・・・う、く・・・・・・」

 彼の疲労はピークに達していた。そもそも魔理沙の『死神13』を看過するために眠気も限界まで耐えていたのだ。そこに来てアリスとの闘い、深い傷、魔法の森の障気。彼は既に動けるような状態ではなかった。指一本すらぴくりとも動かない。

(ま、また・・・・・・俺は・・・・・・こんな・・・・・・)

 次第に彼は思考することさえも不可能になり――――。

 眠るように森の真ん中で息を引き取った。

*   *   *

 本日のボスの死因。

 衰弱して死亡!

*   *   *

 ディアボロが死ぬ約30時間前――――永遠亭。

 スカーレット姉妹の襲撃を受け壊滅状態のところに。

「ふぅ~、さてさて。もう敵さん方は撃退されたのかね~」

 因幡てゐは闘いの音が止んで1時間後に暢気なことを言いながら母屋から戻ってきた。

「永琳様~、姫様寝ちゃったんですけどそのままでいいですよね~って何じゃこりゃウサァーーーーッ!?」

 廊下から病室に入ると鈴仙が大きめの瓶を抱いてヘたり込んでいたのが最初に目に留まった。更にベッドにはジョルノ(あとリグルとミスティア)が寝ており、咲夜と美鈴の姿は無い。

 そして肝心の永琳の姿が見えないのである。

「ちょ、れ、鈴仙鈴仙! 一体どうしちゃったのよ! 永琳様は? ドッピオは!? 他の慧音とか妹紅とか、その辺の奴らもどこに行ったウサ!」

「・・・・・・」

「れ、鈴仙?」

 てゐが尋ねているのに鈴仙は俯いたまま、何も言葉を発さなかった。

「ねぇ、ねぇってば! なんか返事しろよ駄目ウサギ!!」

 てゐは普段からは考えられないほど焦っていた。こんな鈴仙は見たことがない。黙りこくったままの彼女をてゐは大きく揺するが返事はない。

「・・・・・・意識が無いの? でも、条件反射は起こってるっぽいけど・・・・・・」

 てゐは鈴仙の呼吸を確認する。脈拍も正常だし、呼吸も荒れてはいない。だが何故返事をしないのだろうか。それに、鈴仙が大事に抱えているこの瓶は一体・・・・・・。

 と、てゐの耳に聞き覚えのある声が届いた。

「・・・・・・テ・・・・・・ヰ・・・・・・」

「はッ!? その声はまさか永琳様!?」

 声の出所は鈴仙が抱えている瓶だった。てゐはそれを鈴仙から奪い取り、瓶を凝視する。中の液体が動いているように感じた。

「え、永琳様なんですか!? 何だってこんな液体から声が・・・・・・!」

 てゐは瓶に向かって話しかける。それに呼応するように液体は波立ち『声』を発する。

「・・・・・・ツクエ・・・・・・、Bー31・・・・・・」

「机? Bー31・・・・・・って」

 てゐは永琳の部屋がある方を見た。アルファベットと数字が指すのは永琳の作った名前のない試験薬のことを指している。

「も、持ってきます!」

 てゐは瓶を抱えたまま、永琳の自室に入った。そして永琳の机の引き出しを開き、大量に詰め込まれた蓋付き試験管の中からBー31という名称の札が付けられた物を取り出す。

「で、これをどうすれば・・・・・・」

 注射薬だろうと思いてゐは薬を真新しい注射の中に移しかえる。すると瓶の水面が震えて

「・・・・・・ロウカ・・・・・・モコウ・・・・・・」

「ロウカ、モコウ・・・・・・? 『廊下』と『妹紅』ウサ?」

 取りあえずてゐは瓶と注射器を抱えて玄関の廊下に来ると――。

「慧音ウサ・・・・・・?」

 まず目に飛び込んだのは土間でぐったりとしている上白沢慧音の姿だった。てゐは瓶と注射器を置いて慧音をまず土間から引き上げようとする。

「って、何この腕ッ!? な、何で、こんな、一体・・・・・・ッ!」

 引っ張りあげようと慧音の腕を掴んだが・・・・・・右腕と左腕が繋がった彼女の腕を見て思わず慧音の体を突き放してしまう。

「あぁッ! ごめん慧音! 早く助けないと・・・・・・でもこれって・・・・・・」

 正直、誰がこんな状態の腕が治せるというのか。てゐはそう思いながら土間から永琳を玄関に引き上げて辺りを見回す。――――だがそこに妹紅の姿は無い。

「・・・・・・とりあえず、慧音を病室に運ぶウサ・・・・・・」

 てゐは慧音をその小さな体におぶらせて、彼女を病室まで運んだ。


 その後、すぐにてゐは玄関に戻ってきた。置いておいた瓶を拾い直すと再び瓶の液体から声が聞こえる。

「・・・・・・ユカ・・・・・・、ユカ・・・・・・」

 声に従って床を見ると一カ所だけ不自然な木目があった。不気味なことにそれは人の顔のように見え、ついでにリボンのような形の模様もあった。

「うわっ、この床だけ熱い! ・・・・・・ま、まさか・・・・・・ね」

 顔面のような模様と熱から推測して『ありえない』考えが思い浮かび、一応瓶の方に耳を傾けると。

「・・・・・・モコウ、・・・・・・ソレ」

「・・・・・・マジすかウサ」

 てゐは床を見て言った。確かに、妹紅の顔に似て無くもない。じゃあこれをどうすればいいのか、と思っていると。

「・・・・・・クスリ・・・・・・」

「え? く、薬って・・・・・・『床』に打ち込むんですか?」

 てゐは思わず聞き返した。全くもって不可解ではあるが声の主が永琳の声だという確証が彼女にはあるのでてゐは疑問を口にしながらも、注射器を『人面床』に突き刺し、薬品を投与する。

 ジュウウゥゥゥゥッ!!

「うわッ!? 床から液体が! しかもどんどん蒸発していってる!!」

 てゐの言葉通り、薬品を打ち込むと同時に床から液体が溢れ出て熱によりどんどん蒸発していった。だが、蒸発した液体は空気中に拡散することなく一カ所に集まっていく。

「・・・・・・ま、まさか本当に・・・・・・」

 てゐは口をパクパクさせて驚きの表情でその現象を見ていた。蒸発した液体は煙のように拡散せず一カ所に集まり――――何かを形成し。

「ほ、本当に『藤原妹紅』なのウサァァーーーーッ!?!?」

 ――――人の形になった!!

「Yes! I'am!!」

 驚くてゐを後目に妹紅は「チッチッ」と手首を回して、復活を果たしたのである。

*   *   *

 藤原妹紅 永琳の薬により液体化→蒸発→形成により復活。

 八意永琳 自身の薬により液体化、復活はまだ。

*   *   *

「・・・・・・」

 完全復活を果たした妹紅はてゐに連れられて病室に入った。そこは依然として惨々たる有様だ。

「てゐ・・・・・・あんたの説明を受けてある程度は覚悟していたが・・・・・・」

 妹紅は独りでにつぶやいた。何人もの犠牲者が生まれてしまった。特に彼女の心を抉ったのは上白沢慧音の両腕のことだった。

「・・・・・・輝夜は?」

「姫様ウサか? ・・・・・・えっと」

 こんな状況で『自室で寝てます』なんて口が裂けても言えなかった。そんなことを言ってしまえば妹紅がどんな行動に出るかわからないからだ。

「一応、遠くへ避難させたウサ。奴らの妹紅や永琳様を行動不能に出来る能力は姫様にも有効。だから私は」

 もちろん、そんな能力を知ったのはつい先ほどのことであるが物は言い様である。と、てゐが軽く嘘をついたところ――――

「え・・・・・・」

 妹紅はてゐの胸ぐらを掴み上げ、力を込めて地面に叩きつけた。

「きゃん!」

「お前等は黙って見てたのかッ!!」

 てゐは突然の妹紅の激高に動揺を隠せない。

「な、何すんのウサ!」

「永琳が、鈴仙が、慧音が! こんな状態で戦ってたのをお前等は安全地帯でただ見てたのかよッ!!」

 ――妹紅は怒りの矛先をどこに向ければいいか分からなかった。それに対してゐも反論する。

「し、知らないよそんなこと!! 私は永琳様に命令されただけだし、そもそも私じゃ絶対に勝てっこないんだからウサ!!」

「だからって・・・・・・こんなッ!」

 と、妹紅が若干涙目になっているてゐを再び掴み上げようとしたとき、二人の間に声が差し込まれる。

「・・・・・・うるさいですよ、二人とも・・・・・・。他の怪我人もいるんだ」

「じょ、ジョルノ!!」

 てゐは声の主の名前を叫んだ。二人の口論によって目を覚ましたジョルノ・ジョバーナである。

「今頃お目覚めか」

「妹紅、まずは怒りを抑えてください」

 目を覚ましたジョルノを見るなり妹紅は悪態を着いた。

「こいつらが、輝夜が戦ってればここまでの被害は無かったはずだ! それを匿ったコイツに当たって何が悪いのよ!」

 妹紅が逆上してジョルノに食ってかかると――――。

「黙れ、と言っているんです。二回も言わなきゃ分かんないのはそいつが馬鹿だからですよ?」

「・・・・・・あ?」

 ジョルノの言葉を聞くなり妹紅は既に殴りかかっていた。既に妹紅は正気ではない。怒りに任せて周りに八つ当たりをしてしまうほどだった。

「『ゴールドエクスペリエンス』」

 だが、ジョルノは慌てずスタンドを発動させ、妹紅の拳を弾いた。

「んなっ!」

 弾かれた拳はそのまま何もない空間を裂き、妹紅は拳をからぶらせる。だが、彼女の驚きはもっと別にあった。

「・・・・・・見えましたか? だから落ち着けと言っているんです。今のあなたからは僕と同じ『スタンド使い』の気配がする。おそらく床に埋まっているときに都合良く床下にDISCが落ちていた――――みたいな感じでしょう」

「・・・・・・は?」

 ジョルノは突拍子もないことを言っているが強ち間違いではない。スタンドDISCはその使い手のすぐ近くに現れる可能性が高いのだ。幻想入りした時点でDISCと使い手の精神は繋がっている。だから鈴仙の時も、咲夜の時も丁度彼女たちのすぐ近くにDISCが現れたし、紫が関与していないスタンド使いが現れるのである。(紫が回収する前に拾われるから)

「い、今のは・・・・・・」

 妹紅は自分の目を疑っていた。ジョルノのすぐ隣に『黄金の生物のようなもの』が一瞬出現し、そいつが妹紅の腕を弾いたからである。

「ジョルノ! それってまさか・・・・・・妹紅も『スタンド使い』になったってこと!?」

「す、スタンド使い・・・・・・!?」

 てゐの驚きの言葉に疑問を持たざるを得ない妹紅。そしててゐの言葉に応えるようにしてジョルノは頷き。

「そうです、藤原妹紅。あなたは僕や鈴仙と同じ『スタンド』の才能に目覚めた者になりました」

 妹紅はすぐにあの姉妹の会話を思い浮かべる。『スタンド』という謎の単語についての会話・・・・・・。何もないはずの空間からの攻撃。対象を床に埋め込むという不思議な能力の正体。

「・・・・・・そうか、あいつらもッ!!」

「おそらく、そうでしょう。でないと不死であるあなたや永琳さんを倒せるわけがありません」

「・・・・・・」

 てゐはこう考えていた。もしかするとこの二人はあの「スカーレット姉妹」のところに殴り込みに行くんじゃあないのだろうかと。

「ちょ、ちょっと、ジョルノに妹紅! あんたたち一体何を考えて・・・・・・」

 すると妹紅とジョルノは同時に答えた。

「「やられたらやり返す」」

 二人の目には覚悟の色があった。きっと二人はこうなったらテコでも動かないだろう。だが、てゐは申さずにいられない。

「危険だって! わざわざそんなこと! みんな助かってるんだし、もういいじゃあないウサ!」

 てゐの説得は二人には意味はない。

「慧音がこんなヒドい状況なんだ・・・・・・あいつらにはキッチリ責任を取ってもらうわ」

「そ、そうだけど・・・・・・でも怪我ならジョルノの能力で」

「僕一人では出来ませんよ。医療はかじった程度だし、永琳さんの助力がなきゃ両腕の切断・縫合なんて不可能です」

 その肝心の永琳さんがこの状態(液体)じゃあね、と付け加えた。

「たぶんだけど、フランドールって奴が『あらゆる物を直す程度の能力』を持っているはずよ。でないとたった一日で玄関が直ったりはしないし、私や永琳を壁に埋めることの説明も付かない。つまり、そいつを屈服させて慧音や永琳や鈴仙を治させるのが一番いいわ」

「で、でも・・・・・・」

 と、あくまで食い下がるてゐにジョルノはこう言った。

「――――ドッピオが見当たらないんですよね?」

「――――っ!!」

 てゐは言葉を失った。そう、幻想郷に来てすぐにジョルノの友人になった彼。ヴィネガー・ドッピオがいないという事実。

「・・・・・・連れ去られたか、あるいは・・・・・・。いずれにせよ僕は真実を確かめなくてはならない」

「決まりだね」

 ジョルノと妹紅はそう言って病室から出ていった。

「ここの守りは任せましたよ、てゐ」

「・・・・・・」

 てゐは唖然としながら二人を見送ることしかできなかった。何で、わざわざスゴく危険な目に会いに行くのか・・・・・・。

「わ、分かったよ! もう! 勝手にやりなウサ!! 私はここから離れないからねー!!」

 勢いでそう叫んで病室のドアを強く閉める。

「・・・・・・無事に帰ってきてよね・・・・・・」

 心配を紛らわすために、彼女はわざと強がっていたのかもしれない。

 第16話へ続く・・・・・・

*   *   *

 後書き

 タイトル詐欺と言っても過言では無いくらいのアリス行方不明の話でした。

 とりあえず、16話からはディアボロがアリスの家にお世話になっている間の永遠亭サイドの動きになっていきます。妹紅のスタンドが活躍するんでしょうか? 今までずっと不憫な扱いだったのでちゃんと活躍させたいですね。

 話の流れ上、ジョルノと妹紅が紅魔館に向かうようですが本来ジョルノのカップリング相手は鈴仙(のはず)です。今のところ鈴仙はほぼ活躍してないんですが、まぁヒロインポジということで許してやってください。彼女は一生懸命なんです。心を砕いてがんばってるんです。本当にフランに心を砕かれたんですけどね。

 ちなみに16話からはアリス編の閑話休題的な話です。たぶん楽しい話になると思います。

 それでは16話で、またよろしくお願いします。 
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