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ボスとジョルノの幻想訪問記

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アリス・マーガトロイドの秘密 その③

ボスとジョルノの幻想訪問記14

あらすじ

 ディアボロだ。アリスの家に訳あって泊めて貰っているわけだが初日から幾度と無く『悪夢』に襲われているらしい。この『らしい』というのは俺が馬鹿だということではなく、全く記憶に残っていないからである。
 だが、何かが起こっていることだけは自分の身体的変化から明らかだった。極めつけはいつの間にか左手の甲についた風穴のような傷だ。俺は確信し、覚悟を決めて3回目の『夢』を見るために眠りにつこうとしていた。

*   *   *

 ボスとジョルノの幻想訪問記 第14話

 アリス・マーガトロイドの秘密③


 悪夢を見るに当たって俺は一つだけ仮説を立てた。これはアリスの言う『悪夢』にうなされている、という前提を元に立てているのだが、もし原因が違うのであれば再び考え直すだけだ。

 さしあたって、昼に『悪夢』を見た後、俺は何故か怪我をしていた。しかも普通の戦闘ではつかないような怪我だった。普段ならばよっぽどのことがない限り、『墓碑名(エピタフ)』で未来を予知し、『キングクリムゾン』で消し飛ばす。俺はこれまでそうやって生きてきた。そのサイクルは十分身に染み着いており、現に幻想郷でも数回行っている。

 では、何故俺は怪我をしていたのか? 仮説はそこに準拠する。

 出来るだけあり得る範囲で考えてみたところ、俺の中である一つの考えがまとまった。

 これは『スタンド攻撃』に違いない、と。

 何故その結論に至ったのか? 『悪夢』の中で攻撃を受けておきながら、その未来を消し飛ばせなかったのは俺が『スタンド』を扱えなかったからだろう。そして、『スタンド』は『スタンド』でしか倒せない、という絶対のルールを加味するならば、俺の『スタンド』に干渉できるのは『俺自身』か敵の『スタンド』以外にはあり得ない。

 この時点で『スタンドによる襲撃説』が濃厚だが、さらにこの仮説を裏付ける事実がある。

 永遠亭での戦闘に置いて、レミリア・スカーレットの放った『ユカリ』という謎の人物の名前。レミリアはドッピオをスタンド使いだと認識していて、それで『ユカリ』なる人物から殺すように言われたのだ。となれば『ユカリ』が『スタンド』に深く関わる人物であり――――この俺、『ディアボロ』の存在にも気付いているハズである。でなければ、ほとんど人畜無害の『記憶のないドッピオ』を殺す理由が見つからない。あるとすれば、『ディアボロ』を表に出すため。としか考えられない。

 そして仮説は一本の確信につながる。

 これは『ユカリ』の差し金による『スタンド』攻撃に違いない。

「・・・・・・」

 俺は布団を被り『墓碑名(エピタフ)』を作動させる。眠りに落ちる直前まで未来を見ることによって、俺が本当に『悪夢』を見るのか確認するためだ。

 だんだんと瞼が重くなる。『墓碑名(エピタフ)』は依然として真っ暗な部屋を映し出すだけだ。まだ何も変化は起こっていない。非常に眠い。だが、寝る寸前まで目を開けておかなければ『墓碑名(エピタフ)』で『悪夢』を予知することは出来ない。『墓碑名(エピタフ)』で見れる未来はせいぜい十数秒先だ。つまり、『俺が瞼を閉じて』『眠りに落ちて』『悪夢を見る』までの課程をその『数十秒』に納めなければ『悪夢』は予知できないのだ。

 既に3時間以上が経過し、アリスに貰った睡眠導入薬も効果を遺憾なく発揮している。おそらく一瞬でも瞼を深く閉じれば眠ってしまうだろう。だが、予知が『悪夢』を見るまでは・・・・・・眠ることが出来ない・・・・・・。

 くっ・・・・・・い、意識が・・・・・・もう・・・・・・。

「・・・・・・」

 瞼は鋼鉄のシャッターのように重く、ほとんど気力だけで目を開けている状態だった。だが、『墓碑名(エピタフ)』はまだ『悪夢』を映し出さない。

 く・・・・・・そ、まだなのか・・・・・・。

 そもそもの仮説が外れていれば全くこの作戦は意味がないのだが、と。そんなことを考えていると余計に眠くなる。今はただ信じて未来を予知し続けることだ。そうしなければ・・・・・・。

「・・・・・・!!」

 次の瞬間、『墓碑名(エピタフ)』で映し出していた未来が急に何かを映し出した! ついに、来た!

 その光景は西洋風の小さな小部屋だった。部屋の中心にカーテンで仕切られた大きめなベッドが一つある。

 いや、十分だ。『思い出した』ッ!! これは確かに『悪夢』で見た部屋と同じだッ!!

「キ、『キングクリムゾン』・・・・・・」

 俺は最後の力を振り絞り『スタンド』を出して――――。

 時を消し飛ばした。

*   *   *

「・・・・・・ッ!!」

 消し飛んでいる時の中で俺は奇妙な感覚を味わう。まるで体全体がどこかへと連れ去られるような・・・・・・そうか、これが『夢』に入っていく感覚か。まさかそんな感覚を得られるとは思いも寄らなかった・・・・・・。

 次の瞬間。俺は先ほど『墓碑名(エピタフ)』で見た景色と同じ場所にいることに気が付いた。俺は眠る直前に見た『墓碑名(エピタフ)』の予知によって今まで見てきた『悪夢』を思い出していた。

 ここには、あの『目玉のない幼女』がいる――――!

「目が・・・・・・冴えているな」

 夢の中には眠気は存在しないらしい。まだ継続中の時飛ばしの中で俺はある物を発見する。

 万年筆だ。俺が手の甲に突き刺したものと同一だ。

「間違いない。ここは『悪夢』と同じ空間だ・・・・・・一体どういう原理かは分からんが・・・・・・。む、そろそろ『キングクリムゾン』の効果が切れる頃だな」

 俺は背後に能力発動中の『キングクリムゾン』を確認する。どうやら『スタンド』を発現中に『悪夢』の中に来ると『スタンド』も連れていけるようだ。

 状況のある程度の整理はついた。ここにいるおそらくは『スタンド使い』であろうあの『幼女』を始末する。

「時は再び刻み始める・・・・・・」

 俺は『キングクリムゾン』の能力を解除し、『スタンド』にベッドのカーテンを開かせる。そこには同じように『瞳のない幼女』がいた。

「・・・・・・!」

 時を飛ばしていたおかげで、おそらくこいつにとっては『いつの間にか俺が目の前にいた』ように見えるだろう。瞳がないのに見えると言うのは間違っているが、ここは『スタンド』によって作り上げられた空間だ。何が起きても不自然じゃあない。

「いくつか質問をする。死にたくなければ正直に答えろ」

 俺は目の前の幼女に対して出来るだけドスを聞かせて話しかけた。

「・・・・・・」

 幼女は何も言わず少しだけ首を縦に振った。

「これはお前の『スタンド』能力だな? 一体何の能力だ」

「・・・・・・『夢』ヲ・・・・・・アイテヲ『夢』ノナカニツレテクル・・・・・・」

 夢、か。十中八九そうだとは思ったが・・・・・・だがコイツは俺をここに連れてきて何がしたいんだ?

「お前の目的は何だ?」

「・・・・・・」

 すると幼女は眼球のない目から涙を――――流し始める。

「・・・・・・ワタシヲタスケテ・・・・・・」

 それはただの懇願だった。

 何だ? この幼女は一体・・・・・・俺を殺すため、拘束するためにここに連れてきたんじゃあ無いのか?

「何が言いたい。一体何の目的があって」

「ワタシヲミツケテ、タスケテ・・・・・・」

 幼女はぽろぽろと涙をこぼして、そう嘆願し続ける。

 ・・・・・・謎が深まるな。まさか、こいつの目的が俺を殺すことじゃあないとしたら・・・・・・一体何のためなんだ? タスケテ、とは言うが・・・・・・こんな眼球のない幼女をどう助ければいいんだ?

「・・・・・・ん? 見つけて、だと? どういうことだ」

 俺は『キングクリムゾン』を背後に控えさせて尋ねる。すると幼女はこくりと頷いて話し始めた。

「・・・・・・ワタシ、元々人間・・・・・・。デモ、今、チガウ・・・・・・。ウマク、ハナセナイ、ウゴケナイ・・・・・・。ワタシハココニイイル」

「・・・・・・ココ、だと? 『ココ』とはつまり、『アリスの家』のことか?」

 その発言に対して首を縦に振る。

「元々人間・・・・・・だと? じゃあお前は今何なんだ? 死んでいるのか?」

「・・・・・・チガウ、死ンデナイ・・・・・・生キテモイナイ・・・・・・ワタシハ・・・・・・」

 と、幼女は言葉を紡ぐ。

「『人形』ニナッタ・・・・・・」

 その一言は俺に衝撃を巡らせた。

「に、人形だとッ! それはつまり・・・・・・アリス・マーガトロイドによってお前は人形に変えられた『人間』だとでも言うのかッ!?」

 思わず声が高ぶる。まさか、あのアリスが・・・・・・そんな非人道的な行為を働くはずがない。

「ソウ・・・・・・。アリス、ワタシヲ愛シタ・・・・・・。ワタシモアリスヲ愛シタ・・・・・・。デモ、アリスハ変わった・・・・・・。私ヲ人形ニ変えて・・・・・・私は・・・・・・、私はどうして・・・・・・アリス・・・・・・」

 自分のことを『人形』だと言った幼女は大粒の涙を流し続けた。いったい、この幼女とアリスの間に何が起こったのか、どうして彼女は泣いているのか・・・・・・。

「お願いだ・・・・・・。私とアリスを・・・・・・」

 動揺する俺を差し置き、彼女は――――。


「殺してくれ」


 助けてくれ、と言っていた。

*   *   *

 霧雨魔理沙 スタンド名『死神13』

*   *   *

 全て辻褄が合う。自分のことを『霧雨魔理沙』と名乗った眼球のない幼女の言うことは全て辻褄が合う。

 魔理沙はこの家のどこかで『アリスの愛玩』としてどこかにいるのだ。そして俺に助けを求めてきた。アリスの家――――二階から聞こえる『がたん』と言う音も魔理沙が必死で立てた救難信号に違いない。

 また、人形となっている魔理沙は『スタンド』をうまく扱えない。せいぜい対象を夢の中に引きずり込むのが限界だと言っていた。つまり、自分一人ではアリスからは逃れられなかったのだ。

 アリスの行動もそうだ。今まで全て彼女の優しさからによる行動だと思っていたが、違う。

 あれら全ての行動は『自分が怪しまれないため』の行動だったのだ。他人に親切であることはイコール信用に繋がる。目立つ行動を避けるために、魔法の森で迷っている人間全員に対して怪しまれないように行動していたに過ぎない。こんな人の寄りつかない辺鄙な地で一人で暮らしているのも良い証拠である。

 更に言えば大量の人形。人形化した魔理沙をカモフラージュするためと言っても過言ではない。万が一、迷い人に魔理沙を発見されても人形だと言いくるめられるからだ。

 じゃあ、もし俺が全てを知っているとアリスに知られたら?

 アリスはどう出るのか?

 決まっている。

「くそッ!!! よ、よくもこんな事を話してくれたな・・・・・・霧雨魔理沙ッ!!」

「・・・・・・」

 魔理沙は答えない。自分はもう殺されても良いからだ。だが、俺は違う。

「アリスに命を狙われるハメになる・・・・・・ッ!!」

 今すぐにでもアリスの家から逃げ出したいところだが、魔法の森が霧で満ちている今はそれも出来ない。

 アリスに怪しまれずにあと一晩を乗り切る? だが次の日に霧が晴れている保証はない。そもそも、アリスに嘘が通用するのか? これだけ用心深い奴だ。少しでも変な動きをしたら殺されかねない。

 何なんだこの状況は・・・・・・ッ!! 魔理沙の願いを聞き入れ、先にアリスを殺すか。それとも無視を決め込み、アリスを欺いてここから去るか。

 ――――だが、俺の選択は一つに絞られる。

「・・・・・・夢から覚める場所は・・・・・・ココ」

「・・・・・・は?」

「夢から覚めた時、あなたは私の・・・・・・目の前にいることになる」

 霧雨魔理沙はそう言った。そんな場所にいたら確実にアリスにばれるだろう。何しろ家の中には大量の彼女の人形がいるのだから。

「や、やめろッ!! ふざけるな、俺を巻き込むんじゃあない!!」

 俺は『キングクリムゾン』で魔理沙の息の根を止めようとするが――――。

「『死神13』解除」

 悪夢はそこで途絶えた。

*   *   *

「――――はッ!?」

 俺は体を起こすとそこは夢で見たのと同じような部屋――――だが、あたりには大量の人形が浮かんでいた。

「シャンハーイ!?」「ホウラーイ?」

 当然、俺はすぐに人形どもにバレてしまう。つまり、アリスに俺の居場所がバレてしまった。

 巻き込まれたくもない、知りたくもないことに、無理矢理巻き込まれた。

「き、霧雨魔理沙ァァーーーーッ!! 望み通り、ぶっ殺してやるッ!!」

 俺は血走った目で『キングクリムゾン』を出してベッドのカーテンを開ける。そこには大量のぬいぐるみに囲まれた夢と同じ幼女がいた。だが、眼球がある。しかしよく見てみるとそれは人工の眼球だった。

 後にはもう引けない俺はすぐに魔理沙を掴み上げ、『キングクリムゾン』の両手に力を込める。――――軽い。元々人間とは思えないほどの軽さだった。

「死ねッ!!」

 と、その時。

「シャンハーイ!!」「ホウラーイ!!」

 俺の両脇腹に激痛が走る。

「ぐ、ぐぅあああああああああ!!!?」

 見てみると先ほどの人形が二匹、武器を持って深々と俺の両脇腹を突き刺していた。『キングクリムゾン』に込めていた力が緩み、魔理沙はベッドに崩れ落ちた。

「――――何をしているの、ボス・・・・・・!」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 背後にいたのはアリス・マーガトロイドだった。彼女は俺を見下しながら大量の人形をこちらに向けて飛ばしてきた。その一体一体が弾幕を展開しながら突っ込んでくる。不意を付かれた俺は『キングクリムゾン』で時を消し飛ばそうとするが・・・・・・。

「があああああああッ!!」

 その前に何発もの弾幕が俺に被弾した。被弾した箇所は肉が抉れ、血が吹き出す。特に右足の被弾がヒドく、膝から下に感覚がない。

「『キングクリムゾン』ッ!!」

 俺は弾幕によって後方の壁に叩きつけられながら時を消し飛ばす。残りの弾幕は結果だけを残すように俺を透過していった。

「ぐぅううううッ!! み、『右足』がッ!」

 立ち上がろうとしても上手く右足に力が入らない。膝のあたりが深く被弾しており、骨が見えている。痛みも感じないほどの重傷だった。

「くそッ、畜生がァァーーーッ! アリス・マーガトロイドに霧雨魔理沙ッ!! 何の関係もない俺を巻き込み、殺すつもりかッ・・・・・・!!」

 地面を這いながら出来るだけアリスと距離を取る。

「・・・・・・げ、限界だ・・・・・・時が刻み始めてしまう!」

 そして、『キングクリムゾン』の効果が切れた。

「――――はッ!? 消え・・・・・・いや、そこ!? いつの間に、瞬間移動かしら??」

 アリスは人形を構え直し、こう言った。

「――――ボス、あなたは見てはいけないものを見てしまった・・・・・・。私と魔理沙の『秘密』を・・・・・・、知ってしまった。生かしてはおけないわ・・・・・・」

 彼女の声はいつも通りの『優しい』口調だった。どこか、俺を殺すことを惜しむような、しかし、仕方がないと割り切っているような。迷っているのだ。

「・・・・・・ッ!! アリス・・・・・・、貴様は一体・・・・・・何がしたいんだッ!」

 俺はそう尋ねずにはいられなかった。魔理沙が夢の中で言うには貴様等は道理からは外れてはいたが、お互いを思い合っていたんじゃあ無いのか? と、聞かずにはいられなかった。

 そして信じられないのだ。アリスが、あのバカが付くほど親切な彼女がこんな行為に及んでいるのが。

 すると、アリスは真っ直ぐに俺を見て答えた。

「・・・・・・魔理沙のためよ。あの子は私と違ってただの人間・・・・・・。寿命もわずか100年程度しかもたない。もし100年後、魔理沙が死ぬときになって私と別れるとき、一番辛いのは『私』じゃあない。魔理沙なの」

「・・・・・・どういうこと、だ!?」

「あの子を私と同じように魔法使いにすることも出来る。でもそれは魔法使いとしての苦しみを彼女も味わうことになってしまう。『私』の苦しみを知るのは『私』だけでいい」

 俺にはアリスが何を言っているのか分からなかった。だが、だんだんと分かりかけてきた。確かに、アリス・マーガトロイドは優しい。

「そして、私が先に死んだら悲しむのは私ではなく、やっぱり魔理沙なの。『私』じゃあない。『魔理沙』が悲しむ」

 だが、優しすぎる。

 極端すぎる。優しさが、自己犠牲が行き過ぎた結果が、目の前の自覚のない狂気なのだ。

 彼女は自分の行為は全て魔理沙の幸福に繋がると信じて疑っていない。魔理沙を人形にしたのも、魔理沙は自分がそばにいればそれだけで幸福だと思っているからだ。


 ――やはりここの恋愛観は狂っている。


「だから、ボス。私の魔理沙に手をかけるというのなら・・・・・・、それは魔理沙の幸福を邪魔していることになる。私はそれだけは絶対に許さない。――――あなたを殺すわ」

 言い終わると同時に人形を四散させて一斉に弾幕を俺にめがけて放ってきた。規則正しく並んだ赤い弾幕が俺めがけて飛んでくる。

 ババババババババッ!

「っ!!『キングクリムゾン』ッ!!」

 今度は被弾する前に時を消し飛ばせた。だが、右足がそれで治るわけではない。アリスと俺との距離が離れているため、『キングクリムゾン』で攻撃しようにも届かないのだ。

 このままじゃあジリ貧だ。状況を打開する策を考えなければ、出血の激しい俺が先に倒れてしまう。

 そう考えている間に時が来てしまった。

「――――ッ!? 弾幕が消えた!?」

 と、アリスにはそう見えただろう。消し飛んでいる時間は俺にしか認識できないのだから。

「人間のくせに一体、どういう能力を持っているかは知らないけど、上海と蓬莱人形の攻撃が利いたところを見るに・・・・・・」

 と、彼女は懐からスペルカードを取り出した。

「戦符『リトルレギオン』」

 アリスがそう唱え終えると彼女の懐から6体の剣を構えた人形が出現する。6体を同時に操るとは、さすが『人形を操る程度の能力』を持つだけのことはある。6体はアリスの前に出て円を描くようにゆっくりと回って――――突進してきた。

「今度の剣捌きはどうかしらァーーッ!?」

 人形たちはひゅんひゅんと舞踊りながらこちらに向かってくる。一見美しい剣舞を見ているようだが明らかな殺意が込められていた。おそらく数十秒後には切り刻まれているだろう――――。

「・・・・・・ッ! だが、そんな未来は・・・・・・ッ!!」

 俺は『キングクリムゾン』の能力を発動させる。そしてスタンドを操り自分を抱きかかえさせた。こうすれば俺が動けなくとも『キングクリムゾン』が満足に動けさえすれば移動は可能だ。

 人形たちが消し飛んだ時の中で意味のない踊りを舞う中、俺はアリスの方では無く魔理沙の方に移動する。時間がない。『キングクリムゾン』を操作して俺をベッドに投げ捨てさせてまずは魔理沙から殺すことにする。

 アリスから殺してもいいが、ベッドに逃げ込むことによって彼女の視界から一時的に隠れることも出来る。残り8秒。俺は『キングクリムゾン』にベッドのカーテンを閉めさせて、人形になってしまっている霧雨魔理沙を見た。

「望み通り、貴様から殺すことにするッ!!」

「・・・・・・」

 人形になり、ほとんど動かない魔理沙の口元が少しだけ綻んだ。

 『キングクリムゾン』は魔理沙の首もとを掴みあげる。そして時が刻み始めると同時に――――。

「・・・・・・まずは一人・・・・・・」

 ――――本当にこれでいいのか。

 そう思いながら、彼女の首を握りつぶした。そこから血が流れることはない。人形に血は通わない。

*   *   *

「・・・・・・またいつの間にか消えた・・・・・・人形も攻撃を終えてしまっている・・・・・・」

 時が再び刻み始めると、ベッドの外からアリスの声が聞こえた。

 俺はすぐに『墓碑名(エピタフ)』で未来を見てアリスの行動を予知し始めた。しばらく人形で辺りを警戒しているようだが・・・・・・。

「すぐにベッドのカーテンが閉じていることに気が付くはずだ。そこが叩くチャンス・・・・・・ッ!」

 と、アリスがこちらに気が付いたようだ。俺は『墓碑名(エピタフ)』を止めて『キングクリムゾン』を出す。

 その時、アリスの「まさか!」という声が聞こえた。もちろん彼女が向かってきたのは魔理沙のいるベッド。アリスは何の警戒もなしにベッドのカーテンを開いて――――

「魔理沙――――ッ!!?」

 俺は見せつけるように魔理沙の人形の首を掲げた。

「――――遅かったな・・・・・・。そして射程圏内だッ!!」

「こ、のッ!!」

 アリスは衝撃的な現実に目を見開くが、すぐに人形を大量に出して俺を始末しようと突っ込んでくる。

「殺してやるッ!! 私の、魔理沙をよくもォォーーーー!!」

 だがしかし――。

「一手、遅かったな・・・・・・!!」

 『キングクリムゾン』の蹴りがアリスの華奢な体に直撃する。

「がっはァッ!?」

「容赦はしないッ! 止めだァァーーーーーッ!!」

 壁に叩きつけられたアリスに追い打ちをかけるように、パワーAの『キングクリムゾン』の拳が炸裂する。

 ドドドドドドドドドドッ!!!

「キャアアアアアアアアアアッッ!!!」

 アリスの断末魔の悲鳴が上がり、全身から血を吹き出す。そして『キングクリムゾン』のラッシュの衝撃に耐えきれず壁が抜けた――――なんと壁の先には、火!

「むッ!? こ、これは『暖炉』の煙突!?」

 突然の熱気が部屋に入ってきた。ここはリビングの真上の部屋。当然暖炉の煙突が通っているわけだが、丁度そこにあたるとは・・・・・・。

「・・・・・・だがこれで確実にアリスは・・・・・・」

 アリスは悲鳴も上げれないまま煙突の下に落ちていった。燃え盛る炎の中へと。

「・・・・・・せめてもの土産だ・・・・・・二人で一緒に逝くがいい・・・・・・」

 俺は魔理沙の人形を首と胴体、両方をその穴に投げ込む。熱気は収まることはなく、二つの死体を燃やし尽くしている。

 これで人形の館の『悪夢』は終わりを告げた――――。

「・・・・・・く、そッ・・・・・・! 後味の悪い・・・・・・!! 怪我も深いし、何て最悪なんだ・・・・・・!」

 俺は悪態をついて『キングクリムゾン』に自分をおぶらせて部屋を出る。一階で医療道具を拝借し、一応の応急処置は施した。

「・・・・・・これからどうする」

 俺はもうこんな家にはいられないと思い、とりあえず外に出た。満足に歩けないため『キングクリムゾン』の背中に乗っているが・・・・・・まだ少し霧があるようだ。

 俺は何のあてもないまま深夜の森をさまよい始めた。

*   *   *

 人形の館、リビング。

「――――」

 誰もいないはずの空間で何かの声が聞こえる。

「――――甦りし者」

 本来ならば発せられないはずの声が噎せ返るような黒煙を吐き出す暖炉から聞こえてくるのだ。

「――――闇とともに喜びを・・・・・・」

 ぶつぶつと呟くような声は次第に、次第に大きくなっていく。

「『リンプ・ビズキット』闇の底から甦りし者、闇とともに喜びを・・・・・・『リンプ・ビズキット』闇の底から甦りし者、闇とともに喜びを、『リンプ・ビズキット』闇の底から甦りし者、闇とともに喜びをッ!!」

 炎の中から、見えない何かが二つ、這いだした――――。

 そしてもう一つ、人形の館から人形が全て『消え去った』。


 第15話へ続く・・・・・・。

*   *   *
 後書き

 東方側の主要キャラをどんどんぶっころ・・・・・・退場させていくスタイル。人気キャラをいきなり二人も退場(死亡)させてしまい、申し訳ない気持ちで一杯です。でも反省は全くしません。文句はディアボロにどうぞ。

 さて、今回登場した霧雨魔理沙のスタンド『死神13』ですが、魔理沙自身は人形になってしまっているので全くスタンド像を操る事が出来ません。そもそも魔理沙のくせに魔理沙らしい「~だぜ」という口調も言えなくなっています。今回一番可哀想なポジションですねぇ・・・・・・主人公なのに。
 あと、魔理沙の眼球がなぜくり貫かれていたのか。理由としてはアリスが魔理沙を人形にすると眼球が腐ってしまうんですね。皮膚は手入れが簡単だけど、目はマバタキをしない人形にとってすぐにダメになるんです。だから、アリスは目だけは魔理沙から抜き取って義眼を入れているわけですね。夢の中の魔理沙には義眼は入ってません。


 アリスについて。彼女は善人です。魔理沙の幸福を盲信する善人です。ディアボロが評するように、『行き過ぎた善人』なのです。過ぎたるは及ばざるが如し、という諺があるように『優しさ』も過ぎてしまえば『狂気』となんら変わりないのです。

 ちなみに、本編で至らぬ点、不明な点があった場合は「おい、訳わかんねぇぞ。説明しろ」とお申し付けください。

 ちなみに今まで出てきたスタンドは

 3部 『死神13』(魔理沙)
 4部 『クレイジーダイアモンド』(フランドール)
    『キラークイーン』(レミリア)
 5部 『ゴールドエクスペリエンス』(ジョルノ)
    『墓碑名(エピタフ)』/『キングクリムゾン』(ディアボロ)
    『セックスピストルズ』(鈴仙)
    『ホワイトアルバム』(咲夜)
 6部 『リンプ・ビズキット』(アリス)
 7部 『(タスク)』(橙)

 となっております。あと8部から出せば一応現行の部まで全て出ることになりますね。でも8部のスタンド基本的に弱いもんなぁ・・・・・・。

 というわけで14話は終わります。アリス編はまだもうちょい続くので15話でまたお会いしましょう。

 では。 
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