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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第149話

麻生は目を逸らす事ができなかった。
この獣を見た途端、あの頭痛が頭を襲う。
クラーケンほどではないが、それでもこの頭痛のする意味を麻生は知る。

(ヴェントが言っていた仲間はやはり例の奴ら。
 おそらく、この街のどこかにいる。)

この獣を見てそう確信する。
黒ずくめの喉を貫いたティンダロスの猟犬の舌が蠢く。
それは何かを吸い出している。
黒ずくめは喉が潰されていて何も声を発する事ができないが、必死に腕を使ってその舌を引き抜こうとしている。
しかし、その抵抗は徐々に弱まり数十秒後には抵抗は完全に沈黙して腕や足などが力なくぶら下がる。
完全に動かなくなった黒ずくめの喉から舌を引き抜き、吸い上げた何かを堪能しているのかその身体は細かく震えていた。
能力を使い、黒ずくめの身体を回収して身体に干渉する。
既に死んでいるがその身体に何が起こっているのか分かった。

(生気がなくなっている。
 どうやら、あの舌は生気を吸い取っているらしいな。)

麻生は調べ終わった黒ずくめの身体を能力を使って消滅させる。
まるでこの獣の痕跡を抹消するかのようだ。
ティンダロスの猟犬は黒い霧から出てきて、その全容がはっきりする。
四足獣であるということ以外は、犬には似ても似つかない身体。
口から出る「太く曲がりくねっていて鋭く伸びた注射針のような」長い舌と全身が「原形質ににいているが酵素を持たない青みがかった脳漿」のような粘液に覆われた、まるで何も食べていないような痩せこけたような身体をしている。
あの黒ずくめがこの獣を見て正気を失うのも無理はないな、と麻生は妙に納得する。
例え、正気を失わなくてもこの存在を知ったという事実が正常な精神を蝕むのは間違いない。
このような生物を見続ければ、確実に狂気に襲われる。

(美琴から離されて正解だったな。)

こんな化け物を美琴に、いや誰にも見せるわけにはいかない。
麻生は頬に飛び散った血液を制服で拭う。
そして、能力を開放する。
麻生の身体に蒼い何かを纏う。
星の力だ。
それを見たティンダロスの猟犬はその光に若干脅えながらも、こちらに近づいてくる。
周りに気絶している黒ずくめ達は完全に無視している。
どうやら、本当にあの叫びが耳障りなだけだったようだ。

(この力が弱点である事は分かっている。
 さっさと終わらせてやる。)

左手に星の力を凝縮させて、一気に近づく。
腕を振り下ろすが、その前にティンダロスの猟犬がビルの鋭角に逃げ込む。
振り下ろされた腕がアスファルトに穴を開ける。
直前に逃げられたのを見て麻生は軽く舌打ちをする。

(鋭角に逃げて隙を窺うつもりか。)

原理などはまだ分からないが、ティンダロスの猟犬は鋭角に逃げ込むようだ。
だが、原理などは麻生にとってどうでも良かった。
鋭角にしか逃げ込めないのなら、鋭角が存在しない空間に誘い込めばいい。
麻生の後ろでティンダロスの猟犬が再びビルの鋭角から出現する。
それに気がついていないのか麻生はただ前を見つめていた。
鋭く伸びた注射針のような舌で麻生の顔面を狙う。
完璧な不意打ち。
何が起こった事を知る前に麻生は絶命する。
そうなると確信していた。
麻生が普通の学生なら。
突き刺さる瞬間、麻生は後ろを見ることなく襲い掛かる舌を右手で掴む。

「まぁ、そうくるよな。」

舌を掴みながら、麻生はティンダロスの猟犬の方に振り返る。
後ろから来ることなど麻生は予想していた。
というより、既に全方位を探知できる結界を張っていた。
ティンダロスの猟犬が出現した時点でどこにいるのか分かっていた。
麻生はその舌を引っ張り、はるか上空へと放り投げる。
能力を使って重力、ベクトルを制御して数秒でそびえ立つビル群より高く舞い上がる。
空中には鋭角どころか何もなかった。
これでは鋭角に逃げる事ができない。
ティンダロスの猟犬が高く舞い上がると同時に麻生も同時に跳んでいた。
左手には星の力が凝縮されている。

「終わりだ。」

一切の躊躇いのない一撃がティンダロスの猟犬を襲う。
拳は体を貫き、星の力が蒼い炎となってティンダロスの猟犬の身体を完全に燃やし尽くす。
空中で灰も残らず消滅して、麻生は先程の通路に着地する。
ティンダロスの猟犬を倒したのに麻生の表情は何も変わらない。
むしろ警戒していた。

(手ごたえがなさすぎる。
 差し詰め、あれは偵察といったところか。)

何体かあのような生物と戦ったが、今回のティンダロスの猟犬はあっさりしすぎていた。
他にも出て来るかと思ったが、その気配はない。
この不気味な雰囲気に麻生は警戒を強くする。

(どの道、あいつらが動いているのなら尚の事、愛穂達を見つけないと。
 今の生物は俺だから簡単に倒せたが、普通の人間からすれば脅威の存在だ。)

麻生が戦うと簡単に思えるかもしれないが、ティンダロスの猟犬は人々の脅威になる事は間違いなかった。
そもそも、鋭角があれば自由に逃げる事ができ、いつでも攻撃ができるのだ。
鋭角などそこら中にいくらでもある。
つまり、どこから出てきてもおかしくない。
麻生はとりあえず愛穂のマンションに向かう。
しかし、能力は使わなかった。
例の奴らがここにいるという可能性が出た以上、一秒でも節約したいからだ。
降りしきる雨の中、麻生は走って行った。








妙に聞き覚えのある声から電話がかかってきた。
打ち止め《ラストオーダー》の電話番号からかかってきたので、少し警戒して通話すると木原でも何でもない男の声だった。
聞き覚えがあったが、今はそんな事を思い出している暇はなかった。
その男の話では打ち止め(ラストオーダー)と先程まで一緒にいたらしい。
しかし、黒ずくめの男達に追われ、イタリア料理系のファミレス店の中で逸れてしまったらしい。
その後、色々話を聞いたが罠である可能性は決して低くなかったが、今の一方通行(アクセラレータ)に安全な道を選んでいる余裕はない。
その男は打ち止め(ラストオーダー)の捜索に手伝いたいと言い出した。
話を聞いた限り、こちら側の人間ではないことは明白。
しかし、男の方は引き下がるつもりは全くないようだ。
適当に嘘をついて、そこで話を終える。
男が言っていたイタリア料理系のファミレスに今はいる。
ウィンドウは全部割れていり、中は客や店員が全員倒れていた。
麻生が言っていた原因不明の昏倒はこの事だろう。
そこに黒ずくめ達はいない。
この分だと打ち止め(ラストオーダー)の痕跡も隠滅されているだろう。
無駄足だったな。
そう考え、ファミレス店から出ようと思った時だった。
ぞくり、と背筋に緊張が走った。
それは一方通行(アクセラレータ)の前の床に落ちている割れたガラスの鋭角からだった。
何か、とてつもない存在感をそのガラスの鋭角から感じた。
そこから黒い霧が噴き出すとそれらは固形へと変質し、地を這う四肢を形作る。
四足獣であるということ以外は、犬には似ても似つかない身体。
口から出る「太く曲がりくねっていて鋭く伸びた注射針のような」長い舌と全身が「原形質ににいているが酵素を持たない青みがかった脳漿」のような粘液に覆われた、まるで何も食べていないような痩せこけたような身体。
ティンダロスの猟犬の出現に一方通行(アクセラレータ)は首を傾げた。

(何だ、この気色悪い生き物は。)

生き物と呼ぶのか分からない化け物を見ても、一方通行(アクセラレータ)は特に何も思わなかった。
確かに不気味だ。
身体の構造や青みがかった脳漿などを見て、正気を疑うような生物だ。
だが。

(木原のヤロウ。
 生物兵器までに手を出しやがったのか。)

この生物は木原の何かしらの策略などだと思っている。
ガラスの鋭角からの出現。
正気を疑うような化け物。
これらを見ても一方通行(アクセラレータ)は木原ならやりかねないと妙に納得した考えが浮かんだ。
だが、一方通行(アクセラレータ)は気がつかない。
その考えが既に本能が自分でも気がつかない内に現実から目を逸らしている事を。
妙に納得しているのは、正面からあの化け物と対面して理解しようとすれば人間の精神などないに等しい。
ティンダロスの猟犬はゆっくりと一方通行(アクセラレータ)に近づく。
杖代わりにしているセミオートショットガンをティンダロスの猟犬に撃とうとしたが、そこで気がついた。
幾ら至近距離とはいえ、ショットガンの弾丸が昏倒している客や店員に当たる可能性はゼロではなかった。
軽く舌打ちをして、一方通行(アクセラレータ)はティンダロスの猟犬を避けるように外に出る。
その後をティンダロスの猟犬が追う。
あの化け物の狙いがやはり自分であることを再認識して、通路に出る。
ここなら周りを気にすることなく戦闘ができる。
とりあえず、ショットガンを後ろに向けティンダロスの猟犬に向かって撃つ。
弾はティンダロスの猟犬に当たるが、見た目ではほんのちょっぴりだけ傷を負っただけで、ほとんど無傷に等しい。
だが、一方通行(アクセラレータ)はそれを見て頬を釣り上げる。
ショットガンを放り投げ、チョーカー型の電極スイッチを入れる。
能力使用モードに変える。
ショットガンでほんのちょっぴりでも傷を負ったという事は物理攻撃が通用するという事だ。
火力不足ならそれを遥かに上回る攻撃を繰り出せばいい。
木原の生物兵器ならショットガンくらい正面から受けても傷など負わないと思っていたが、そうでもなかった。
ショットガンで傷を負うのなら一方通行(アクセラレータ)の全力の一撃に耐えられる訳がない。

(あめェなぞォ、木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥン!
 こンな程度でオレを倒せると思ってンのかよォ!!)

悪魔のような笑みを浮かべ、地面を軽く蹴る。
先手必勝だ。
まだ隠し玉を持っているのならそれを出させる前に潰せばいい。
ティンダロスの猟犬は迫ってくる一方通行(アクセラレータ)を見て、後ろに下がろうとする。
だが、それよりも早く一方通行(アクセラレータ)の拳がティンダロスの猟犬の身体を捉える。
そのままベクトルを操作して、ビルの壁に叩きつける。
ベクトルの勢いは壁に大きなクレーターができるくらいの凹みを作る。
ティンダロスの猟犬は原型が分からなくなるくらいグチャグチャになっていた。
それを確認して、チョーカー型の電極のスイッチを入れ替える。
拍子抜けだった。
あの木原が作った生物兵器にしてはあっさりしすぎている。

(この化け物。
 もしかしたら、木原が作ったモンじゃねェのかァ?)

少し考えたが答えが出る訳がなかった。
直接本人に聞いた方が早いかと思ったが、それほど気にする事ではないので一方通行(アクセラレータ)はショットガンを拾って打ち止め(ラストオーダー)を探しに行く。











打ち止め(ラストオーダー)の知り合いに電話した所、その内の一人に電話が繋がった。
どうやら、その人も打ち止め(ラストオーダー)を捜しているらしい。
上条当麻は今までにあった事をその人に教える。
麻生の事を話そうかと思ったが、その人が麻生の事を知って居ない可能性が高いので言わなかった。
それにヴェントについても話さなかった。
魔術側の事を話した所で意味がないと思ったからだ。
話を終え、その人は家に帰れと言ったが今さらなかった事にする事はできなかった。
手伝わせてくれと言うと、第七学区のデカイ鉄橋。
そこが合流地点になっているらしい。
それで通話を終え、今はその合流地点に向かっている。
ファミレスまで追いかけた黒ずくめ達の追手を気にしながら、上条は思った。

(街が静かすぎる。
 あの警備員(アンチスキル)の人達みたいにほとんどの人が倒れているのか?)

こんな事なら麻生にこの術式だけでも聞けばよかった、と上条は後悔する。
ヴェントがこれを起こしているのは間違いないのだが、どんな術式を使っているのか分からない。
原因の術式はもしかしたらヴェント自身ではなく、設置型の可能性もある。
ともかく、打ち止め(ラストオーダー)を見つける事が優先だ。
何とか避難させてから、ヴェントを倒す。
そう思った時だった。
違法駐車してある自転車から強烈な存在感を感じた。
通学用の自転車なのか、ツーリング用の自転車のチェーンホイールからそれは出てきた。
四足獣であるということ以外は、犬には似ても似つかない身体。
口から出る「太く曲がりくねっていて鋭く伸びた注射針のような」長い舌と全身が「原形質ににいているが酵素を持たない青みがかった脳漿」のような粘液に覆われた、まるで何も食べていないような痩せこけたような身体。
ティンダロスの猟犬の出現に上条は大きく目を見開いた。

(何だ、この化け物!?)

ティンダロスの猟犬は鋭く伸びた注射針のような舌を上条に襲い掛かる。

「ッ!?」

咄嗟に横に転がる事で何とか避ける事ができた。
ティンダロスの猟犬は上条を獲物と判断しているのか、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

(ヴェントが魔術で作った生物か?)

合成獣(キメラ)という生物が存在しそうな魔術の世界だ。
もしかしたら、そういった系列の生物なのかもしれない。
正気が削れそうな身体をしているがそれを狙って戦意を挫く役割を担っているのだろうか、と上条は考える。
その効果は絶大だな、とティンダロスの猟犬の身体を改めて見て思う。
しかし、ここで引く訳にはいかない。
ここで逃げれば、ファミレス店でヴェントが行った無差別に関係のない人を襲う可能性がある。
今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られるが、拳を強く握る事で何とか抑える。
相手が魔術で作られたのならこの右手を受ければ一撃で倒せるかもしれない。
先に仕掛けてきたのはティンダロスの猟犬だった。
二メートルある距離を一足で詰め、前足の爪で上条の腹に向かって繰り出す。
動きは速かったが、避けれない速度ではなかった。
後ろに下がってその一撃を避ける。
そこで濡れた路面を強く踏み込んだのが原因になったのか。
ずるり、と足を滑らせてしまう。

「いっ!?」

前かがみに倒れながら、前を見る。
獲物が絶対の隙を見せた所を見て、ティンダロスの猟犬は鋭い爪で上条に襲い掛かる。
このままでは避ける事ができずに、一撃を貰うだろう。
あの青みがかった脳漿のような粘液に覆われているのだ。
もしかしたら、爪には毒のような成分が含んでいる可能性が高い。
つまり、一撃でも喰らえばそこで死ぬ可能性がある。

「んなろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

叫びながら滑った足とは逆の足を無理矢理前に出す。
片足だけで全体重を支え、そのまま右手を前に突き出す。
クロスカウンターのような構図になるが、ティンダロスの猟犬の前足より、上条の右腕の方が長い。
ティンダロスの猟犬の前足より速く、上条の右腕がティンダロスの猟犬の身体を捉えた。
何かが砕け散る音と共に、ティンダロスの猟犬の身体は一瞬で塵となり消滅した。
上条はそのままバランスを崩し、濡れた路面に倒れる。
正直、ギリギリだった。
もし、ティンダロスの猟犬が前足ではなく舌での攻撃なら上条は間違いなくやられていた。
さっきの生物がまた出てこないか、と警戒したが出てくる気配はない。

(ヴェントの奴、あんな化け物を使ってまで学園都市を潰したいのかよ。
 早くあいつを止めないと。)

さっきよりも速く走りながら、合流地点の鉄橋に向かって上条は向かう。







第七学区のビルの屋上。
そこから下を見下ろしている一人の人物がいた。
全身に赤いローブを被っているので、性別や表情などが窺えない。
手には一冊の本があった。
その本が一瞬だけ光ったのを見て、

「ほう、星の守護者は予想範囲内だが一方通行(アクセラレータ)と上条当麻の方も倒したか。」

そして、何かを呟く。
常人の耳では聞き取れない言語。
しかし、聞き取れれば勝機を蝕む呪文をその人物は苦も無く唱える。
唱えられる理由は簡単だ。
この人物にはもはや正気など存在しないからだ。

「さて、次はどうかな?
 星の守護者、君の大事な者はあの猟犬から逃げ切れるかな?」

不吉な言葉を残してその人物は再び呪文を唱える。
目の前には何もないのに、突然穴が開く。
門とは思えないがその人物からすれば立派な門だった。
異次元の門の先は何も見えない。
それなのにその人物は躊躇いもなくその門の中に足を踏み入れる。
入ると同時に門は消えるのだった。 
 

 
後書き
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