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這い上がるチャンプ

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第一章

                這い上がるチャンプ
 ミッキー=ロイズマンは野球選手だ。メジャーでは名ショートとして鳴らしている。
 アフリカ系独特の褐色の肌に黒い目からブラウンの閃光と呼ばれている。精悍な細面に一八〇の背に引き締まった陸上選手の様な身体を持っている。左右の動きは俊敏でしかも脚が速く強肩だ。尚且つグラブ捌きにも定評がある。
 だがある試合でだ、彼は試合中にデッドボールを受けた、しかも当たった場所がだった。
「左バッターだったのが仇になったな」
「全くだぜ」 
 同僚のジョン=カーチス、白人でストッパーを務めている彼が見合いに来たがここでベッドの中でふてくされて言った言葉だ。
「右肩にな」
「一五〇キロのストレートまともに受けるなんてな」
「痛かったぜ」
「それはわかるぜ」
 一五〇の速球をぶつけられたのだ、痛くない筈がない。
 それでだ、こう言ったのだった。
「俺にもな」
「ああ、別にアキレス腱とかはやられてないけれどな」
 選手生命の危機に直結する、アキレス腱への怪我は。
「けれどな」
「それでもだな」
「ああ、右肩だからな」
 投げる方の手だ、ミッキーはショートなので右利きなのだ。右投げ左打ちである。
「まずいな」
「後遺症あるか?」
「今調べてる最中さ、けれどな」
「しかもだよな」
「俺の次がいるからな」
 ベッドの中で憮然とした顔のまま言った言葉だ。
「あいつがな」
「ダックか」
 若手のショートだ、ダック=ローウェルという。
「あいつか」
「監督早速使いはじめたな」
 ミッキーが負傷退場したその試合からだ、実際に監督はショートに彼を入れて起用したのである。ミッキーもそのことを知っているのだ。
 それでだ、今入院している病院のベッドでこう言うのだ。
「そして今じゃレギュラーだな」
「御前のいない間はな」
「いや、俺が復帰してもな」
 そうなっても、というのだ。
「この間にな」
「あいつはレギュラーの座を固めてるっていうのかよ」
「そうものだろ」
 プロの世界はというのだ。
「ちょっとの怪我でもな」
「それでいない間にか」
「別の奴が入ってだよ」
「そいつに場所を奪われるってか」
「俺だってそうだったからな」
 他ならぬミッキーもだというのだ。
「ルーキーの時にもうロートルになってた人を押し退けてだったからな」
「レギュラーになったからか」
「それでわかるんだよ」
 そうしたことがというのだ。
「俺がこうして入院している間にな」
「ダックの奴が入ってか」
「ああ、俺が控えになるんだよ」
 ダックと入れ替わりに、というのだ。
「そうなるんだよ」
「御前レベルのショートはいないと思うだがな」
 ジョンの見立てだ、ジョンはその鋭い青い目でミッキーを見ながら言った。金髪をオールバックにしていてスポーツマンらしい引き締まった顔をしている。
「その守備はな」
「守備か」
「御前の守備と足はメジャー一だぜ」
 それ程までだというのだ。 
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