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双子の勝負

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第四章

「この俺が」
「頼むぞ」
「はい」
 秀巳は今から恒夫を抑える気満々だった、そのうえでまさに特攻隊の様な顔でベンチにいた。その彼を見て。
 恒夫は明るく笑いながらだ、自分のチームの監督に言った。
「あいつも相変わらずですよ」
「弟さんか」
「何か決闘に行くみたいですね」
「そうした顔だな、確かに」
「あいつはいつもああなんだですよ」
「生真面目だと評判だな」
「そうなんですよ、けれど俺はこんなのですから」
 明るく笑っている、今も。
「リラックスしてますよ」
「肩に力は入っていないか」
「はい、この通り」
 リラックスしていることこの上ないという顔だった。
「身体も心もほぐれてます」
「ここがシリーズの正念場だと思うがな」
「正念場でも何でも緊張して身体が動かないと」
「何にも出来ないな」
「ええ、ですから」
 それでだというのだ。
「俺はいつも通りですよ」
「そうなんだ、それでだな」
「あいつから打ちますから」
 にやりと笑ってだ、恒夫も彼のチームの監督に約束した。しかしその表情は弟のそれとは全く違うものだった。
「絶対に」
「そして勝つか」
「ええ、チームも」
 まさにだ、そうするというのだ。
「見ていて下さいね」
「そうさせてもらうな」
「今日のヒーローインタヴューは俺ですよ」
 こんなことも言う恒夫だった。
「見ていて下さいね」
「そうさせてもらうな」
 監督も笑みを浮かべて恒夫の言葉に応える、そうして試合がはじまり。
 五番に入っている恒夫をだ、秀巳は。
 一打席目も二打席目も三振に取った、チームはその間に一点入れた。秀巳はその一点が輝くスコアボドを見ながらチームメイト達に言った。
「この一点を守りきりますので」
「完封してくれるか」
「そうしてくれるんだな」
「ええ、兄貴もです」
 恒夫も、というのだ。
「このままです」
「三振に取ってか」
「封じてくれるか」
「兄貴のことはわかりますから」
 言葉ではどうにも言い表せないがだ、それを感じ取っているからだというのだ。
「ですから」
「それでか」
「あいつを封じてくれるんだな」
「そうしますから」
 だからだというのだ。
「このまま任せて下さい」
「それじゃあな」
「頼むな」
「はい」
 ここでも生真面目な顔でだ、秀巳は答えた。しかし三振に取られている恒夫の方はどういった状況かというと。
 明るいままだ、明るい顔で相手の一点、それがあるスコアボードを見つつ言った。
「一点位ならです」
「何とかなるか?」
「今日の弟さんは絶好調だけれどな」
「それでもか」
「何とかなるんだな」
「ええ、俺が打ちますよ」
 絶対にというのだ。
「ですから」
「この試合はか」
「勝てるんだな」
「絶対に勝ちますよ」
 恒夫のいる福岡のチームが、というのだ。 
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