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スパイの最期

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6部分:第六章


第六章

「それを巻き込んでまで」
「目的を達成するのか」
「あの国らしいといえばらしいな」
 だがここでこうも言われるのだった。
「目的の為には手段を選ばない」
「全くあの国らしい」
 この言葉は皮肉だった。実にはっきりとした皮肉である。
「しかも批判には耳を貸さないしな」
「あれば揉み消す」
 それもするのがその国なのである。印象は最悪なのだった。
「そういう国だからな」
「言っても無駄ということか」
 それはまさにその通りだった。疑惑と陰ながらの批判がこの国に繰り返される。しかしそれで動じるところは全くないのだった。
「気にすることはない」
「わかっています」
 平然と上司に答えるマトリョーシカだった。今彼女は軍服を着てその上司の前にいた。今彼女は祖国に戻っているのだった。
「それは」
「ならいい。それでこそだ」
「それでこそですか」
「そうだ。パーフェクト」
 彼女に対してこう告げたのだった。
「その呼び名の通りだな」
「私はただ任務を果たしただけです」
 だがマトリョーシカは氷の様に冷たい声で述べただけだった。
「それだけです」
「それだけか」
「はい。我が国の安全保障の障害を除去した」
 実に機械的な言葉だった。無機的ですらある。
「それだけに過ぎません」
「そういうものか」
 上司は話を聞いて少し首を傾げてから言葉を返したのだった。
「そういうものなのか」
「そうです」
 また無機的な返答だった。
「それだけに過ぎません」
「それにより我が国は守られた」
「はい」
 また静かに応えるマトリョーシカだった。
「そのボーナスは貴官の口座に振り込まれている」
「わかりました」
「そしてだ」
 さらに言う上司だった。言葉は続く。
「君の階級もあがった」
「階級もですか」
「今回の作戦成功が認められてだ」
 だからだというのである。これは軍人ならば当然のことだった。功績を挙げればそれだけのものが与えられる。階級もそのうちの一つなのが軍なのだ。
「それによってな」
「わかりました」
 ここでも無機質なマトリョーシカの返答だった。
「それでは」
「君は今日から中佐だ」
 その階級が告げられた。
「少佐からだ。おめでとう」
「はい」
 階級が昇進しても同じだった。その機械的で無機質な声を変えようとはしないのだった。
「了解しました」
「では暫く休暇もあるが」
「それには及びません」
 休暇は断るのだった。
「返上致します」
「休暇はいいのか」
「次の任務があるのではないでしょうか」
 そしてこのことを問うてきたのである。
「ですから」
「あるにはあるが」
「ではそれに参加させて頂きます」
 機械そのものの返答だった。
「それで御願いします」
「よし。ではそう国防省に上奏しておく」
「御願いします」
「それでな。では下がってくれ」
「はい」 
 最後に敬礼をして部屋を後にするマトリョーシカだった。彼女が退室してから上官は。一人になったのを確認してから苦い顔で呟くのだった。
「心はないのだな」
 こう呟くのだった。
 
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