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リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた

作者:芳奈
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第十二話

「・・・・・・どうすればいいんだ?」

 葵は、崩壊しかけたビルの屋上で途方に暮れていた。

「・・・壊しても大丈夫なのか判別がつかん。」

 それは、何時間経過しても、なのはたちから連絡がないからだった。今の彼なら、ちょっと力を入れればこの程度の結界など簡単に壊せるのだが、壊して大丈夫なのかが分からない。

「誰か助けてくれー・・・。」

 誰にも伝わらないと理解していても、気弱く呟く彼。戦いが終わったのに何故このままなのかと言えば、それは今の彼の格好を見ればわかるだろう。上半身裸、ズボンはボロボロ、靴も燃えてしまっている。それなのに、体の怪我は全て治癒したので、傷一つ存在しない。

 端的に言って、怪しすぎる。

「流石に警察も現場検証に来てるだろうしなー。」

 そう。今結界を破壊してしまっては、警察や野次馬と鉢合わせする可能性が非常に高いのだ。今、海鳴市では謎の破壊事件が頻発しており、それのせいで警察は常時緊張状態だ。そんな中、人通りが少ないとは言え、街中で爆発事件が起きたのだ。そこに、全身の服がボロボロな小学生が虚空から出現すれば、どう思われるだろう?

「・・・絶対ロクなことにならねえ・・・。大人しくしてよう。」

 そう呟いて、膝を抱える。チラリ、と横を見ると、そこには仰向けに寝かされた男子の姿があった。こちらは、不良グループに暴行された跡があるだけで、大きな怪我などもしていない。気絶して寝ているだけであった。

「溶岩に落ちたり、俺の全力を喰らったりしてるのに、流石ジュエルシード。ファンタジーだねー・・・。」

 手の中のジュエルシードを弄ぶ。なのはもユーノもいない今、葵には試してみたいことがあった。
 デバイスを持っていない為、封印処理されていないジュエルシードを強く握り締める。そして願った。

「俺の力になれ・・・!」

 ――――――・・・

「ダメか。」

 ウンともスンとも言わない。元々そこまで期待していた訳では無かったが、出来ないとなると少し気落ちしてしまう。その後、『死にたくない』や、『俺のジュエルシードと融合しろ』など、様々な願いをかけてみるも、全て無意味な行動となった。

「ハア・・・。BLUE SEEDみたいに、沢山付けたら強くなるかと思ったんだけどなー。」

 その作品では、主人公は力の源となる勾玉を7つも装着している。当然、一般的な敵よりは遥かに強い存在であった。それと同じことが出来ないかと思ったのだ。前から試してみる価値はあると思っていたのだが、ユーノやなのはが居ると即座に封印されてしまうので、今しか出来ないことだった。勿論、エヴォリミットで複数のパッチを装着している人間はいないが、これは元々ジュエルシードである。パッチと同じ機能を有していても、複数装着することも可能かも知れない。そう思っての実験だったが、無意味だったようだ。

「う、うーん・・・。」

「あ、まだ寝てて。」

「うぐっ・・・!」

 ビシッっという音が響き、男子はまたもや気絶した。崩壊した街を見せるわけにはいかないのだ。さっきまでの戦闘を覚えているかは不明だが、覚えていたとしても夢だと思わせ無ければならない。それが、この男子の為でもある。

「・・・早く来ないかなー・・・。・・・いや、今のうちに能力の確認でもしておくか?」

 そう呟いき、進化したことによって出来るようになったことの確認を始める。まずは、パッチから引き出されるエネルギーを、もっと多く引き出してみる。

「・・・うん。こんな感じかな。ただ、ずっと体が光るのは目立つな・・・。」

 明るい場所ではいいが、暗い場所で使えば間違いなく目立つだろう。今の彼の体は、全身が強く発光しているのだ。優しい青の光は、隠密行動などにはむかないと思われる。どうやら、エネルギーを多く引き出せば引き出すだけ、強い光になるようで、今は意識して、ヴォルケイノと戦った時よりも多く引き出している。

「体感だけど・・・普段の四倍以上はある、か?」

 収束させて使わなくても、ただ全身に行き渡るエネルギーを多くしただけで、彼の全能力は大幅に上昇していた。全力で殴れば、ビルくらいなら倒壊させる事も可能かもしれない。これを更に収束して使えば、一体どれほどの威力になるのか。先ほどヴォルケイノに放った攻撃でさえ、今の彼には全力では無かったのだ。改めて、進化というものの凄まじさを実感した葵である。

 更に、葵はそのエネルギーを服へも纏わせた。

「お、やっぱり出来たか。これで頑丈になればいいけど・・・。」

 正直、既に普通の服では彼の戦いに付いてこれないのだ。戦うたびに服をボロボロにしてなどいられない。今の彼は小学生であり、お小遣いで生活しているのだ。服など、そう簡単に購入出来るものではないのである。切実に、彼は頑丈な服か、もしくは服を破れないようにする技術を欲していた。

 試しに、エネルギーを纏わせたズボンに、窓ガラスの破片を突き立ててみた。すると・・・

「よし!」

 ボロボロになったズボンは、ガラス片を一切通さない。ジーパンなどではなく、薄い生地のものであるから、やはり防御力が上昇しているのだろう。試しにエネルギーの供給をストップしてから同じ事をしてみると、今度はすんなり切る事が出来た。このことから、やはりパッチのエネルギーは、葵だけではなく、他の物質にも作用出来ることが判明したのだ。

「・・・ん?となると・・・?」

 ここで、彼はもう一つ試してみたいことが出来た。手に持っているガラス片に意識を集中し、今度はそれにエネルギーを纏わせてみる。そして、見事に光りだしたガラス片を、同じようにエネルギーを纏わせたズボンへと突き立てて見た。

「うわぉ・・・!」

 結果。ガラス片は、ズボンをいとも簡単に切り裂いたのである。つまり、攻撃にも使用出来る事が判明したのだった。これを思いついたのは、前世で連載していたHUNTER×HUNTERという漫画の念という技術に、オーラを物質に纏わせて能力を底上げするという描写があったのを思い出したからだ。試しにやってみたのだが、思いの外上手くいってしまい、逆に驚いている葵だった。

 こうなると、どれほどの攻撃力があるのか試してみたくなるのが男の子である。転生して若干精神年齢が下がっている葵も例外ではなかった。

 彼は、軽い気持ちで、座っている屋上のコンクリートへ向けて、ガラス片を振り下ろしたのだ。

 スッ・・・。

「・・・え?」

 手応えが無かった。彼としては、いくら強化したとは言え、ただのガラス片なのだから、砕け散るだろうと思っていたのだ。今更、彼の体にガラス片が飛んできた所で、肌一つ傷つけられることはない・・・とタカをくくって。

 しかし、結果はこうだ。ガラス片は、コンクリートをまるで紙でも切るかのごとく、容易く切り裂いたのである。恐る恐る、突き刺さったガラス片を抜いて見ると、コンクリートには深い刺し傷が出来ていた。

「・・・ヤバイ使い方発見しちゃったかも。」

 脆いガラス片でこれなら、ちゃんとした刃物なら、どれほどの攻撃力が出せるか。例えナイフ程度だとしても、恐ろしい切れ味になるだろう。

「何これ?斬鉄剣?」

 額に汗がたらりと流れる。

「こうなったら、色々使い方研究しないとな・・・。」

 いざという時、使い方が分からず自滅するのは避けたいので、更に実験を続ける。まずは、離れた場所にあるものにエネルギーを纏わせることは可能なのかどうかだ。

「まずは・・・!」

 コンクリートの欠片を手に取り、上に向かって放り投げる。それに向かってエネルギーを纏わせようとしてみるも、これは失敗に終わった。

「じゃあ次だ。」

 今度は、コンクリート片を地面に置き、少し離れた場所から地面を伝ってエネルギーを纏わせてみる。すると、これは成功した。つまり、対象に直接、または間接的に触れていなければならないということである。

「それなら・・・。」

 次は、物質にどこまでエネルギーを込められるのかの実験だ。これは、『測定不可能』という恐ろしい結果に終わった。五分間ほどエネルギーを込め続けたのだが、割れたり脆くなったりといった影響はなく、逆に、エネルギーを込めれば込めるだけ、耐久力や攻撃力が上昇していく。エネルギーを込めたただの石ころを軽く投げて見たところ、辛うじて残っていた遠くのビル群が破壊され、ガラガラと崩れ去ったのである。これには流石に、葵も目が点になった。

「さ、さて・・・最後は・・・。」

 キョロキョロと辺りを見回した葵が見つけたのは、未だ気絶している男子だった。

「・・・いや、流石に人体実験は不味いだろう・・・。」

 一瞬心に浮かんだ誘惑を、首を振って断ち切ろうとする。そもそも、わざわざ助け出した相手に自分で危害を加えるなど、無駄の極みだろう。・・・だが、

「まあ、怪我するわけがないと思うんだよな・・・。」

 彼の根拠は、原作(エヴォリミット)の序盤の描写である。

 記憶喪失となって目覚めたばかりの不知火と雫は、パッチユーザーしか存在しない火星において、下手をすれば赤ん坊よりも脆弱な存在だった。何せ、特殊能力云々よりも、身体能力が段違いだ。走っている人間にぶつかるだけで死にかねないほど弱い存在だった。

 ・・・が、彼らはこの段階でも、比較的自由に外出することが出来ていた。その理由が、『パッチのエネルギーはパッチユーザー以外にも流すことが出来る』からである。

 身体的な接触さえあれば、パッチユーザーから一般人へ、パッチのエネルギーを流し込んで強化することが出来る。その強化率は恐ろしい。何しろ、パッチを付けていない彼らが、地上四十階の校長室までを階段で昇り、全く疲労しないほどだ。

 体力面だけではなく、恐らくは防御力も急上昇している。高星カズナは、『絶対に手を離すな。離さなければ安全だ』という旨の発言をしている。それは、例え万が一カズナが危険を回避できなくても、大事には至らない程に不知火たちが強化されていたからだと考えられるのだ。

 それを考えれば、この実験に何の問題があろうか?彼が得た力は、『パッチのエネルギーの操作』であり、別なエネルギーに変換しているわけではない。ならば、男子の体にエネルギーを流し込んでも、悪影響など出るわけがない。

 ・・・が。

「・・・・・・やっぱりやめよう。これで体が破裂とかしたら洒落にならん。まずは昆虫や動物で実験だな・・・。」

 こうして、絶賛気絶中の男子は、知らぬ間に身の危険を免れたのである。

「・・・はぁ、早く来ないかなあ・・・。」

 そうして彼は、なのはを待ち続けるのだった。 
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