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リリカルアドベンチャーGT~奇跡と優しさの軌跡~

作者:setuna
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第四十話 大好きという言葉

 
前書き
大輔が新たな力を得る。
レオルモン[リリカルアドベンチャー、始まるよ] 

 
デビモンに分離された島で少しの間休憩した大輔は運よく実っていた木の実をブイモンに食べさせる。
しばらくすると雪が降り始める。
どうやらファイル島の雪原地帯に相当する場所にまで流されてしまったらしい。
寒さに耐性のあるブイモンはともかく、薄着の大輔はとても耐えられず、毛布を取り出して、マント代わりにする。
大輔「ファイル島の雪原地帯辺りかな、ここ…」
白い息が空からたくさん降ってきている雪の中に立ち上って、やがては消えてしまった。
ブイモン[…ブイモンアーマー進化!燃え上がる勇気!フレイドラモン!!]
デジメンタルを抜き取り、フレイドラモンにアーマー進化すると、大輔に歩み寄る。
少しでも寒さが和らげばと思っているのだろう。
しばらく歩くと何かが聞こえた。
かつて聞いた優しさの紋章の声に似ているようで違う声。
フレイドラモン[大輔?]
パートナーには聞こえないその声に導かれるように、大輔は足を進めた。
そこには不思議な暖かい光が溢れる洞窟があった。
不思議な光が寒さに凍えていた身体を暖めてくれるような気がした。
大輔「花?」
足元を見遣るとネリネ…ダイヤモンドリリーが咲いていた。
ネリネは彼岸花科の植物であり、花はもとより植物の全体像までがそっくりである。
彼岸といえば墓参りと相場がきまっている。
大輔は彼岸花に似ている花に不吉な何かを感じたが、綺麗だと思った。
フレイドラモンは花のことなど知らないため、ただ純粋にこの洞窟に咲き誇るダイヤモンドリリーの花を綺麗だと感じ、見取れていた。
「誰…?」
大輔「え…?」
声に反応して、振り返るとそこには何と…。
フレイドラモン[女の…子…?]
見た目からして大輔と同い年くらいの女の子が大輔とフレイドラモンを見つめていた。
「来てくれたの?」
大輔「え?」
「私の声を聞いてくれたんでしょ?」
大輔「あ……あの声は、君の…?」
「嬉しい!!」
花咲くように笑った女の子は、軽快に走りよってその手を掴んだ。
そして両手で大輔の手を握り締めて、真っ直ぐ見つめてきたのである。
「あなたのお名前教えて?」
大輔「え?あ、俺は本宮大輔」
「モトミヤ?」
大輔「大輔でいいよ。君の名前は?」
呼び捨てで構わないと言うと、女の子の名前を尋ねるが、女の子は困ったような表情を浮かべる。
「私、名前がないの。大輔が付けてくれる?」
大輔「お、俺が?」
これは中々責任重大だと思った大輔は、一生懸命考えたがさっぱり浮かばない。
フレイドラモン[大輔]
大輔「ん?」
フレイドラモン[俺はチョコやクッキーを…]
大輔「黙れ」
フレイドラモン[すいません]
チョコとかクッキーを名前候補に出そうとしたフレイドラモンを一蹴し、再び思考開始。
大輔「…夏…」
「?」
大輔「現実世界じゃ、今は夏だから…“なっちゃん”…これじゃあ安直すぎるか?」
フレイドラモン[単純…]
大輔「沈めるぞ」
フレイドラモン[ごめんなさい]
失言を言うフレイドラモンを脅して黙らせ、なっちゃんと名付けた女の子を見遣る。
なっちゃん「うん。これからはなっちゃんて呼んで、大輔。よろしくね」
すっかりお気に召したらしいなっちゃんは、鈴を転がしたような声で名前を紡いだ。
それはそれは嬉しそうな微笑みをたたえている。
大輔「そういや、腹が減ったな…」
洞窟が明るいから焚火をする必要はない。
鞄の中身をひっくり返すとまだ口にしていない木の実があった。
皮が黄色で、柿に似たような木の実。
大輔はまず、試しにかじると、表情を歪めた。
大輔「苦っ…」
それを見たなっちゃんも木の実をかじった。
そしてあまりの苦さに涙目になる。
フレイドラモンはブイモンに退化すると、木の実を手に取る。
ブイモン[これ…ビタの実?]
大輔「何だそりゃ?」
ブイモン[これは、ビタの実って言って、食べるには皮を切って干さないといけないんだ。ようするに渋柿の苦いバージョン。]
大輔「それを早く言えよ…えっと…ビタの実以外の食い物は……あ、ラッキー、もんざえモンから貰ったパンがまだ残ってた。それから冷蔵庫の卵も残ってたし…」
フライパンを取り出し、ブイモンが小枝を集めて、小枝に火をつけるとフライパンを熱して、卵をスクランブルエッグにする。
現在油がないため、水で代用して少し水っぽいがあっつあつのスクランブルエッグをパンに挟んでスクランブルエッグサンドの出来上がり。
大輔「ごめんな、こんなものしか作れなくて」
砂糖を少し加えたが、あまり美味しそうには見えないスクランブルエッグサンドを口にしたなっちゃんは大輔に満面の笑顔を浮かべた。
なっちゃん「美味しい。ありがとう大輔」
その笑顔が何故かフェイトとダブって見えた。
ブイモン[大輔?]
大輔「あ、いや、何でもない」
ブイモンが不思議そうに大輔を見上げるが、何でもないと首を振る。
なっちゃん「ねえ、大輔。なあにこれ?」
ブイモンを指差すなっちゃんにブイモンは不服そうに、大輔は苦笑しながらなっちゃんの頭にポンと手を置いた。
大輔「なっちゃん、人を指差しちゃ駄目だ。こいつはブイモンで俺のパートナー…。簡単に言えばもう一人の俺だ」
なっちゃん「もう一人の大輔?ブイモンも大輔なの?」
大輔「何でも、パートナーデジモンはパートナーのデータを元にしてるらしいんだ」
ブイモン[大輔え、お代わり]
スクランブルエッグサンドをもう平らげたブイモンがお代わりを要求するが、大輔の反応は冷たい。
大輔「お生憎様。もうパンも卵もないんだ。我慢しろ」
ブイモン[ええ~?大輔の鬼]
大輔「だったら、寒い海に潜って魚を捕るんだな」
ブイモン[ごめんなさい]































なっちゃん「私ね、ずっと一人だったの。大輔とブイモンが来るまで」
大輔「なっちゃん…」
ブイモン[………]
ずっと一人で生きてきた女の子に大輔はなんと言えばいいのか分からない。
なっちゃん「でもね、もう寂しくないよ。大輔に会えたんだもん」
大輔「そっか、だったらなっちゃん。俺とブイモンと一緒に行かないか?」
なっちゃん「一緒に?」
大輔「ああ、一緒なら俺がなっちゃんを守ってやれる。それにフェイト達と合流すればなっちゃんにもっともっと友達が出来る」
なっちゃん「もっともっと友達が出来るの?ホント?ホントにホント?」
大輔「うん」
まるで生まれたばかりの雛鳥のように、大輔にくっつくなっちゃんに、まるでアリシアと同じように妹が出来たようだと、頭を優しく撫でた。
なっちゃん「ねえ?フェイトってなあに?」
ブイモン[フェイトってのは大輔の彼女で、大輔の未来のお嫁さ…げぼおっ!!?]
余計なことを言うブイモンの横っ面に回し蹴りをお見舞いした大輔。
なっちゃん「大丈夫?」
ブイモン[な、何とか…]
なっちゃん「お嫁さんってなあに?」
大輔「え?」
ブイモン[お嫁さんってのは奥さんになる人で、ずっとお嫁さんになる人の傍にいるんだ]
なっちゃん「じゃあ、私もずっと一緒にいたいから大輔のお嫁さんになる!!」
大輔「えっ!!?」
大輔がなっちゃんの発言に目を見開いた時。
近くで轟音が轟いた。
大輔「何だ!!?」





























外に出ると、空から巨大な鍵を持った天使型デジモンが、空から舞い降りた。
大輔「誰だお前?」
[我が名はクラヴィスエンジェモン。デジタルワールドの秩序を守る者。異端の存在である貴様を葬るために来た。]
クラヴィスエンジェモンの視線はなっちゃんに向けられていた。
大輔はなっちゃんを守るように立ち、ブイモンをフレイドラモンにアーマー進化させた。
フレイドラモン[あいつは俺が抑えてみせる。大輔達は少しでも遠くへ!!]
先手必勝とばかりにクラヴィスエンジェモンに迫るフレイドラモン。
しかしフレイドラモンは知らない。
クラヴィスエンジェモンは完全体どころかそれを超える究極体であることを。
クラヴィスエンジェモン[愚かな…ザ・キー!!]
鍵による一撃。
あまりの斬撃の早さにフレイドラモンは目を見開くが、何とか回避する。
フレイドラモン[(速い!!)ナックルファイアー!!]
火球がクラヴィスエンジェモンに炸裂する。
直撃はしたが、クラヴィスエンジェモンには録にダメージが入っていない。
フレイドラモン[っ!!]
クラヴィスエンジェモン[驚いたぞ。成熟期相当の進化でありながら私に微かながらダメージを与えるとはな]
フレイドラモン[ぐっ!!]
拳を鳩尾に叩き込む。
しかしクラヴィスエンジェモンは表情を動かさない。
フレイドラモン[ファイアロケット!!]
クラヴィスエンジェモン[ザ・キー!!]
フレイドラモンの突進をクラヴィスエンジェモンはたやすく弾いた。
フレイドラモン[うわっ…!!]
受け身を取り、ダメージを緩和するが、自分の攻撃が全く効かないことに焦り始めた。
クラヴィスエンジェモン[今度はこちらからだ!!ザ・キー!!]
あまりのスピードに反応出来なかったフレイドラモンは鍵による一撃を受けて吹き飛んだ。
咄嗟に後ろに飛んだことで事なきを得たが、左腕のガントレットが砕けた。
フレイドラモン[畜生…]
クラヴィスエンジェモン[どうやらお前は古代種の因子を持った現代種ではなく純粋の古代種のようだな]
フレイドラモン[それがどうした?]
クラヴィスエンジェモン[その様子では紛い物の進化しか出来ないようだな。古代種は頻繁に激しくオーバーライトの書き換えを行わなくてはならないために寿命が極端に短い。そのため、古代種の消耗を抑えるためにデジメンタルが生まれた]
フレイドラモン[…………]
クラヴィスエンジェモン[しかし、道具に頼った進化は危険視され、封印されたはず。デジメンタルを持つお前達も葬らねばなるまい]
フレイドラモン[勝手なことばかり吐かしやがって…]
クラヴィスエンジェモン[勝手なこと?私はデジタルワールドの秩序を守るため、事実を言ったまでだが?]
クラヴィスエンジェモンはフレイドラモンの背後に回ると鍵を振り下ろす。
フレイドラモンは何とかそれを右手で掴んだ。
フレイドラモン[ぐ…うぅ…!!]
必死に堪えるフレイドラモンに、クラヴィスエンジェモンは腕の力を抜いた。
フレイドラモン[っ!!?]
突然力を抜かれたことで体勢を崩したフレイドラモンにクラヴィスエンジェモンの一撃を入れられる。
まともに攻撃を受けたフレイドラモンはブイモンに退化した。
クラヴィスエンジェモンはすぐに大輔達を追う。
そして直ぐさま大輔達を追い抜いた。
大輔「なっ!!?」
目を見開いた大輔はクラヴィスエンジェモンが放った一撃を受け、吹き飛ばされた。
大輔の血がなっちゃんの顔に付着した。
なっちゃん「あ…」
クラヴィスエンジェモン[次はお前だ。]
ガタガタ震えるなっちゃんに鍵を振り下ろそうとするクラヴィスエンジェモンだが、なっちゃんの身体から光が放たれ、クラヴィスエンジェモンを弾いた。
クラヴィスエンジェモン[!!?]
吹き飛ばされたクラヴィスエンジェモンは大好きな人を目の前で傷つけられた怒りで狂暴化してしまいもはや人でもデジモンですらもない、何かどす黒いものへと変わってしまったなっちゃんを見る。
クラヴィスエンジェモン[何と醜悪な…やはりお前は生かしてはおけん。正義の名のもとに排除する]
クラヴィスエンジェモンはなっちゃんに鍵による一撃を加えた。
まともに受けたなっちゃんは痛みに絶叫するが、クラヴィスエンジェモンは容赦なくなっちゃんに攻撃を加えていく。
大輔「止め…ろ…」
微かに出た声にも構わず、クラヴィスエンジェモンはなっちゃんの身体を斬り裂いた。
斬り裂かれたなっちゃんは断末魔の叫び声も上げられず、倒れた。
大輔「なっちゃ…ん…」
受け入れ難い現実に身体を震わせる大輔。
ブイモンも同じで怒りの形相でクラヴィスエンジェモンを睨んだ。
ブイモン[お前…よくもなっちゃんを!!あんなに…素直ないい子を!!許さねえ!!]
クラヴィスエンジェモン[分からん奴らだ。よいか?正義と秩序のためならば些細な犠牲など構わんのだよ]
その言葉に大輔とブイモンがキレた。
大輔「黙れ…」
ブイモン[正義なんて言葉を簡単に口にするんじゃねえ!!]
D-3から凄まじい光が放たれた。
D-ターミナルのデジメンタルの保存箇所に、複数のデジメンタルが追加。
大輔「デジメンタルアップ!!」
ブイモン[ブイモンアーマー進化!熱き愛情!セトモン!!ヒートストーム!!]
セトモンにアーマー進化すると凄まじい熱を持った嵐がクラヴィスエンジェモンに炸裂する。
あまりの威力にクラヴィスエンジェモンの身体が浮き上がる。
大輔「アーマーチェンジ!!ハニービーモン!!」
ハニービーモン[ポイズンパウダー!!]
クラヴィスエンジェモン[ぐっ…これは毒か!!?]
ハニービーモンは攻撃力こそ低いが、必殺技の毒粉は相手の動きを封じることが出来る。
毒の影響で動きを封じられたクラヴィスエンジェモンの表情には焦りが浮かんでいた。
大輔「アーマーチェンジ!!マグナモン!!」
大輔はブイモンが進化するアーマー体で間違いなく最強の形態を叫ぶ。
クラヴィスエンジェモン[マグナモンだと!!?あの、ロイヤルナイツの守りの要…]
マグナモン[なっちゃんの仇だ…どれだけ泣いて詫びようが容赦はしない!!]
クラヴィスエンジェモン[ほ、ほざくな…いくらロイヤルナイツであろうとも所詮は紛い物の進化…正当の進化を遂げた私の敵ではない!!ザ・キー!!]
マグナモン[マグナムパンチ!!]
クラヴィスエンジェモンの渾身の一撃をマグナモンは拳で殴り砕いた。
クラヴィスエンジェモン[なっ!!?]
唯一の攻撃手段である鍵を破壊されたクラヴィスエンジェモンの表情に絶望の色が浮かんだ。
しかし、呆然とする時間を与える程、大輔もマグナモンも優しくはなかった。
マグナモンは拳と蹴りのラッシュをクラヴィスエンジェモンに叩き込む。
数十発ほど殴られた時点で顔面と仮面は原形を留めておらず、四肢もいびつな形に歪んでいた。
マグナモン[うおおおおおお!!]
クラヴィスエンジェモンの顎に強烈な一打を与え、上空に打ち上げた。
そしてマグナモンは空間を圧縮して、強烈なレーザー光の嵐を見舞う。
マグナモン[消えて無くなれ!!シャイニングゴールドソーラーストーム!!!!]
レーザー光をまともに受けたクラヴィスエンジェモンはデータ粒子となる。
D-3がクラヴィスエンジェモンのデータを取り込んでデジタマに変えた。
マグナモンはブイモンに退化する。
そして激情によって解放されたデジメンタルも奇跡、運命、希望が封印されてしまう。
大輔はなっちゃんに駆け寄る。
大輔「なっちゃん!!」
なっちゃん「大…輔…」
大輔の姿を見たなっちゃんは再び人間の姿となる。
しかし、身体が薄くぼやけている。
大輔「ごめん…守るって言ったのに…守れなくて…」
なっちゃん「気にしないで…大輔は、私を守ろうとしてくれた…傍にいてくれようとした…」
大輔「………」
なっちゃん「私ね…大輔が守るって言ってくれて凄く嬉しかったの…」
大輔「…うん」
涙がなっちゃんの頬に落ちるが、なっちゃんは大輔の頬に触れた。
なっちゃん「大輔…私、眠いの…凄く眠たい…こんなに幸せな気持ちになれたのは本当に久しぶり…」
大輔「なっちゃん…」
なっちゃん「泣かないで…私の心はいつでも大輔と一緒だから…」
大輔はなっちゃんの手を強く掴んだ。
彼女の温もりを決して忘れないように。
なっちゃん「…ありがとう、大輔…大好き」
なっちゃんだったデジモンですらもない存在は光となり、大輔を包んだ。
大輔の身体の傷が癒えていく。
大輔「なっちゃん…」
感じる…。
確かに感じる。
なっちゃんの存在を自分の中に。
大輔「一緒に戦ってくれるんだな…。行こうブイモン」
ブイモン[おう!!]
大輔「なっちゃん…これからも一緒だ」
大輔はブイモンをガーゴモンにアーマー進化させると、一気に島から飛び出した。 
 

 
後書き
なっちゃん登場、そしてさようなら。
なっちゃんは大輔の中で生き続けます。
奇跡、運命、希望の本格覚醒はまだまだお預け。
 
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