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不死の兵隊

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第二章


第二章

「何しろ斬ろうが撃とうが死なない」
「大砲で吹き飛ばしても立ち上がって来るのだからな」
「その通りだ。何をしても無駄なのだからな」
 アトスはまた言う。
「これではどうしようもない」
「そもそもだ」
 ポルトスがアトスに対して言う。
「あの連中は何だ?」
「悪霊だ」
 アトスはこう答えた。
「そうとしか言いようがない。戦場の悪霊だ」
「そうか。俺も長い間色々な戦場を回ってきたが実際に見たのははじめてだ」
 ポルトスもこうアトスに告げた。
「まさかここで出会うとはな」
「いや」
 しかしそれにアラミスが異議を呈する。三銃士の中では彼は参謀格である。それだけに今の彼の言葉は重みがあるものであった。
「この戦争ならば当然かも知れない」
「当然だというのか」
「そうだ」
 仲間の二人にまた述べた。8
「この戦争はあまりにも陰惨だ」
「それはな」
「確かに」
 アラミスのこの言葉にも二人は頷くしかなかった。三十年戦争はドイツ全土で行われ各地で陰惨な戦闘が行われてきている。街も村も焼かれ人々はその中で虐殺され惨事は至る所で日常化していた。奪われるようなものは全て奪われ流民で溢れ返り飢餓と疫病が蔓延していた。傭兵達と強盗は何の違いもなく新教徒側も旧教徒側も暴虐の限りを尽くしていた。人が人を喰らうことすら日常化していたとも言われる。そんな戦いであったのだ。
「それでは。それも有り得る」
「死者が襲って来るということもか」
「私はそう考える」
 ポルトスへのアラミスの返事ははっきりとしたものであった。
「考えたくはないがな」
「しかしだ」
 ここでアトスが言う。
「彼等の旗はスウェーデンのものだ」
「そうです」
「確かに」
 アトスのこの言葉に周りの兵達が言う。スウェーデンは彼等にとって同盟国である。ここがまたえらく複雑な話なのであるがフランスは旧教徒であるが新教徒の味方をして旧教徒の総本山神聖ローマ帝国と戦っているのだ。この戦いにおいては所詮宗教はお題目に過ぎなかったのである。それの証明とも言えることであった。
「それならばどうして我々を襲うのでしょうか」
「納得がいきません」
「死んだらそんなものは関係ないのだろう」
 彼等に対して答えたのはポルトスであった。またやけにあっさりとした言葉であった。
「所詮はな。俺達と同じだ」
「同じですか」
「俺達の相手はハプスブルクだ」
 ポルトスは兵士達に対して自嘲めかして言った。
「それで充分だろう」
「そうですか」
「それならば」
「死んだ奴等にはそれ以上に旗印なぞ関係ない」
 ポルトスはこうまで言い切る。
「そういうことだ」
「敵味方関係なくですか」
「つまりは見境なしか」
「奴等を倒すか俺達が死ぬかだけだ」
 ポルトスの言葉はまたしてもはっきりとしたものであった。
「どちらがいい?」
「それは決まってますよ」
「やっぱりそうなると」
「そうだな」
 アトスは兵士達の言葉に頷いてきた。
「戦うしかない。しかしだ」
「奴等はもう既に死んでいる」
 アラミスはそこを指摘する。
「だからだ。斬ろうが撃とうが」
「死ぬことはない。どうしたものか」
 アトスの顔が難しいものになった。問題はそこなのである。彼等は既にこの世の者達ではない。だから幾ら攻撃しても何の効果もないのである。だからこそ誰もが困惑しているのだ。
「隊長」
 その中で見張りの兵士が彼に報告する。
「また来ました」
「数は?」
「おそよ二千」
「二千か」
 アトスはその数を聞いて考える顔になった。それからまた述べる。
「数のうえでは互角だ。しかし」
「ああ」
「奴等は倒れることがない」
 ポルトスとアラミスがそこを指摘する。
「だからだ。同じ数でも」
「私達は敗れるしかないのだ」
「そういうことだ。ここは仕方がない」
「撤退されるのですね」
 アトスの言葉に兵士の一人が問う。
「やはりここは」
「ここで戦っても無駄な損害を出すだけだ」
 アトスは無念そうに首を横に振りながら彼に答えた。
「それならば仕方がない。撤退するしかないのだ」
「無念だな」
「ああ、全くだ」
 ポルトスもアラミスもアトスと同じ顔になる。しかし彼等も同じ考えであった。また彼等にしろそれを否定することができなかったのである。理由もアトスと同じであった。
「戦っても意味がないというのならな」
「退くしかない」
「敵がさらに来ました」
 見張りの兵士が今度はポルトスとアラミスに対して告げるように声をあげた。
 
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