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二つの顔

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第四章


第四章

「そんな相手だけれど」
「勝てるの?」
「いけるの?」
「いけるわ」
 杏奈はしっかりとした顔で答えた。
「裕典君やるわよ」
「やれるの」
「確かに」
「そうよ、やれるわ」
 そして言うのであった。
「だって彼強いから」
「あらあら、随分信頼してるのね」
「それもかなり」
 同僚達は彼女の今の言葉を聞いて思わず呆れてしまった。そうして言うのあった。
「そこまで言うってことは」
「そんなに彼強いのね」
「強いわよ」
 それはもう言うまでもないといった返しであった。
「それにね」
「それに?」
「まだあるの」
「彼の顔を見ればわかるわ」
 信頼そのものの顔でリングを見ながら話す。まだそこには誰もいない。白熱した熱気があるだけである。試合はまだであるのだ。
「それだけでね」
「わかるの」
「勝てるって」
「ええ、勝てるわ」
 また言う杏奈だった。
「絶対にね」
「じゃあ見させてもらうわ」
「その彼氏をね」
「是非ね」
 彼女達も杏奈のその話を聞いてである。そうして今は見守ることにした。そうしてリングに裕典がリングに現れた。その顔はである。
 鋭い、ただ鋭いだけではなかった。まさに戦場にいる顔であった。
 リングに出た時点でそれである。身体からはオーラが出ている。相手もかなり強そうだったがそれを圧倒するものがそこにあった。
 同僚達はその顔を見てだ。言うのであった。
「普段とは全然違う顔だけれど」
「あの顔って」
「鋭いわね」
 相手を見据えている。まるで狼の様である。餓えた狼が獲物を狙うかの様な。その顔で相手を見据えているのであった。まさに獣であった。
 その顔を見てであった。言うのであった。
「あの明るい顔じゃないわね」
「もう闘うみたいじゃない」
「凄い顔ね」
「見たでしょ」
 杏奈もここで言った。
「普段と全然違うわよね」
「ええ、確かに」
「それなら」
「いける?」
「絶対に勝つわ」
 また言う杏奈だった。
「裕典君なら絶対にね」
 こう言ってである。ゴングが鳴った。試合はだ。
 まさに一方的であった。裕典が激しく攻め立てる。そうして相手を寄せ付けず五ラウンドで相手をKOしてしまったのであった。
 完全にだ。これで彼は勝った。歓声が包み込みリングの中でまだ鋭い顔を見せていた。
「凄いわね」
「本当に圧勝だったけれど」
「あんなに強いなんて」
「見たでしょ」
 また言う杏奈だった。
「裕典君は勝つのよ」
「顔が違ったしね」
「そうよね」
 今も見せているその狼の如き顔を見ての話である。
「あの顔を見てたら」
「勝てるってわかるし」
「絶対にね」
「そういうことよ。あの鋭さがいいのよ」
 杏奈は彼の顔を見てうっとりとさえしていた。
「まさに野獣でね」
「あんたってワイルドが好きだったの」
「そうだったのね」
「そうなのよ。あの顔がいいのよ」
 にこにこしながら話すのだった。
 
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