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みらいいろ

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絶望の中にある希望

「ゾーン……」
 炎に包まれながらも必死に手を伸ばす。常ならば、ロボットに等しいアポリアがこの程度の衝撃を受けたところで何の問題もない。しかし既に壊れかけていた体が更なるダメージに耐えられる筈もなく、彼は力なく地に伏した。その瞳は悲しみに濡れている。
 死力を尽くすも、アポリアの言葉が友へ届くことはなかった。孤独の中でゾーンが導き出した論理はそのままに。勝利することも、彼に希望を思い出させることもできなかった。
 漸く気付くことのできた希望。それを活かせず、何もできないまま生を終えるのは悔やまれる。加えてこのまま終わっては気がとがめる。遊星たちから受けた恩を、アポリアはまだ返せていない。駆け寄ってきた遊星へ向け、気付けばアポリアの口から謝罪の言葉が漏れていた。
「すまない……私はお前たちが与えてくれた希望に、応えることができなかった」
「そんなことはない! お前は俺たちに希望を与えてくれた!」
 しかし遊星から出たのは否定の言葉。事実、彼らは時械神10体の存在を、更に一部とはいえその効果を知ることができた。今まで謎のヴェールに包まれていたゾーンの手の内が、白日の下にさらされたのである。
 それこそがアポリアの成したこと。彼の繋いだ希望がある限り戦えると、遊星は言った。
「そうか。繋がったのだな、未来への希望は……」
 その言葉に他の面々も肯定を返す。
 何も成せなかった。そう思っていたのは、どうやら自分だけであったらしい。希望の架け橋となれたことで、アポリアは僅かとはいえ救われた。
 結果は重要ではあっても、全てではない。行動に結果が伴わなくとも、そこには確かな意味が存在する。実に簡単なことである。
 本当に、最後の最後まで教えられてばかりいるとアポリアは思う。未来を切り開く若者とはそういうものなのかもしれない。そんな彼らへ、アポリアは何かをしてやりたかった。
 無論、何もせずとも遊星たちが気にすることはないであろう。しかしこのまま終わってはアポリアの気が済まない。何よりも、彼が望むのは友を救うこと。「君は必ず希望を、未来を取り戻せ」それがゾーンへ向けた、オリジナル最後の言葉であった。
 故に遊星がゾーンに勝利しても、それだけでは意味がない。ゾーンが希望を取り戻すために、遊星が死ぬ未来をも変えなければならない。これは必須条件。彼の存在こそが救いになると、アポリアは信じていた。
 そのために何ができるのか。あることに思い至ったアポリアは最後の力を振り絞る。彼が手にしたのは自身のパーツ、デュエル・チューブ。残ったエネルギーの全てを注ぎ込み、それを遊星のDホイールへ与えた。
 チューブを取り込んだ遊星号は虹色に光り輝き、あふれ出るエネルギーが翼を成す。そこに赤色の翼が宿ったのを見届け、アポリアは掲げた腕を地に着ける。機械製の腕は瓦礫との接触で大きな音を立て、崩れ落ちた。

 既にアポリアは指1本動かせず、目には何も映らない。彼の死を惜しむ声も、その耳に届くことはない。機能停止を待つのみのアポリアはしかし、その胸中を希望で満たしていた。
 生前、オリジナルのアポリアは3つの大きな絶望を味わっている。幼くして両親を失い、成人した頃には恋人を亡くし、最後には荒廃した世界に1人残された。常人では命をも捨てかねない状況。それでもなお彼は諦めなかった。ゾーンたちと出会い破滅した世界の再生に心血を注ぎ、死後は3つの人格として蘇り彼の手足となっている。その人生は幸福とは程遠い。
 確かにアポリアの人生は波乱に満ちていた。しかし決して絶望に彩られてなどいなかった。彼のそばには常に希望があった。と言っても、厳密には少し違う。希望はただそこにあったのではない。彼はどんな絶望を味わおうとも希望を追い求めた。どれほどの時間がかかろうとそれを探そうとしたのである。
 アポリアが希望を手にしていたのは、幸運などによるものではなく努力の成果。希望は己の胸のうちにこそ存在していた。荒廃した世界の中、アンチノミー、パラドックス、そしてゾーンと出会えたことこそが希望の証。闇に濡れた世界を光で塗り替えようと誓い合った日、記憶の中の彼らは確かな絆で結ばれていた。それを思い出させてくれたチーム5D’sに、アポリアは感謝の念を禁じえない。
 ついに残った意識さえおぼろげになっていく。そんなアポリアに1つの懸念があった。それは友、ゾーンのこと。彼を残したまま逝くことが残念でならない。
 しかしアポリアは信じている。不動遊星が未来を切り開き、ゾーンが希望を取り戻すことを。苦悩に歪む仮面の下に笑顔が戻ることを、彼は信じている。それを見られないのが残念ではあるが、心配は要らない。かつてゾーンさえもその存在に焦がれた遊星。ここまで進化を果たし、今なお進化し続ける彼になら安心して任せられる。
 かすかな意識の中で友が救われることを祈りながら、アポリアは命を手放した。 
 

 
後書き
 最高峰の笑いと感動をもたらしてくれた遊戯王5D’s。未来組の話は感涙もので、彼らを主役にした話が作られてもおかしくはないほどです。散々ネタにされて笑いを巻き起こした絶望野郎ですが、同じくらいに泣かされました。それを表すに私では力不足かもしれません。こうして書いてみると、原作アニメもMADも凄いとしか言えませんね……。
 なお『みらいいろ』なら全員当てはまるとは思うのですが、他の人まで書けるかはわかりません。 
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