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実父

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第二章

 結局は降ることになった、宗茂は死なずに済んだ。
 そしてその軍略を見た秀吉に気に入れられ取り立てられていった、彼の武名は天下に知られることとなった。
 朝鮮出兵でも戦いだ、そこでも武名を上げた。だが。
 秀吉が死んだ時にだ、自分につく様に言った家康の使者に常にこう言った。
「それがしは太閤殿下に引き立てて頂いたので」
「それでと仰るか」
「左様です」
 まさにというのだ。
「ですから」
「当家につかれませぬか」
「はい」
 その通りだと答えるばかりだった。
「決して」
「しかしです」
 徳川の使者は何度も彼に言った。
「最早天下は」
「太閤殿下がお亡くなりになられてですな」
「後は殿の世です」
 家康の、というのだ。
「ですから」
「そうですな、おそらく天下は」
 宗茂にも見えていた、幼君の豊臣秀頼と家康では何もかもが違っていた。それに家康自身の力もだった。
 二百五十万石だ、それだけの力があるからだ。
「徳川殿のものになるでしょう」
「そこまでおわかりなら」
「ですがそれがしは武士です」
 それ故にというのだ。
「あくまで太閤殿下の忠義を貫きます」
「左様ですか」
「このこと徳川殿にお伝え下さい」
 宗茂の言葉は揺らがなかった。
「その様に」
「それでは」
 使者もこう応えるしかなかった、それでだ。
 使者はその都度残念な顔で帰ることになった。そして話を聞いた家康もだ。
 袖の下で腕を組みだ、こう言うのだった。
「惜しいな」
「そう思われますか」
「あの者は見事な者じゃ」
「はい、西国一のいくさ人ですな」
「その気質もな」
 それもというのだ。
「見事な」
「一本気でありしかも」
「清廉潔白じゃ」
 宗茂のその性格がわかっているから言うのだ。
「淀みの全くない男じゃ」
「二人のご父君の教えがそのまま生きておられますな」
「高橋殿と立花殿のな」
 紹運と道雪の、というのだ。
「見事に受け継いでおるな」
「そうですな、立派に」
「全くじゃ、しかしな」
「立花殿はこちらに来られませぬ」
「惜しいのう」
 こうも言う家康だった。
「あれだけの将が来ぬとは」
「全くです」
「わしが天下を取れば潰さねばならぬ」
 敵になるからだ、このことはどうしてもせねばならなかった。
「そのこともじゃ」
「残念でありますな」
「あれだけの者であるからな」
 家康は宗茂が敵となることを残念がるのだった、そうして家康は上杉景勝征伐に兵を挙げそれがきっかけとなりだ。
 石田三成も兵を挙げ天下は二つに分かれた、宗茂は三成即ち西軍につきそのうえで戦うことになった。その西軍には島津もいた。
 そのことにだ、家臣達は微妙な顔になり宗茂に言った。
「複雑な気持ちですな」
「島津殿と共に戦うことがか」
「はい、そのことが」
 どうにもというのだ。 
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