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実父

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第一章

                    実父
 立花宗茂の父は立花道雪だ、しかし道雪は実の父ではない。
 実の父は高橋紹運だ、二人は共に大友家の重臣であり大友家を支える柱であった。
 宗茂はその二人を父としていた、そして彼等から様々なことを学んだ。
 軍略、武芸、そして武士としてのあり方もだ、彼は二人の父に教わった。そして島津との戦において劣勢に立たされていた大友家を支えんとしていた。
 だが義父道雪は世を去り実父紹運が籠城する岩屋城もだ、島津の大軍に囲まれ落城した。宗茂はその報を聞いてまずは目を閉じた。
 そのうえでだ、報を届けた家臣に問うた。
「父上はご立派であられたか」
「はい、島津の何度にも渡る降れとの言葉をはねつけられ」
「そのうえでか」
「戦われ、そして」
「城兵達と共にな」
「城兵は皆討ち死にし」
 そして、というのだ。
「大殿もまた」
「ご自害なされたか」
「討ち死にした城兵達に念仏を唱えられ最後の最後まで戦われたうえで」
「左様か、立派であられたか」
「そして殿」
 報をする家臣はここで宗茂に問うた。
「島津の軍勢はです」
「この城にも迫ってきているのだな」
「立花城にも」
 まさにこの城にもというのだ。
「迫ってきております」
「そうか、来るか」
「どうされますか」
 家臣は宗茂の前で片膝をついたまま顔を上げて主に問うた。
「ここは」
「戦うか退くか」
「お言葉ですが」
「降るかというのじゃな」
「島津の軍勢は四万を優に超えております」
 最初は五万いた、だが紹運との戦で多くの兵を失ったのだ。紹運は八百にも満たない兵で島津の精五万と戦い一割をを倒し傷を負わせたのだ。
「その大軍がこの立花城にも迫っておりますので」
「答えは一つだ」
 意を決している顔でだ、宗茂は家臣に答えた。
「それしかない」
「それでは」
「戦う」
 まさにというのだ。
「一歩も退くことはせぬ」
「左様ですか」
「御主もそれはわかっておるであろう」
「はい」
 家臣は宗茂に確かな顔と声で答えた。
「殿ならばそうお答えになると思っていました」
「父上は命を賭けて島津を止めてその兵を減らしてくれた」
「それならばこそ余計に」
「うむ、戦う」
 彼もまた然りというのだ。
「最後の一兵までな」
「さすればこれより」
「皆の者、籠城の用意をせよ」
 その場にいる全ての家臣達に告げた言葉だ。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですか」
「島津との戦ですな」
「そうじゃ、守りじゃ」
 そしてというのだ。
「最後の一兵まで戦うぞ」
「では我等も」
「大殿の下に参りましょうぞ」
「父上も義父上も大友の為に最後の最後まで戦われた」
 宗茂は紹運だけでなく道雪のことも言った、この上なくまさに剣をその心に置いた顔で。
「それならばわしもじゃ」
「最後の最後まで戦われ」
「そうして」
「大友に殉じよう、武士としてな」
「はい、それでは」
「我等もまた」
 家臣達も宗茂と共に戦うことを選んだ、そうして。
 彼等は実際にだ、島津の降れとの勧めを退けてだ、立花城に篭もりだった。懸命に戦いそうしてだった。
 彼の軍略、武士としての生き様を見せた。そしてだった。
 豊臣秀吉の援軍が来て生きながらえられた、島津の軍勢も秀吉の大軍を一度は退けられたがそれでもだった。 
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