| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

軍師

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章

「そのことを認めよう」
「有り難きお言葉」
「褒美は出す」
 約束通りだ、少なくとも劉邦は気前がよかった。功臣達に惜しみなく褒美を与えていた。それは張良にも同じだった。
 そのうえでだ、張良に言うのだった。
「これからも漢の為に尽くすのじゃ」
「わかりました」
 張良は劉邦に応えた、だが。
 すぐに彼はほぼ隠棲して仙人になる為の修行に入った、俗世のことにはほぼ関わらない様になった。それを見て劉邦の側近であり功臣の一人蕭何が彼に問うた。
「もう世には出られないのですか」
「元々あまり興味はありませんでした」
 達観して澄み切った顔でだ、張良は蕭何に答えた。
「ですから」
「皇后様には進言されましたね」
「太子のことで、ですね」
「はい、四人の老賢者を後見にされよと」
 蕭何は張良にこう返した。
「進言されましたが」
「皇后様に乞われましたので」
 だからだというのだ。
「それ故にです」
「ご自身から動かれませんでしたね」
「その通りです」
「やはり俗世にはもう、ですか」
「関心はありません」
 やはり澄み切った顔で言う張良だった。
「最早」
「でjは仙人になられ」
「俗世を出ようと思います。それに」
「それに?」
「私はこれ以上宮中、俗世にいても危ういだけです」
「張良殿ご自身が」
「確かに俗世にはもう関心がありませんが」
 それでもだというのだ。
「刃で死にたくはありませんので」
「刃で」
「劉邦様は皇帝になられてから変わりました」
 ここでだ、張良は寂しい顔になった。目には寂しさも宿っている。
「これまで表に出なかったものが出て来ておられます」
「猜疑が」
「はい、特に功臣の方々に」
 このことを蕭何に言うのだった。
「おそらく韓信殿、英布殿、彭越殿は」
「ご存知でしたか」
 蕭何は張良の今の言葉に唾を飲み込んだ、そのうえで言うのだった。
「そのことを」
「劉邦様はこの方々を危うく思っておられますね」
「左様です、そして私にも何かとお話をされ」
「皇后様にも」
「そして皇后様も」
 劉邦の正妻である呂后もというのだ。
「宮中の中において」
「戚夫人をですね」
「その通りです」
「皇后様は今は何も為されませんが」
「やがては」
「そうなるでしょう」
 こう蕭何に言うのだった。
「そしてその中で多くの血を流れます」
「では張良殿も」
「劉邦様は皇帝の座を守りたいのです」
 これが第一になっていた、皇帝になってからの劉邦は。
「ですから私も」
「ご自身の座を脅かすと見れば」
「私はそうした死に方はしたくありません」
「だからですか」
「仙人にもなりたかったですし」
 天下が収まり一つになったのをいい機としtえ、というのだ。
「これでもう」
「隠棲されてですか」
「修行を続けます」
 こう蕭何に言うのだった、そしてだった。
 蕭何に対してだ、穏やかだが確かな声で言った。
「そして貴方も」
「それがしもとは」
「次第に劉邦様に疑われていますね」
「まさかそのことも」
「今の劉邦様は力のある方を疑っておられます」
 韓信達に限らず、というのだ。
「ですから貴方もです」
「実はその通りです」
 蕭何は畏まって張良に答えた。
「今劉邦様は私まで」
「韓信殿達は逃げられないでしょう」
 劉邦の猜疑からだ。
「それにあの方々自身も何かと」
「野心がおありで」
 つまり心の何処かで自分達も天下と思っているというのだ、それが強いか弱いかどうかはともかくとしてである。
「それ故に」
「力も持ち過ぎています」
 韓信、英布、彭越共にというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧