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軍師

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第二章

「あまりにも酷い」
「全くだ」
「幾ら敵が相手とはいえ」
「あそこまでするのか」
「張良の策はあまりにも酷い」
「確かに漢は利を得たが」
「それでもな」
 こう言うのだった、顔を顰めさせて。
 そうしてだった、多くの者が張良を見て顔を顰めさせた。しかし彼はそれからも時に応じてであった。
 人が眉を顰めさせる策を劉邦に対して進言した、そうしてだった。
 漢を勝たせていった、そして遂に。
 漢は楚を倒し天下を統一した、そして劉邦はというと。
 張良を候に任じた、そのうえで言うのだった。
「御主の策は役に立った」
「有り難うございます」
「しかしじゃ」
 それでもと言うのだった。
「その策の中にはな」
「思わしくないものも」
「朕はそう思う」
 劉邦は皇帝になっている、だから一人称はそれになっているのだ。
「綺麗な策ばかりではないな」
「確かに」
 張良も自覚していて言うのだった。
「それは」
「そうじゃな、何故じゃ」
「何故とは」
「何故汚い策も進言したのじゃ」 
 劉邦は皇帝の座から張良に問うた。
「そうした策もまた」
「必要だからです」
 それでだというのだ。
「その時に」
「必要だからか」
「必要でない時は」
 そうした汚いと言っていい策がだ。
「私も進言しませんでした」
「あくまで必要だからか」
「進言していました」
 そうだったとだ、張良は劉邦の前に畏まって答えるのだった。その畏まった態度は謙虚であるが媚びているところはなく堂々としていた。
「その都度」
「そうであったか」
「私は軍師です」
 張良はここで己のことを言った。
「漢の軍師です、軍師は戦を勝たせるものであります」
「それはその通りじゃな」
「そして勝つ為には」
「汚い策を使う場合もある」
「そうしなければならない時もありますので」
「そういうことであったか」
「そうでした」 
 こう言うのだった。
「全ては」
「そういえば御主は」
 ここで劉邦はあることに気付いた、その気付いたこととは。
「御主の為に策を用いたことはないな」
「一度も」
 張良は劉邦にだ、このこともはっきりと答えた。
「ありませぬ」
「その通りじゃな」
「それは軍師のすることではありませぬ」
「己の為に策を用いることはか」
「はい、あくまで仕えるものの為」
「朕として」
「漢の為です」
 使うその対象はというのだ。
「それが為です」
「だから一度も御主自身には策を使わなかったのじゃな」
「これからもです」
 これまでもそうであったし、というのだ。
「そして今もまた」
「わかった、御主は真の軍師じゃ」
 ここまで聞いてだ、劉邦は長老にこうも言った。 
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