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魔法薬を好きなように

作者:黒昼白夜
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第27話 従軍の前に

モンモランシーの部屋で、ギーシュとともに俺はいて、モンモランシーは俺から渡した書類を読んでいる。

学院長室で、軍への参加準備の話をしたあとに、モンモランシーの部屋へ来たら、夏休み中からよくみかけるギーシュもいた。学院長室内で話した内容をそのまま話すわけにもいかないので、モンモランシーに

「まずはこの書類を読んでいただいて、ギーシュと一緒に話を聞くか決めてほしいのですが」

最近にしては、下手にでているなぁ、と自分でも思うが、渡した書類が『召集準備状』という異例なものだし、話す内容もそこに関連することなので、まずはその書類を読んでもらうことにした。

「これって、ジャックに選択肢が3つあるってことじゃないの?」

「そうとも読めますが、優先順位から言って、使い魔の契約が優先事項になります。だから、今のままだと、モンモランシーの使い魔として、モンモランシ家の諸侯軍に配属となって、国軍に間接的に入ることになりますが……」

「私が使い魔のままに、していた場合の話ってわけね?」

「そうです。しかし、使い魔のままで、戦争にいかない手もありますが」

「それって、どんな方法?」

「モンモランシ家が、参戦しないということです」

「参戦しないってできるの?」

「国へそれなりの金額を納めれば、参戦しなくても良いようですよ」

「そんなお金が家にあるわけないでしょう」

モンモランシーが金額でも想像したのか、目の前のテーブルに倒れこんだ。
諸侯軍編成に関しての通達はまだでていないが、その内容もかたまっていることは知っている。それに、王軍の方は直接かかわる人材について、すでに召集がかかっていて、俺の場合は、軍属なのに使い魔であるということで、遅かったぐらいかもしれない。
目の前でテーブルに倒れこんでいるモンモランシーを、まっているのも良いのだが、方針だけは早めにきめたいので、

「この話の続きを、ギーシュがいるままでおこないますか?」

「……ギーシュ。席をはずしてもらってもよろしいかしら」

「ああ、わかったよ。ぼくのモンモランシー」

さすがに、お互いとも実家が借金をしているのを知っていても、それを生では話したくない、聞かせたくないというのは、ギーシュでも理解できているんだろう。ギーシュが出ていったところで、

「それでだけど、俺はモンモランシ家の方から、参戦するのかな?」

「ジャックは魔法衛士隊からでたいんでしょ? なら、そっちでいいんじゃないの!?」

「残念ながら、その書類にある魔法衛士隊の騎士見習い再審査は、騎士見習いにはならないことが決定しています」

「どういうこと? 王軍の士官でも従軍したいのでしょう? 士官ならいいんじゃないの?」

「普通なら、そうなんですけどね」

「普通じゃないってこと?」

魔法衛士隊の知り合いが来たのは、魔法衛士隊の騎士見習いになれないことを、教えにきてくれたというのがある。これは、書類にかけないことだからだ。
さらにこの先の士官としてついた時に、傭兵を指揮するための立場であって、貴族の爵位とは関係ないらしい。
あまり信じていないが年内中に戦争が終わるようなら、また、トリステイン魔法学院にもどってくることになるし、年内に終わらなかった場合には、参戦した貴族の人数や、死亡した人数次第というのもあるが、国家の予算から考えると、爵位がある貴族として残れるかどうかわからないという話だ。
それだけ、ド・ゼッサール全魔法衛士隊隊長が、今の魔法衛士隊の人員構成に、不安があるということなのだろう。過去の3隊ではたりず、騎士見習いまで集めて、今の魔法衛士隊としているのが現状だから、戦場経験者が足りないのと、タルブ戦や、アンリエッタ女王が夏休み前に行方不明になった時などをあわせて、トライアングル以上のメイジも少なくなっているらしいからな。

「……その通りです」

「理由は教えてもらえるのかしら」

その質問にはちょっと考えてから、表向きだけの理由でよいだろうと判断して、

「宮廷内での計画通りに、年内で戦争が終結したら、また、ここにモンモランシーの使い魔として、戻ってくることになります。それと、傭兵の指揮をすることになるので、通常の常備軍としての経験には、ほとんど役にたちません」

「そうなの?」

「はい。なので、自分の実家であるアミアン家で、諸侯軍として参戦することを希望します」

「あなたが、そういうのならそういうふうにするのもいいけれど、モンモランシ家で参戦しない理由ってなんでかしら?」

「基本的に俺がモンモランシ家で参戦しても、モンモランシ家にメリットがほとんど無いからです」

「私の実家にメリットがほとんど無いの?」

「はい。あくまで俺は、モンモランシーの使い魔なので、モンモランシーの護衛として死亡した場合は、あくまで使い魔の純粋な役割ですが、モンモランシ家で参戦して死亡した場合には、それにたいする補償をモンモランシ家が、アミアン家におこなわなくてはならないでしょう。だから、俺が前線に出向くことはなく、せいぜい水のメイジとして治療を行う程度だと思います。これはモンモランシーの実家に確認してもらえば、わかると思いますよ」

「どちらにしろ、ジャックが参戦するしか無いというのなら、参戦準備終了から終戦して戻ってくるまでの間の、使い魔としての役割の契約を解くというのでいいのね?」

「ええ、そうです。これはオールド・オスマンにも確認してありますので、問題ありません」

こうして、モンモランシーとの使い魔の契約は、ここを離れるまでの間というか、護衛として必要とされる、トリステイン魔法学院の外部にでる虚無の曜日の前には、学院内の準備は全て済ます予定だ。モンモランシーも単純に、内容を確認したかっただけのようだった。



翌日の晩には、ここのメイドであるクララとフラヴィに来てもらっていた。

「急遽来てもらうことにして、悪かったね」

「いいえ。そこは問題ありません。学生の皆様と同じように、従軍されるのですか?」

今日学校内で生徒への王軍への登用についての公布があったので、すでにメイドたちにも周知の事実だが、俺の場合は王軍ではなくて、実家の方から参戦することを伝えた。

「それで、早くても始祖の降臨祭以降にしか、魔法学院にはもどってはこれないので、それまでの分は便秘薬を用意しておいたよ」

「ありがとうございます」

「俺がいない間の使い方を説明するけれど……」

そう言って、用意してある6本の大瓶から、小瓶へのとりわけ方を説明していく。ただそうすると、気がついたのか

「あのー、それだと、ちょっと量が多すぎるんじゃありませんか?」

「そうだね。2人あわせて半年分だからね。今の量から減らないとした場合だけど」

「年内いっぱいで、戦争はおわるんじゃないんですか?」

彼女らを無駄に怖がらせるよりはと

「それは無いだろうけど、俺自身が戦死するという可能性は低いながら残っているから、それぐらいは大丈夫なように、準備はしておいたよ」

「えっ?」

「あー、戦死といっても本当の意味での最前線にでるわけでなくて、補給物資を運んだり、まもったりする部隊になるはずだからね。戦争っていうのはそこを狙われることもあるから、多少は考慮して行なう必要があってね」

「なんといっていいのか……」

「いや、無事に帰ってくる可能性の方が、はるかに高いから大丈夫。それよりも、今までの通りとは違って、自分で便通が出ない期間とかを、きちんと確認していかないといけないから、それを気をつけるんだよ」

「はい」

「あとは、この便秘薬だけど、1年間までしか使用できないから、それぞれの大瓶に使用期限が書いてある。使用期限はって、2種類しかないけどね。あと細かいところは紙に書きだして封書に入れておくから、それを掃除で入った時に読んでくれないかな?」

「封書って必要ですか?」

「ああ、たしかローラっていう娘が、ここの掃除もしていただろう? 別な意味で変な誤解を生じさせたくないからね」

「そうですか」

クララとフラヴィには、それぞれに便秘薬の減らし方の目安と、便秘薬の譲渡書に、便秘薬を作成しておいた。書類書きばっかりで面倒だ。とりあえず、これで明日には、トリスタニアに行くことができるだろう。



トリスタニアでのティファンヌとの食事は、久々に個室をとって食事をした。世間話でもと明るくすごそうとしたが、やはり気にかかるのは、お互いの周りで起こっていることで、

「やっぱり、アルゲニア魔法学院でも生徒の王軍への登用があったんだね」

「ええ。男の子の中でも軍人希望の子たちは、出世のチャンスだとばかりにでている子たちが多いけど、トリステイン魔法学院では?」

「きちんとはみていないけど、半分は賛成、4割は仕方がなく、1割はいやいやながらって感じかな」

「なんか、感じが違うわね」

「仕方がないとか、いやいやながらってのは、嫡男がほとんどじゃないかな?」

「封建貴族だもんね」

「まあ、そういう違いもでているんだろうね」

「ところで、ジャックはどうするの?」

食事をしながら、話をするのもどうだろうかと思ったが、結局は話すことにする。

「特例でアミアン家から参加する」

「特例?」

「使い魔というのもあるけれど、実家が軍に関係していないから、こういう時に領民への対処に不慣れなんだよ。戦争に参加する領民に、顔見せをしつづけておく必要があるのは当然として、不安がらせないようにしないといけないからね」

「それじゃ、危険なところに行くんじゃないの?」

「最前線じゃなくて、物資補給か、倉庫の警備だよ。しかも他のところと組まないとアミアン家だけじゃ人数が少なすぎるからなぁ」

「とりあえず、安心なのね」

「まあ、魔法衛士隊で働くよりは、直接の戦闘という面では心配はいらないと思うよ」

「そういう言い方をするってことは、何か心配なことがあるんでしょう?」

「ティファンヌにはかなわないな。一番の気がかりっていうのは、年内に戦争が終結するか、どうかというところ。年内終戦で計画がされているから、それを超えると資金の調達がまわらなくなる。そうすると、必然的に借金をするか、撤退をするかってところが、まるっきり、わからないところだよ」

「それって、悲観的すぎない?」

「かもしれないけれど、一度見せた武器っていうのは、対応する手段が考えられるからね」

「武器って、タルブでの太陽のような大きな光のこと?」

「そう。あれはトリステイン王国の武器だと思う。そうでなければ、6万対5万と1万人だけ、2割多いといった方がいいかな。それだけの差で、確実に勝てるとはいえないよ」

「けど、空を制することができるんでしょう?」

「以外とそうでもないんだよ。わざと上陸させてから、夜間に空戦を各方位からしかけられると、あのタルブでの太陽のような大きな光が、1発では対処できない。何発あるのか。それとも連射できるのか。あるいは大きさを調整できるのかなどもあるから、昼の進軍はわざとさせられて、夜襲なんてのも考えられる。他にもいろいろ対応方法はあるから、相手がどの方法を実用的と考えるか、反撃される方も初めてだから、対処を、どこまで宮廷や将軍たちが考えているのかだね」

「どうなるのかしら」

「わからないけれど、なるべく多めに手紙は出すようにするよ」

「手紙をあまり書かない貴方にできるのかしら?」

クスリと笑いながら聞いているティファンヌを見て冗談だとはわかったので、

「きみの手紙が、俺の尻をひっぱたいてくれたら、きっと書くよ」

「まぁ、ひどい」

そして、彼女の家に送って、家の前でおやすみのキスをして別れたが、アパルトメンの中から、これがきっと嫉妬の視線なんだろうという、ティファンヌの父親らしき視線を背中に受けて離れることにした。
 
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