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魔法薬を好きなように

作者:黒昼白夜
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第26話 侵攻計画

親父から見せられた『国軍編成諸侯導入案』という名の書類から読み取るのに、10月中には諸侯軍は戦争準備の開始を始め、年内に終戦させて、遅くとも翌年の1月には引き上げる、という風に読み取れる内容だ。

「親父。これを宮廷が本気で考えているのなら、タルブ戦での太陽のような光を放ったというのが、兵器として完成したんだろうねぇ」

「そうだと思いたいのだが、極秘で進んでいるのか、どうやってもそこにたどりつけなくてな」

「諸侯の編成以外の全体像ってわかる?」

「財務省の試算では、トリステイン・ゲルマニア連合で6万前後で、アルビオンは5万前後になりそうだとのことだ」

「普通に考えたら、机上の空論って、言いたいところだけど、そうなるとやはり、タルブのあれは、兵器だったんだろうなぁ」

攻める方は2倍から3倍であたるというのが、この世界での常識だ。個人的には、5倍から6倍といいたいところだが、兵力を運用するのに、連絡網が機能しないと、単なる烏合の衆となってしまうから、3倍が限度なんだろう。

「それで、要請がきたとして、アミアン家としては受けるの?」

「受けざるをえない」

「そうすると兵力は、この編成案からみるとアミアン家では200名を、どうひねり出すかだねぇ」

「人数だけなら、なんとかなるが……」

「そうだね。宮廷からも武装費がでるんだから、この際、最新式のマスケット銃を購入させてもらったらどう?」

「マスケット銃だと!?」

「ああ。騎士見習いとしてだけど、なんだかんだと行って、平民の武器でやりづらい相手はマスケット銃の集団。弓矢もたしかにやりづらいところもあるけれど、短期間で育つものじゃないから、狩猟をおこなっている者にやってもらうしかないだろうねぇ。他の貴族より早めにマスケット銃を入手した方が、安く買っておけるかもしれないよ」

「考慮しておこう。それで、200名集めたとして、お前ならそれを、どのように戦列を組むか聞いておきたい」

「俺ならかい? 一番前に、盾専門。次の3列がマスケット銃、次の1列にマスケット銃の弾込めだね。さらにその後ろに長槍で、次に弓専門、次にメイジに、最後に治療とか指令本部ってところかな」

「マスケット銃を3列に、弾込めを分けるというのと、長槍に、指令本部。どうしてそのような戦列を組むのだ?」

「マスケット銃を3列にするのは、その部分からの見かけ上の連射速度をあげるため。弾込めをわけるのは、短期間で慣れさすのがひとつだけど、まずはそこかな。マスケット銃は撃ち尽くしたら、弓、メイジという順番で入替えていくってところ。長槍なのは、どうせ素人が、短期間でやっても練熟度はかわらないのだから、少しでも長くして適当にふりまわすと、その中に入れさせないってのを狙っている。あと、指令本部は……諸侯軍には兄貴がでるんだろう? 戦闘指揮なんかしたことはないから、最後方にいてもらって、実戦指揮官は前にでてもらうのがいいんじゃないかな。実戦指揮官なら、城の衛兵の誰かができるだろうし」

マスケット銃が3列とか、長槍というのは、前世での戦国武将がおこなった方法のはずだ。それをちょっとアレンジしている。

「ふむ。しかし、幅が狭くなりすぎないか?」

「200名の部隊では、戦略的に意味のあるところにはいかないはずだから、マスケット銃か、弓を使い果たしたら、下がるのを狙っているんだよ」

「下がる? いいのか?」

「横の部隊との連携が必要になるけれど、下がったとみて、攻め込んできたら、左右からの攻撃の的になってもらう。正規軍はプライドが邪魔しておこなわないけど、傭兵あたりがおこなう戦術だよ。アミアン家は軍の家系じゃないから、別にいいだろう?」

「プライドでは勝てないから、いいだろう。ところで、さっき慣れさすのがひとつと言っておったの」

こういうところは、親父もめざといな。

「それは、どうせ短期で終わるのなら、戦争の戦術全体なんて領民に覚えさせない方が、統治する上では、いざという時に楽だしね」

「いざという時か?」

「そう、領内で反乱がおこった時にね。この戦争で、宮廷に納める税金が上がるように見えるから、領民にもしわ寄せがおこる。だから、万が一ってやつだよ」

「ふむ」

「けど、相手がそこまでおこなうかどうかわからないけれど、長期化する可能性もありそうなんだ」

「なんだと!?」

今、頭に浮かんでいるのは、前世で覚えている、金髪の小僧とやゆされていたキャラが、のっていた小説でとられた方法だ。

「今回のアルビオン遠征の目的というのは、アルビオンに王家を復興させるのが目的だよね?」

「そのように聞いておる」

「ならば、その復興する王家のために、平民を護る義務がこちらにしょうじるのだけど、そこをついて、侵攻する途中の街などから食料を、全てうばいとって、後退していくという作戦をとられたら、そういう街には食料をこちらから提供しなければならない。そんな手があるよ」

「馬鹿な。そんなことをするわけがなかろう」

「過去に例が無いのは、タルブ戦のようにだまし打ちがあるよ。国土が戦争で疲弊しているはずなのに、あの時期に戦争をしかけてくるんだから、平民のことをどこまで考えているのやら」

「……」

「それで、こちらの食料補給に負荷をかけて、奥へ侵攻するほど、急速に補給の負荷はあがるし、そこの補給路の護衛にも戦力をまわさないといけなくなるから、最前線の人員が必然的に減ってしまう。補給を一回たたれたら、戦う前に餓えて、戦意なんて失う。戦意を失った軍に勝ち目なんてなくなるってのだけど……アルビオンにとって、一時的ながら、その地の平民を敵にまわすことになるから、それをどう挽回するかが、ポイントになってくるから、そこが確立されないと、この作戦をとる可能性は低いかな。だけど、どこか宮廷の知り合いにでも、可能性だけはということで、言っておいた方が良いと思うよ」

この作戦が実行できるのは、その地の平民を、最悪、敵にまわしたままでも良いときだけ行なえる作戦だ。なんせ、情報が少ないから、どのようなデマが広まるかは、予想がつかないし、相手が勝って、食料を奪った街を領地とした場合、統治する平民を、潜在的な敵にしてしまうというところが難点だ。
だが、アルビオンを捨てるということを考えてみると、レコン・キスタは聖地奪還が目的のひとつだ。アルビオンではなくて、トリステインかゲルマニアに侵攻して、そこへ遷都してしまえば、平民の乱は、そこまで脅威ではなくなる。
どちらにしても、仮定の上に仮定をかさねた話だ。忘れてよいだろう。

「ところで、タルブ戦での太陽のような光って、あれによる直接的な人的損害は無かったの?」

「ああ。報告書にあった通り、船に火がついたのと、風石が消失していたというのが、あの時の現象だったようだ」

「そのことはアルビオンも知っていると思う?」

「リッシュモンのような大物も絡んでいたとなると、その情報は漏れていると思った方がよいだろう。何か気にかかるのか?」

「親父、とぼけるのもよせよ。わかっているんだろう?」

「なにがかな?」

「アルビオンが、わざと上陸させて、そこで空船で攻撃をしかけてくれば、落下するのはアルビオンの上。つまりそのまま、地上におりた空船のりは、逃げ出す算段をとっていれば、それほど、アルビオン軍全体の人数は減らないってことだよ」

人数イコール戦力とはかぎらないが、やはり数は暴力だ。

「たしかに、そうだが、軍の士気が下がるだろう」

「上陸前に叩かれるよりは、俺ならそっちを選ぶけど、レコン・キスタはどっちの考えをとるかな?」

「それは、さすがにわからん」

だよなと思いなおして、その話はそこまでとなった。



夏休みの最終日の午前中はティファンヌとデートをして、次に会う日の約束をしてから、トリステイン魔法学院に向かった。モンモランシーとは2週間に1度はあっていたが、簡単に『アンドバリ』の指輪はいまだ発見できないことと、地図に対して最新の水の流れを書いたものを見せた。

「意外に地下水脈が多いのね」

「トリスタニアには合計5本の水脈があるといわれていたのに、2本多くみつかったしなぁ」

使ったのは水の精霊からイメージとして伝えられた、ルーンの使い方だが、直接『アンドバリ』の指輪を見つけるためだけではなく、水の分布もわかるという能力があるというのがわかった。これって先住の魔法だから、使用しているところを見つかると、異端審問にひっかかる可能性があるんだよな。
まあ、「水の精霊から授かった」と水の精霊の前で話せれば、それですむ話だが、そこまで行くのに、ひと悶着おこりそうだから、やっぱり秘密にしておくのがよかろうと、モンモランシーとは話がついた。同じ部屋で話していたのに、ギーシュは頭の上に「?」マークを浮かばせているが、そういうのは無視だ。

モンモランシーにはもうひとつ『使い魔との目と耳の共有に関する研究』という学術書の話をして、使い魔の目や耳が共有できないのは、数年に一度ぐらいの割合で発生していると伝えると、魔法学院側で認めるのなら、そのことを魔法学院の公文書に署名することの約束はとれて、実際、魔法学院でも手続きがおこなわれた。

こういう多少のことはあったが2学期の生活は、夏休み直前のおだやかな日々をすごしていたが、10月(ユルの月)に入ってすぐに、学院長室に呼ばれた。まっていたのは、オスマン氏と、魔法衛士隊の顔見知りの衛士だった。
その衛士から、

「ジャック・ド・アミアン。貴殿に召集がかかったので、国軍へ参加する準備をされたし」

予想より早かったが、可能性としてはあると思っていた。ただ、なぜ魔法衛士隊の知り合いが、直接伝えにきたのかは、この時点ではわかっていなかったが、オスマン氏の顔には、ヤレヤレと書いてあった。
 
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