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舞台は急転

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第五章


第五章

「もうそれだけなるわね」
「西園寺君もかなり意識してるわよ」
「あっ、それは間違いないわね」
「さっき擦れ違った時だって」
「そうそう」
 また皆で言い合うのであった。
「有美見て顔少し赤くさせたし」
「ここでまた成功させたらそろそろいいわよね」
「焦らないの」
 だがその有美は微笑んで言うのであった。
「ここで焦ったら負けよ」
「負けなの」
「こういうのは確実にかつ慎重に」
 まるでスパイ映画だがそれでも有美の言葉は妙な説得力を帯びていた。
「少しでもミスすればそれで終わりなんだから」
「終わりなの」
「そうじゃない。私がこうして仕掛けてきてるって西園寺君が気付いたらどうなるの?」
「まあその時は確かに」
「かなり・・・・・・あれよね」
 皆も話を聞いて頷くのであった。
「まずいなんてものじゃないわよね」
「っていうかかなり最悪なことになりそう」
「だからよ。あくまで慎重によ」
 半分自分自身に言い聞かせるようにして述べる有美であった。
「ここはね。次の次も考えてるから」
「そうなの」
「やるわよ」
 意を決した顔で強い言葉を出した。
「今度は電車でね」
 こう言って今次の戦場に向かうのだった。その登校時間の電車において。まずはプラットホームで電車を待つ。そこには彼女のクラスメイト達も一緒だ。何をするのか見に来ているのである。
「この時間の電車のここにいるのよ」
「ここに?」
「そう、ここに」
 周りにはスーツ姿の中年のおじさんや何か疲れた顔のお姉さんや様々な制服の学生達がいる。まさに通勤、通学時間である。プラットホームのその人ゴミの中で有美は皆に対して言っているのだった。吐く息が妙に熱いものになっているがその香りはミントのものであった。
「毎日ね。乗ってるのよ」
「そこまで調べたの」
「高くついたわ」
 ニヤリと笑って皆に述べた。
「随分とね」
「高くって何が?」
「何かしたの?」
「西園寺君の妹さん、いるわよね」
「ああ、一年のね」
「紗枝ちゃんね」
 実は妹もいる範人であった。
「彼女に教えてもらったのよ。こっそりとね」
「妹さんにまで手を伸ばしてたの!?」
「そこまでする!?」
「将を射るにはまず馬を射よ」
 誇らしげな笑みと共に言う有美だった。
「そこは真っ先にやっておいたのよ」
「何時の間に」
「抱き込んでたの」
「抱き込んだっていうのは心外ね」
 その言葉にはクレームをつける有美だった。
「協力してもらってるのよ」
「協力?」
「そう、協力」
 こう言う有美であった。
「色々とね。それで妹さんからの情報なのよ」
「西園寺君が毎日この時間のここで止まる車両にいるってことね」
「そういうこと」
 また笑顔になっている有美だった。
「それで高くついたって」
「何だったのよ」
「ケーキ食べ放題」
 今度は苦笑いを浮かべて述べた。
「それだったのよ」
「ケーキ食べ放題ね」
「そうよ。山月堂の喫茶店であるじゃない」
「ああ、あそこね」
「あそこなの」
 女の子達もよく知っている喫茶店であった。本来は和菓子屋なのだがケーキもやっているのだ。とにかく美味いので評判になっている。
「あそこでケーキを奢ってあげて味方につけてね。それでなのよ」
「手が込んでるわね」
「本当に。よくやるわよ」
「妹さんを味方につけておいたら今度何かと頼りになるじゃない」
 そう言ってまた楽しそうな笑顔になる。
「だからよ」
「まあ確かにね」
「相手の身近な人が味方だと心強いわよね」
「この電車のここってことを教えてもらったのはチョコレート一枚」
 またお菓子であった。
「それで話がついたわ」
「それで高くついたの?」
「結構安いじゃない」
「何言ってるのよ。山月堂の特製ケーキよ」
 このことも皆に話すのだった。
「あれ。高いじゃない」
「ああ、あれね」
「カカオもお砂糖もミルクも特別に選んだあれね」
「一枚三百円だったかしら」
「電車の場所を教えてもらうには高いでしょ」
「それだとね」
「確かに」
 皆有美にここまで言われてようやく頷くのだった。言われてみれば確かにそうであった。どうもかなり現金な妹さんであるらしい。
「それで教えてもらったのよ。中には妹さんもいるわよ」
「成程」
「手引きもしてもらってるのね」
「完全にグルなのね」
 皆彼女とその妹さんの関係をまた言う。
 
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