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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆自己の非同一性
  第五十四話 新たな仲間

 
前書き
ミドリ編、本格始動です!
ゲーム版のキャラクター、ストレアが初登場します。 

 
「ってなんであんたはそうなる……。マルバたち、探してたわよ」
 ミドリは唯一のフレンドであるシノンをたずねてアークソフィアを訪れていた。連絡がとれないよう、他のフレンド登録はすべて消去してしまったのだ。
「あー、心配かけたのは悪かったと思ってる。でも、あいつらといても現状は良くならない気がしたもんだから……」
「それは分からなくもないけどね、せめて別れのあいさつくらいしてきなさいよ」
 シノンは大きくため息をつき、ミドリはもう一度謝った。
「すまん」
「もういいわ。それで、今度は私に何をして欲しいの? 相談に乗るとは言ったけど、昨日の今日じゃあまり話すこともないんじゃない」
 ミドリは昨晩考えたことを話した。自分がどんな人物なのかを知るためには、ミズキを知らない人物と一緒にいた方が良いだろうということ、そしてそれはおそらくシノンが適任だろうということ。ミドリは当然シノンが迷惑な顔のひとつもするだろうと覚悟していたが、意外にもシノンは渡りに船といった調子で快諾した。
「ちょうどよかった。いつまでもお荷物でいるつもりはないから、私、キリトに戦闘訓練をしてもらってたのよね。でもあいつもいつも暇なわけじゃないから、悪いなと思ってたところだったんだ。あんた、マルバたちと最前線でやってくだけの力はあるんでしょ? 私とパーティ組んでよ」
「……それはこちらからお願いしたいところだが、二人だけじゃちょっとキツいんじゃないか? 俺は大盾使いで攻撃は弱いから、火力不足になりがちだと思う。クエストボードに募集出してみれば誰か集まるかもしれないけど、今更攻略を目的としないパーティーに参加する人なんているかどうか。試してみる価値はあるだろうが」

 ミドリとシノンがああでもないこうでもないと案を出し合っていたその時、隣のテーブルでひとりマフィンをぱくついていた女性が二人の話に首を突っ込んできた。それもあまりにもベタな台詞と共に。
「話は聞かせて貰った!」
 は? と思わず声を揃えて固まった二人に対し、その女性はうんうんとひとり頷きながら話を続ける。
「いやー、私も君のこと気になってたところだったんだよね。一人だけ感情がぜーんぜん読み取れないし、自分探しの旅に出るなんて……なんていうか、すごい! 一人で戦うのも悪くないけど、近くで見られるならパーティー組むのも面白そうだし、人手不足なら私もご一緒してもいいかな?」
「……すまん、何を言ってるのか全然分からないんだが……」
 困ったミドリはシノンに視線を送るが、シノンも同様だったようだ。
「私もさっぱり」
「細かいことは気にしなくていいよっ。私はストレア。君はミドリだよね? あなたは?」
 何故かミドリの名を知っているらしいストレアは、シノンに名を尋ねる。
「私はシノンよ。ストレアさん、名前はわかったけど、所属とかいろいろは……」
「ソロだよ。武器はこの子!」
 ぶん、と音を立てて、ストレアは背中の武器を片手で一振りして構えをとった。大剣らしきその武器は、片手持ちだというのに水平にぴたりと静止していて、それだけでストレアの筋力値の高さが見て取れる。
「うわっ! そんなもの街中で振らないでよあぶないな」
 ごめんごめん、と全く悪びれる様子もなく笑いながら、彼女は再びその大剣を背にしまった。
「それで、どうかな。私も一緒につれてってくれる?」
 どうしたものか、とシノンはミドリに視線をやった。ストレアが信頼に足る人物かどうかはかりかねているのだ。彼女は当然グリーンカーソルで示されていて、犯罪者ではないという意味では信頼できる。逆に言えばそれ以上の判断基準は存在しないのだ。それにパーティーメンバーを募集しているところに応募してきた者よりも、たまたまパーティーについて話していたところに首をつっこんできた彼女の方が信用に足るはずだ。ミドリは首を縦に振った。
「ああ、もちろんだ。よろしく頼むよ――ストレア」
「うん! よろしくね」

 一段落したと思ったその時、再び彼らに声をかけてくる人物がひとり。
「あのー、すみません。私も混ぜてもらえないでしょうか」
 物腰が柔らかそうなその声の主は、三人の視線を一挙に浴びて少々落ち着かない様子で視線を彷徨わせた。短い刃物――おそらく短刀――を腰に下げている。口調や声はやや中性的だが、なかなかに逞しい体つきからして男性であることは間違いない。
「ギルド《コロネン》のリーダーをやってました、イワンといいます。ギルド自体は先日の『3Q(サード・クオーター)の戦い』に行く派と行かない派に分裂し、解散しました。今はソロなのですが、見ての通り私は刀使いでして、スイッチできる仲間がいないと安定して戦えません。今までは野良パーティーでやってきたんですが、やはり固定のメンバーでないと連携がうまくいかず、パーティーメンバーを探していたところだったんです。しかしクエストボードに張り出しても全く声がかからず、困っていたところにあなた達の話が聞こえてきたものですからつい……。しばらくは前線から引きたいと思っていたところなので、ちょうどいいと思いまして。お願いしてもよろしいでしょうか」
 再びシノンとミドリは、そしてストレアも、目配せしあった。当然、彼もグリーンカーソルの一般市民である。それに《コロネン》は聞いたことのあるギルドであり、素性の知れないストレアよりはよっぽど信頼できる。三人より四人の方が安定するため、断る理由もなかった。
「よろしく頼む。……ところで、《コロネン》ってことは七人ギルドだろう。今はあんた一人ってことは残りは全員下層か?」
 ミドリの質問に対し、イワンは博識ですねとつぶやいた。コロネンとは七つの環構造をもつ化学物質の名称だ。
「三人が上へ進むべきだと主張しました。3Qの戦いを生き残ったのは私を含め二人。もう一人も八十二層のトラップで命を落としました。ここは恐ろしい場所ですね」
 ははは、と乾いた笑いを漏らすイワンの口調からは深い悲しみが伺えた。それでも前へ進もうとする彼の決意はいかほどのものか。ミドリは震えるイワンの手をぎゅっと握り、無理矢理に握手した。
「……ありがとうございます。ミドリさんは――あれ、ミズキさんのご兄弟かなにかですか? 姿が大変似ているようですが」
「他人の空似だ。世の中には同じ姿の人間が三人いるって言うが、多分それだ」
「でも、その鷹は彼のものでしたよね」
 イワンはミドリの足元に待機するフウカを指さした。ミズキは戦績的にはあまり目立つプレイヤーではなかったため、伝説となった今でも彼の姿を知らない者は多いが、七十五層の決戦で彼を目撃したイワンをごまかしきれるはずはなかった。
「あー、それについては、ええと――非常に説明しずらい事情があってだな。俺は確かにミズキと関わりがあるんだが――とりあえず、俺はミズキ本人ではない。キャラクターネームも違うしな」
「うーん、そうですか。深い事情があるようですので、あまり突っ込まないでおきますね」
「すまない、助かる。ずっと秘密にしておくべき話でもないし、また機会があったら話すよ。あとは――そうだ、シノン。武器は今も短剣だよな」
「うーん――そうね、違うわ。あんまり人前では話せないんだけど――」
 そこでシノンはあたりを見渡し、誰も見ていないことを確認すると、クイックチェンジで一つの武器を取り出した。それを目にして、その場の皆は一瞬凍りついた。それはここSAOでは存在しないはずの遠距離攻撃用武器である――
「ゆ、弓……?」
 そう、それは簡素な長弓だった。投剣・体術スキルで発動できるチャクラムなど派生武器とは異なり、引くのに十分な力と技術が必要なはずのその武器に対して専用のソードスキルが設定されているのは明らかだった。そして、『射撃スキル』とでも呼ばれるべきそのスキルは、未だに習得条件どころか存在自体知られていなかった。つまり――
「エクストラスキル……か」
 或いは、ユニークスキルか。その一言は口に出さなかったが、ミドリはそれがユニークスキルであるような気がしていた。射撃スキルはキリトやヒースクリフのスキルと同様、多種多様な他のスキルとは明らかにかけ離れたスキルだからだ。唯一類似点のある投剣スキルから派生する可能性はあるが、投剣スキルをマスターしたマルバやシリカからも射撃スキルを習得したなどという話は聞かない。ゲームのステータスではなく本人の能力、すなわち反射神経や動体視力といった脳に依存する様々な能力の一つに秀でた者にのみ与えられる、極めて特殊なスキル――ユニークスキル。本来ならキリトのようにひた隠しにするべきなのかもしれないが、しかし七十五層以上に登ってきた攻略組の人数が極めて限られている今は、かつてのキリトほど神経質にスキルを隠し通す必要もあるまい。そう判断した上で、シノンは命を預けることになる仲間に対してはスキルを明かすことに決めたのだった。全員がその武器を見たのを確認すると、シノンは早々と弓をストレージに突っ込んでしまった。やはりあまり公にしたくはないようだ。
「なんというか……驚きました。接近戦を基本としたこのSAOでも、そのような遠距離武器が存在するのですね。スキルに固有の武器が存在するということは複数人が習得するように設計してあるはずですが、聞いたことすらありませんよ。もしかしたら攻略がある程度進んだことで新たに習得可能になったのかもしれませんね」
 イワンが嘆息すると、ミドリも頷いて同意を示した。
「それじゃ、シノンは遠距離攻撃、ストレアは近距離から中距離、イワンと俺が近距離専門って感じか。案外バランスとれそうだな。イワンも一応盾役できるか?」
「はい。防御に徹している間は攻撃できませんし、本職ほど堅くはありませんので攻撃力の高い敵相手には辛いですが、一応大丈夫です」
「私もガードやろうと思えばできるよ! って言っても大剣だし素早い敵相手だと無理だけど、攻撃力が高いだけなら大丈夫」
「それじゃ素早い敵には俺とイワンが、攻撃力の高い敵には俺とストレアで交代で盾やればいいな。スキル熟練度は低いが、俺はバトルヒーリングも習得しているから少しは長めに盾役やれると思う。そうだな……今日はパーティー結成祝いに飲もうか!」
 おー! と皆が歓声を上げる。私は未成年なんだけど……というシノンのぼやきは華麗に無視され、彼女は酒場へ向かう一行をあわてて追いかけた。 
 

 
後書き
ストレアって言動が極めて書きにくいですね。
新キャラのイワンですが、彼は筋力重視のサムライです。ゲーム版でのカタナスキルは避けてカウンターで斬る戦い方をする武器という設定なので、この小説でもその設定でいきます。

裏設定。カタナスキルは一撃特化なので筋力重視ですが、これだと避けるのに問題が出てくるため、スキルMODとして『「構え」時敏捷値加算』というものがあります。敵に正対して構えを取ると、筋力値の一部が敏捷値に加算されます。回避を補助してくれるので低敏捷値でも回避が可能になります。『回避後ソードスキル発動速度上昇』とかもあると楽しそうですね。
居合系は回避が難しくなるので一撃必殺技という扱いです。

イワンの仲間に関しては描写がなくなってしまうのが残念です。今度時間ができたらサイドストーリー的にイワンの話も書いてみたいと思います。ミズキやアイリアの低層攻略時の話も書きたいですね。 
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