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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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間奏曲(インテルメッツォ)
  sceneⅠ 彼女に送る名前

 
前書き
12月の20ぐらいから第二部は始まります それまでは短編集と改訂の嵐です 

 
短編1
裸電球の下、文月学園の某所にて秘密会議が開かれていた。
互いの顔もはっきりと見えない中、集まったのは全員で七人の女子。
中心となる議長格が厳かに告げる。
「諸君、我らは決断せねばならなくなった。」
その場にいる一同の喉が鳴る。
「妃宮千早、彼女についての決議を取る」
懐古調で語る彼女に発言を求める挙手が上がる。
「議長、質問があります」
「良かろう」
「この決定は絶対でありますか?」
いくつもの目線が議長にささる。ある意味においてこの質問はこの会議の存在自体を否定しかねないが、そのことに突っ込むものはなかった。
「本日の議題は『妃宮千早の二つ名に対しファンクラブの公式見解を決める会』だろう、個人で呼ぶのには差し障りはない。」
「はっ!」
そう、本当に当人がもしこの場にいて彼らの目的を聞いたならば即座にこの話題をすることをやめるよう必死になったであろう。
また、ここにCクラスの代表がいたならば、その思いを汲み取ってやめさせるように努力したであろう。
「さて、候補をあげていただきたい。時計回りに行こうではないか。そなたから行かれよ。」
議長の隣に座っていたその人は、少し考えてから提案する。
「そうですね、やはり今のところ一番呼ばれているお姫様はどうでしょう。」
その言葉を皮切りに、様々な意見が飛び交う。
参謀銀姫(さんぼうぎんき)は如何か。」
「縮めてお銀とかは……古くさいですね、はい。」
「お江戸な香りがするわね」
「個人としては尊称外して姫でも構わない気がしてきた」
「姫だと誰か分からないじゃないですか、それこそ彼女のクラスメイトの姫路さんを指しているように思われては折角の二つ名が…」
出尽くした感が彼らの間に広がったとき、議長がおずおずと申し出る。
「自分としてはぎんの姫がいいと考えるのだが…」
「銀の姫ですか?」
「ぎんはシルバーの銀ではなく、しろがねだとか雪に対して使う白銀が良いと考えている。」
議長は手元にあったメモ用紙に白銀の姫と書いて見せ、裸電球に近づけて集まっている一人一人に見えるようにしてみせた。
「確かに、妃宮さんの髪って白銀って感じですよね。」
「それならば、いっそのこと姫、じゃなくって姫君とかどう?折角の公式版なんだから一線画したものにしようよ」
「あ、それいいね!」
やがてわいわいがやがやと騒がしくなる彼らを議長が窘める。
「静粛に、これより票を入れてもらう。候補は次の通りだ。」
裸電球の近くにこれまで候補としてあげられた五候補が一つずつかかれたメモが並ぶ。
「前から言っていたとおり、今回はイギリス風に選ぼうではないか。」
暗闇の中、集まっていた彼らは互いに頷きながら了解を伝えあう。
「お姫様を選ぶならこの箱に一円玉を、参謀銀姫ならば五円玉を、お銀なら十円玉、姫なら五十円玉、白銀の姫は百円玉、白銀の姫君ならば五百円玉を一枚いれる。枚数の一番多いものを公式のものとしようではないか。」
「議長、質問です。」
「なんです」
「同率で割れた時にはどうなるのでしょうか?」
「その時は…」
「その時は?」
「代表に決を迫ろうではないか」
「「御意!」」
「あらら…友香も可哀想に…」
「そのようなことが無いことを自分も願っている。では投票するぞ。」
硬貨が一枚一枚箱の中に投入されていく、硬貨を入れるための穴しか上には開いていないため他の誰が何を投票したのか分からないようになっている。
箱は彼女らを巡りそして議長の元に戻ってくる、最後に議長が硬貨をいれ終わる。
さすがに開票の時には不正がないように、部屋の明かりを最大にする
目をしばたかせながら議長は箱の中に入っていた硬貨を取り出す。
「結果を発表する。箱には五百円玉しか入っていない。つまり自分たちにおいて公式な敬称は白銀の姫君に決定だ。」
「「全員一致ですか!!」」
「そうだ、これからは」
「本当にこのクラス大丈夫なのかしら…」
ただひとり、北原だけは苦笑していたがCクラス「白銀の姫君ファンクラブ」の面々は満面の笑みを浮かべていたのであった。

___その後____

夏期の白い清楚なイメージを喚起させる制服は、今年から姉妹校となった聖應女学院の制服を元にして作られている。
胸元にあしらわれた蒼いリボンには文月学園の校章が刻まれている。
それが最も上げやすい差異なのだから、ほとんど同じだと言っても過言ではないだろう。
そんな新しい制服を着ている二人が取り留めもない話をしながら登校してくる。
二人のスカートの裾が踊っている。
たまたますれ違えた同級生や後輩たちが彼女たちに、特に白銀の髪を持つ女生徒に挨拶をして行く。
「妃宮先輩、おはようございます!」
「姫君、おはようございます」
「えぇ、おはようございます。今日もいい天気ですね」
「おはようございます白銀の姫、代表!」
「おはよう、私にまで挨拶するなんて余計だと思うよ?」
「そう自虐を挟まなくたっていいって代表」
一通りが終わった頃、少し疲れたような表情をしていた。
「…あの友香さん、(わたくし)の呼び方がどうも「白銀の姫君」となっているのはどういうことか、心当たりは有りませんか?」
ジト目で睨み付けられた黒髪の少女はたじたじになりながら、それでも彼女に疚しいところはないので言い返す。
「……私は事後承諾させられただけよ。うちのクラスの女子がオフィシャルとして妃宮千早に『白銀の姫君』という二つ名を送ると宣言したのよ。後輩の一部もそれを聞きつけたって話じゃないかしら。」
「…どうしてこのようなことになるのかしら…」
そうぼやく妃宮を小山は傍目に小さくつぶやく。
「だって妃宮さんは……その…」
「どうかなさいましたか、友香さん?」
振り返った妃宮になんでもないと首を振る小山。
二人の様子を微笑ましく、少しだけ寂しそうに教室の窓から北原は眺めていた。
 
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