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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第3話:持つべきものは良妻賢母

(グランバニア城・カフェ)
ピピンSIDE

オジロン大臣やウルフ君等と違い、軍部のトップに居る俺には現在の喧噪とは無縁で、休憩時間を多めにとる事が出来る。
だから今日も一通りの仕事を終わらせて城内のカフェでユッタリコーヒーブレイクだ。

しかし本日は心から休息できそうにない。
何故なら……俺の席より7時の方向3メートル地点に、ビアンカ王妃陛下とマリー・リューノ王女殿下が着席したからだ。

心からのリラックスを求める俺には、この状況は居辛く苦痛。
本心は今すぐにでも席を立ち執務室に帰りたいのだけど、そんなあからさまな事をするわけにもいかず……気づかぬフリしてコーヒーを飲み続けるしかないのだ。

本来、ビアンカ王妃陛下のお側でコーヒーを飲むなんて至極の時なのだが……どう見ても娘2人にお説教中で、気が休まらない事この上ない。
出来れば説教などはプライベートエリアで行ってほしい。

「リュカだってね本当は以前から全力を出したかったのよ。だけど出来なかったの……何でだと思う?」
聞く気はないのだが席が近すぎて……そして声が響き渡る方だから聞こえてしまう。
そして思う……そりゃ不真面目なお人だからだろう、と……口に出しては言わないがね。

「ふ……不真面目な人だから……」
娘も俺と同意見だった。
変態的ファザコンではない娘とは言え、同意見と言う事は……正解なのではないだろうか?

「家族以外の人が言ったのなら燃やしてしまいそうな答えね」
危ね……うっかり口に出して言ったら消し炭確定だった!
しかし……それ以外の答えが思い付かないのだが?

「リュカが思い描いてる未来を一体何人の者が理解できてるかしら? リュカが常人の思考回路だったとして、果たしてグランバニアは今ほど発展してたかしら?」
確かにリュカ陛下の考える事は突飛すぎて俺には理解不能な事が多い。

「貴女達が生まれた頃に、リュカは義務教育法を施行したわ。そして国家として子供達の学力向上を目指したの。それがどういう事なのか解る?」
ど、どういう事なのでしょうか!?

「国家を運営してるのは大人……それも老人が多いけど、その老人は先が短いの。では次世代の国家運営者は誰なのか……そう、子供達なのよ! 今はまだ子供でも、時間が経てば大人になり、そして老人になる。国家とは世代交代を繰り返し発展して行く物なの。その為に未来のエリートを作り出す事を一番最初に行ったのよ!」

「そ、それと今回の事とが関係あるの?」
うん。ウルフ君の忙しさと無関係な気がする。
「在るわよ勿論!」
あ、在るんだ……

「リュカの思い描いた未来を理解し実行できる人材が、今やっと揃ってきたのよ! 以前はオジロンしか頼れる者が居らず、政府も軍も家柄だけで上位に就いた者ばかり……能力・人柄共に当てに出来る人材が側に居なかったの」
た、確かに……俺が軍に入った頃の大臣は、実戦経験がない貴族出のヘタレだった。

「リュカは時間をかけて優秀な者を中央に集めてたのよ……例えばピピン大臣の様に、平兵士から直ぐに隊長に押し上げ、大隊長へ……そして大臣へと押し上げたの。彼が能力も人柄も信頼できる人物だから」
後ろに居るんですけどぉ~……そんな褒められると恥ずかしいんですけどぉ~!

「貴女達の彼氏……ウルフ君も、リュカは凄く信頼してるの。だってグランバニアに来て早々に国王主席秘書官よ。直属の上司が国王だなんて凄い事なのよ!」
「そ、それは解ってるけど、今になってウルフの仕事量を増やす意味が解らないわ」
それは俺にも解らない。

「仕事ってのはね……いえ政ってのはね、一人の力だけじゃ何も出来ないの。ウルフ君がどんなに有能でも、仕事上で関係機関や部下との間に信頼関係を築いてなきゃ、良い仕事は行えないのよ」
それは解る。俺も若くして大臣になんてなってしまったから、最初の頃は摩擦が多くて辛かった。

「こればかりは時間をかけて築き上げるしかない……そしてウルフ君はリュカの信頼に応える様、仕事上の信頼関係を築いてきたの。そしてリュカの周囲には優秀で人柄も信頼できる者が集まってきた。だから……」
だから今になって色々な法案を推し進めてるのか!

「そ、そうだったのね……」
そうだったのか……
俺はてっきり面白半分で法案を提示してるのだと思ってた……

「私……お父さんに謝らないと! 誤解してたわ。そんな……色んな事を考えて王様してたなんって!」
俺も陛下に謝罪したい気持ちでいっぱいだ。
信頼されて大臣にして貰ったというのに、不真面目な人なんて思ってしまってた……

「良いのよリューノ。解ってくれれば良いの……リュカも怒ってないし、それを理解してウルフ君の力になってあげてね」
「うん。私……寂しいなんて言わない。ウルフがお父さんと共に頑張ってるのだから、我が儘なんて絶対に言わないわ!」

「じゃぁ2人共ウルフ君を励ましてきなさい。ここの会計は私が済ましておくから……」
ここ(カフェ)に入ってきた時とは違い、優しい口調で娘2人を送り出すビアンカ王妃陛下。
よかった……失礼だからと言う理由だが、早々に席を立ち逃げ出さずに良かった。
俺の知らないリュカ陛下を知る事が出来た。

王女殿下2人がカフェから嬉しそうに出て行くのを見て、俺も幸せな気分で周囲を見回す。
視界に入る者達も彼女らの会話を聞き、何やら幸せな表情で頷き合っている。
気分が良い俺は、もう一杯コーヒーをおかわりし満足感を噛み締める。

王妃陛下達の会話を聞いてた大半の者が、自分の仕事に戻った頃……
俺も同じように仕事へ戻ろうと懐から財布を取り出す。
すると俺の目の前の席に背中を向けて座ってた兵士が立ち上がり、俺のテーブルにコーヒー代を置いた。

何なんだと思い、その兵士を見上げると……何と、兵士の格好をして変装してたリュカ陛下だった!!
客が大分居なくなった店内を見回し兜を脱ぐと、そのままビアンカ王妃陛下の席へ近付き、対面する様に着席する。

「いやぁ~助かったよビアンカ。これで娘に文句を言われずに済む」
「そりゃ貴方の妻ですから(笑)」
ん? 妻ですから……とは、真実を語るのも勤めと言うのだろうか?

「思い立った時に思い立った事を発言すると混乱するんだね(笑) ウルフが有能だから、ついつい仕事を押し付けちゃうけど、ちょっとは考えて発言した方が良さそうだねぇ」
何だと!? では先程語ったビアンカ王妃陛下の言葉は?

「良いんじゃない、若いうちの苦労は買ってでもしろと言うのだし、ウルフ君も沢山苦労するべきよ。その為に夫の名誉を守るのも娘の思考を操るのも、妻で母な私の役目だから」
「持つべきは良妻賢母だね。ビアンカ以上の女性は世界に居ないだろう」

「お世辞は要らないわ……謝礼はアッチで返して貰いますからね(笑)」
クスクス笑うビアンカ王妃陛下の声を聞き、俺はテーブルの上に置かれたリュカ陛下が支払ったコーヒー代を見詰める。

これは口止め料って事だろうか?
美談に隠された真実を聞いたしまった俺は、他に誰か聞いてないか周囲を見て確かめる。
だがカフェに人影は居らず、真実を知ってしまったのは俺だけだと痛感する。

口止め料なんって要らねーよ……
さっきの美談を聞いてた者の中に、近衛隊の女性も混じってた。
つまり、リュリュの耳に美談が入るのは確実だ。

そんな状態で俺が真実を話せばどうなるか……
リュリュを敵に回す事になるだろう。
って事は、リュリュファンクラブの面々を敵に回す事になる。

口止め料払わなくても、誰にも言えねーよ!
身を守る為に誰にも口外できねーよ!
何だあの夫婦……凄く厄介だぞ!?

多くの者がカフェで休憩をしてる時に、あの話をしに来たのはワザとだろう。
近衛隊の女性が居る側の席に着いたのもワザとだろう。
ただ……それがビアンカ王妃陛下の発案か、リュカ陛下の発案かは解らない。

願わくば……リュカ様の案であります様に。

ピピンSIDE END



(グランバニア城・外務大臣執務室)
アルルSIDE

「ね、おにーちゃん。私達のお父さんは凄く格好いいよねー!」
私の夫になる男の執務室では、膨大な書類処理に追われる(あるじ)を尻目に、変態的ファザコン娘が本領発揮全開で大きな独り言を繰り広げてる。

私も外務大臣の秘書官的な立場で一緒に仕事をさせて貰ってる為、この部屋の(あるじ)の横に配置されてる机で書類処理の手伝いをしている。
しかし、目の前の娘には私達の状況が解らないらしく、ひたすらパパラブトークを続けている。

私の未来の夫は、そんな彼女を無碍に扱う事はなく、時折優しい笑顔で「うん。やっぱり父さんは凄いね」と相槌を打っている。
ある程度満足した未来の義妹は、他の者にも同じ話(自慢)をしに出て行った。

「よく我慢できるわねティミー……」
「アルルよりも付き合いが長いからね……それに今でも気があるし」
2週間後に結婚式が迫ってるというのに、サラリと暴露するわね……

「あのね……私のお腹には貴方の子供が居るのよ。そんな事を言ってると、貴方のお父さんみたいな大人になっちゃうんだからね」
「いや大丈夫。僕の父親みたいな人間を見続けた所為で、僕はこんな大人に成長したんだから……きっと反面教師として僕も父さんも役立つよ(笑)」

「そういう事じゃ……ふぅ、まぁいいわよ」
私の手を握り締め優しい笑顔で言われ、思わず諦めてしまう。
これだからイケメンはズルイ!

「ところでリュリュの話してた件だけど……本当かしら?」
「さてね……父さんの懐が深いのは事実だ。でも思いつきで行動する浅はかな所があるのも本当だ……もしかしたら母さんが思い違いを言ってるのかもしれないし、真実を言ってるのかもしれない」

「確かに……ビアンカさんが嘘を吐くなんて思えないものね」
「そうでもないさ。エジンベアでの事を憶えてるかい? あの時は父さんの指示の元、夫婦揃って人を騙してたからね。母さんが真面目なのは旦那が絡まない時だけだ。気を抜くとあの夫婦のトラブルに巻き込まれるぞ」

「厄介ねぇ……ウルフはきっと、自分が大きく信頼されてると思って喜んでるはずよ。何が真実にしろ、暴いちゃダメな気がするわ」
「ああ、暴いちゃダメだ。どんな魔物が潜んでるのか解らないからね。その魔物に取り憑かれてみろ……生き地獄を味わうぞ」
流石は息子だ……両親の事を熟知しているわ。

軽く溜息を吐いて書類に視線を向けた所で、国王主席秘書官のウルフが部屋へ入ってきた。
顔には疲れが浮かんでいる物の、その瞳には力強い輝きが宿っており、例の話を耳にした事を確信させる。

「お疲れ様ウルフ……大丈夫なの、疲れが溜まってるんじゃないの?」
「ありがとうアルル。でも俺は大丈夫だよ……疲れてはいるけど、リュカさんの信頼に応える為に全力を出すんだ! それに我が儘娘2人が、夜の面で協力してくれるって言ってくれたからね(笑) 今日からは睡眠がとれるよ」

「そ、そう……じゃぁ無理だけはせずに頑張ってね」
「あぁ頑張るよ!」
そう言うとウルフは、結婚式のプログラム等の書類を置いて出て行った。

「凄いわね、あの夫婦……ウルフを手玉にとるなんて」
「ああ凄い。真実だったら絶妙のタイミングでの暴露だし、違うのなら全てが完璧だ」
今更ながら思うわ……本当にアレが私の両親になるのかと……

アルルSIDE END



 
 

 
後書き
ビアンカさん大活躍!
ピピン君貧乏クジ! 
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