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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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散る群青 願う彼女 立ち上がる少女


静かに空気が変わるのを肌で感じる。
身の丈以上の水の剣を自身の腕であるかのように簡単に操るティアの攻撃の僅かな間を縫うように走るナツが、拳を叩き込んだ。

「ぐっ…!」

呻き声を零すシャロンに構わず、地を蹴って追撃する。
流れるような動作で攻撃を続けつつ、ティアは頭の中でいくつもの計算を繰り返す。相手の避け方によってその先の動きを変え、その隙を狙っていくナツが最低限の動きで最大限の力が出せるように攻撃を当てる場所を考えて、1秒と待たずに全てが崩れていくこの戦いの動作の全てを理解し、先を読み、言葉には出さずに動きだけでそれをナツに伝える。
伝わらないんじゃないか、なんて心配はこの2人には必要ない。何度も共闘して、いがみ合って、時々実力行使で戦った事だってある。それを何度も何度も繰り返していれば自然と相手の考えや次の行動も解ってくるもので、声1つ出さずにただただシャロンに攻撃する事しかしないティアの脳内計算式を動きから読み取り、攻撃の邪魔にならない範囲を狙っていく。

「星竜の剣牙!」
「火竜の咆哮!」

ティアを狙う無数の金色の光を、ナツの口から放たれた紅蓮のブレスが相殺する。持ち前のスピードでシャロンの後ろへと回ったティアの一撃が炸裂し、その間にナツは距離を詰めた。

「からのっ……鉄拳!」
「チッ」

右拳の一撃を飛んで避け、狙うのは孫。滅竜魔法を避け続けるティアを狙ってブレスを放てば、案の定ティアは眉を顰めて避けた。
更に顔をそっちに向ける形で追撃する。

「ティア!」
「この程度…っ!大海怒号(アクエリアスレイヴ)!」

慌てて目線を向けると、パチンと音高く指が鳴る。
魔法を使う時の合図代わりに指を鳴らすティアの澄んだ音は魔法陣が展開する鐘の音に呑み込まれ、一瞬にして展開した青い魔法陣から金属をも余裕で貫くレベルの水がブレス目掛けて一直線に放たれた。
轟!と音を立てて勢いよくブレスを呑み込んだティアの一撃をシャロンは咄嗟に回避するが、くいっと指を動かしたティアの命令通りに水がカクンと右に折れる。

「星竜の翼撃!」

薙ぎ払った両腕から放たれた金色の光。ティアの一撃を切り刻むように四方八方に散らし、シャロンは短く息を吐いた。

「2人になろうが大した事はないわね」
「随分と余裕じゃない。ま…いずれその余裕を粉々に叩き割ってやるつもりだけど」

冷たい光がバチバチと火花を散らすようだ。
青い瞳がお互いを見据えて冷たく光り、何故か解らないがナツは寒気を覚える。それは後ろで見守るルーシィ達も同じのようで、どこか青ざめたような顔だった。
“女同士の戦いって、今更だけど怖え……”と呟いたアルカは何も悪くない。











「!」

塔の扉が、突然開いた。
ウェンディに傷を治してもらっていたスバルと、戦い終えてすぐだというのに戦いを指揮するヒルダ、こんな状況であるにも拘らず寝ていたクロノを始めとするその場にいた全員の目が扉に集中する。
と、そこからそれぞれ傷を負う4人が出てきた。

「クロス!」

バッと上半身を起こしたクロノが咄嗟に大声を上げる。ライアーの肩を借りてどうにか立っているクロスは兄の姿を見て驚いたように目を見開いたが、すぐに納得したように小さく頷く。妹を溺愛する兄が、こんな時まで書類と睨めっこしていられる訳がなかったのだ。

「ライアー!サルディア!」
「大丈夫か!?…って聞くまでもなさそうだな。そうだよな、大丈夫じゃないとティアに告白出来なあああああああああっ!?」
「よ…余計な事を言うなスバル!怪我人は大人しく治癒されていろ!」
「ライアーも十分怪我人だけどね」

主に肩を貸していようと、足を踏むくらいなら問題なく出来る。いつものように余計な事を口走りかけたスバルの足を思いっきり踏みつけたライアーは、ウェンディの前にクロスを横たわらせた。

「すまないがマーベル、主を頼めるか?今の主は戦力にならない」
「は、はい!」
「戦力にならないって……本当の事をそのままに言わなくてもいいだろう…」

素直にこくりと頷いたウェンディから目線を外したクロスは、困ったような笑みを浮かべてライアーに目を向ける。
が、いつもなら「確かに…すいません、主」と謝るであろうライアーも、今だけは眉を吊り上げていた。とてつもなく怒っているのである。

「俺は間違ってませんよ、主。言いましたよね?あの刀はマスターの許可がない限り使ってはいけないと」
「し、仕方ないだろう!あのままでは姉さんが」
「まずは自分の身を大事にしてくださいと言ったはずです!主がボロボロになれば、悲しむのはティアなんですよ!?」
「ははは…それもそうか。まあ、その時は姉さんの事はライアーに任せるとするよ」
「なっ……何故そうなるのですか!?」

説教のはずが、最後の一言でライアーの頬に再び熱が集中する。こんな日常的な会話を普通に繰り広げられていると忘れそうになるが、ここは立派な戦場。周りでは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士が各々の魔法でデバイス・アームズを破壊している。
少し前から現れる数が明らかに減っているのだが―――――奴等の出入り口をアランが壊した事を彼等は知らない。

「皆さーん!」
「ココロちゃん!」

と、そこに現れたのはこちらもこちらで傷を負っているココロだった。デバイス・アームズの残骸に気を付けつつ駆け寄ってきたココロは、ジュビア達を見て目を丸くする。

「あれ?ジュビアさん達、塔から出られたんですか?」
「え?」
「私、ポワソンさん…戦った相手に聞いたんですけど、あの塔の扉はシグリットさんって人にしか開けられないって言ってたんです。だから何でかなって」

その言葉に、ハッとしたように塔から出てきた4人は顔を見合わせた。無理矢理上半身を起こしたクロスを慌ててサルディアが支える。
はくりと口を開いたクロスだったが、すぐに何かに気づいたように口を閉じた。その様子を不思議そうに見つめるウェンディ達に目を向けたクロスは、大きく目を見開く。




「命刀を使ったか…あれは使うなと言ったじゃろう」




「……マスター…」

静かにこちらへと歩いて来るのは、彼等の親。
血塗れの欲望(ブラッティデザイア)の件を報告する為に評議院に行った、マスターマカロフ。
その登場に驚くと同時に安堵するメンバーを見回したマカロフは、しっかりと頷く。

「評議院には報告した、間もなく強行検束部隊がここに来る。クロ坊、お前の部下が怒っておったぞい。“人に書類押し付けて何やってんですかあの隊長は!”とな」
「押し付けたなんて人聞き悪ィなマカロフの旦那。”頼んだぞ”って渡して来ただけだって。相手の返事は聞いてないけど」

それは押し付けたって言うんだよ!と密かに全員がツッコんだのは言うまでもない。
呆れたように溜息をついたマカロフは、何かを言いかけて止まったクロスに目を向けた。クロスは少し迷うように目を逸らしたが、やがて意を決したように口を開く。

「マスター」








「俺達は、大きな勘違いをしていたようだ」
















「はあっ!」
「くっ」

一気に距離を詰めたティアの鋭い蹴りがシャロンの顎を蹴り上げる。日頃からナツを蹴り飛ばし続けるその右足の威力は伊達ではない。ワンピースだろうとお構いなしに上げられた足に乗せられたパワーの全てを遠慮なんてなしに叩きつける。
フラフラと後ずさり頭を数回横に振ったシャロンはお返しと言わんばかりに光を纏った拳を放つが、それは狙いのティアに届く前にナツの拳が受け止めた。

「ティアばっか狙って、オレの事忘れてんじゃねえだろうな!お前の相手はオレ達だ!」
「お前に用はない!私はあの小娘を消す!」
「させっかよ!火竜の鉤爪!」
「あぐっ!」

シャロンの右拳を左拳で受け止めたまま、ナツはガラ空きの横腹を勢いよく蹴りつける。バランスを崩した隙を見て距離を取ったナツが目を向けると、帽子を深く被り直したティアと目が合った。

「キリがねえな」
「あの女の相手をするってのはそういう事よ。何発蹴ろうがしぶとく起き上がる、リアル起き上がり小法師みたいな奴なんだから」
「マジかよ」
「この状況で嘘をつくとでも?」

張りつめた空気である事は間違いないのだが、2人の会話からはその緊張感は全くと言っていいほど伝わって来ない。これは別に緊張感を紛らわせようとしている訳ではなく、素だ。特に考えず、ギルドで会話するのと同じような感覚でしかない。

「あなた達…随分と余裕ね」
「ま、事実余裕だし仕方ないんじゃない?余裕なのにそれ隠せって…私はともかく、どっかの誰かみたいな頭すっからかんに出来る訳ないし」
「んだとテメエ!誰の頭がすっからかんだって!?」
「別にアンタとは言ってないわよ?怒るって事は思い当たる節があるんでしょうけど」
「ぐっ…」

ひょい、と軽い調子で肩を竦めたティアにナツが噛みつく。
白い帽子の奥から覗く青い瞳が笑うように少し細くなり、すぐに引き締めるように鋭くなった。

「けど、この余裕も大して長くは続かないでしょうね」
「は?」
「まだあの女は本気なんて出してない…ってか、アンタと組んだだけでここまで追い詰められるなら私1人でも結果は変わらないし、もっと前に力尽くで抑えてる。となると、まあまだ半分くらいってトコね」
「んな!?」
「何驚いてるの?最初から本気出すようなバカはアンタくらいよバーカ。アイツだって、最低1つは奥の手を残してるし」
「バカっつったなお前!しかも2回も!つか奥の手って何だよ!」

怒っているんだか驚いているんだか解らないナツの言葉に、ティアは“何を言ってるんだコイツは”と言いたげに目を向け、ジロリと睨むように見つめる。
その目に怯む者も多いが、伊達に7年の付き合いではない。この程度の目で怯んでいてはまともに会話する事だって出来ないのだ。会話1回の内に3回は向けられるであろう目には、当然慣れている。特に言い合いの多いナツに関しては、これ以上の睨みだってもう慣れっこだ。

「滅竜魔法の奥の手って言ったら1つしかないでしょうが。奥義よ、奥義」
「……あー」
「……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の反応とは思えないわね」

呆れたようにティアは溜息をつく。
“まあコイツだから仕方ないか…”なんて呟きはあえて無視して、ナツは拳を握りしめつつ訊ねた。

「で、アイツの奥義って何だよ」
「多分私が使ったのと同じ。だとしたら攻撃範囲も威力も大体は解るし、何とかなるとは思う。ま、術者が違うから全く同じ…とは言い切れないだろうけど」
「お前が使った奥義って何だっけ」
「1度アンタの頭の中見てみたいわ。グランドクロスよ、ニルヴァーナでアシストしてやったでしょ」
「……そういやそんな事もあったな!」
「帰ったら1発蹴り飛ばす」
「何で!?」

ボソッと呟かれた物騒な言葉に大きく反応しつつ、前を見据える。
と、1つ気になる事が生じ、戦闘態勢を取るティアに声を掛けた。

「なあ、その何ちゃらかんちゃらって奥義、どうにか出来んのか?」
「無理」
「はあ!?」
「なんて私が言う訳ないじゃない」
「だよな!」
「……その感じから察すると、アンタに手はないと」
「おう!」

ニッと笑って親指を立てるナツを今すぐ蹴り飛ばしたい衝動に駆られながらも、今はそんな事している場合じゃないと必死に自分に言い聞かせる。ギルドに帰ったら絶対蹴り飛ばしてやる、と思う事で苛立ちを抑えながら。
必死に精神統一したティアは目を向ける事なく続ける。

「ただし、私の方の手も確かじゃない。使った事は1度もないし、そもそも私が使えるのかさえ解らないんだから」
「……それってかなりヤバいんじゃ」
「仕方ないでしょ、使う機会なんてなかったし。それに……あれは、あの人のモノだから」
「?」

何かを思い詰めるような表情で呟いたティアに引っかかりを覚えつつ、それ以上はあえて聞かない。
なんとなく―――――本当になんとなくだが、彼女の言う“あの人”が誰かが解った気がしたから、聞くのは間違いだ。
いや、きっとナツが思い浮かべたあの人物で合っている。ティアがそれほどまでに大切そうに呟く相手は、今は1人しかいないのだから。

「とりあえず、今は集中。奥の手の事はその時に考えるから」
「解った!ぶん殴ればいいんだな!」
「誰もそんな事言ってないし…まあその通りだから否定はしないけど」

やれやれ、と首を横に振ったティアは―――――頬を掠めそうな一撃を、すぐさま感じ取った。
咄嗟に持ち前のスピードで右前方へと回避すると、冷たい無表情のシャロンと目が合う。

「いつまでお喋りしていれば気が済むのかしら」
「放置は寂しかったの?だったらそう言えばよかったんじゃない?」
「!このっ……!」

からかうようなティアの言葉に、シャロンの頬に朱が差した。向けられた右手から放たれる金色の光に表情を歪めつつ、攻撃範囲から外れようと力強く地を蹴り、駆ける。
その姿を追うようにシャロンの攻撃が続くが、そのスピードを閃光に例えられるティアの速度には追いつけない。ぐっと歯を噛みしめていると、前方から熱を感じた。

「オオオオオオオオッ!」
「チッ…星竜の鉄拳!」

炎を拳に纏いかけるナツの拳を受け止めようと、シャロンはティアへの攻撃の手を一旦休め、金色の光を纏う拳を打ちつける。
暫く力のぶつかり合いが続いたが、それだけで終わるナツではない。

「オラアッ!」
「ぐっ!」

空いている左拳にも炎を纏い、顔面を殴る。相手が女だとか初老だとか、そんな事はナツの前じゃ意味を成さない。敵なら殴る、それだけである。
力が緩んだ一瞬の隙を逃す訳もなく、続けざまに叩き込んだ拳にシャロンは表情を歪めた。

「紅蓮火竜拳!」
「ああああああああっ!」

炎を纏った拳が連続で決まる。
よろめいたシャロンの体が数歩後ずさり、ナツは僅かに表情を緩ませた。まだ決着がついた訳ではないが、これでかなりのダメージを与える事は出来ただろう。
ふぅ、と息を吐きそろそろ一撃叩き込んでくるであろうティアを目の動きだけで探して―――――気づく。

(……いねえ?)

先ほど攻撃範囲から外れ前方を走っていたはずのあの姿が、どこを見てもない。右、左、飛んでいるのかと上を見ても、やはりいない。
おかしい、と思う。近距離だろうと遠距離だろうとどこからでもバンバン相手を狙っていくのがティアだからナツの視界の外にいてもおかしくはないのだが、このタイミングを逃すようなアイツではない。むしろ絶好のタイミングだと言わんばかりに、見ているこっちが思わず相手に同情しそうな勢いで攻撃を仕掛けまくっていくはずだ。だから、僅かでも時間が空く事は有り得ない。

(何で――――――)

違和感が頭の中を巡り、ナツは咄嗟に周囲を見回した。全方位を見回して、それでもその姿は目に映らない。いくらその速度を閃光に例えられるティアでも、残像すら残さず走る事なんて出来やしない事はよく知っている。本気を出して走ったとしても、その姿は十分視認出来るほどでしかないはずだ。

逃げた?そんな訳ない。ティアが何より嫌うのは、“何もしない事”と“逃げる事”だ。逃げるくらいなら勝てる可能性がなくても戦う方を選ぶわ、と吐き捨てるように呟いていたのを思い出す。

隠れた?それも有り得ない。そんな小細工を使うほど、ティアは策士ではない。相手の背後に回ったり視界から消える事はあっても、面倒な小細工は一切使わない。必要ないとさえ思っていると言っていた。


だとすれば。
逃げてもいない、隠れてもいないとなれば―――――アイツは、どこに行った?

「!」

空気を僅かに揺らす音に耳が反応して、反射的に振り返る。性能のいい滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の耳だからこそ聞こえた、本当に小さい音。
その音が何かを、ナツは視界に映る光景で理解した。



先ほどナツの拳を喰らったはずのシャロンが、後方にいる。
かなりの距離がある場所で、嘲るように口角を上げたシャロンの両手に溢れる、金色の光。竜を滅する為の魔法の光が、合わさる。


叫ぼうとして、ナツは咄嗟に口を開いた。それでも、今から何を叫ぼうと遅いのは、頭のどこかで理解していて。
それでも足掻いてやろうと、手を伸ばそうと、驚いたように目を見開くアイツの名を――――叫んだ。








「ティア――――――――――――!」












意味が解らなかった。
ついさっきまでかなり距離がある場所にいて、アイツの拳を真正面から受けて、よろけて後ずさっていたあの姿が、すぐ近くにいる。
手を伸ばさなくても十分に届くような距離で、嘲笑っている。

「星竜は無から世界を生み出した!だからかしらね、無から有を生み出すのは得意なのよ!」
「……!」

――――――ニセモノ。

その四文字が脳裏を掠めるように走り、ティアは目を見開く。
突然の事への驚きからか、目の前にいるシャロンへの恐怖か、一気に計算式が崩れた事による焦りか。それを確かめる暇もなく、ティアの視線はシャロンの両手の光に引っ張られる。
竜を滅する魔法。竜人であるティアにとっての脅威であるその光から、目が離れない。ぞくりと寒気が走るのを感じながら、体が凍ってしまったかのように動けない。

「滅竜奥義!」

聞こえたのは、ティアが恐れていた“奥の手”とも呼べる一撃だった。ただでさえ高威力の一撃は、ティアの竜としての本能を一気に恐怖に突き落とす。
生粋の竜であれば“所詮は人間の一撃だ”と思うだけだっただろうが、人間の血を持つティアにとっては違う。
竜としての本能、人間としての脆さ。その2つが合わさって、戦慄へと変わる。





―――――――アイツが、名前を呼ぶ声が聞こえた。









「グランドクロス!」








轟!と。
シャロンの両手から放たれた金色の旋風が、ティアの姿を掻き消すように呑み込んだ。










「そんな……」

そう呟いたのは誰だったか。
クロスの口から語られたそれはその場にいた全員を驚愕させ、その先に続く言葉を奪う。マカロフでさえも目を見開く事態に、クロスは本宅の方に目を向けた。
嫌な思い出しかない本宅にいるであろう最愛の姉の姿を脳裏に描きつつ、ぎゅっと唇を噛みしめる。

(お願いだから…無事に戻って来てくれ、姉さん……)

祈るように目を閉じて、相手の目的を知りつつ、それが本当であるならば救われる姉を想う。
いつだって沢山の不幸や嫌悪を受け止めてきた姿は力強くもあり儚くて、クロスは拳を握りしめた。










「戦ってる…のかな」

彼等の戦場からそう遠くない場所で、彼女はポツリと呟いた。桜色のロングカーディガンを羽織る姿を、部屋の姿見が映している。
聞こえる激しく大きな音に耳を澄ませつつ、彼女はぐっと唇を噛みしめた。

(だとしたら、これはチャンスになる……!絶対に、逃す訳にはいかない)

思い浮かべるのは彼の事。
いつだって強い彼の事だから、きっと立ち直っているだろう。けれど、やはり会いたい気持ちに変わりはなくて。
もし彼の傍に別の誰かがいたとしても――――それを受け止める覚悟はあった。

(お願い、私を見つけて…!)

笑って、何を押し付けられても結局は終わらせる彼を、一目でもいいから見たい。欲を言ってもいいのなら、会って話がしたい。
零れそうな涙をカーディガンの袖で拭って、彼女は泣き出しそうな声で呟く。









「会いたい。会いたいよ……クロ君……!」
















【行くのか?本当に】
「あったり前でしょ?見て見ぬフリとか出来ないもん」

どこかで、青い煌めきが何かと話していた。
明るいトーンの声で話す何かは、ひょいっと下を見下ろす。そこに広がる光景に僅かに表情を歪め、くるりと煌めきに向き合った。

「ね、お願い。君の力ならどうにか出来るんでしょ?だったら、縋らせてよ」
【……仕方あるまいな。妾とて、あの巫女に用はない。主に力を貸すのが最善策か】
「難しい事はよく解んないよ。けど、君がしたいようにすればいいんじゃないかな?」

そう言って。
“何か”、否―――――“誰か”は、にっこりと笑った。

「誰が何と言おうと、あたしは約束したから」











「あたしがあの子のヒーローになる。諦めが悪いのは、あの2人だけじゃないんだよ?」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
お待たせしました!…え?待ってない?…解ってたよ、解ってたけどさっ。
次回で決着(ナツとの共闘が短い?ええ解ってますよ、でもこれが限界なんです…)!ROE編もあと…予定は3話ぐらい。もうちょっと長くなるかもしれませんが。
そしたらキャラ説書き直してー、アイツが主役の番外編を書いてー、エドラス編かな!しばらくぶりに原作に戻れる…!

感想・批評、お待ちしてます。
最後の2人が誰だか解りやすい?…い、言わないでくださいねっ!?
そしてサブタイトルのセンスの無さ…。 
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