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聖魔弾の銃剣龍神皇帝と戦姫

作者:黒鐡
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第2巻
  訪問者×テナルディエ公爵の次の手

プトレマイオス神国の者の朝は前にも言ったが、早いというのは記憶に新しいが関所にブリューヌから来た客人が関所前に来ていた。さすがのこの朝でも夜勤組の者だったので起きていたらしいが、客人から見ると眠そうな感じであったらしい。

「これはこれはマスハス卿ではありませんか」

「随分と眠そうにしているんだな、それと神国に他国の者がいるな?」

「はいそうです、この神国内にジスタートの者達がいますからね。IDカードの提示をお願いします」

いつも通り関所に通れるように関所での入国を果たした後に、マスハスは馬を預けてからティグルの屋敷に向かった。今の時間は神国の者でも起きていて、たぶんジスタートの者達でも起きてる時間であった。そんで屋敷に向かったマスハスはノックをすると出てきたのは、この屋敷のメイドをしているはずのティッタが出迎えをしてくれたのだった。

「マスハス様!」

「久しぶりだな、ティッタ。それより・・・・」

「もうすぐしたらジスタートの戦姫筆頭家臣がやって参りますので朝食はいかがですか?」

頂こうと二つ返事をしたマスハスは、1階のところでニールとライルがいたので挨拶をした後にティッタ達の朝食を一緒に食べたのだった。そして食べ終わった後にリムが来たので、本来ならティグルが説明をするが今はティグルが出かけているので説明を大公補佐官であるニールからの説明をした。

「ここにいるジスタート軍ライトメッツ公国戦姫様の筆頭家臣をしております、リムアリーシャ殿でございます。リム殿、こちらはマスハス=ローダント様通称マスハス卿と呼んでいます。ブリューヌ北部のオード地方を統治する貴族で階級は伯爵でございます。前回ブリューヌのテナルディエ軍からの攻撃を受けて我が主であるティグル様の要請により、ジスタートのライトメリッツ公国の主であるエレオノーラ=ヴィルターリア様が軍を動かしてここまで来て見事に連携を果たして敵を葬ったのでございます」

「なるほど、リムアリーシャ殿、敵意を見せて申し訳ない。この神国に他国の者がいる時点で珍しいのでな、私は随分前から世話になっているティグル様の要請によりブリューヌ内で起きた事をティグル様にお願いをしているのです」

「こちらこそ失礼しました、ディナント平原でヴォルン大公を客将となる条件でしたので」

リムとマスハスが敵意を無くした頃に、プトレマイオス神国からやっとの思いで帰りついたテナルディエ軍を待っていたのは、公爵による苛烈な懲罰だった。公爵家の嫡男であるザイアンの護衛についていた者に彼を補佐して兵の指揮を取っていた者は鞭打ちの刑に処せられた。彼らに鞭を打ったのは、戦死した兵の遺族。鞭は拷問用のもんだからか、先端に棘のついた革紐が十数本取り付けてある。それで背中を打たれるので皮膚は裂け、肉が抉られて血飛沫が飛び散った。悲鳴を上げると回数を増やされるので、打たれる側は必至に歯を食いしばり激痛を耐えたのだった。それ以外の兵達は、焼けた鉄の棒で背中を強打されるという拷問=罰を受けた。

テナルディエ公爵は銀製のグラスに注がれた葡萄酒を口にしながら、自分の下した罰が実行される光景を無言で眺めていた。公爵は無表情であったが、腹の底から湧き上がる怒りを抑えかねているのは誰の目のも明らかであった。ザイアンは年齢の割に、愚かで頼りない存在であったが公爵にとっては大事な息子だ。ザイアンは軍を率いての合戦で敗北し、ヴォルン大公との一騎打ちにも敗れ、最悪な事にザイアンの遺体はモルザイム平原の沼に沈んだと聞かされた。

「・・・・・おのれ、ヴォルンと忌々しい神国めが・・・・・・・!」

状況が許すのならば、自身で軍を率いてプトレマイオス神国へ乗り込みヴォルン大公を斬り捨てたいほどだった。神国には二度戦をしたが、二度も敗北をしてしまったからには次戦をするのであれば相手側の戦力を知ってから戦をすればよかったと後悔をしている。それと帰ってきた兵によるとヴォルン大公は赤い全身鎧を着ており、竜使いでもあると知った後に飛竜・火竜・地竜を殺したのもヴォルン大公と赤い竜だと聞いている。ヴォルン大公は、全身鎧を着ているだけなのに地竜を拳だけで止めてしまい投げ飛ばす程の力を持っているから、いくら大柄な体躯をして剣や槍を得意とするテナルディエ公爵でも不可能に近いだろう。

兵達の刑罰執行が終わると、屋敷の廊下を憤然と歩いて公爵は己の自室に戻る。既に葡萄酒の瓶を4本まで空にしているが、酔っているというのを感じないほどだった。鋭い眼光には殺意が込められていて、見る者を窒息しかねないほどの殺気を放っていた。今いる公爵の私室は派手な印象こそないが、物の価値を知る者が見れば、緊張のあまり部屋に入る事をためらうと思われる。高そうな絨毯や黒檀の机・黄金造りの燭台もどれも高級品で、まるで金銀宝石で埋め尽くされた部屋なのだが、公爵は乱暴に足を踏み入れ、椅子を引き勢いよく腰かけたのだ。机の上にあるアスヴァール産の火酒を掴み、蓋を開けるとグラスに注ぐ事もせずに、一気飲みした。

「・・・・・荒れておいれでですな」

不意に声が聞こえたと思えばテナルディエ公爵は睨みつけた。開け放たれた扉の前に、黒いローブに身を包んでいる小柄な老人でありザイアンに竜十体を贈り物にしてくれた張本人でもある。

「ドレカヴァクか」

空になった火酒の瓶を叩きつけるように机に置きながら公爵が吐き捨てると、老人はくぐもった笑いを漏らしてから一礼した。数年前からテナルディエ家に占い師として仕えている。ブリューヌ全土を見渡しても、テナルディエ家に対して不遜とも言える態度を取る事が許されているのはこのドレカヴァクただ一人である。屋敷に務める従者が同じ態度を取れば、家族共々その日の内に処罰されるからだ。

「お前の事だ。話は聞いておろう」

「ザイアン様が亡くなられた件でございますな。心よりお悔みを・・・・・・」

「思ってもいない事を言う必要は無い。貴様にそのようなものなど求めておらぬ」

ドレカヴァクの言葉を遮って、テナルディエは老人の顔を隠すフードを見据えた。

「これは恐縮。しかし、閣下にしては手緩い処罰でしたな」

「今は兵が惜しい時だ。殺す訳にはいかぬ」

実際、九千近い兵と十体の竜をこのような形で失ったのは、テナルディエにとって予想外の打撃であった。まさかジスタートの援軍が来るまでたった三百の兵で半分の五千と竜6体を失った後に、ジスタートとプトレマイオスの混合軍で一気に攻め込まれたのだ。これは創造神が神の鉄槌並みだったので、改めて神国という国が攻め込めば恐ろしい国なのだと再確認されたくらいの肝を抜かれた。兵の報告では弩以上のある飛び道具で鎧ごと脳天に撃ちこまれたり、神の一撃並みの力で飛竜をザイアンごと葬った後に火竜も竜の息吹と思われる攻撃で即死したと。

「兵と兵のぶつかり合いもそうだが、神国の大公如きが竜を倒せる訳がないと思えぬ。ジスタートの戦姫の仕業か?」

「まず間違いないでしょうな、しかし神国大公が竜を殺させたと見た兵士は多いでございます。何かしらの力で竜を倒したのかと、それにジスタート七戦姫が持つ竜具はプトレマイオス神国の創造神様が創られたと言われている武具でございます」

「・・・・名前だけは聞いたことがあるが、プトレマイオス神国が一枚噛んでるのなら、神国の者が倒せても可笑しくないと思われる。それほど強力なのか、その竜具とやらは?」

「人智では到底計れぬ代物で、相手が竜であろうと容易く斬り裂き、貫き、打ち砕く力を秘めております。ヴォルン大公が持つ剣も恐らく竜具並みの物かと思われますので、今後また攻め込むのであれば厳重にしなければなりませぬぞ」

現実に竜を倒したヴォルン大公と戦姫の事は兵の目に焼き付いている。それにドレカヴァク以外の者が報告しても笑い飛ばすだけで、聞きもせぬだろうが。そんで戦姫達が持っている武具の何で出来ていると公爵は質問すると、この地にはない物質だと聞かされたのだった。そして神国の武器や大公が持つ剣もこの地にない物質で出来た物だと推測していたドレカヴァクだった。

「なるほど。だから鋼で傷つかぬ鱗を持つ竜をも、容易に斬る事ができるか」

「さようでございます」

「ならなまた竜を調達しないといけないが、どのくらいの期間で竜を用意できる?」

「最低でも一月でございますが、前回十体でしたのでそれより多く集めるとしたら二月ほどと金銭が必要でございます」

慇懃に、腰をかがめてドレカヴァクは頭を下げる。もっと早く用意出来ないかとテナルディエは言いかけたが、この老人が一月か二月といったら相当な時間がかかるのだ。その事については、これまでの付き合いでよく分かっているが前回と同じく十体で構わんと言った。机に置いてある銀色の鈴を取り上げ、テナルディエは鳴らした。従者に言い付けて用意させたのは人の頭ぐらいある袋で中には金銭が入っていた。

「ところでヴォルン大公と戦姫はどうなされるので?」

「それは私が対処する。貴様は竜の用意を急げ」

分厚い手を振って公爵は退出を命じると、音もなくドレカヴァクは姿を消し、扉が閉まると公爵はこめかみを指で叩いていた。今頃になって酔いが回ってきたようだ。

「・・・・・仕方があるまい」

テナルディエは苦しみを籠めて呟く、己の手でヴォルン大公を討ちたいが、生憎身体は一つしかないし、兵も無限に用意できる訳がない。今回の一万の兵はほとんどがディナント平原から戻ってきた兵達なので、一万という兵を用意出来たが今回はあまり兵を用意できない。

「虫を潰すのに斧を用いるようではあるが、『七鎖(セラシュ)』を使うとするか。他には・・・・・・」

鈴を鳴らし、従者を複数呼びつけるといくつかの事を素早く指示する。それが済むと水を持ってこさせて、一気に飲み干した。

「騎士には騎士、竜には竜・・・・戦姫には戦姫、か。ドナルベインがもう少し使えるならば、奴を連絡役にしてもよかったのだが」

銀製の杯に映る己の顔を見ながら、テナルディエはゆっくりと呟く。

「そういえば、ガヌロンもジスタートの戦姫と付き合いがあったはずだな。あの男はどう出るやら・・・・・」

と誰にも聞こえない呟きを聞いていたのは、トレミーからブリューヌ国内にばら撒いた無人小型偵察機が全てを聞いていたという事を誰も知らなかった。これを聞いていた無人小型偵察機は聞いた会話全てを送信してから、透明とステルスモードとなり、各従者や公爵を見張る仕事に戻ったのだった。しかもこれについてはドレカヴァクにも気付かれなかった事については、さすがのティグルでも驚いたのだった。 
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