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不器用に笑わないで

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第三章


第三章

「ただ。何がいいかなって思って」
「クラスでやるお店が」
「俺何か皆でできることがいいかなって思うんだけれどさ」
 彼はここで自分の考えを述べた。
「皆でね」
「皆で、ですか」
「そう、皆でね」
 また言う大輔だった。
「それがいいと思うけれど」
「ありますか」
 妙はぽつりと呟いてきた。
「それは」
「あるよ。例えば、さっきも言ったけれど」
「はい」
「喫茶店とかさ、他には」
「他の」
「そうさ、まあ喫茶店は何処もやるかな」
 ここで彼は少し考え直した。それでまた言う。
「じゃあ何がいいかな」
「何が」
「お化け屋敷とかどうかな」
 ふとそれを思いついたのである。
「それとか」
「お化け屋敷」
 妙はお化け屋敷と聞いて静かに呟いた。
「それですか」
「どうかな」
 また言う彼だった。
「それだと。どうかな」
「わかりました」
 ぽつりと呟いた返事だった。
「それじゃあ」
「奈良橋はそれでいいのかな」
「はい」
 静かに答える彼女だった。
「私はそれで」
「ええと、何かそれでいいなら決まりかな」
 大輔は彼女の言葉をとりあえずは受けた。
「クラスの皆にそれ提案しようか、明日に」
「私はそれで」
 静かに頷く妙だった。彼女は何も言わなかった。その感情は見えなかった。
 大輔は妙と共に次の日のホームルームで皆に話した。そうしてお化け屋敷を提案するのであった。
「それでいいかな、うちのクラスの出し物は」
「いいんじゃね?それで」
「そうよね」
「別にそれで」
 皆はこれといって反対しなかった。特にである。
「そうだよな、何か面白そうだし」
「私はそれで」
「俺も」
 皆は何となく賛成した。そうして多数決を取ってみた。するとすぐに決まった。
 大輔は多数決を見て頷いた。そのうえで皆にあらためて話した。
「じゃあ皆それでいいよね」
「ああ、準備とかは手伝うから」
「皆でね」
「頼んだよ。事務とかの仕事は俺でやってくからさ」
 大輔はまた皆に話した。教壇のところで妙と二人並んでいる。しかし妙は俯いて立つだけで何も言いはしない。黒板で多数決を書いたのも大輔である。クラスの女の子達の何人かはそんな彼女を見て咎める顔になって尋ねるのであった。
「ちょっと奈良橋さん」
「あんた何やってるのよ」
「全然動かないじゃない」
 ただ俯いて座る彼女を見ての言葉である。
「動いてるの前川君だけじゃない」
「しかも事務だってそうでしょ?」
「あんたも何かしなさいよ」
「私は」  
 妙は彼女達の言葉を聞いて怯えた様子になって言葉を返そうとする。しかしだった。
 
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