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魔法薬を好きなように

作者:黒昼白夜
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第23話 夏休みは前半だが

俺の予定では、夏休みをティファンヌと毎日のようにあえるようにしていたのだが、今はというと家での夕食後に、とある目的でチクトンネ街を歩いていた。
当面の1カ月はティファンヌとあえないことが確定している。ティファンヌの両親の実家めぐりと、その間の旅行を計画しているとのことで、夏休みの出ばなをくじかれたものだ。
それでも、手紙はいまのところ、出せる日は出してくれているようで、母親の実家にいる今は、出せないようで、家に手紙は届いていない。親父に手紙のことでからかわれるが、名前だけは覚えたようだ。兄貴は、夏休みに入った初日に会っただけで、「以前だした手紙のことはもういいよ」というと「忘れてた」だった。兄貴らしいといえば、兄貴らしい。

ティファンヌに会えない俺としては、トリスタニアですごしているが、魔法学院での交友関係で、トリスタニアにいるのは女生徒が一人だけど、さすがに2人きりで会うのはティファンヌが気にするだろうと、会わないでいる。

モンモランシーにたいしては、2週間に1回の香水の納品の護衛として魔法学院に泊りがけでいっている。今回は、雨が降った場合には、翌週の虚無の曜日ではなく、雨が降りやんだ日ということにしている。
一昨日、一緒に香水の納品に行ったが、ギーシュも一緒なのだから、俺はいらないだろうと思いながらも、暇つぶしのつもりでいた。
ギーシュはモンモランシーと、魔法薬でもポーション系のものを一緒につくるとはりきっているようだが、金もないし、水の秘薬も無いから、ルイズの時みたいなほれ薬レベルの禁制品はつくらないだろう。



そんな風に歩いていると、決闘っぽい雰囲気がただよっているので見てみると、タバサと王軍の士官らしき3人が対峙していた。その3人の中の1人が、

「お嬢さん、先に杖を抜きなさい」

見た目でタバサの実力というか、メイジの実力は測れないってことさえ知らないレベルの者が、タバサの相手か。
タバサは『エア・ハンマー』一発で、3人を吹き飛ばしていた。しかし、俺と眼があってしまった。そらされない視線から仕方がないので、俺から近づいて

「やあ、雪風。お見事だったね。ところで1人かい?」

「いえ。あそこ」

雪風はタバサの2つ名だが、タバサと言うと明らかな偽名とわかるから、この場に似合わないだろうと思ってだしたものだ。たいして、タバサが「あそこ」と指さしたのは『魅惑の妖精』亭。今日の目的地ではないが、タバサに声をかけた以上は、儀礼上聞いてみる。

「ご同伴させていただいてもよろしいですか」

「いえ」

すげなく断られたが、さっき視線をそらさなかったのは、ここに入らせたくない、なんらかの事情があるのだろう。



タバサとしては、友人であるキュルケがルイズにたいして「給仕をやっていることを知らせない」ということを意識していただけであって、そこまでたいしたことのつもりではなかった。



俺は、その日は目的の店に行って、翌日は早い時間から、『魅惑の妖精』亭に入った。入るとオカマといってもさしつかえないだろう店長のスカロンから

「いらっしゃいませ~~~! あら! 久方ぶりじゃありませんの。どこか戦地にでもいってらっしゃたのですかしら」

「いつも戦場だよ。それよりも新人は入っているかな?」

「ピンクブロンドの可愛い娘が入っていますわよ」

「じゃあ、その娘を」

これは、この店であるチップレース以外の時に入るときのやりとりのようなものだ。使い魔になる前は、3週に1回ぐらいはきていた。早い時間なら空いている奥の2人用テーブルでメニューがくるのをまっていると、来たのはルイズだった。

「あんた。キュルケに聞いてきたの? それともモンモランシーかしら」

「えーと、もともと、俺はここの常連だけど、その2人が何か関係するのか?」

そうすると、ルイズがアタフタしはじめて、

「注文はいかがなさいますか?」

ここにきてルイズがいること自体に興味はわくが、チップを払ってまで、わざわざ話すのもばからしいので、

「チェンジって、他の女の子に伝えて」

「はい。チェンジですね」

あいさつなどはなかなか、様にはなっているが、ルイズが行く方向をみるとサイトが厨房でこちらをみて、手をふっていやがった。この2人で何をしているのやら。キュルケとモンモランシーってことは、タバサが昨日きてたから、その時か。あと一緒にいそうなのはギーシュあたりだろうから、本当だとしたら、一緒にラグドリアン湖で戦った中だろうにと思いつつも、ルイズのことを知らせまいとしたのだろうか? 考えすぎかもしれないが、タバサ本人に聞いても答えてはくれまいと、忘れることにした。

この席にきた娘は、5月からということだが、もう新人らしさが抜けかかっている。まあ、それでもいいかと思って、こまめに食事や飲み物を頼んだり、つがせたりしながら、話をそてチップを少しずつ渡していく。疑似恋愛ゲームみたいなものだから、ルイズを相手にはしたくないわな。

そして帰り際、ふと思いつきルイズを呼んでもらった。

「なによ。ジャック」

「いや、いつまで、ここにいるつもりなのか知りたくてさ」

「そんなこと、なんで教えなきゃいけないのよ」

「できることなら、ルイズがいなくなってから、こようと思ってね」

「夏休み中よ」

「わかった」

一番最悪の答えだった。
ティファンヌが帰ってきたからといって、毎日あえるとは限らないから、この店を抑えておきたかったのだが、別な手段でも考えておこう。ちょっと、気分は落ち込み気味だったが、家に帰ることにした。



ティファンヌが帰ってくるまでの夏休みは、魔法学院から持って帰ってきた一部の用具で、魔法薬の実験をしてたり、街のなかをぶらぶらしたり、魔法衛士隊の騎士見習い時代の仲間に会って、飲んでみたりとかなり適当にすごしていた。さらにいちどモンモランシーの化粧品店までの往復の護衛と一緒についてくるギーシュはいたりもするというか、俺が二人の前を先導していたというのはあったが、暇つぶしにはなる。
あとは、親父にたのんでいたタルブ戦の詳細の報告書をよんでみたり、タバサのことは言えないと判断したんで、ガリア自体と可能なら王家まわりのことを調べてある報告書を入手してもらったのを読んでいたりもしていた。アルビオンの関係は変化がはやすぎるので、俺は考えるのは保留にしている。考えても俺自体の立場が、使い魔ということで、どうなるのやらわからないから、出頭命令がきてから考えるぐらいしかないだろうとの、親父の忠告に耳をかしたからだ。

それにしても、とうとう、ティファンヌと会える日がきた。
旅行からかえってきた翌日の昼食前に、噴水の前での待ち合わせだ。やってきたティファンヌは夏着と、少々薄手の恰好になっている。

「やあ、ティファンヌ。しばらくみないうちに、ますます魅力が増してきたね」

「いやだー。それじゃあ、前の私は、魅力が乏しかったみたいじゃないのよ」

「そういうつもりじゃなかったんだけど」

「冗談よ。じょ・う・だ・ん」

とりあえずは、昼食に情報屋で仕入れた、アルゲニア魔法学院の学生がデートとして使用している店からピックアップした店にいってみた。情報屋でその手の情報を仕入れるのは、なさけないと思ったが、すぐに紙ででてくるのは、それだけ需要が多いのだろう。

そういうことで、デートの店としては、はずれはなかったが、アルゲニア魔法学院の学生らしき2人組がやたらと多い。制服姿じゃないから、年齢とマントの有無で判断しているだけだが。

食事は彼女の旅行の話だが、話していることは、手紙に書いてあったことをふくらませた内容が多かった。聞いてイメージがつかめなかったところだけ、確認してみながら食事は進んでいく。食後のデザートのところで、

「ところで、夏休みのこれからだけど……」

「なにかしら?」

「昼食は、時々、俺の家でとるのはどうだい。俺の親父にあえるとしたら、2週後の虚無の曜日になると思うけど」

「あら、私も似たようなことを考えていたのよ。なんなら、今日は家に来て、お茶でもいかがかしら」

「そうだね。旅行の話も聞きたいから、少し歩いてから、ティファンヌの家へ向かわせてもらいたいのだけど」

「そうしてもらえるとうれしいわ」

食後に外を一緒に歩いていたが、話す量が減ってきたので、旅行疲れがとれていないのだろうと、水の流れとのかねあいから判断して、

「少し早いけど、ティファンヌの家に行ってみたいなぁ」

「そんなに、来たかったの?」

「そうだよ」

「じゃあ。いらっしゃい」

ティファンヌの住んでいるアパルトメンに入っていったところ、思ったよりも広いつくりで、ティファンヌの母親にあいさつすることになってしまった。

戦闘より面倒な、ティファンヌの彼氏として認めてもらうための第一関門だ。
 
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