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魔法少女リリカルなのは~"死の外科医"ユーノ・スクライア~

作者:DragonWill
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本編
  第八話

特務6課での会談から数日後。

ルチアーゼ連邦国の某所。

『レディース・ア――――ンド・ジェントルメン!!お待たせしました!!只今より、第50回大オークション会を開催します!!』

司会の男の掛け声とともに、オークションが開催された。

オークションの会場となっているホテルは、表向きには、政財界の大物などが御用達としている一流ホテルである。しかし、このホテルはオークションを主催している組織の傘下であり、度々非合法な取引や接待に利用されているのである。

会場は数百人もの人数を収容できる大ホール。

所々に円形のテーブルが置かれ、会場の端には、ビュッフェ形式に並んだ料理が山のように並べられている。

肉や魚に至っては、一流のシェフがその場で解体、調理しており、オークションと言うよりも立ち食いパーティーのようである。

冒頭の司会の言葉道理、今回のオークションは50回目を記念し、例年よりも盛大に行われていた。

周りを見渡せば、バルハーツだけでなく多数の次元世界に名を知られる、表は政財界の重鎮から裏はマフィアの頭領まで、さまざまな大物が集まっていた。

そのオークションの客の中に、ひときわ、周囲の視線を集める団体があった。

「いよいよ始まりましたね、フェイト隊長」
「うん。まずはこのまま様子を見て不正な競売の証拠を記録。並行してスカリエッティを目視で確認した後、頃合を見計らって突入部隊へ合図。私とシグナムでスカリエッティを探すから、ティアナは証拠の記録と突入部隊との連絡に専念して」
「了解です」

パーティー用のドレスを着て会場に潜入していたティアナ、フェイト、シグナムである。

ファムの協力により、オークションの招待客に偽装した三人は、スカリエッティ捜索と不正取引の証拠を押さえるための先行部隊として、この会場に潜入していたのである。

ちなみに、フェイトはホテル・アダグスタのときのオークションで着ていたドレスをそのまま着用している。

シグナムは胸元が大胆に開いた真っ赤なドレスに普段のポニーテールをおろしてストレートにしたその姿は普段の凛々しい騎士甲冑姿から一転、貴婦人めいた品格を感じさせる。

対して、ティアナもオレンジ色の落ち着いたデザインのドレスを身にまとい、ツインテールを解いた姿は、深窓の令嬢を思い浮かばせた。

美女と言っても差支えない三人が一つのテーブルに集まったことにより、周りの客の注目を集めているのである。(潜入任務としては人選ミスかもしれない・・・)

「ティアナ。記録には細心の注意を払え。周りに悟られぬよう慎重に、かつ、一片も証拠を見逃さないように確実に記録するんだ」
「はい」
「テスタロッサもだ。いくら非合法なオークションとて、奴もあの目立つ白衣姿でのこのこやっては来ないだろう。変装や認識阻害の魔法くらい使っているはずだ」
「勿論だよ、シグナム」
「しかし、フェイト隊長・・・」
「どうしたの?」
「スカリエッティは本当に来ているのでしょうか?」
「来ているよ、間違いなく。アイツは今日このオークションにいくつかの品を出品していたと言う目撃証言があったからね」
「私たちに勘付いて先に逃亡した可能性は?」
「恐らくないだろう。連邦国に入国する段階でもファム王女の協力の下、あれだけの手間暇をかけたんだ。奴らに知られる可能性はまずないだろう」

今回の任務は特務6課の創設意義を遂行するために、6課の総力をつぎ込んでいる。

特に、前回、ナンバーズの姿を確認しながら、取り逃がしてしまったライトニング部隊の今回の任務にかける意気込みは凄まじいの一言に尽きる。

だが、スターズ、ライトニング、ロングアーチの全部隊、実に30人近い人数の管理局員を一度にルチアーゼ連邦国に正規の手続きで入国させてしまうと、すぐにこちらの目論見がバレてしまう。
そうなれば、当然、スカリエッティは警戒して姿を見せないだろう。

だから、警戒されないように、シャイロン王国に協力して貰い、2、3人の少数グループに分けて、半ば密入国に近い形で潜入したのである。

しかも、半分のグループは他の国を迂回して、直接シャイロン王国からルチアーゼ連邦国に渡らなかったり、到着の時期や場所をずらしたりするなどの手の込みようである。

(ヴィータ副隊長。こちらティアナ・ランスター。突入準備の方はどうですか?)
(こちらヴィータ。ちょうど今、最後発のメンバーたちと合流したところだ。合図があれば、いつでも突入できるぞ)
「(了解しました)・・・フェイトさん。今、ヴィータ副隊長が最後発のメンバーと合流したそうです。あとは、合図があれば、いつでも・・・」
「分かった。まだスカリエッティを確認できていないから、引き続き捜索するね」
「はい」

『今回のこの大オークション会は50回目を記念して、例年以上の目玉商品が揃っています。では、早速行ってみましょう。まずはカタログナンバー1番―――――――――――――』

今、6課始まって以来の作戦が幕を開けた。





ところ変わって、ここは会場の入り口付近。

ティアナとの通信を終えたヴィータはフォワードメンバーたちと最後の打合せをしていた。

「いいか・・・作戦はティアナからの合図を持って行う。合図と同時にスカリエッティの野郎の画像や位置情報が送られてくるはずだ。突入と同時に、あたしがシグナムたちに加勢するから、お前たちはスカリエッティたちを気にしつつ、中の客を一人も外に出さないようにしてくれ。いくら内政不干渉と言っても、出品される品の中にはバルハーツ以外の世界で盗難届が出ている品だってあるんだ。管理局員(あたしたち)の目の前で、広域次元犯罪となれば、十分逮捕権が発生するからな」
「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」

気合十分に返事をするフォワード陣。

ちなみに、なのははディエチやヴァイスとともに、隣のビルから狙撃の準備をしている。

(なのは。そっちは大丈夫か?)
(うん。三人ともいつでも撃てるよ。)
(そうか。外から見て怪しげな人影は?)
(うーん・・・特にないかな?他の二人も何か気付いた様子はないし)
(分かった。何かあったら、すぐ知らせてくれ)
(了解)
「・・・・・」
「どうしたんだ?チンク?」

なのはと通信を終えたヴィータは、突入に備えているフォワード陣から離れ、重い表情を浮かべているチンクの存在に気付いた。

「ヴィータ副隊長・・・作戦前にこんなこと考えるのは不謹慎だというのは分かっているつもりだが・・・でも・・・」
「奴らに対して後ろめたい気持ちがある・・・か?」
「・・・ああ。私は姉を、ドクターを裏切ったのだからな」
「だけど、間違っているのはアイツらの方だ!!お前たちはその間違いに気付き、正しい道を進もうとしているだけじゃないか!!気にするようなことじゃねえよ!!」
「・・・・・実を言うと、本当ならば、私も最初は厚生プログラムを受けるつもりはなかったんだ」
「っ!?どういうことだ!?」

初めて聞かされた衝撃の事実に、思わず聞き返したヴィータ。

「私が厚生プログラムを受けたのは、妹達やお嬢様が心配になってな・・・クアットロ以前の姉たちとドクターは死んでも管理局には協力しないことは分かってたし、逆に、セッテ以外の私より下の妹たちはドクターのやり方に疑問を持っていたことも知っていた。だから、私が妹たちをしっかり面倒見なければと思ってプログラムを受けたんだ」
「分かってた?」

チンクの妙な言い回しに、ヴィータは聞き返す。

「私は、ちょうど中間期に製造されたんだ」
「中間期?」
「私より上の姉たちは、ドクターの研究の最初期、まだ評議会から一方的に命令され、悔し涙を飲んで、寝る間も惜しんで研究させられていた頃に完成したそうだ。その頃のドクターはまだ普通の人間みたいだったそうだ」
「想像できねーな」

ヴィータは意外そうな顔をしていた。

あの厚顔不遜で、喋るたびに、こちらの神経を逆なでしてくるような人間にそんな時期があったなど考えずらいもの当然だろう。

「そして、私より後の妹たちになると、ドクターの研究も着々と進んでいて、すでに違法研究者としては随分と力をつけた存在になっていた。特に、私が『単独で陸戦Sランク魔導師である、ゼスト・グランナガンツを倒した』という結果がドクターに自信をつけさせたんだと思う」
「お前が切っ掛けで、スカリエッティの野郎は力をつけ始めたってことか?」
「そうだ。だからこそ、私には妹の気持ちも、姉の気持ちも理解できる。姉たちにとって、管理局は多くの屈辱を与えてきた、絶対に許しがたい存在だ。でも、あの自信に満ち溢れ、他人を平気で実験材料にするドクターしか見たことがない妹たちには、姉たちの憎しみは理解できなんだ。だが、私は、姉たちやドクターのあの表情を知っていながら、管理局の捜査に協力した。知らずに離反した妹たちはまだいい!!だが、私は知っていながら彼女たちを見捨てた!!だから、彼女たちに合わせる顔がないんだ!!」
「・・・・・・・・」

ヴィータはただ黙ってチンクの告白を聞いていた。

「すまなかったな、黙っていて。ドクターの名誉のためにも言いたくなかったんだ。知っているのは、貴方を除けばフェイトお嬢様だけだ」
「フェイトも知ってたのか?」
「ああ。JS事件の後、妙にドクターの過去について追及されてな、つい話してしまった」
「そうか」

しばらく、沈黙が続いたが、おもむろにヴィータがしゃべり始めた。

「・・・あのな、チンク。それでも、私たちは管理局員だ。法を犯した奴らを逮捕する義務がある」
「・・・ああ。分かっている」
「奴らに罪を犯させたのが管理局なら、『これ以上奴らに罪を犯させない』ことこそが、今、あたしたちにできる、精一杯の罪滅ぼしなんじゃねえのか?」
「これ以上・・・ドクターに・・・罪を?」
「詭弁だって言うのは分かっているつもりだ。でも、引くわけにはいかねえ。それに、お前もこのまま喧嘩別れなんて嫌だろ?」
「勿論だ!!」
「なら、この作戦、絶対に成功させっぞ!!」
「ハイッ!!」

少女は決意を胸に、戦いの狼煙が上がるのを待つ。





そこは、華やかなパーティー会場から一転して、まるで通夜のような重い空気に支配されていた。

ここは、今回のオークションに出品される奴隷用(、、、)の控室。

『続きまして、カタログナンバー21番―――――――――――――――――』

「ほら!!出番だ!!さっさとしろ!!」
「嫌だ!!頼む、売らないでくれ!!」

屈強な大男だが、赤子のように泣き叫び、『売らないでぅれ』と懇願する。

しかし、魔力を封印する鎖と枷に繋がれ、遠隔操作で爆発する首輪をつけられた奴隷は、抵抗空しく会場に連れていかれてしまった。

その控室で奴隷たちに許されたことは、絶望することだけ。

周りを見渡してみても、ただ泣きながら『嫌だ』とつぶやき続けるもの、暴れだし鎮静剤を打たれるもの、ハイライトの消えた瞳で虚空を見つめるもの、誰もがこれから訪れる己が運命に絶望していた。

だがしかし、控室の壁際にそのような雰囲気を微塵も見せない奴隷が二人存在した。

一人は、蜂蜜色の長髪に翡翠色の瞳をした青年。

もう一人は、2mを超す大柄に黒い髪を生やした大男であった。

「たっ頼む!!保安隊を・・・いや管理局を呼んでくれ~!!」
「ごちゃごちゃ言わねえでとっとと行きやがれ!!」

男は最後まで抵抗していたが、遂には、控室の外にまで連れていかれてしまった。

これから、彼はオークションにかけられ、どこかの金持ちに買われるのだろう。

炭鉱の所有者に買われ延々と地獄のような肉体労働に勤しむか、違法研究者に買われ妙な人体実験の材料にされるか、それは分からないが。

まあ、買われるだけマシだろ。

買われなければ文字道理、その場で処分されるの(、、、、、、、、、、)だから。

「この(アマ)!!」
「きゃあ!!」

オークションの職員に女が張り倒されてしまった。

恐らく、女の態度がむかついたからだろう。

「ちっ!!奴隷の分際で!!身の程を知れってんだ!!」

男が女を踏みつけようとする

しかし・・・・・・・。

「待ちなさい!!」

もう一人の職員が止めに入った。

「何だよ一体!?」

男が怒鳴りつけるが、このような場所で働いているような人間が、安っぽい正義感で男の暴行を止めるはずもない。

「馬鹿ですか君は!!これからオークションに出される大事な商品だというのに、顔なんか蹴ってごらんなさい!!値が下がってしまえば私たちが処分されるのですよ!!」

そう、男は女の心配などかけらもしていない、ただ、そのとばっちりが自分に来るのを恐れただけである。

「せめてお腹にしなさい!!そこなら服で上手く誤魔化せます!!」
「へっ!!それもそうだな!!」

仕切り直しとばかりに足を振り上げるが、その足が振り下ろされることはなかった。

なぜなら・・・・・・・。

「ひっ!?あがっ・・・・・・」

男は突然、その表情を恐怖に歪め、そして気絶して倒れこんでしまったからである。

「おい!!どうしたんだよ!!」

男は何が起こったか分からず動揺していたが、すぐに相方を担いで医務室に連れて行った。

控室に再び静寂が戻る。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

壁際にいた二人の男の内、黒髪の方が蜂蜜色の髪の方に呼びかけた。

「今の殺気・・・・・あんたのだろ?」
「・・・・・・・・何のことですか?」
「とぼけんなよ・・・俺の眼は誤魔化せないぜ。・・・・それにしても、ただの殺気だけであそこまでやるとは・・・・坊主、何者だ?」

男の問いに対し、青年はただ一言だけ返した。





「・・・・・・・トラファルガー・ロー・・・・・・・ただの悪党さ」
 
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