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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第十四話

 ハクガは、少々数奇な運命をたどった少年だった。

 双子の妹と、全く同じ日に生まれた。彼女とハクガは、あらゆる属性が共通すると同時に、また、あらゆる属性が相反していた。

 《矛盾之御子》。

 鈴ヶ原の家を訪れた、とある精霊系自在師(いのうしゃ)がそう言ったらしい。

 《両義太極》。その考えを、ある一点では達成した存在。外側の《ガワ》は無いのに、内側だけが顕現した、《太極無き両義》。それでいて完成している、危うい存在。

 つまりは、酸性と塩基性のようなものでありながら、どちらも中性なのである。全く共通した存在のはずなのに、真逆の存在。

 矛盾。

 人間の本質は《魂》と《魄》である。ハクガとハクナは、《魂》だけで完成してしまった、ある意味の究極体。

 この二人は、同質の魂を持って居ながら、真逆の性質の体をもつ。《ジ・アリス》の統治システム、《DVWS》が汲み取るのは、《魂魄》両者。流動する癒し手の《魂》をもつから、《水》属性。相反する《魄》をもつから、《闇》と《光》の矛盾属性。

 ハクガが順当な人生を歩んでいれば、二人は最初から、共通でありながら真逆の属性を持った、全く別の六門神として六門世界の地を踏んだのだろう。

 だが、ハクガのたどった人生は、それを良しとしなかった。

 
 五年前。鈴ヶ原ハクガは、一度死んだ。理由はもやがかかったように思いだせない。だが間違いなく、ハクガは一度死んだ。

 同時に、生き返った。生き返ったのだが――――その時、ハクガの《魂》は自らの体ではなく、妹であるハクナの中に宿ってしまったのだ。

 幸い《魄》の方は生命活動を停止してはいなかったが…そのためハクガの肉体は五年間の間普通に成長を続けた。それこそ不気味な位に、平常に…どうあがいてもハクガは元の肉体に戻れなかった。

 その時を境に、定期的に鈴ヶ原を訪れていた精霊系自在師が姿を消す。しばらくの後、遠いイギリスの地から、遠縁の親戚にあたった少女が自分たちを呼び出した。

 そして――――すべてが完成して。

 六門世界に最初に降り立った時、ハクナはそのVRの肉体をうまく動かせなかった。今でこそSAOサバイバーにも劣らないほどの『VR慣れ』に成功したが、当時は一歩進むのにも苦労するほどだったのだ。

 ハクガは彼女の代わりに、《表》に出た。同時に、六門世界のアバターは、ハクナの容姿ではなくハクガのそれに姿を変えた。

 こうしてハクガは六門世界に降り立った。ハクナの《魄》を借り受けて。属性は、光と水の二重属性。ハクナのモノだった。ハクガのモノではなかった。

 いつの間にか、ハクナが《ジ・アリス》にログインすると、自動的にハクガの精神が表に出るようになった。

 ――――あの時までは。

 《白亜宮》に最初に乗り込んだとき。《ディスティニー・イクス・アギオンス・フォーアルファ》を名乗る少女の手によって、ハクガは何度も切り裂かれ、敗北した。その時に味わった謎の乖離間。

 今ならわかる。あれは、ハクガの《魂》が、ハクナの《魄》から切り離されることの暗示だったのだ。事実、ログアウトしたその時、ハクガは五年ぶりになる自らの肉体で目を覚ました。最初は体がうまく動かせずに混乱したが、今ではきちんと改善している。


 小波が以前、《白亜宮》の思惑通りにことが進んでいるかもしれない、と、悔しそうにつぶやいたことがあった。《主》は何もかもを、自分の思い通りに動かす力がある、と。

 推測するに、かつて日本の鈴ヶ原にたびたび訪れた、あの精霊系自在師は、《白亜宮》の関係者だったのではないだろうか。あの人物が何者だったのか、いまだに全く分からない。だが、可能性は否定してはいけない。

 そもそも自らの願いを現象世界に流出させる《自在式》などという技術が、この世界に平然と存在していられるわけがない。魔術と似て非なるあの技は、もしかしなくても《白亜宮》と何らかの関係がある、と睨んでいいだろう。

「もしかしたら、ここで再会することになるのかも知れませんね」

 ハクガは微かな予感とともに呟いた。

「……? どうしましたか? ハクガ」
「いえ、何でもありません」

 隣を歩くハクアの怪訝にしかめられた顔を苦笑で流し、ハクガは再び警戒を強める。

 ここは《白亜宮》の内部。侵入した直後に、セモンたちとははぐれてしまった。幸いなことに、妹のハクナ、師匠のハクアとははぐれずにすんだので、ハクガは彼女らと共に《白亜宮》の探索を進めている。

 それにしても、本当に『白』しかない場所だ。視界に映る全てのものが純白に染まっている。それはプラスチックの様でもあり、同時に大理石の質感があるようにも思え、あるいはもっと別の何かのような気もした。少なくとも、現実世界では似たような素材を見たことはないように思う。つまりは、この場所独自の素材。

 真っ白なだけのこの場所では、一続きなだけなのであろう通路でも、距離感が狂って方向感覚を見失いかねない。《迷宮》、という言葉が、ふとハクガの脳裏をかすめた。

 迷宮とは、元来出口のない一本道のことを言うらしい。つまりはメビウスの輪である。中を通る人間は、延々と同じ場所を通るだけ――――

 逃れられない。出られない。ずっとずっと、閉じ込められたまま。

 不吉な暗示。ハクガは首を振ってその不安を打ち消す。恐怖に負けていてはどうにもならない。この先《白亜宮》のメンバーと戦うことになれば、そこに付け込まれる可能性も捨てきれないのだ。

 とにかく、これを考えるのはやめよう。真っ白なだけだから不安なのだ。別の色――――そう、例えば赤とか、黒とか。通路の何処かに扉でもあれば、気がまぎれるかもしれない――――

 そんなことを考えた、その時だった。

「あの……あれ、何でしょう」

 ハクナがポツリ、と呟いたのは。

 彼女が恐る恐る指さす先には、一枚の扉があった。

 その扉は、異様な存在だった。紫色の扉自体はどこか良い所の屋敷の扉のような作りだ。西洋ならどこでも見れるだろう。ドアノブは金色。扉も併せて、どことなく艶やかだ。

 だがその扉を、無骨な黄金の鎖が封じているのだ。鎖はドアノブをぐるぐる巻きにし、そこから南京錠がぶら下がっている。

 その扉は通路の終わりにあった。つまりここが、この道の限界。この先には、何もない。迷宮の終わり。

「……開けるしかないんでしょうかね」
「でしょうねぇ」

 ハクアの呟きに、ハクガはごくり、と唾を飲みながら答えた。

 重圧。この先に、何かある。それが何なのかは想像がつかないが、どうもあのノイゾと名乗った少女らと同じ、《神気》とでもいうべきものを感じ取ることができた。

「……《白亜宮》のメンバー、でしょうか」

 ハクナが不安そうにつぶやいた。彼女の気持ちは分からなくもない。彼らの力は膨大なのだ。剣を合わせた…正確には合わせようとした…ハクガはそれがよく分かる。

「行きましょう。どうせ、この先に行く以外に、道はないのですから」

 ハクガは宣言すると、南京錠に手を伸ばす。どのくらいの強度があるのか、確かめようと思ったからだった。

 だが直後、拍子抜けするほどあっさりと、南京錠ががちゃり、と音を立ててはずれる。まるで最初から鎖など無かったかのようにそれらを巻き取り、姿を消した。あとは、紫色の扉が残る。

「……」
「……」
「面妖な……」

 今のはまるで――――自分たちを、待っていたかのようだった。「もしかしたら俺達は、《白亜宮》の思い通りに動いてるだけなのかもしれない」。小波の言葉がよみがえる。

 いや、違う。そんなわけない。否定する。だが、同時にその通りだ、彼らは自分達よりも高位の存在なのだ、という肯定も浮き出してくる。

「……行きましょう」

 迷いを振り切るように、再び呟く。ハクアとハクナの二人も頷く。ハクガは、金色のドアノブに手をかけた。



「……子供部屋?」

 部屋に入って最初に口を開いたのはハクアだった。

 部屋の中は薄暗かった。ここだけ、夜が訪れているかのように。薄紫色、というかピンク色に近い、少女趣味チックな部屋の中には、クローゼットや箪笥などが置かれ、ところどころにぬいぐるみまでいる。目を引くのは巨大な本棚。その中に大量の本がおさめられている。金色の縁取りの窓の向こうから、月の光が入ってくる。

 まるで、子供部屋。ハクアの呟きも理解できた。この部屋に入る前は痛いほどに感じられた《神気》は、いまや全く感じられなかった。

 そして本棚よりも目を引くのは――――部屋の中央に備えられた、巨大な天蓋付きベッド。絹のような素材のカーテンが垂れ下がったそのベッドは、一見して高級品だと分かるもの。

 そして、その中から――――()()色の双眼が、こちらを射抜いた。

「……!」
「ひっ……」

 オバケの類が苦手なハクナが縮こまる。だが、そこにいたのは、幽霊などではなかった。

 外跳ねの、艶やかな金髪。あどけない顔立ち。まだ未発達な四肢を、ピンク色のパジャマに包んでいる。抱えているのは巨大な絵本。

 それは、年のころ十歳ほどの少女だった。どこかで見た様な顔立ちの気がしなくもないが、ハクガに幼女の知り合いはいないので気のせいだと否定する。この部屋の主が、彼女であることは、もはや疑いようもない。

 しばらく見つめていると、少女はにっこり、と天使のような笑顔をみせて、語りかけてきた。

「……こんばんは」
「……こんばん、は?」

 思わず挨拶をし返してしまう。

「君は、此処に住んでいるのですか?」
「うん、そうだよ。ミナトはね、ずーっと、此処に住んでるの」

 何の疑問も抱いていないかのように……少女は、答えた。

 ずっと、此処に住んでいる。それは二種類の意味を持っていた。

 一つは、今までずっと、この子供部屋に住んでいた、という事実。もう一つは、これからも『ずっとここに住んでいる』という、残酷な未来。

 この少女は、未来永劫此処にいることを定められているのだ。よくよく見れば、彼女の腕には、漆黒の大きな手かせがはまっている。

「なんて、非道な……」

 ハクアがわななきながら声を漏らす。《白亜宮》は、幼い子供を、ずっとここに閉じ込めているのだ、という事実が、彼女に衝撃を与えているのだ。

 ハクアは駆け出すと、天蓋付きベッドから少女を下ろした。

「わっ! お姉ちゃん、どうしたの……?」
「もう大丈夫ですよ。私たちが来ましたから、ここから出ることができますよ」

 少女を抱きしめながら、ハクアは優しく彼女に告げた。

 しかし少女は、不思議そうな顔をして、答える。

「……どうして? ここからは、出ちゃいけないんだよ?」
「可哀そうに……命令されているんですね? 大丈夫です。私たちが《白亜宮》を……《主》を斃しますから」


 その瞬間。

 気配が、大きく変わった。

「……お父様を、殺すの?」

 重圧の主は、ハクアに抱かれた少女だった。低く落とされた声で、彼女は問う。

「お父、様……?」
「……駄目だよ。駄目。お父様は殺させない。そんなの許さない!」

 バクン。

 波動が、部屋中を走り抜けた。ハクガとハクナが受けた影響は、それだけ。だが、ハクアは違う。少女から弾き飛ばされて、壁に激突した。

「きゃぁ!?」
「先生!」

 ハクガが駆け寄ると、ハクアは困惑げな表情で、少女を見つめていた。

「あ、あなたは……一体……?」

 衝撃に震えながらのハクアの問いに、金色の少女は、その()()色の双眼に強い光を宿し、答えた。

天宮(あまみや)皆徒(みなと)だよ。お父様の娘」

 お父様――――それが、《白亜宮》の長、《主》を指しているというのは、もはや明らかだった。 
 

 
後書き
 どうもみなさんこんにちわ、お久しぶりですAskaです。今回は我らが皆徒の登場。彼女もきちんとチートですよ。チート万歳。
刹「この駄作者……一週間以上何やってたんですか……!?」
 つぶやきで言った通り、やりたいことが多すぎてそっちの方やってた。許せ。
刹「許すわけ……無いでしょうがぁぁ――――!」(ざしゅぁっ!
 ぐっはぁぁぁっ!?

刹「はぁ……先行き不安ですが、次回もお楽しみに」 
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