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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第十五話

「……どうしたのさ。そんなんじゃ、皆死んじゃうよ……」

 泣きそうな顔で、ユウキ・イクス・アギオンス・レギオンポーンは、そうそう漏らした。

 突然のユウキとの戦い。ノイゾに無理やり強制される形で始まったこの戦いにおいて、シウネー達はユウキを攻撃する事が出来ないでいた。

 かつての仲間に対する親愛の情が勝る、というのもある。だがそれ以上に――――

 強化されたユウキが、強過ぎた。

 その両手に握られだ、白黒一対の夫婦剣。高いプライオリティを持つその二刀から放たれる《二刀流》のソードスキルは、シウネー達《スリーピングナイツ》を容赦なく切り裂いた。

 加えて、今彼女の体を覆っているのは、アメジストのような黒曜の光沢を纏った、竜の鱗にも見える鎧。彼女がノイゾの手によって『呼び出させられた』、《惟神》と呼ばれる謎の存在、《回帰する超越の時(ウロボロス・ユーヴァーメンシュ)》…尾を噛む竜…の鱗を、《神哭神装》という術で装備したものだ。

 この鎧は、その名の通り、与えられたダメージを《回帰》させる。つまり、ダメージを与えても修復されてしまうのだ。もともと攻撃が当てられないのに、これでは余計にダメージが与えにくくなってしまう。

 相性は、どうあがいても『最悪』――――

「ユウキ……お願い。剣を捨てて……」
「無理だよ……見たでしょ?ボクにはできないんだ!」

 くしゃり、と一層顔をゆがませて、ユウキはシウネーに向かって剣を打ち下ろす。ソードスキルを発動させていないのに、恐ろしいスピードの剣閃だ。

 その軌道上に、雄々しいときの声を上げながら、テッチが飛び込んだ。彼の身を固めている重装備(タンク)系の防具はバターのように切り裂かれる。

「テッチ!」
「シウネーさん……もう、こいつには、どうやっても駄目です……せめて、一刻も早く、苦しみを終わらせてやりましょう……」

 息を切らしながら、彼はそう言った。

 悲しい事だ。もう一度会えたのに、また失わなければならない。それも、今度は、自分たちの手で消さなければならないのだ。

 ――――だけど。

 シウネーは、その時ふと気が付いた。

 ユウキも、同じ思いをしているのだ、と。彼女もまた、再会した仲間たちを討滅しなければならないという呪を強制されている。

 だったら――――だったら。一人で何でも背負わなくてはいけないユウキよりも、自分たちが、その呪いを受け取るべきだ。彼女に悲しい思いをさせてはいけない。

「みんな……」

 ふりかえれば、既に《スリーピングナイツ》の面々は、決意を固めていたようだった。あとは、シウネーが、応えるだけ。

「……行きましょう」
「「応!!」」

 力強い返答。皆がその武器を構え直す。

「……ユウキ。今、開放してあげます」
「無駄だよ……みんなじゃボクに勝てない」

 二度目の火ぶたが切って落とされた。

 まずはタンクのテッチとジュンが、ユウキの周囲を取り囲む。さらに後ろからタルケンとノリが槍で撃ち、シウネーが魔法の援護を飛ばす。それはバフであったり、デバフであったり――――攻撃魔法であったり。

 だが、ユウキにつけられた傷は、片っ端から再生してしまう。《回帰》の名が示す通り、もとに戻っていくのだ。

「くっ……」
「そう。みんなはボクに傷をつけられない。ボクは誰ともふれあえない。みんなボクを忘れてしまう。ボクを知らなかった頃に還ってしまう……これがボクに与えられた《()()()》」

 ユウキは回転させるようにして、その二刀を振るう。踊るように。歌うように。それでも、そこから悲痛さは消えない。悲しみのロンド。悲劇の舞台。

 輝くソードスキルのエフェクトたちも、どこか苦しそうに蠢いていた。後に黒の剣士に聞いた話では、オレンジ色のそのエフェクトは、二刀流スキル《シャイン・サーキュラー》。高速で振るわれる苦悶の刃が、シウネー達を切り裂いていく。

 絶望に彩られたソードスキルは強い。後の時代の人間か、多少その事情に詳しい者がここに居たのであれば、「《絶望の心意》は『心の穴』に近いがゆえに、強い」と、その理由を教えてくれたことだろう。

 ソードスキルも、魔法も、通常攻撃も。何もかもが、ユウキに通用しない。与えたダメージは還っていく。まるで時間を巻き戻すかのように――――

 ――――時間を、巻き戻すかのように……?

「もしかして……」

 シウネーは、ある仮説のもと、ふとそう呟いた。もしこの仮説が正しいのであれば、ユウキにダメージを与えられるかもしれない。

 そのためには、自分たちもまた、全力を振り絞らなければならない。あらゆる全てを総動員して、ユウキを救わなければならない。

「……」

 シウネーは強く息を吸い込むと、今自分が使える中で、最強の威力を誇る攻撃魔法を唱え始めた。水属性・風属性の両方の属性をもつ、雷系の魔法。漆黒の積乱雲が立ち上る。たちまち、シウネーの周囲に電撃が集まり始める。まるで、嵐のように。

 シウネーは意識していなかったが、この魔法は同時に《六門魔術》とも同期し、世界からのバックアップを受けていた。ALOでは再現できなかった威力まで、嵐の魔法は威力を上げていく。

「な……っ」

 ユウキが驚愕に目を見開く。ALO時代は最大でシウネーの背の高さほどだった積乱雲は、すでにその三倍近くまで規模を増している。

 だが、まだだ。まだなのだ。もっともっと。ずっとずっと、強く。強く。強く――――!

 そうして。

 漆黒の積乱雲が天を蓋いつくし、暴風が吹きすさび、雷が鳴り響く中――――シウネーは、全力で叫びあげた。

「《ライトニングボルト》―――――ッ!!!!」

 単純な攻撃魔法。だがその術名が、いたって単純(シンプル)なわけでは無いことを、シウネーは少し前にくせ毛の剣士から聞いていた。

『ライトニングボルト、っていうのは、一節によればギリシャ神話のゼウスが、雷を引き起こすのに使う武器の名称らしいよ。あれ、どう考えてもヴァジュラだよね。あ、ヴァジュラっていうのはバラモン教系の神話に出てくる《雷を纏った武器》の通称で、有名なのはインドラのヴァジュラとか。たぶん風神雷神屏風の雷神が持ってるあれもヴァジュラじゃないかなぁ……変な形してるよねー、あの腕』

 後半はどうでもいい内容だったが――――つまり、この単純な名前の、単純な雷魔法は、それでいて神の雷にもなりえるのだ。

 迷える者に、救済を。その願いを込めて、シウネーはワンドを振り下ろす。ピシャァッ、という激しい音と共に、大気を引き裂いて雷が降り注ぐ。それは蛇のように蛇行しながら、ユウキの体を貫いた。

「うわぁぁぁぁっ!?」

 何度も、何度も――――合計で六度に及ぶ落雷を受けて、ユウキの鎧はぼろぼろになる。そして――――その鎧は、元に戻らなかった。

「な、なんで……」
「やっぱり……ユウキのその鎧は、巻き戻せる時間に制限があるんですね」

 シウネーの予想は、的中していたのだ。

 ユウキの鎧である《惟神》、《回帰する超越の時(ウロボロス・ユーヴァーメンシュ)》は、鎧を『治癒』しているのではない。そこにかかったダメージを数刻前に『回帰』させているのだ。だから、特大のダメージを断続的に、それでいて連続して与え続けることで、()()()()()()()()()()()、そ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だからシウネーは最大威力で高火力かつ連撃回数の多い魔法を使い、ユウキにダメージを与えたのだ。

「みんな!今の内に!」
「言われなくても!」

 シウネーの指示に最初に答えたのはノリだった。クォータースタッフをふり回し、ユウキに迫る。

「リーダー、目を覚ましな!」
「くっ……くるなぁぁっ!」

 ユウキの二刀が激しい光を放つ。踊るように閃く二刀。片手剣用ソードスキル《ブラッディロンド》五連撃、その二刀連続攻撃。

「うぉぉぉっ!」

 それを阻んだのはジュンの大剣だ。本来ならばテッチの鎧のようにやすやすと切り刻まれて終わるであろうその行動は、しかしユウキの双剣をはじくことに成功した。見れば、大剣の表面を真紅のエフェクトライトが覆っているではないか。

 心意。ジュンの「仲間を守る」という、壁役(タンク)としての意識と自覚が爆発した、その結果。今ここに居る誰もがその名を知らなかったが、それでもそれは、確かに後の時代で――――そして今、別の場所ではそう呼ばれているものだった。

「リーダー!」

 長大なロングスピアを以て、タルケンが素早い突きを繰り出す。軽やかなステップでそれを回避するユウキ。しかしその行く手を、テッチの巨体が阻む。

「くっ……」
「シウネーさん、今だ!」

 テッチの叫びを受けて、シウネーはワンドを放り捨てて駆け出す。代わりに抜き放ったのは、一本の剣。

 それは、ユウキがかつて使用していたそれと、よく似た片手剣。繰り出すのは、《閃光》の少女から教えられた、ユウキの……ユウキだけの、技。

「は、あ、あ、ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 十字を切るように素早い刺突。クロスの中央をめがけて、強烈な一撃。

 十一連撃。《絶剣》ユウキ専用OSS(オリジナル・ソードスキル)、《お母さんの十字架(マザーズ・ロザリオ)》。

 それを見たユウキの――――その両目から、遂に、涙があふれ出た。止どめない涙を流しながら、それでもユウキは、その二刀を振り上げる。

 けれども、もうそこには、憎しみは籠っていなかった。

 それは、ユウキが解放されたことを指し示す。何から?もちろん、《白亜宮》の束縛からだ。

 ユウキを蓋っていた漆黒の鎧が、姿を消す。二本の剣は一本にまとまり、翼のような装飾を持った剣へと変貌する。あれがあの双剣の本来の姿なのだろう。

「うぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!!」

 ユウキもまた、全てを燃やし尽くすかのように激しいエフェクトライトを放ちながら、十字の剣閃を描く。その中央をめがけて、神速の一撃。《マザーズ・ロザリオ》。

 二つの十字が、激突した。シウネーの心臓に、ユウキの剣が突き刺さる。そして――――

 ユウキの心臓に、シウネーの剣が突き刺さった。

「あ……」

 二人同時に、その身体から力が抜ける。剣をとり落し、その場に倒れ伏した。

「ユウ、キ……」
「あ、あはは……だめだ……やっぱり、勝てなかった……」

 ほんとはね、と涙を流しながら、それでも気丈に笑って、ユウキは続ける。

「逆だったんだ。ボクじゃぁ、みんなに勝てないな、って思ってたの。ああいう風にして、みんなに諦めて帰ってもらおうと思って……けど、みんな、すごいなぁ……結局あきらめないで、ボクに勝っちゃった……いい、仲間だね……」

 それを聞いて――――シウネーもまた、涙を流した。ちがうよ、と答える。

「あなたも、その内の一人。あなたも、私達《スリーピングナイツ》のメンバーじゃないですか」
「そうだぜ、リーダー」
「そ、そそそそうですよ! リーダーはいつまでもワタシたちのリーダーです!」
「ほら、元気出しな! アンタは笑ってないと閉まらないよ、リーダー!」
「みんな、こう言ってる。もちろん俺も、そう思ってる」


 その瞬間。

 ユウキの体が、端の方から光の粒へと変換され始めた。お別れの時が、近い。

 彼女は笑って、そっか、と返した。

「ありがとう……みんなにまた会えて、ホントにうれしかった……ボク、待ってるから。今度こそ、一緒に、冒険できる世界で、待ってるから……」
「はい……また、会いましょうね。ユウキ」

 しゃらん、という音と共に――――《絶剣》ユウキは、再び、眠りについた。 
 

 
後書き
 どうも、御久しぶりですAskaです。今回はユウキ君VSスリーピングナイツ後編。マザロザの和訳を《母の十字架》じゃなくて《お母さんの十字架》にしたのは、そっちの方が温かみが出るかな、と持ったからという適当な理由。

 実は予定より話の進みが遅くなっており……本当は前回でこの話をやるはずだったんですよね……。
刹「じゃぁ何でやらなかったんですか?」
 いや、前回これをぶち込んだら一万文字越えちゃうから。一万文字越えたいのは『ノヴァ箱』とかのオリジナルであって、『神話剣』は一話4000~6000くらいを目安にしてるから。
刹「その割に平均は約3300文字、とか書いてあるんですが……?」(ごごごご……
 ギクッ!……ま、まぁ、それは、再序盤のあたりとかがあるから!

刹「はぁ……それでは次回もお楽しみに」
 クリスマスコラボ募集してまーす! 
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