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Fate Repeater ~もう一人のクルスニク~

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二話:約束

 
前書き
世界を壊すって相当重いですね……。
いえ、ただの呟きです。それではどうぞ。
 

 
……私は一体、今までいくつの世界を壊してきたのだろうか?
……数え切れないほどの“分史世界”を壊してきた。
……そこに住む全ての者の世界を壊してきた。
……そこから生まれたであろう新たな世界の可能性を全て壊してきた。

壊したことに後悔はない……そうしなければ私の世界が壊されたのだから。
どれほど、幸せな世界であろうと……どれほど、他人が望んだ世界であっても……。
大切な者の命であっても……壊してきた。
全ては私の世界の為に、そう思って壊してきた………。

ふっ、長い人生だったな……三十年という時間を短いと感じる者もいるだろうが、
私にとっては間違いなく長いものだった。
疲れた。この表現が恐らくは一番しっくりくるだろう。
自分の世界を守る為に壊し続けることに疲れ本当に大切な物を見失っていた……。

いや、それは言い訳に過ぎないかもしれないな。
どんなに言葉で取り繕ってもエルを偽物だと言った罪は消えない。
どんなに言葉を取り繕っても“エル”との約束を破った罪は消えない。

………だが、死んでしまった以上は償いようがない。……償いようがないのだ。
後は先に続く者に託すしかない。だからこそルドガーにエルを託した。
私にはエルの幸せをラルと共にあの世から祈るしかない……そのはずだった。
確かに私は死んだと思った……では、いったい何だ?

この私の体に当たる風は?耳から聞こえる確かな鳥のさえずりは?
まだ、目が開けれることに驚きながら目を開けるとそこは見たこともない場所だった。

「……エレンピオス?いや、リーゼマクシアか?」

ここは一体?重たい体を起こそうとしたが起き上がられずに断念する。
その後も何とか動こうとするうちにあることに気がつく。

時歪の因子化(タイムファクターか)の痛みが無い?」

顔に出来た痕は確認のしようがないので何とか手袋を外して手を見てみると
確かに時歪の因子化(タイムファクターか)の痕が残っておらず綺麗に無くなっていた。
どういうことだ?これは夢なのか?それともここはあの世なのか?

いや……どちらでも構わない。今度こそ動くことを完全に諦めて再び目を閉じる。
眠ろう。そうすればそのまま目覚めずに済むかもしれない。
眠れば今度こそラルに会えるかもしれない。だから―――眠ろう。

そうと決めた意識はすぐさま闇の中へと引きずり込まれていった……
そのせいだろうかすぐ近くにいた少女のことにも気づかなかったのは。

「我、この世界に無い強い者、見つけた。」

――――――・・・





『パパ!!起きてよ、パパ!!!』

ああ、懐かしい夢だな……エルがまだ小さい時はよく私よりも早く起きて
私を起こしに来てくれていたものだったな……。

寝ている私の上に飛び乗ってきたり、今の様に私の頬を叩いたり………?
どういうことだ?なぜ、夢なのに今まさに叩かれていると感じるのだ?
夢ではないのか?この自分の頬を小さな手でペシペシと叩かれる感触は……。

まるで幼いエルが私を起こしに来た時にやっていたように、私を叩く者は一体?

「異世界の人間、起きた。」

目を開けてみると漆黒の髪に黒い目といった少女が私を覗き込んでいた。
この子が私の頬を叩いていたのか……。
年はちょうどエルと同じぐらいかそれよりも少し上といったところだろうか?

それにしてもこの少女は一体?それになぜ、私を異世界の人間だと?
そして、感じる圧倒的な存在感と力……。
子供の身でありながら私よりも強いのは間違いないだろう。不思議な子だ。

ゆっくりと体を起こしてそこでポケットの中からカチカチと時計の針の音が
聞こえることに気づく。これは……時計もあるという事か。
恐らくはビズリーから奪った時計のはずだ。私の時計はエルに渡してあるからな。

それにしても二度も目覚めるという事は私は生きていることになるのだろうか?
……いや、今は少女の方が先だ。気を取り直し少女の方を見る。

「一先ず、お名前を教えてもらえないかな?お嬢さん。」
「我、オーフィス。」
「私は………ヴィクトルだ。」

片言で教えてくれた少女―――オーフィスにそう答える。
一瞬、“ルドガー”と答えようかと迷ったが結局ヴィクトルと答えることにした。
私はルドガーとは違う人間であると自分で確認したかったというのもあるが
それ以上にエルの父親であるという事を忘れたくないという理由の方が大きい。

ルドガーとエルが会った時に私の正体がばれない様にするために
ずっとヴィクトルと名乗ってきていたからな………。
思えば、最後にルドガーと呼ばれたのはラルとの別れの時か……。
まあいい、今はオーフィスにここがどこなのかの説明をして貰うとしよう。

「オーフィス、ここがどこだか分かるか?」
「ここ、禍の団(カオス・ブリゲード)の我の部屋。」

無表情で答えるオーフィスが言った名前を心の中で復唱する。
禍の団(カオス・ブリゲード)?聞きなれない名前に首を傾げ、
その傍らに、脇目で部屋の中を見回す。……妙だな、物が少ない。
まず思ったことがそれだ。この位の年の女の子の部屋にしては余りにも無機質で地味だ。

一瞬オーフィスが監禁されているのかもしれないと思ったが彼女の様子からして
その線は薄いだろう。監禁されているにしては余りにもオーフィスには余裕がある。
実の親に閉じ込められている?いや、そんなことはないと信じたい。
………私の様に娘を苦しめる馬鹿な親が他にいないことを信じたいからな。
恐らくはオーフィス自身がそう言った事に関心が無いのだろう。

何となくだが少し浮世離れした雰囲気を醸し出しているのもあるからな。
……それにしてもオーフィスが言った私が異世界の人間だということ。
ここは別の“分史世界”なのか?それとも“正史世界”なのだろうか?
………考えても分からないな。オーフィスに聞くしかないだろうな。

「オーフィス、私が異世界の人間とはどういった意味で言ったんだ?」
「ヴィクトル、この世界にはない力持つ。」

私の質問に淡々と答えてくれるオーフィス。
しかし……この世界に無い力?どういうことだ?
オーフィスの言う力は恐らくは骸殻のはずだ。

骸殻能力者は“分史世界”にもいるはずだ。現に私がそうだ。
“正史世界”だけは辿り着くことが出来なかったのだが、
ルドガーの存在で骸殻能力者がいることは分かっている。
そうなるとこの世界は一体?

いや、もしかすると骸殻の無い世界を望んだ者が居たのかもしれない。
一族の骨肉の争いに辛くなったが為に骸殻その物を無くそうと考えた世界。
“オリジンの審判”の過酷さと“分史世界”の可能性を考えればあり得なくもない…。

「オーフィス、ここは“分史世界”なのか?」
「?」

私が言った“分史世界”という言葉に不思議そうに首を傾げるオーフィス。
“分史世界”でもないのか?正史世界という線はあり得ない………
それらのどちらでもないということならば……この世界はまさか―――

「私が居た世界とは完全に異なる世界なのか?」

私がそう言うとコクンと頷いて私の質問に答えてくれるオーフィス。

完全に異なる世界……まさかそんな物が本当にあるとはな……。
……もし、もっと早くこの世界を見つけられていたら兄さん達を殺さずとも
エルとラルと共に暖かな生活が送れていたのではないのだろうか?

いや………そんな仮定は必要ない。私はあの時後悔しないと決めたのだからな。
なぜ、私が死んでいないかは分からないが、私は壊したことに後悔してはならない。
それこそが私が出来る唯一の―――壊した世界への弔いなのだから。

「オーフィス、私はなぜオーフィスの部屋に居るんだい?」
「ヴィクトル、強い。だから連れて来た。」

片言しか話さないので要領が掴めずに全ての理由は分からなかったが
一先ず、オーフィスがここに私を連れてきたことだけは分かった。

「因みにだが、私がなぜこの世界に来たかは分かるかい?」
「我にも分からない。我、強い者見つけたから連れて来ただけ。」

先程から執拗に強さという言葉を使うな……私よりもオーフィスの方が
余程強いと思うのだが………それよりも強い者がこの世界にはいるのか。
しかし、こうも強さを求めるということはオーフィスは何か困っているのだろうか?

そう言えば先程言っていた禍の団(カオス・ブリゲード)……
もしかすると、ここは力を持つ者を集める所なのかもしれないな。

「それで、オーフィスは何か私にして欲しいのかい?」
「我、おウチに帰りたい。」

オーフィスがそう言った瞬間に脳裏にある少女の姿が思い浮かぶ。


『“エル”……おウチわかんない。』


始めはただ家まで送り届けるつもりだった少女。
そして“カナンの地”まで共に行くと約束した少女。
守れなかった約束……私の罪……“エル”……お前は……。

「ヴィクトル?」
「ああ、すまない。少し考え事をしていただけだよ。」

不思議そうに私の顔を覗き込んでくるオーフィスに何でもないように返す。
……そういえば、エルもこんな風に私の事を心配してくれたことがあったな。
私はずっとあの日破った約束の事を………償うことは出来ないのだろうか?

「我、グレートレッドに追い出された。我、帰りたい。でも、一人では不可能、だからヴィクトルの力、貸してほしい。グレートレッドを倒して真の静寂を手に入れる。」

つまりは、禍の団(カオス・ブリゲード)とはオーフィスがそのグレートレッドを
倒すために有志を募った集団と言うわけなのだろう。
グレートレッド……今の私には何者かは分からないが、そんなことはどうでもいい。

「こんな……私に頼んでいいのか?」
「我、望む。」

疑うこともなく頷いてくれるオーフィス。
……こんな私を―――約束の一つも守れなかった私を……娘を偽物だと言った私を……
お前は信じてくれるのか………オーフィス。

それならば…お前のその信頼に私も応えなければならないな。
オーフィスに小指を差し出す。

「?」
「オーフィス、小指を差し出しなさい。」

キョトンとするオーフィスにそう促す。

「分かった。」

オーフィスの小指にしっかりと自分の小指を絡ませる。

「これは?」

小首を傾げて私を見上げるオーフィス。

「大切な約束を結ぶ、おまじないだよ。」

――約束――

これは私がもう二度と約束を破らないという誓いでもある。
今度こそ―――約束を守り抜いて見せる!!!
例えその為に再び世界を壊すことになろうと
再び大切な者をこの手にかけることになろうと
約束しよう、この命を賭けて。

「本当の約束だ。私、ヴィクトルは全てを賭けてオーフィスを家に連れて行くことを誓おう。」
「分かった、約束。」

目と目を合わせて約束を交わす。
本当の約束は目を見てするものだと、“エル”から教わったからな。
オーフィスとの約束を守ることが“エル”との約束を破った償いになるとは思えない。
約束を破った男が本当の約束だと言うのは滑稽かもしれない。

だが……伝えることぐらいは許してくれ。
エルにも伝えたんだ、そしてエルからルドガーへ……約束の仕方を。

なぜ、私が生き延びたのかは分からない……生きる意味も見出させない私だが
この約束の為に生きよう。今度こそ必ず約束を守る為に、ただその為に生きていこう。
約束を果たすその日まで、もう少し待っていてくれ―――ラル。

 
 

 
後書き
ヴィクトルは禍の団に入ることになりました。
まあ、黒歌とかヴァーリとかと絡ませようかな……あ、曹操もいるな。 
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