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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  暁

「白腕ユナト……ねえ? 血継限界“九十九神”……全く、やられたわ。彼女があの血継限界を持つ一族の末裔だって、すっかり忘れてたわよ」

 目元にかかる黒髪を腹立たしげに払いのけ、大蛇丸は爬虫類を思わせる金色の瞳であたりをじろりと見回した。自分の放った言葉が、まるで見慣れたアジトの壁に吸い込まれ、そして染み込んでいくような感じがした。それは考えた以上に気味の悪い想像だった。

「では、計画はどうします?」
「無論、続けるわ。ジャシンさまにはもう借りてしまったし、ここまで来た以上もう後には引けないし。――それに私は、師匠の短い腕に頼っている女なんかに計画をかき乱される気はなくてよ」
「――わかりました。……では……」
「わかってるわ。もう下がっていいわよ――もう寝る時間なんでしょう」

 眠たげに目元を擦り、ちらりと時計に視線をやるカブトのその仕草から、今はもう九時であるということがわかった。ずっと前から変わらないカブトのこの習慣に、大蛇丸はまるで我が子を眺めるかのような表情で微笑する。これほどに若いのに、時には伝説の三忍と謳われた自分でさえ恐ろしくなるくらい演技が得意で頭が切れ、何重もの計算を重ねて動いているカブトが一瞬にして幼い子供にもどってしまう瞬間。

「はい……では、失礼します……」

 去っていったカブトと入れ替わりに入ってきたのは、幼い面立ちの少年と、長い髪の少女だった。

「クゥ――キン。どう? そっちの様子は」
「はい、大蛇丸さま。修行は順調な様子です」

 キンがどぎまぎした顔で答えた。その傍でクゥが青い目を動かして大蛇丸の部屋の内部を見回している。
 うちはサスケが病院を抜け出し、はたけカカシの元へ修行に行ったという情報を齎したのは同じ木ノ葉病院に入院していたドス・キヌタだ。曰く、試験終了の夜に抜け出したそうである。その情報を得たのは、木ノ葉崩しの情報を知っていると白腕ユナトがバキに向かって言った日、木ノ葉病院に入院している音の三人をアジトに回収した時だった。
 そこで大蛇丸は妖連中や既に回復しているキンに交代制で彼の修行の様子を監視するように言い渡したのである。うちはサスケの動向を常に手中に収めるため。

「じゃあ、監視を続けて頂戴。四時間に一回の交代だったかしら?」
「はい。今の担当はカイとミソラです」
「そう。もう下がっていいわ」

 一礼して下がっていく二人を目で追う。クゥがふざけて何かを言い、キンがそれを殴りつけるのを見やって目を細める。ため息をついて、大蛇丸は分厚い本を開いた。
 計画がバレてしまったのは想定外だが、それでもいい。各国の大名達が訪れている中今更試験を停止するわけにもいけない三代目は試験を続けるはずで、だから試験中に彼らにできることと言えば警備を高めることくらいなものだ。ジャシンからはもう既に二代目と初代の体の一部分をもらい、穢土転生の用意も既に整っている。この計画を止めるつもりはなかった――まあ、ひょっとしたら計画の進行が早めになるかもしれないが、それは問題にならない。
 パステルカラーの風車がひっそりと机の一角に転がっている。アジトは地下にある為、それを回す風はない。その上に積もった埃を払い、大蛇丸は幼い頃母の作った風車にそうっと息を吹きかけた。 

「今度こそ、私が。木ノ葉の風車を回したい――」
 
 パステルカラーの風車が、くるり、くるり、と回転した。
 その後の木ノ葉の運命のように。くるり、くるりと。

 +

「どうするんだ、先生? あのことが木ノ葉にバレているなんて――」
「落ち着け、テマリ。……彼女があのことを伝えに着てから既に一日、けれど木ノ葉は動いていない。恐らく他に目的があるか何かだろうかとは思うが……だが、風影さまはそれでもこの計画は実行するとおっしゃった。音の長もそう言ったと、薬師カブトとかいう男が伝えにきたしな」

 風影の命令は絶対だ。テマリは唇をかみ締め、黙って傀儡の手入れをすることで心の動揺を押し隠そうとしているらしいカンクロウを見遣った。我愛羅は相変わらずの無表情で、特にこのことを気にしているようではない。彼が気になっているのは強い敵と戦えるか、戦えないかのどちらかでしかないということくらいは簡単に想像がつく。

「でも木ノ葉はどうやって……? 音に裏切り者がいるんじゃ?」
「いや。どうやらあの女は特殊な血継限界の一種を持っているという話だ」

 バキが苦々しげに言う。テマリは青ざめた顔で押し黙り、膝を抱えた。カンクロウがチャクラ糸で烏を操る。がちゃがちゃと音を立てる烏に、「うるさい」とテマリは不平を申し立てようとしたが、それより前にカンクロウが口を開いた。

「そういうのしゃべるの、もうやめるじゃん……」

 弟には珍しく気弱な声に、テマリは軽く目を瞠った。青ざめた顔の彼がぽつり、とこぼす。

「あの女が来てから……なんだか、いつも見られてて、聞き耳立てられてるような気がするじゃん……」

 ――あの女……テマリも相当動揺しているし、カンクロウも気弱になっている……そして、俺も必要以上に焦っている
 壁に耳あり、障子に目あり。木ノ葉崩しの情報がいつの間にか他人に漏れていたという事実に言葉を失っていたバキ達に、にっこりと屈託ない笑顔で言い放たれたその一言。カンクロウが上手く寝付けなくなり、テマリがしばしば夜中に起き上がって部屋をうろうろしだしたりしていることに、そしてバキ自身も、自分が未明の内から起きてしまうことに気づいていた。我愛羅を除き、彼らはみなが皆落ち着きを無くしているのである。

「心配するな、カンクロウ」

 そう言って立ち上がったのは我愛羅だった。薄い青の瞳に狂気染みたものが宿っている。

「あの女は、俺が必ず殺してやる。壁の耳も障子の目も、俺が潰してやる――」

 瓢箪から溢れた砂は、慈しむように我愛羅に触れた。

 +

「……どうした、鬼鮫? やけに顔色が悪いな……いや、元々か?」
「……どこいってたんですか、イタチさん……赤いシャツ着た怪物に、とって食われるかと思いましたよ……探したんですからね……」
「……すまないな」

 サスケの居場所を捜索していたのだが、自分がいない間鬼鮫は相当な目に合っていたらしい。鈴のついた笠を取り、暁のコートを下ろし、イタチは壁にもたれた。ふう、と長い息を吐く。サスケはどうやら、はたけカカシと共に修行をしているらしい。前会ったときよりも随分大きくなっていたサスケに話しかけたい衝動にかられたが、イタチにそれは許されていなかった。それが代償、そして一族をかけた自分への罰。

「どうやら私のことを二足歩行の鮫だと本気で思い込んでいたようでして……」
「……違うのか?」
「え?」

 表情のよめないイタチの瞳を数秒見返していた鬼鮫は、とうとう自分の味方は鮫肌だけと知り、ああ、と泣き笑いをしながら鮫肌の手入れを始めた。

「もちろん違いますよ……妖の遺伝子が人よりちょっと多いだけなのに……」
「そうか。悪かったな」

 言うと、鬼鮫ははは、と眉を下げて笑った。ふとその笑いが止まり、魚のような瞳が隣の部屋を向く。すっと鮫肌を構え直した彼に、イタチもまた視線を隣の部屋へと寄せた。耳を(そばだ)てる。砂の流れる音と共に、少年の声が聞こえた。

「あの女は、俺が必ず殺してやる。壁の耳も障子の目も、俺が潰してやる――」

 微かだが、はっきりと聞こえた。物騒ですねえ、とため息をつきながら鬼鮫は鮫肌を放し、イタチも緊張状態を解く。そしてイタチは天井を見上げて一言呟いた。

「それをお前が言うのか、鬼鮫?」
「……そうですねえ。これは恐らく、角都さんが飛段さんを殺すぞと脅しているのと同じようなものなのでしょうね」

 暁。
 S級犯罪者たちを集めた組織に所属している二人は、ゆったりと宿の中でくつろぎ、暫しの安穏に浸った。

 +

「サクラさん、いのさん、それにはじめくん。三人とも、サスケくん達のお見舞いですか?」
「そういうリーさんも?」

 大蛇丸が風車に息を吹きかけ、我愛羅がユナト殺害を宣言し、暁の男たち二人が宿で短い安穏に浸っていたその翌日。いのの実家である花屋から買ってきた花を持ったサクラといの、そして赤いリボンの巻きつけられた可愛らしいバスケットに花を入れたはじめに、はい、とリーははにかんだように微笑する。

「サスケくんと、マナさんのね。一緒に行きませんか?」
「ええ、そうしましょう」

 サクラは微笑し、いのも笑顔を見せた。砂と音の陰謀を知らない少年少女たちが陽光の下、木ノ葉病院へと赴いている。
 その背後に流れる砂に、彼らは気づいていなかった。 
 

 
後書き
原作より随分早くでてきた兄さんと鬼鮫。次は病院内部でちょっとした戦闘が起こる予定です。 
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