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電光提督ノゾミアン

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第四話 疾風の餃子修行

ある日、天龍と龍田それに第六駆逐隊の面々が遠征から帰って来ると・・・

「済まん、島風!」

「元気出して!!」

「まあ、相手が悪かったんだよ。」

提督ののぞみと艦娘達が一斉に島風を慰めていた。

「あの、一体何があったんすか?」

そこで、天龍は手近な所に居た不知火に聞いてみた。

「それがですね・・・」





遡ること半日ほど前、のぞみが鎮守府の廊下を歩いていると・・・

「あなたって遅いのね!」

「駆けっこでも私が一番だよ!!」

島風と白露が駆けっこをしていた。

「こら!廊下を走るな!!」

のぞみが注意するが、二人はそれを無視して走って行った。



その後昼食の時間、のぞみは食堂で空いている席を探しながら愚痴っていた。

「全く、島風には困ったものだ。」

「司令、どうかしたの?」

すると、駆逐艦の陽炎が席に座りながら声を掛けて来た。その隣には姉妹艦の不知火も居る。

「陽炎に不知火か。実は、また島風が廊下で駆けっこをしていてな。今回は白露が相手だったよ。」

「そうなの。あ、隣空いているから座っていいわよ。」

「ああ、そうさせてもらおう。」

陽炎の言葉に甘え、のぞみは彼女の隣の席に腰を降ろした。

「しかし、あの子を見ていると初代E2とE3を思い出すな。」

「E2とE3?」

「司令のお仲間ですか?」

初めて聞く名前に陽炎と不知火は首を傾げる。

「ああ。E2は長野新幹線で、E3は昔秋田新幹線だったんだ。で、この二人はスピード狂な上ライバル同士だったから、いつも仕事中に競争をしては怒られてたんだよ。」

「それは困った方達ですね。」

のぞみの話を聞いて苦笑する不知火。そんな中、陽炎が彼に言った。

「でも、司令も新幹線なんだから、なんだかんだ言ってスピードには自身があるんでしょ?」

「まあな。昔、超古代文明の遺跡の罠のセンサーを掻い潜る為に、時速400km以上を出した事もあったな。」

「時速400km!?」

「最新の新幹線よりも速いじゃない!?」

のぞみの口から出た驚異の速度に不知火と陽炎は驚愕する。

「まあ、私ももうそろそろ年だからまた同じ事をやれと言われても無理だがな。しかし、それでもそんじょそこらの輩には負けたりはしないさ。」

そう自身満々にのぞみが言った時だった。

「なら、私と勝負してみる?」

いつの間にか彼の後ろに島風が立っていた。




そして、昼食後。

「やれやれ、まさかこんな事になるとは・・・」

のぞみは列車形態で海沿いの線路の上に居た。さらに海の上には島風の姿もある。

「お互い、手加減無しの全力勝負だからね!!」

「分かっているよ。」

叫ぶ島風に対してそう返すと、運転台の窓を下にさげる。

「それじゃあ、位置について・・・よーい、ドン!!!」

そして、審判訳の陽炎が主砲で空砲を撃つと二人は一斉にスタートした。最初はゆっくりと動き始めたのだが、徐々にスピードを上げて行く。

「絶対負けないよ!!」

「悪いが、私にも超特急としての矜恃くらいはある。勝たせてもらうぞ!!!」

そうやって互いを挑発しながら、二人の姿はどんどん陽炎から遠ざかって行った。

「やれやれ。それにしても、あんたがこんな勝負をする事を許すなんて、どう言う風の吹きまわしよ。」

二人の姿が見えなくなってから、陽炎は隣で立っていた不知火に尋ねた。

「私も島風の駆けっこ好きには少し手を焼いていたのですよ。今回の勝負は島風にとっていいクスリになるハズです。」

「え?それってどう言う意味?」

「島風の最高速度が40ノットなのに対し、司令の最高速度は時速270km。勝負の差は歴然です。」

そう不知火は自慢げに説明するが、陽炎はよく理解出来なかった。

「ごめん。ノットで言ってくれないとわかんない。」

「仕方ないですね。1ノットは1時間で1海里、つまり1.852kmを進む速度です。なので、司令官の最高速度をノットで換算すれば・・・およそ146ノットと言う事になりますね。」

「・・・・・・へ?」





「と言う訳です。」

「いくらなんでもやり過ぎだろ、そりゃ。」

不知火の説明を聞いて天龍は呆れながら言葉を返した。

「島風ちゃん、大丈夫なのですか!?」

一方、第六駆逐隊の面々は島風を慰めるのに参加し始めた。

「司令官ってさ、凄く速いんだよ・・・あっという間に見えなくなっちゃってさ・・・」

「気にしちゃダメよ島風!あなたは船で提督は夢の超特急なんだから勝てなくても仕方ないわ!!」

「ぎゃふん!!?」

「って、あれ?何で!?」

「暁姉さん。それはフォローじゃなくてトドメだよ。」

「響姉さんの言うとおりよ。」

「はわわ〜!島風ちゃん大丈夫なのですか!?」

が、暁がトドメを刺してしまい、状況はさらにややこしくなってしまう。そんな中、一人の艦娘が名乗り出た。

「ここは私、一航戦赤城にお任せ下さい。」




そして、赤城は島風を無理矢理引きずってある場所に連れて来た。そこは・・・『餃子専門店 山形の翼』と言う店の前だった。

「なあ、赤城。何で餃子屋なんだ?」

心配なのでついて来たのぞみが赤城に聞いた。

「このお店、最近凄い話題なんです。美味しい物を食べればきっと元気が出ますよ。」

「いや、そんな単純な話じゃないだろ。」

赤城の答えに同じくついて来た天龍がツッコミを入れる。だが・・・

「なるほど、それは名案だ。」

「でしょう?」

のぞみはそのアイデアにかなり乗り気だった。

「そういや、提督は赤城さんの同類だったな・・・」

そんな彼に呆れながら、天龍は後に続いて店内に入るのだった。




一行が『餃子専門店 山形の翼』に入るとそれを出迎えたのはカウンターで腕を振るう銀色のボディを持つヒカリアンだった。

「いらっしゃい!」

「つばさ!?つばさじゃないか!!!」

「そう言うお前こそのぞみじゃないか!!」

「提督、お知り合いですか?」

銀色のヒカリアンと知り合いな様子ののぞみに赤城が聞いた。

「ああ。かつて私と共にJHRのメンバーだった元山形新幹線のつばさだ。」

「よろしくな。で、のぞみ。この姉ちゃん達誰だ?」

「ああ、実はな・・・」

のぞみは自分が艦娘を指揮する提督になった事をつばさに説明した。

「なるほどな。確かに、JHRでもひかり隊長の後を継いで立派に隊長やってたから、適材適所って奴だな。」

「そう言って貰えて嬉しいよ。」

「まあ、それより立ち話も何だ。早く席に座ってくれ。」

「では、お言葉に甘えて・・・」

つばさに促され、のぞみ達はカウンター席に腰掛けた。そこで、つばさは島風が落ち込んだ様子である事に気付く。

「ところで、そこのお嬢ちゃんが落ち込んでんのは何でだ?」

「それがな・・・」

のぞみはつばさに事情を説明した。

「なるほどな。懐かしいなあ、俺も昔そんな事があったよ。」

「つばささんもこんな事が?」

つばさの言葉を聞いて赤城が質問をする。

「ああ。俺も昔スピードには自信があったんだが、二代目E2、E3コンビに負けてな。それでちょっと旅に出た訳だ。」

「旅に、か。こいつみたいにウジウジしてるよりはいいな。」

未だに俯いたままの島風を見ながら天龍が言う。

「んで、そこで俺が出会ったのが餃子作りで悟りを開いた男“カボチャマスク”だ。」

「いや、何だその胡散臭い奴は。」

「その人の作る餃子の味に感動した俺は弟子入りをした。」

「おい、聞いてんのか?」

天龍のツッコミを無視しながらつばさは話を続ける。

「餃子作りって言うのは本当に苦難の道だった。師匠に中々認めてもらえなかったし、餃子作りの修行をする自分に疑問を持つ事もあった。」

「いや、そりゃ当然だと思うぞ。」

「けど、俺は諦め無かった。そして、最終試験で見事師匠に認めて貰えて、今じゃ自分の店を持つまでになった訳さ。っと、話してる間に焼きあがったな。」

つばさは焼きあがった餃子を皿に盛り付けてのぞみ達の前に出した。

「はいよ。餃子四人前お待ち!」

「では、いただきますね。」

出て来た餃子を早速食べ始める赤城達。すると・・・

「これは!?パリッと焼き上げられた皮の中に肉汁が閉じ込められ、さらにひき肉と混ぜられたキャベツのみじん切りがしっかりと歯ごたえを出している!!」

「さらに腕を上げたな。流石だな、つばさ。」

「餃子で悟りを開いたなんてバカみたいな話だと思ったが、少なくとも餃子名人ではあるみてえだな、あんたの師匠は。」

「当たり前だろうが。」

皆の好評に自慢げなつばさ。そして、島風もまた・・・

「美味しい・・・」

つばさの餃子に感動していた。

「感動したか、嬢ちゃん。なら、お前も弟子入りしてみるか?」

「え?」

「なあに、昔の俺と同じ悩みを持つ嬢ちゃんを応援したいってだけのちょっとしたおせっかいだ。どうだ?」

「でも・・・」

つばさの問いに島風はのぞみの方を見ながら悩むそぶりを見せる。そんな彼女にのぞみはこう答えた。

「安心しろ。君が餃子作りの修行をしたいと言うのならちゃんと許可を出してあげるさ。」

「司令官・・・分かりました。私、餃子作り始めます!!」

そして、島風の餃子修行が始まった。




餃子の作り方はまず、野菜をみじん切りにし、それをひき肉と混ぜてタネを作る。それを皮でつつんで焼くと言うものだ。
単純な作業なので簡単だと思われるが、単純だからこそ奥深いものがあるのである。ゆえに、一朝一夕でマスターすることは出来ないのだ。

「ダメだダメだ!!!」

島風の作った餃子を食べたつばさが叫ぶ。

「お前の作った物は材料も作り方も餃子とほとんど同じだ。だが、こんなのは餃子じゃない!!」

「じゃあ、どうしろって言うのよ!!」

「そんなのは自分で考えろ!!」

「そんな事、言ってくれなきゃわかんないよ!!!」

そして、島風は店を飛び出してしまった。



店を飛び出した島風は近くの公園のベンチに座っていた。

「そもそも、餃子の修行なんてしているのがおかしいのよ。私は艦娘なんだから、こんな修行より深海棲艦と戦う為の演習をするのに時間を使った方が有意義に決まってるわ。」

「それはどうでしょうか?」

そんな時、彼女の背後から姿を現したのは赤城だった。

「赤城さん!?」

「あなたは本当にこの修行が無意味だと思ってるのですか?」

「当たり前でしょ。」

「なら、その手に握っている物は何?」

「え?」

赤城に指摘され、島風は自分が手に握っている物を見た。

「こ、これは!?」

それは、彼女が無意識に落ちて来た葉っぱを餃子の形にした物だった。

「口ではそう言っても、あたなは本心では餃子を作りたがっている。」

「・・・そうね。」

そして、自分の本心を知った島風はベンチから立ち上がり走って行った。つばさの店に戻る為に。




そして、ついに・・・

「合格だ。お前の作った物は紛れもなく餃子だ。」

「やったー!!!」

島風は師匠であるつばさから認められた。

「じゃあ、早速最終試験をやるぞ。」

「はい、師匠!!!」

そしてその日、山形の翼は島風の最終試験の為に臨時休業となった。

「ルールは簡単だ。制限時間内に俺よりも多くの餃子を作れたら合格だ。」

「はい、師匠!!」

「じゃあ始めるぞ。」

そして、二人が位置につくと島風の相棒である連装砲ちゃんがストップウォッチを構える。

「よーい・・・スタート!!!」

そして、連装砲ちゃんが掛け声と共にストップウォッチのボタンを押すと二人は一斉に餃子を作り始めた。



だが、その様子を覗き見している者たちが居た。

「何デ艦娘ガ餃子ヲ作ッテイルンダ?」

「ソンナ事ハドウデモイイ。」

「美味シソウ・・・」グゥ〜

深海棲艦の重巡リ級に戦艦タ級そして空母ヲ級であった。

「アノ駆逐艦ノ中デハ手強イ部類ニ入ル島風ガホボ丸腰ノ状態デイルンダ。マサニ今ガ倒スちゃんすダロウ。」

「流石ル級サン!」

「アイツヲ倒シタラ餃子ハ食ベテモイイ?」

「モチロンダ。サア、突撃スルゾ!!!」

そして、深海棲艦達は店の窓を割って中に侵入した。

「サア、覚悟シロ!!」

「深海棲艦!?」

「こんな時に!?」

突然の乱入に驚愕する島風とつばさ。だが、その時・・・

「そこまでだ!深海棲艦!!」

なんと、のぞみと艦娘達がその場に駆けつけたのだ。

「提督!みんな!!」

「島風、つばさ!ここは私たちに任せて君たちは続けろ!!!」

「ありがとう!」

「恩に着るぜ!!」

のぞみに言われ、島風とつばさは勝負を再開する。

「地上戦ですか。慣れていませんから苦戦しそうです。」

「だが、それは向こうも同じだ。私がフォローをする。」

「お願いします!!」

「エエイ、艦娘ドモメ!!!」




そして、のぞみ達が深海棲艦の相手をしている間。ついに決着の時が来た。

「終了!これより計測を開始します。」

ストップウォッチを持った連装砲ちゃんがそう言うと、島風とつばさは手を止め、残り二人の連装砲ちゃんが餃子の数を数える。そして・・・

「つばさ師匠、148皿!」

「弟子島風、152皿!」

「よってこの勝負、弟子島風の勝利により試験は合格!!!」

「やったー!!!」

「おめでとう、島風。これでお前は立派な餃子マスターだ。」

喜ぶ島風をつばさがねぎらう。

「ありがとう、師匠!!」

「さて、試験も終わった事だ。俺たちも戦いに参加しようじゃないか。」

つばさはかつて愛用していた武器、ウイングシールドを取り出した。

「お待たせ、司令官。」

「手伝うぜ!」

そして、のぞみの下へ駆け付ける。

「島風!つばさ!」

「今まで戦わなかった分まで戦うよ!やっちゃって、連装砲ちゃん!!」

島風の命令と共に三体の連装砲ちゃんは一斉に砲撃を始める。

「俺は久しぶりなんで、腕がなまってなきゃいいがな。ライトニングウイング!!!」

つばさのウイングシールドの翼を模した装飾が展開すると、周囲に風と共に羽が舞い上がり、それが鳥の形のオーラとなって発射される。

「私も行くぞ!ライトニングライキング!!!」

そして、のぞみのライオソードの鍔が鬣のように展開。刀身に電撃を発生させるとそれをライオンの形のオーラとなって打ち出された。

「オイ待テ!?何デ餃子屋ノオヤジマデソンナ技使ッテンダ!?」

「イヤ、ル級サン。アレドウ見テモアノ提督ノ同類ダロ。」

「マダ餃子食ベレテ無イ!」

深海棲艦の三人がそんな会話をしている間に必殺技は直撃し・・・

チュドーン!!

「オボエテロヨ〜!!!」

「ル級サ〜ン!!」

「ギョ〜ザ〜!!!」

深海棲艦三人組はぶっ飛ばされた。




その後、鎮守府ではのぞみが島風に質問をしていた。

「島風。もう自信はついたか?」

「もっちろん!新しく餃子作りって言う特技が出来たから自信満々だよ!!」

「それは良かった。」

「では早速、その腕を振るっていただけますか?」

のぞみがが安心する中、隣で立っていた赤城はいつも通りの調子であった。

「もちろん。今直ぐ腕を振るってあげるわ。」

そして、数日後・・・

「今日のお昼は餃子です。」

「また?これで三日連続じゃない。」

食堂で昼食を受け取った五十鈴が文句を言った。それに対し、食堂を担当する給糧艦間宮はこう答える。

「仕方ないでしょう。前に島風ちゃんが作り過ぎちゃった分がまだ沢山残っているんだし。」

「なら一航戦コンビとかに処理させればいいじゃない。」

「それが、流石のあの人達も餃子ばかりじゃ流石に飽きてくるって・・・」

「私も今その状況よ。」



続く
 
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