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ソードアート・オンライン~狩人と黒の剣士~

作者:村雲恭夜
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依頼

「いらっしゃいませ。御二人様でしょうか?」
慇懃(いんぎん)に頭を下げるウェイターに、待ち合わせと答えて、俺と和人は広い喫茶店の中を見渡す。
すぐに、奥まった窓際の席から、無遠慮な大声が俺達を呼んだ。
「おーい、キリト君、ライト君、こっちこっち」
俺達は手を振る方へ歩き、どすん、と椅子に腰を落とした。即座に横合いからウェイターがお冷やとお絞り、メニューを差し出す。それを手に取ると、テーブルの向かいから陽気な声が飛ぶ。
「ここは僕が持つから好きに頼んでよ」
「「言われなくてもそのつもりだ」」
俺と和人は同時に答え、メニューに目を走らせる。意外に高い値段で設定されており、最も廉価なのが<シュー・ア・ラ・クレーム>千二百円也で、これでも高い方だろと俺は思う。
俺は和人にメニューを渡すと、和人は次々にオーダーする。
「ええと……パルフェ・オ・ショコラ……と、フランボワスのミルフィーユ……に、ヘーゼルナッツカフェ」
「俺はコーヒーゼリーとコーヒー」
「かしこまりました」
ウェイター氏は滑らかに退場すると、生クリームがどっさりと乗っかった巨大プリンをパクつく男を見る。
菊岡誠二郎……今回もまた、こいつが俺達の呼び出し人だ。
「やぁ、キリト君、ライト君、ご足労願って悪かったね」
「「そう思うのなら銀座なんぞに呼び出すなよ」」
「この店の生クリーム、絶品なんだよねぇ。シュークリームも頼もうかな……」
すると、和人が隣で溜め息混じりに言う。
「……そもそも、来人さんも俺も共通な事だが、あんたにSAOの名で呼ばれる理由無い気がするんだけど」
「つれないなぁ。一年前、病院のベッドで目覚めた君達の元に真っ先に駆け付けたのは僕じゃないか」
「俺達は頼んでねぇけどな……」
珍しく帽子を被っていた俺は、少しだけ帽子をずらして言う。
「と言うか、ニュースで、相模湾沖に何かのレアメタルの巨大交渉が見つかって関係省庁の偉い人全員でオクラホマミキサー踊ってるって言ってたぞ。シュークリーム一個くらいで悩むな」
すると、菊岡が顔を上げ、何度か瞬きをしてからにやりと笑った。
「いやぁ、どんなに利益が出ても、無関係な総務省には回ってこないんじゃないかなぁ。ううん、ここは我慢するとしよう、国家予算の為に」
パタリとメニューを閉じた菊岡に、俺は口を開いた。
「そろそろ本題に入れ。俺は、これでも教師なんだ。生徒とは違い、色々忙しいんだよ。……って言っても、またバーチャル犯罪がらみだろ、どうせ」
「おお、ライト君は話が早くて助かるね」
全く悪びれもなくそう応じると、菊岡は隣の椅子に置かれたアタッシュケースから極薄のタブレット端末を取り出した。
「いきなり本題から移ってくれ。お前の世間話は長い」
「分かったよ……。ええと、先月……十一月の十四日だな。東京都中野区某のアパートで、清掃をしていた大家が異臭に気付いた。発生源と思われる部屋のインターホンを鳴らしたが返事がない。電話にも出ない。しかし部屋の中の電気は点いている。これはと言うことで電子ロックを解錠して踏み込んで、茂村保二十六歳が死んでいるのを発見した。死後五日半らしい。部屋は散らかっていたが荒らされた様子はなく、遺体はベッドに横になっていた。その頭には……」
「「アミュスフィア、か」」
すると、菊岡が軽く頷いた。
「その通り。ーーーーーすぐに家族にも連絡が行き、変死と言うことで司法解剖が行われた。死因は急性心不全となっている」
「心不全?原因は?」
「解らない」
「「………」」
「死亡してから時間が経ちすぎていたし、犯罪性が薄かった事もあってあまり精密な解剖は行われなかった。ただ、彼はほぼ二日に渡って何も食べないでログインしっぱなしらしい」
「それで、その保氏のアミュスフィアにインストールされていたゲームタイトルは?」
「<ガンゲイル・オンライン>……知ってるかい?」
「そりゃ……勿論。日本で唯一、<プロ>が居るMMOゲームだからな。プレイしたこと無いけど」
「俺はやってるけどな……。で?」
「彼はガンゲイル・オンライン……通称GGO中ではトップに維持するプレイヤーだったらしい。十月に行われた、最強者決定イベントで優勝したそうだ。キャラクター名は<ゼクシード>」
「知ってる。俺も出たからな。流石に三位だったが。じゃあ死んだときはGGOに?」
「いや、どうもそうでは無かった。<MMOストリームと言うネット放送局の番組に、<ゼクシード>の再現アバターで出演中だったようだ」
「その時に心臓発作を?」
「そう。彼が発作を起こした時刻に、GGO内で妙な事があったってブロクに書いてるユーザーが居るんだ」
すると、俺はそれに思い当たる事を思い出した。
「ああ。酒場で何やら一人のプレイヤーがテレビに銃撃したらしいって噂があったな」
「そう。銃撃したのが十一月九日午後十一時三十分二秒。そして、茂村君が消滅したのはその十三秒後だ」
「幾ら何でも偶然だろう……と、言いたい所だが、何かあるんだろう?」
俺は真剣な顔で言うと、菊岡は頷いた。
「ああ。実はこれの他には一件あってね。これは約十日前だ。詳しい説明、状況は省くが、今度もやはり心不全。名前は……これも省いていいか。男性三十一歳だ。彼もGGOの有力プレイヤーだった。キャラネームは……<薄塩たらこ>?正しいのかなこれ?」
「多分正しいだろ。その時のは噂になってる。確かゲーム内でスコードロンの集会中、乱入したプレイヤーに銃撃され、詰め寄ろうとしたところいきなり落ちたって噂だ」
「銃撃した奴ってのは、<ゼクシード>の時と同じプレイヤーなのか?」
和人が菊岡に聞く。
「そう考えて良いだろう。やはり裁き、力、と言った言葉のあとに、前回と同じキャラクターネームを名乗っている。
「「……どんな……?」」
菊岡はタブレットを眺め、眉を潜めた。
「<シジュウ>……それに<デス・ガン>」
「Deah gun……俺の滅殺者と同じ様な名前だな」
俺は一人呟き、菊岡を見る。
「で、俺達にやらせたいのはなんだ?」
すると、にっこりと菊岡が言う。
「ガンゲイル・オンラインにログインして、この<死銃>なる男と接触してくれないかな?」
と、実に無邪気な笑顔を見せた公務員に、最大限冷ややかな声をぶつける。
「「接触、ねぇ?ハッキリ言ったらどうだ、菊岡サン。撃たれてこい、って事だろう、その<死銃>に」」
「いや、まぁ、ハハハ」
「お前馬鹿か!?と言うか何で俺らなんだよ!!」
「仕方ないんだ。<死銃>氏はターゲットにかなり厳密なこだわりがあるようでね。君らでなくては駄目なんだよ」
それを聞くと、俺は椅子に座り、ずいぶん前に運ばれてきたコーヒーを飲む。
「……解った。死者が出てるのは俺も見過ごせない。和人と共に行くだけは行ってやる。しかし、そいつと接触するのはかなり難しいと思うぞ?」
「ああ……それだけどね」
菊岡は邪気の無い顔でにっこりと笑った。
「言わなかったっけ?今日音声ログを圧縮して持ってきている。<死銃>氏の声だよ。どうぞ、聴いてくれたまえ」
ワイヤレス型のイヤホンを此方に差し出す馬鹿に、俺は本気でアンタの心臓トマレと思いながら睨んだ。
「「……わざわざどーも」」
受け取ったイヤホンを耳に突っ込むと、菊岡は画面をつつく。たちまち、頭の中で低い喧騒が再生される。
と、いきなりざわめきが消失。張り詰めた沈黙を、鋭い宣言が切り裂いた。
『これが本当の力、本当の強さだ!愚か者どもよ、この名を恐怖と共に刻め!』
『俺と、この銃の名は<死銃>……<デス・ガン>だ!』
それを聞いた時、俺は頭の中で、何かが引っ掛かった。






































???Saibo
男達が消えたあと、俺はそこの席へと向かう。
「お、来たね」
「俺の居所が良く解ったな、菊岡」
俺は目の前の菊岡に言うと、手を出す。
「とっととイヤホンを貸せ」
それだけ言うと、菊岡はタブレット端末とイヤホンを取り出し、イヤホンを俺に渡す。
俺はイヤホンを耳に突っ込むと、菊岡が画面をつつく。
再生された音に俺は驚き、そして怒りを覚える。
「……あいつ、生きていたか」
「どうするかね?君も、あの世界に行くのかい?」
俺は菊岡にイヤホンを投げ返すと、静かに言った。
「あいつは俺が仕留める。あれは俺の因縁だからな」
コートを翻し、俺は菊岡の前から消える。そして、俺は小さくながらも、言った。
「もう、逃がしはしない。逃がすつもりもない」、と。 
 

 
後書き
さぁ、GGO本格的にスタートです!
ライト「俺の武器決まってんの?」
………これから決める。
ライト「遅くない!?」
遅くない。では、次回もお楽しみに!! 
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